好きになってもいいですか? 23 | 星の輝き、月の光

星の輝き、月の光

「イケメンですね」(韓国版)の二次小説です。
ドラマの直後からのお話になります。

朝晩はまだ冷える日も多いけど、日中はだいぶ暖かくなり、桜のつぼみも膨らんで、春なんだなぁって思いながら私は聖堂へと続く石畳を歩いていた。


「あ、そういえば・・・」


院長様のところへ行こうとしていた私は、ふとあることを思い出し、その足を庭園へと向けた。


「ああ、やっぱり・・・」


緑の芝生の上に立つ石像は思った通り、鳥のフンで汚れている。


「かわいそうに・・・」


私の他には誰も掃除する人がいないのかしらと、ダビデの顔を見上げた。

お兄ちゃんに連れられて合宿所で皆に会った時、あまりにもきれいな顔立ちに、ダビデ達を思い出したのよね。今は逆に、この顔を見るとテギョンさんを思い出して・・・とそこまで思って私は頭を大きく左右に振った。

テギョンさんのことは考えないようにしてるのに、お兄ちゃんの言葉が気になって、つい頭に浮かんじゃう。



『自分の思うようにすればいい』



そんなこと言われても私はシヌさんの・・・と今度は”義務感”という言葉を思い出す。



私がシヌさんを好きになろうと思ったのは義務感なのかな・・・



凛とした美しいダビデの顔を見上げ、私は大きなため息をついた。






院長様にこれからのことを相談し、ここの養護施設で働かせてもらうことになった。

二、三日中には合宿所を出る、そう心に決めたんだけど・・・


「ジェンマ、他にも何か悩んでることがあるんじゃないの?」


私の顔は心で思っていることが出やすいのか、浮かない心をあっけなく見抜かれてしまった。

確かに色々と悩んでることはある。でもどうして悩んでるのか自分でもよく判らないし、判らない方がいいんだという思いもあって。


「話したくなったら、いつでもいらっしゃい」


何も話せない私は、帰り際にそう声をかけてくださった院長様におじぎをして、修道院を後にした。







朝のキッチンには四人。カウンターテーブルに並んでご飯を食べる。

いつも朝は水を飲むだけだったテギョンさん。

朝ご飯を一緒に食べることはなかったけど、冷蔵庫を開ける姿すら見られないのは・・・


「ミニョ?どうかした?手が止まってるよ」


「え?あ、いえ・・・何でもありません」


隣に座るシヌさんが私を見ている。

私は口から出そうになっていたため息をスープと一緒に飲み込んだ。


「ミニョ、ミナムから聞いたんだけど、ここを出て行くんだって?もっといてくれてもいいのに」


ジェルミの言葉にシヌさんがピクリと反応したのが判った。

あ~、今それを言う?

ジェルミにしてみれば何気ない言葉だったんだと思うけど、ここでは言って欲しくなかった。

私はまだ、ここを出て行くことをシヌさんに話していない。こういう話って第三者からじゃなくて、直接本人から聞きたい筈よね、と思うとシヌさんの反応が気になって、チラチラと隣へ視線を向けたんだけど・・・

シヌさんは何も言わずにご飯を食べているだけだった。






青い瓶の減らない冷蔵庫。

いつも冷蔵庫の中には何本も入っていて、残りが少なくなるといつの間にか増えていた青色の瓶。

テギョンさんがここへ帰ってこなくなってからは、減りもしなければ増えもしない。

あの水はテギョンさんしか飲んでなかったんだから、当たり前といえば当たり前なんだけど、冷蔵庫を開ける度に、ああまだ帰ってきてないんだなって思うと・・・って、私またテギョンさんのこと考えてる?


「ただいま・・・何してるの?」


青い瓶を手に取りぼんやりと眺めていた私は、後ろから声をかけられ危うく瓶を落としそうになった。


「シ、シヌさん、お帰りなさい。あの・・・賞味期限大丈夫かなって・・・あ、大丈夫そうですね」


ただ瓶を持っていただけなのに、声をかけられた私はわたわたと慌ててしまい、わざとらしく瓶に印刷された日付けを探すと、急いでそれを冷蔵庫へと戻した。


パタンと扉の閉まる音。

そのまま振り向けずにいる私。

後ろでシヌさんの動く気配がして、私はコクンと一つ息を呑むと、シヌさんの方へ振り返った。


その途端、両肩を掴まれ、とん・・・と軽く冷蔵庫へ押し付けられるような形で目の前が暗くなり・・・



・・・え?



瞬きする間もなかった。


ほんの一瞬唇に触れた温かく柔らかなものがシヌさんの唇だったと気づいた時には、その温もりはすでに離れていて、私は驚きのあまり声一つ出せずに立っていた。

目の前にはシヌさんの顔。

顔が熱い、たぶん真っ赤になってると思う。

いきなりこんな場所でキスされるなんて思ってもみなかった私は、うろたえるばかり。

口を両手で隠して見上げている私の姿を見て、少し戸惑っているようなシヌさん。


「ゴメン、何だかミニョが消えちゃいそうな気がして」


その声にキスされた驚きよりも恥ずかしさの方が勝ってきた私は、シヌさんの顔を見ていられなくなり、口を押さえたまま慌てて俯いた。

頭の上にふわりと乗せられた手が、くしゃくしゃっと私の髪を撫でる。


「おやすみ」


小さな言葉を残して、シヌさんの足音は階段を上って行った。




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