東京高等裁判所平成15年1月20日決定(家庭裁判所月報25巻9号91頁)
〔1〕1の前提事実によれば,双方とも事件本人(子供)らに対する愛情,監護に対する意欲は十分であり,その監護態勢は,住環境の面では抗告人(父)の住居が優るといえるものの,監護養育能力や経済的な面ともに大差はなく,また,事件本人らは,現在,抗告人の下で一応安定した生活を送っていることが認められる。
そこで,抗告人は,事件本人らの現在の監護養育状況に特に問題がない以上,事件本人らの福祉のためには,監護の継続性を尊重し,現状を維持すべきである旨主張する。
〔2〕しかしながら,出生時から別居するに至るまで事件本人らを主として監護養育してきたのは専業主婦であった被抗告人(母)であり,別居後2年余りが経過していることを考慮しても,事件本人らと被抗告人との精神的結びつきや母親への思慕の念はなお強いものがあり,事件本人樹及び同文香は,被抗告人の下で生活したい旨の意向を明確に示している。事件本人拓海は,態度を明確にしていないものの,必ずしも現状に満足しているわけではないし,母親を慕う気持に変わりはないと推測される。
これに対し,抗告人は,事件本人らは被抗告人との生活を少なくとも現時点では希望していないと主張し,抗告人と生活することを希望する旨記載した事件本人らの被抗告人宛ての手紙を提出する。
しかし,事件本人らとしては,両親が激しく対立する中で父親から母親の下で生活することを希望するかと尋ねられれば,父親に対する配慮もあって,自分の本心を素直に表現することは事実上困難であり,事件本人らの上記手紙は,その文面からも,事件本人らの真意を表したものとは直ちに認め難いといわざるを得ない。したがって,抗告人の主張は採用することができない(抗告人が事件本人らに対して被抗告人の下へ引っ越したいかどうかを尋ね,上記手紙を書かせたのは,事件本人らを自ら養育したいと強く望む余り,事件本人らの心情への配慮を欠くものであり,子の福祉の観点からも決して望ましいことではない。)。
〔3〕本件記録によれば,事件本人らは,抗告人が被抗告人に対して暴力を振るったことを目撃し,恐かったことを記憶しており,事件本人樹及び同文香は,抗告人に対する違和感を払拭できないでいることが認められる。 そして,抗告人が別居後まもなく青山を同居させたことについて,抗告人は,事件本人らの母親代わりの女性が必要であると考えたことによるものであり,短期間で解消したから問題はない旨主張するが,上記経緯に照らし,事件本人らの心情に対する配慮に欠けているというほかない。
〔4〕子は,父母双方と交流することにより人格的に成長していくのであるから,子にとっては,婚姻関係が破綻して父母が別居した後も,父母双方との交流を維持することができる監護環境が望ましいことは明らかである。
しかし,抗告人は,1で認定した原審審判期日に合意した被抗告人と事件本人らとの月1回の面接交渉の実施に対して非協力的な態度をとっている。これについて抗告人は,事件本人らの都合ないし希望によるものである旨主張するが,事件本人らが抗告人に気兼ねして本心を表明することができない心情に対する配慮に欠けるものである。
そして,本件記録によれば,抗告人が合意に反して面接交渉の実施に非協力的な態度をとり続けるため,合意に基づいて面接交渉の実施を求める被抗告人との間で日程の調整をめぐって頻繁に紛争が生じ,そのため抗告人と被抗告人の対立が更に悪化するという事態に陥っており,抗告人のこのような態度が早期に改善される見込みは少ないことが認められる。
このような父母の状況が事件本人らの情緒の安定に影響を及ぼし,抗告人と被抗告人の対立に巻き込まれ,両者の板挟みになって両親に対する忠誠心の葛藤から情緒的安定を失い,その円満な人格形成及び心身の健全な発達に悪影響を及ぼすことが懸念される(事件本人拓海が,面接交渉をめぐる抗告人と被抗告人の対立に巻き込まれて,精神的なストレスが高まったことから,じんましんと嘔吐の症状が出たことは,その表れと見られる。)。これに加えて,事件本人拓海は中学2年生,事件本人樹は小学校5年生,事件本人文香は小学校3年生であり,いずれも人格形成にとって重要な時期にあることを考慮する必要がある。
そうすると,抗告人との面接交渉について柔軟に対応する意向を示している被抗告人に監護させ,抗告人に面接交渉させることにより,事件本人らの精神的負担を軽減し,父母双方との交流ができる監護環境を整え,もって事件本人らの情緒の安定,心身の健全な発達を図ることが望ましいというべきである。
抗告人は,抗告人が被抗告人と事件本人らとの面接交渉に支障を生じさせたことは一切なく,したがって,現在の生活環境の下で事件本人らへの心理的な悪影響はなく,むしろ元気に生活している旨主張するが,採用することができない。
〔5〕以上によれば,事件本人らを被抗告人に監護させることが事件本人らの福祉に合致するものというべきである。