夢を見るという概念がなかった。工学を専攻したいかもなんていうと、苦い顔をして「でも工学は難しいよ」といった。親と同じ職業を目指すことさえ喜ばれなかった。

 私には夢や目標がないから、せめてあの大学に行きたいなど言ってみようものなら、「んー、でもその偏差値なら地元の大学でもいいじゃない」といった。地元を出たいと願ったのは知り合いの同級生がいる苦痛よりも、都会に出られない窮屈さよりも、両親の意見を4年間耳に入れなければいけないであろう将来が何より耐えられそうになかったのかもしれない。大学一年生、自宅で過ごす時間が増えた今になって自覚する。

 現実を見せることこそ正義と背中に語る大人の守る世界で、私は今日も生きている。

 それが、私の小さな苦悩である。