like a Fruits Cake.

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フィクションかどうかは貴女次第。

Amebaでブログを始めよう!

【知らないですけど何なんですかね、アレ…】

【新規?現場では見たことないよ】

【蒼さんもわかんないんですよね、嫌だな…】

【大丈夫でしょw姫のミヤコだもんw】

【///照れます///】


なんてやりとりをして自分の中の不安を徐々に消す。

そう、ミヤコは私のであってましろなんて知らない女のものじゃない。

ダイジョウブ、ダイジョウブ。


蒼さんはこういう時優しい。

自分の可愛がっている子(わたしがそこに入れて貰えてるのはなんとなくわかる)には

とても優しいけど、そうじゃない子には厳しい。

それはマナーを守らないような子だったり、

蒼さんの好きなノゾムというメンバーに過剰にアピールするような子。

わたしには不思議だった。

こんなにちゃんとした大人なのに、ノゾムのことになるとそうじゃない。

恋なのかなと思ったけど、蒼さんにはどうやら彼氏がいるらしい。

とにかく敵に回してはいけない人であるのは確かだった。


蒼さんと散々表では書けないような暴言の限りを尽くしたらスッキリした。

そうよ、怖くなんかない。わたしはミヤコのお姫様。

ベッドに入って、ミヤコの歌を聴く。

このせつない声がいつか自分だけの為に歌われる事を祈って目を閉じる。


夢の中のミヤコは苺味のキャンディを食べていて、

わたしはそれを見ていた。それだけなのにとても苦しかった。


目覚めは最低の気分だった。

シャワーとともに流し切ったはずの不安は

コメント欄を開いた瞬間に、またわたしを覆う事になった。


1番には見慣れない名前と、

ただ一言「ありがとう。」とだけ書かれていた。

2番に長々と書かれた自分のコメントなんかよりも

存在感があって、気が狂いそうだった。


「…誰なのこいつ、誰なの、ねぇ」

指で呟く前に口で呟いていた。


ましろ、と書かれた名前を必死に検索する。

【ミヤコ ましろ】【ましろ】

それでもtwitterには出てこない。

監視用リストにぶち込んである奴らのアカウントから探しても

それらしき子は全く見つからない。


たった一言にここまで苦しめられるなんて。

わたしは言いようのない不安に押しつぶされそうで

今すぐこの悪意をどこかにぶつけたかった。


(そうだ、あっちがあるじゃないか。)

さっと指がtwitterのアカウントを切り替える。

鍵のかかった、数人しか覗けない秘密の場所。


【新規うざい!意味有り気な投稿とかメンバーの迷惑!】


本当はもっと酷い言葉を並べたかったけれどこれ位にしておいた。

最初から感情を剥き出しにはせず、少しライトな位の毒。

そうすれば賛同を得易い。早く、誰か。


【見たよw何アレ…姫知ってる子?】

いち早く反応をくれたのは「蒼(あお)」さんだった。

彼女はわたしとは違って大人の女性で、歳は30間近だと聞いた。

ミヤコではないメンバーのファンで、相当昔からおいかけているらしい。

所謂「古参」と呼ばれるような人でこの界隈ではちょっとした有名人だ。

普段は何の仕事をしているのか分からないけれど、綺麗な人である。

ミヤコのブログを開く。

彼の日常の話、先日あったライブについての話…

全ての言葉が彼の声で再生される。

キャンディなんかより甘い。


彼のブログは文章が短いけれど、最後は必ず自分の写真で終わるのが定型。

今日はレッスンの後に他のメンバーと撮った写真だった。

見慣れないTシャツを着て、携帯に向かってピースサイン。

わたしはすぐにこれが誰かからの贈り物であると気が付いた。

こんなデザインのシャツを彼が買うことはない。

心の中にもやが広がる。誰よ、誰のなの、ミヤコ。


すぐさまtwitterを開いてタイムラインを眺める。

数は少ないとはいえ、恋敵を監視するための非公開リストを作ってあった。

手あたり次第、呟きを読んだ。思わせぶりな発言を探した。でも見つからない。

わたしのように気が付いた人がいたけれど、その人も分からないようだった。

口の中に無意識に放り込んだキャンディはあっという間に噛み砕かれている。


僅かな甘さがわたしを現実に引き戻す。

そうだ、これは贈り物じゃないかもしれない。きっと自分で買ったんだ。

たまにはこういうデザインの物も着てみようと思ったに違いない。


「ミヤコ、眠れないの?遥姫もだよ…」とブログにコメントをする。

わたしが今恐れていたことはただの杞憂に過ぎない。

だから思う存分、ミヤコへの賞賛の言葉を綴った。

心の奥でまだ完全には消えていないもやを何とか押し込んで、

ミヤコへの気持ちを文字にすることに集中する。


「…今週のライブも楽しみだよ、大好き。ミヤコのお姫様より」

お決まりの文章をつけて、コメントを投稿する。

この早さなら一番乗りだろう。

すぐには承認されないので、数分ほど待たなければならない。

その間にシャワーを浴びる事にして、携帯をベッドに放り投げる。

ミヤコの歌うメロディを、鼻歌まじりに階段を降りた。


(待っててね、王子様。)