「いやぁ!すまんねぇ!隊の金はあまり使えないから祝言っぽくならなかったな!」

 

 

9月の最後。

 

土方が帰ってすぐに祝言は開かれた。

 

 

 

ギリギリなんだし10月にすれば?

と美海は思ったのだが、この時代は10月は『神無月』なため縁起が悪いと避けられているらしい。

 

 

本当はそんなこと気にならないのだが、土方が駄目だと言った。脫髮成因

妙な所で女っぽいのが土方だ。

 

帰ってきた早々美海と沖田のことが伝えられたのだが、あまり驚いた様子は見られなかった。

 

 

「いえいえ!全然。こんな綺麗な着物まで用意して頂いて…」

 

普通は白い着物(白無垢)なのだが、美海は赤だ。

本当は近藤が桜色が良いと言ったのだが、沖田が美海は桜色より赤だと言うため、深紅の生地に卯の花が描かれた綺麗な着物を買った。

 

「本当に綺麗です…」

 

沖田が頬を染めた。

 

 

美海は髪は結えないため、とりあえず山崎のカツラを使った。

変装の天才の山崎が直々に美海にメイクもした。

 

山崎は長州藩邸に潜入していたのだが、美海の祝言を上げると聞いて、一先ず帰ってきた。

 

久しぶりに見る。

 

山崎も同様、監察の情報網で知っていたのか、あまり驚かなかった。

 

「よし!じゃあ、おめでとうございます!」

 

「「「おめでとうございます!」」」

 

ワァァァァァァッ…

歓声が上がる。

江戸時代の祝言の習わしは新郎の自宅で身内を呼ぶ。

 

沖田の自宅は江戸だ。

 

そのため、祝言を上げた場所はやっぱり屯所であった。

 

 

祝言時、床の間に飾る高砂の尉は

 

ない。

 

 

姥の掛け軸は

 

 

ない。

 

 

更に鶴亀の置物を飾った島台を置き、その前で盃事をして式を挙げるのだが、それすら、

 

ない。

 

 

新撰組にそんな金はないのだ。

 

 

身内というより、隊士全員で祝う。

 

酒に酔いしれ、皆で騒ぐ。

「俺!一曲歌いまーす!!」

 

「いけー!いいぞ!」

 

 

祝う。というよりいつもの宴会が豪華になっただけだ。

 

「見ろ!この切腹痕が俺の勲章よ!」

 

原田が机に足を乗せ、叫んだ。

 

「おぉお!死損ね左之助きたー―――!」

 

 

「すげぇ!原田隊長!」

市村が目を輝かす。

 

 

「お!市村は初めてか!触ってもいいぜ!俺の切腹痕だぁぁぁぁあ!」

原田は再び叫んだ。

 

「わぁぁぁあ!」

 

「いやぁ!めでたい日だ!」

 

美海は周りを見渡す。

 

皆笑ってる。

 

 

一応沖田と美海は前で大人しく座っていたのだが、段々体が疼く。

 

沖田はチラリと美海を見ると言った。

 

「私たちも行きましょう!」

 

「えぇ!」

 

「重いっ!」

美海は頭のカツラを外して走り出した。

あ!土方さん!

 

 

美海は厠に言った後、土方を見つけた。

 

誰かと話してる?

 

土方ともう一人は角にいて見えない。

 

 

ボソボソと話し声がする。

 

所々、単語しか聞こえない。

 

「……伊東……長州……」

「………藤堂………」

 

そんな言葉が聞こえた。

 

 

土方の表情から良いことではないのは確かだ。

 

 

話が終わったのか、こっちに来る。

 

「お。美海」

土方はポーカーフェイスで言った。

 

 

「何!?美海ちゃん!?」

話相手は山崎だったようで、走ってこっちに来た。

 

「えっと」

 

「美海良かったな」

土方が美海の頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「おかげさまで」

美海は笑った。

 

「美海ちゃん!沖田さん大事にしぃや!」

 

「はい!」

 

 

「本当に二人共鈍感だからかなり心配した」

土方がため息をつく。

 

「ははは…。すいません」