先週4日(月)と昨日13日(水)にクリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタルを2日間聴きに行って来ました。プログラムは両日同じ。ショパン・ドビュッシー・シマノフスキと並ぶ、ファン垂涎の曲目です!
クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
(サントリーホール)
ショパン/夜想曲第2番変ホ長調
ショパン/夜想曲第5番嬰へ長調
ショパン/夜想曲第16番変ホ長調
ショパン/夜想曲第18番ホ長調
ショパン/ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調「葬送」
ドビュッシー/版画
1.塔
2.グラナダの夕べ
3.雨の庭
シマノフスキ/ポーランド民謡の主題による変奏曲ロ短調
(写真)本リサイタルで購入したツィメルマンさんのシマノフスキのCD。素敵なツーショットです。
クリスチャン・ツィメルマンさんはこの世で一番好きなピアニスト。今回はプログラムが決まる前からチケットが発売となりましたが、迷わず2日分を購入しました。ツィメルマンさんの場合、演奏される曲目でチケットを取るかどうか判断するのではなく、リサイタルが開催される→光速でチケット購入、です。
しかも、これは本当に驚きましたが…、ピアノのリサイタルを聴きに行くのは、何と一昨年に同じく2日間聴きに行ったツィメルマンさんのピアノ・リサイタル以来2年ぶり!
つまり、ツィメルマンさん以外のピアノ・リサイタルをこの2年間、聴きに行っていないんです!フランツ、どんだけツィメルマン好きなのか!
(というか、もはやブログのタイトルが「ピアノ好き生活」じゃないのでは?笑)
(参考)2021.12.8&13クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル(ショパン/ピアノ・ソナタ第3番)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12715835030.html
まずはショパンの夜想曲4曲。有名な2番は私もレパートリーにしていますが、どこか懐かしさを感じさせるピアノ。まるでワルシャワの旧市街市場広場の骨董屋さんで、オルゴールの回転人形がチャーミングに踊る光景を思わせます。
さらに注意深く聴くと、トリルをバラけさせたり、やや弾き急いだり、ツィメルマンさんにしてはやや、やんちゃに弾いていた印象。何か、そこに幼く、か弱いものが存在し、そしてそれを温かい目で見守っているような、そんな優しい雰囲気を感じました。
続く5番は青春の雰囲気。途中のアルペジオの場面には、若い時に何かに邁進している情景を感じます。16番には憧れ、切なさを感じ、恋の雰囲気。後半に一瞬入る短調にはハッとさせられます!16番、いい曲ですね~。いつか弾いてみたい。
ラストの18番は諦念を強く感じ、2019年にツィメルマンさんのリサイタルで3回聴いたスケルツォ4番と同じ世界を感じました。晩年のショパンの世界を大いに堪能したところです。
(参考)2019.3.16 クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル(3回目)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12447466482.html
夜想曲を4曲を通じて聴くと、人生の各ステージを表していたような、人の一生を描いていたように感じました。これは一昨年にブラームス/間奏曲を聴いた時に感じたことと似ています。
単に夜想曲を4曲並べたのではなく、考え抜かれた並び順の4曲だと思いました。そして次のピアノ・ソナタ2番「葬送」へとつながります。
前半の最後はそのショパン/ピアノ・ソナタ2番「葬送」。一昨年はピアノ・ソナタ3番を演奏していただいたので、ツィメルマンさんの至宝とも言うべきショパン/ピアノ・ソナタを連続して聴くことができます。何ともありがたいことですね!
第1楽章は主題の入りはインテンポ、その後は激しく、悲劇的。こんなに激しいピアノのツィメルマンさん初めてかも知れません?
ただし、乱暴ではなく、冷静に何かを表現するための激しさ、という印象です。ラストの駆け込む劇的なフォルテッシモのもの凄い迫力たるや!会場が凍り付いた雰囲気を感じました!
第2楽章はフェザータッチ気味の進行が素晴らしい!何かにせき立てられている感じ。中間部も淡々と弾いていたり、全体的に諦めの雰囲気を感じました。
第3楽章は有名な葬送行進曲。ここは極めて深刻な音楽。第2楽章に引き続き、諦めの感情を感じます。長調に転じて幸せだった頃を懐かしむような中間部も悲しい…。
中間部の最後の繰り返しのピアニッシモは、その最後の夢が儚くフェードアウトしていくように感じました。ラストの行進が去っていくような場面の柔らかいタッチによる音量の完璧なコントロール!
第4楽章。アタッカで始まりますが、見事なタッチで一気に聴かせます!第3楽章を経て何か情念のようなものが残り、それが渦巻いてうごめいて、まるで転生のような反撃開始のような。これから何かが始まる、その準備段階の音楽のように感じました。もう圧倒されました!凄い!凄すぎる!!!
後半はドビュッシー/版画。第1曲「塔」は白鍵のみの東洋的な雰囲気が素敵な曲。ツィメルマンさんのフェザータッチのアルペジオが見事!ツィメルマンさんのショパンはもちろん特別ですが、ドビュッシーも他人の追随を許さない、凜とした雰囲気に溢れています。
第2曲「グラナダの夕べ」は一転、黒鍵を交えて、2度も多用して、エキゾチックな魅力に溢れた曲。後半に出てくる単音連打は、まるで母親の夕食の準備をつまみ食いした子供が、逃げ回って去っていくかのよう!
私は2008年末にグラナダに行って、アルハンブラ宮殿やアルバイシン、ファリャの家を訪問しましたが、午後にはセビーリャに移動してしまったので、グラナダの夕べは見ていません…。次回は1泊して、グラナダの夕べにまちあるきを楽しんでみたいものだ。ツィメルマンさんの演奏を聴いて、強く思いました。
(写真)アルハンブラ宮殿から眺めるグラナダのまち
第3曲「雨の庭」は細かいフォルテの連続が見事。以前にドビュッシー/雪は踊っている、を弾いたことがありますが、ドビュッシーによる、ふんわり舞ように降る雪とポツポツと点で強く降る雨の描写の描き分けが素晴らしいですね。
以上3曲を通じて感じたのは、ツィメルマンさんのドビュッシーの魅力を120%伝えるピアノが最高!ということと、まるでピアノによる表現や技術の見本市のよう。フェルメールの作品でその要素が強いと聞いたことのある「絵画芸術」のことを思い浮かべました。
ラストはシマノフスキ。本ブログのプロフィールにも書いたように、ショパンとスクリャービンが大好きな私は、自ずとシマノフスキも大好物です。ツィメルマンさんのシマノフスキをライブで聴くのは初めてで、とても楽しみでしたが、これが堂に入った見事なピアノ!特に各変奏曲の描き分けが素晴らしかったです!
まずは冒頭の序奏の最後の、まるで浄化されるようなハ長調への転調に魅了されます!続いて変奏曲の主題をシンプルに弾いて入りますが、調性が短調と長調を揺れ動いて、何か早くも移ろいやすい人生を暗示しているかのよう。
第2~4変奏には青春の疾風怒濤や人生の不条理、第5~7変奏は初期のスクリャービンにも似た、そこはかなく揺れる調性が心地よく、優しい気持ちになります。温かい恋人の存在を感じますね。
そして、シマノフスキの葬儀でも演奏されたという第8変奏。葬送行進曲の悲しさと激しさは前半のショパンの葬送行進曲と双璧。ツィメルマンさんのコントロールされた激しさの表現に魅了されます。
一転して明るくなる第9変奏は、リスト/波の上を渡るパオラの聖フランチェスコのような左手のトレモロと右手の広がり感のあるアルペジオのコンボが素晴らしい!どうしたらこんなに軽やかに弾けるんだろう?期待感満載の音楽に魅せられます!
そしてラストの第10変奏が圧巻!難しいこの曲の中でも最も難しい変奏ですが、ライブでもCDと変わらない、ツィメルマンさんの極めてクオリティの高い演奏!サントリーホールの満員の観客が、息も着けないほどに惹き込まれている雰囲気を大いに感じました!
今回のツィメルマンさんの選曲では厳しい内容の曲もありましたが、第10変奏のフガートにはバッハに通じる神の奇跡や希望を感じました。ショパンのピアノ・ソナタの第4楽章とは見事なまでに対照的に、自由な魂が喜んで飛翔するようなラスト!!!大いに魅了されました!!!
クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタル、今回も圧巻のピアノでした!!!何という研ぎ澄まされたピアノ!それにより感じさせられる湧き起こる、さまざまな感情!
冒頭にも書いたように、この2年間ツィメルマンさんのリサイタルしか聴いていませんが、今後も、とにかくツィメルマンさんのリサイタルは万難を排して聴きに行こう、駆け付けよう。心より感じた最高のリサイタルでした!!!
(写真)ツィメルマンさんのピアノに大いに感動したので、平日ですが一杯だけ、笑。フランツの心の友、山崎12年。最高のピアノの余韻に浸りながら、最高のウイスキーを味わう。至福の一時です。