事務所の廊下をシヌと2人で歩く。俺が先頭で数歩後にシヌが続く。
誰にも邪魔されず2人だけで話がしたいからと、適当に空いている部屋へ入った。
小さな会議室は長机がロの字状に並べてあり、20脚ほどの椅子が置いてある。ドアを閉めると電気はつけず、シヌは閉めてあったブラインドを開け眩しそうに外を見た。
「話って?」
シヌは俺の方を振り向かず、射し込む光を手で遮りながら言葉だけを俺に向けた。
何をどこから話そうか・・・
廊下でシヌと目が合った瞬間、きちんと話をしようと思ったが、どう話すかまでは考えてなかった。だがどこから話しても結局は一緒だ。
「俺はミニョのことが好きだ」
俺はストレートに告げた。
「知ってる。それとカフェに通ってたことも、店長を病院に連れてったことも、この間・・・ミニョを泊めたことも」
俺は眉をピクリと動かした。
振り向いたシヌは光を背負っているせいで顔に影が差し、その表情は読めない。だが声は普段のシヌと変わらないように聞こえた。
「ミニョに聞いたのか」
「いいや、店長からだ。俺、店長とは仲がいいんだ。忙しくてあそこに行けなくなってから時々電話でミニョの様子を聞いてた。見かけない男が毎日のように来ていると教えてくれたよ。どうやらミニョの知り合いらしいって。でも撮影で来た男と同一人物だとは知らなかったみたいだけど」
なるほど、シヌは俺の行動を全部知ってたってことか。
「合宿所に泊めたってのは?」
「ミニョは店長を病院まで連れてって、心配だからずっとそこにいたって俺に言ったんだ。でも店長はミニョはテギョンと一緒に帰ったって言ってた。つまりミニョは俺にウソをついたことになる。どうしてそんなウソをついたのかって考えたら、俺の頭は”ひと晩中テギョンと一緒にいたからだ”って答えを出した」
カツコツという靴音とともに窓際の光のもとからシヌが近づいてくる。光から遠ざかることによって表情が徐々に見えるようになったが、そこにはいつも通り、微かに笑みを浮かべているシヌの顔があった。
「案外冷静fだな、もし逆の立場なら俺はきっと今頃シヌの胸ぐらを掴んでる」
「冷静?これでも俺は怒ってるんだけど。テギョンがそう言うなら、期待に応えようか?」
スッと真顔になると、シヌは一気に間合いを詰め、俺のシャツの胸ぐらを掴んだ。
ギラリと光る目が俺を射抜く。
「ずいぶん勝手な男だな。冷たく突き放しておきながら、今度は好きだからってつきまとって、いつの間にか寝取るなんて。最低だな、どんな言葉でミニョを騙したんだ?」
「別れたのは確かに俺の勝手が招いた結果だ。だが勘違いするな、寝てはいない。部屋を提供しただけだ」
「ミニョのことが好きなんだろ。ひと晩一緒にいて何もしなかったなんて信じられると思うか?」
「どう思われようがそれが事実だ。でも・・・今は後悔してる。どうして抱かなかったのかと」
俺はシヌを睨むとシャツを掴んでいる手を引きはがした。
至近距離での睨み合いがしばらく続く。
「仕事場におしかけて今度は病院にまで。ミニョは迷惑してるんだ、避けられてるのが判らないのか。ミニョは俺とつき合ってる。俺のことが好きなんだ」
「それでも俺は・・・ミニョが好きだ」
ミニョが誰を好きでもこの気持ちは変わらない。
俺がはっきりとそう言うと、衝突していた視線がシヌによって外された。俯き加減になったシヌの口の両端が静かに上がる。
笑っているのか、わずかに肩が揺れていた。
「それでも好き・・・か。無様だな、ミニョは俺のものなのに。テギョンの付け入る隙はない、だから・・・俺の勝ち、だ」
くすくすと笑いながら俺に向けた顔は、優越感にあふれて見えた。
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