学生時代の友人の一人、Mさんのご主人は令和3年、73歳にして亡くなられました。その後、Mさんはご主人が趣味で書いていた小説のうち、完結していた「松平家の妻」という本を自費出版し、今回私もそれを読ませていただきました。

主人公の松平有紀は福井藩主の三女で、十六歳で前橋藩主松平智成の弟である勝平典佳の五男松平典昭に嫁いだ。その後、前橋藩で事変があり、典昭は切腹。美しく聡明な有紀のその後の生き方と長男正之の成長を中心に、当時の様々なしきたりや考え方、お家騒動、事件などが描かれている。

特徴的なのは、ただストーリーを追う小説ではなく、歴史的な事実や当時使用された用語の解説などが、歴史書の手引きのように詳しく書かれていることです。好き嫌いはあるかもしれませんが、私にとっては分かりやすくて理解の手助けとなりました。

読んでいると、作者の気持ちの優しさ、真面目さ、正義感が伝わってきました。御元気だったら、どうやってこんなに詳しく調べられたのか、また、どこまでが史実なのかなど、いろいろ訊いてみたかったです。

彼女のあとがきも感動的でした。彼は末期がんと分かるとすぐに自宅療養に切り替え、一切の治療を拒み、自宅では点滴さえ一度もしなかったのです。医者からは「まるで武士のような人だ」と言われたとか。そして彼は彼女とたくさんの話をし、2か月後に彼女の腕の中で亡くなったのです。

彼女に本を出版をしてもらって、彼も喜んでいることでしょう。また、彼女もこんないい方と巡り合えて幸せだったんだなとつくづく感じました。早速明日、次のお友達にこの本を転送します。

読書記録：松平家の妻（嶋 阿南・作）