油すまし
[出現地] 熊本県
山道に現れて人を驚かす。
油すましは謎の多い妖怪である。
伝説・伝承が少ないため、目的や能力などがよくわからない。
油すましについて調べると必ず出てくるのが次の草隅越(くさずみごえ)の話だ。
『熊本の天草郡栖本村字河内(現・天草市)と下浦村(現・同)とを結ぶ草隅越という山道を、お婆さんが孫を連れて歩いていた。
お婆さんが孫に「昔、この辺りには油すましが出たんだそうな」と話すと「今も出るぞー」と言って油すましが出てきた。』
しかしこれも出てきたというだけで特に何をするわけでもない。
己の存在を過去の物のように話す老婆に現役感を見せつけたかったのだろうか。
だとしたら少々主張強めである。
また、天草にはこれと非常によく似た話が伝わっている。
『天草郡一町田村益田(現・天草市)のうそ峠という峠道を二人の旅人が通りかかった。
一人が「昔、ここに血のついた手が落ちてきたそうだ」と言うと、「今もー」と声がして血の滴る手が坂から転げ落ちてきた。
また別の旅人達が「ここには生首が落ちてきたそうだ」と話していると、「今ああ・・・も」と声がして生首が転がり落ちてきた。』
「今もー」とは随分ポップな言い草だが、内容はかなりホラーだ。
この話には油すましは登場しないが、私はこれもその仕業ではないかと推測する。
口に出した事が現実化する。
この点において草隅越、うそ峠で起こった怪異は全く共通しているからである。
そして私はこれが油すましの能力なのではないかと思うのだ。
口に出した事が現実化する、これは凄まじい能力だ。
伝承では話のベクトルが怪異、恐怖の方向に傾いている。
が、しかし想像して頂きたい。
油すましが出ると噂される山道を歩く時、こんな事を言ってみたらどうなるだろうか。
昔、ここに1億円落ちてたんだって・・・
早速私は「欲しい物リスト」の製作に取り掛かった。
油すましの能力についてはあくまで私の仮説に過ぎない。
しかしこれほどまでに語り継がれるには何か秘めた力があるはずだ。
日本古来のUMA、妖怪油すまし。
いつか対峙するその日まで、このリストは大切に保管する事にしよう。
記者 牧田龍彦