(GWの旅行記の続き)旅行8日目。この日はプラハからオストラヴァに戻って、夜にスメタナのオペラを観ました。スメタナのチャーミングなオペラ、口づけです!
National Moravian-Silesian Theatre
Bedřich Smetana
THE KISS
(Antonín Dvořák Theatre)
Conductor: Marek Šedivý
Stage director: Jiří Nekvasil
Set designer: Jakub Kopecký
Costume designer: Simona Rybáková
Movement director: Jana Tomsová
Chorus master: Jurij Galatenko
Dramaturg: Juraj Bajús
Father Paloucký: Martin Gurbaľ
Vendulka, his daughter: Lívia Obručník Vénosová
Lukáš, a young widower: Luciano Mastro
Tomeš, his brother-in-law: Svatopluk Sem
Martinka, Vendulka's old aunt: Lucie Hilscherová
Barče, Paloucký ‘s maidservant: Marta Chila Reichelová
Matouš, an old smuggler: Josef Kovačič
The Border Gard: Václav Morys
Morningstar: Stela Machová, Zuzana Smrčková
National Moravian-Silesian Theatre’s opera chorus & orchestra and ballet
(写真)本公演のパンフレット。唇が壁紙になったような可愛らしいデザイン。
(写真)モラヴィア・シレジア国立劇場
その前にオペラに至るまでのいきさつを。前日はプラハに泊まったので、早朝にプラハを散歩しました。
(写真)真っ先に行ったのが旧市街広場。プラハの中心です!ここは雰囲気のある広場に見どころが満載で、本当に素晴らしい!
(写真)ヤン・フス像。15世紀のチェコにおける宗教改革の先駆者。マルティン・ルターの宗教改革のおよそ100年前のことです。
スメタナ/わが祖国の5曲目「ターボル」と6曲目「ブラニーク」がフス派の戦いを描いていることでも有名ですね。2006年にプラハに来た時にも真っ先にこの像を見に来て感動しましたが、今回もその強い意志を感じる佇まいに大いに感激しました!
(写真)ティーン教会(後ろの2つの塔)。15世紀前半にはフス派の本拠地として機能していたそうです。
(写真)旧市庁舎。様々な様式の建物が合わさっていて、とてもユニーク。
(写真)旧市庁舎に置かれている天文時計。5月5日に見てきたオロモウツの仕掛け時計と並ぶ、チェコを代表する仕掛け時計です。日中の毎正時には多くの観光客が見にくることでしょう。
(写真)聖ミクラーシュ教会。バロック様式のファサードがとても立派です。
(写真)スタヴォフスケー劇場とドン・ジョバンニの像。そうなんです。モーツァルトのオペラ/ドン・ジョバンニはプラハで、この劇場で初演されたんです!プラハに来ると、プラハの方々がそのことを今でも誇りに思われている様子が伺えて、とてもいいなと思います。
(写真)カフカの生家とカフカ像。今年はフランツ・カフカの没後100周年ですね。私、カフカの作品の中では「城」が圧倒的に好き。今年どこかで、また読み返そうかな?と思っています。
(写真)早朝の散歩の後、ホテルに帰って朝食。よく考えたら、今回の旅行で、旅行8日目にして、初めてホテルで朝食を食べることができました!笑
そしてホテルで朝食を食べた後は、プラハ→オストラヴァを列車で移動して、夜のオペラの前にオストラヴァのDolní Vítkoviceという、かつて栄えた工場を見学に行く予定でした。しかし…。
プラハを発車した列車は順調にオストラヴァに向かっていましたが、オストラヴァの1つ前のオストラヴァ-スヴィノフ駅で止まってしまいました?何かチェコ語で放送が入り、一斉に列車を降り始める乗客のみなさん?私も付いて行こうかなと思いました。
しかし、女性の車掌さんから、「20分くらいで動くわよ〜!そのまま席で待っててね〜!」と声を掛けられたので、そのまま待つことに。しかし、列車は一向に動かず…。
しばらくしたら、先ほどの女性の車掌さんが、「やっぱりダメでした(テヘペロ)。降りてください!」と!笑
(私)分りました。その場合、何番線の列車に乗り換えるとオストラヴァ中央駅に行けますか?
(車掌さん)列車はみな止まっています。タクシーで移動できますよ〜。
(私)えっ!?スヴィノフ駅から中央駅まで列車で5分はかかったと思うので、タクシーだと結構遠いのでは?
(車掌さん)スヴィノフもオストラヴァだから、大丈夫ですよ〜。
本当かな~?笑(この状況を楽しむ気持ちもある一方で、プチ疑心暗鬼)でも車掌さんがそう言うので、スヴィノフ駅で列車を降りて中央駅まで移動することにしました。
(写真)スヴィノフ駅の列車の出発時間の掲示板。一番右が遅延の時間で「60分」とか「45分」とか凄いことになっていました!さらに、実際はそれどころか、全く動いてなかったようです。
ああ、恐ろしい…。もっと手前の駅で止まって、夜のオペラが吹っ飛んでいたら、痛恨でした。ここは隣駅まで辿り着けただけでもラッキー!ちなみに、チェコ国鉄(チェコ鉄道)の名誉のために言うと、日常的な遅延ではなく、何か事故があって遅れが生じたようでした。
しかし、いずれにしてもオストラヴァ中央駅まで移動しなければなりません。まずはトラムかバスで移動することを考えましたが、案内を見てもオストラヴァ中央駅行きは全然見当たりません?仕方ないので、タクシーを利用しようと思いましたが、そもそも駅のまわりにタクシーが全然いません。おーい!車掌のお姉さん!笑
30分くらい待っていたら、ようやくタクシーが来ました!喜んで乗ってみたものの、今度は高速道路にまで乗って、ビュンビュン飛ばすんですよね〜。うわ〜!これっ、一体お支払いはいくら掛かるんだろう?手持ちのチェコ・コルナで果たして足りるのか?と、道中かなり不安な気持ちに…。
しかも、行き先として告げたホテルがなかなか分からず、着くまでにかなり難儀しましたが、そこはプロのタクシーの運転手さん。絶対見つけるぞという強い信念のもと、何とかホテルを見つけてもらって、結果的にお支払いもかなりリーズナブルでした。
ぼったくられても仕方なさそうな状況の中で、とても良心的で職業的なプロ意識を大いに感じて、心洗われました。
さて、本題のオペラです。スメタナ/口づけは、結婚を控えた男女(ルカシュとヴェンドゥルカ)がキスを巡って喧嘩して仲直りする、ただそれだけ(笑)と言っても良いほんわかしたオペラ。しかし、そこにスメタナの素晴らしい音楽が付いて、見どころ聴きどころに溢れたオペラです。
第1幕。序曲!キスの尊さや愛情の崇高さを表わす思われる雄大な冒頭の旋律が素晴らしい!その後、その冒頭の旋律を様々な楽器が楽しく受け渡していく流れもいいですね~。
(参考)スメタナ/オペラ「口づけ」第1幕序曲。スメタナがいかにスケールの大きな音楽を書く才能に恵まれたのか、良く分る序曲です。
https://www.youtube.com/watch?v=sG_iJvoIbCg (6分)
※Prague Youth Philharmonic Orchestraの公式動画より
娘ヴェンドゥルカの結婚に対して、父親パロウキーは頑固者同士なので心配だ、と聖書を読みながら忠告。そのヴェンドゥルカにプロポーズをしにくるルカシュ(その昔ヴェンドゥルカと恋仲だったものの、親に別の女性との結婚を強要された過去あり。その後、妻が亡くなって、改めてヴェンドゥルカにプロポーズ。前妻との子供あり。)ですが、何と50人くらいを村人を引き連れて来ました!事前に知らせずに、こんな大人数でいきなり来るもんなんですね!
ルカシュとヴェンドゥルカのお互いを讃え合っての二重唱が本当にいい感じ!しかし、盛り上がって、いざキスの段になると、ヴェンドゥルカはそれはまだダメと拒んでしまいます。
ルカシュは結果的に引き連れてきた大勢の村人の前で恥をかかされた形となってしまいます…。ルカシュの義理の兄トメシュが場を取りなす、「まあまあ飲もう!」の歌は単純明快な旋律が愉快!これは場が和みますね~。
(写真)その「まあまあ飲もう!」の場面。諍いを起こしたヴェンドゥルカ(左)とルカシュ(右)に対して、ビールのジョッキを持ってなだめるトメシュたち(後方)。
※モラヴィア・シレジア国立劇場で配布していた絵葉書より
ヴェンドゥルカのルカシュの前妻との赤ちゃんを想う感動の歌!ヴェンドゥルカは亡きルカシュの前妻に配慮して、結婚式を挙げる前にキスをすることは控えたのでした。
しかし、そのヴェンドゥルカの心温まる配慮を理解できないルカシュは「キスさせろ!」の一点張り。連れてきた村人たちの前で引っ込めない事情もあるかも知れませんが、傍目から見て、本当に大人げない。さらにみんながいなくなった後でさえキスに固執します…。
全く、オペラの男の登場人物って、どうしてこうも情けないのが多いのか?あっ!よく考えたら、オペラの中だけの話ではありませんでした、笑。
ヴェンドゥルカは「キスより愛の方が大事」と説きます。ヴェンドゥルカ先生の正論きた~!ルカシュが去って行った後の、ヴェンドゥルカの赤ちゃんを想う子守歌は真に感動的!
こんな良い(未来の)奥さんいないのに。ルカシュはヤケを起こして、居酒屋で出逢った4人の女性を従えて、その娘たちに変わるがわるキスするのでした…。ショックを受けるヴェンドゥルカ…。男って、本当に馬鹿!混乱の中、第1幕を終わりました。
第2幕。序曲の冒頭は風雲急を告げる音楽ですが、これがわが祖国のシャールカっぽい音楽で思わず微笑んでしまいます、笑。ト書きだとここは密輸業者の場面なのですが、密輸業者というよりは、登場人物のみなさんはどこか隠者のような風情でした。
ここでルカシュがヴェンドゥルカに対する想いを大変ロマンティックな音楽で歌い上げます!しかし、最後ルカシュは悲観して音楽も短調になり…。トメシュが諭して、打開策を授けます。トメシュ、いい奴!
ヴェンドゥルカとおばのマルティンカもやってきました!ルカシュと別れた後、トメシュが加わっての三重唱が美しい!ヴェンドゥルカとマルティンカは帰り道で国境警備員に遭遇しますが、密輸業者との取引を隠して、国境警備員に梨を沢山与えて上手くやりすごすマルティンカ!
そして、マルティンカもヴェンドゥルカを仲直りしなよと諭します。周りの親切な人たちによって元サヤに戻れそうな2人。その後にヴェンドゥルカたちの家の女中のバルチェが素晴らしい歌を披露します!バルチェ役のMarta Chila Reichelováさん、本公演でめちゃめちゃ光っていました!
最後はみんながまた集まったところでルカシュとヴェンドゥルカは仲直りしますが、ヴェンドゥルカの方から和解のキスをしようとしたところ、何と今度は逆にルカシュが拒みました!意外な展開に観客のみなさん、どっと大受け!笑
しかし、ルカシュが拒んだのは、自分にその資格があるのだろうか?という謙虚な気持ちから。ヴェンドゥルカに誠意を込めて謝って、仕切り直していよいよキスシーンを迎えます。
見守る村人のみなさんも、「行け!」「キスしろ!」「じれったいな!」と力の入ったポーズがめちゃめちゃ面白かったですが、2人は恥ずかしがって舞台の右袖に隠れてしまいました?
その様子を舞台から覗くマルティンカが、「ヤッター!キスしたわよ!」という大袈裟な身振り手振りで2人がキスしたことを伝えます!とても楽しい舞台!でも、ここの場面は第1幕の序曲の冒頭の音楽が高らかに戻ってくるので、舞台で敢えてキスシーンを見せなくても分りますね~。心憎い演出。ラストは幸せな雰囲気で盛り上がって終わりました!
いや~、スメタナの珍しいオペラ「口づけ」、素晴らしい舞台でした!満員の観客がもう大盛り上がり!ほっこりする物語を、手作り感を随所に感じる温かい舞台で魅せて、この劇場は本当に素晴らしい!
そして、私は「口づけ」を観て、いよいよスメタナが作曲したオペラ全8作品のうち、7作品まで観ることができました!リーチ!果たして、今回の旅でコンプリートできるのでしょうか?今後の展開を乞うご期待!(続く)