文楽を観に、国立劇場小劇場に行ってきました。演目は近松門左衛門の代表作と言われる心中物の名作、心中天網島です!

 

 

文楽 令和5年2月公演

近松名作集

(国立劇場小劇場)

 

心中天網島 (しんじゅうてんのあみじま)

 北新地河床の段

 天満紙屋内の段

 大和屋の段

 道行名残の橋づくし

 

 

(写真)文楽2月公演のパンフレット。心中へと道行く治兵衛と小春。

 

(写真)文楽2月公演の床本集。近松門左衛門作の漢字5文字の3演目が綺麗に並んでいい感じ。

 

 

 

半蔵門にある国立劇場は今年10月末に閉場となり建て替えられ、再開場は2029年の見込みです。このため、昨年から「さよなら公演」と銘打って特別な出し物が続いていますが、今月の文楽公演(人形浄瑠璃)では、近松門左衛門の3演目を一気に上演します。

 

近松門左衛門と言えば、「心中物」が有名ですよね?ということで、その代表作の心中天網島を観に行くことにしました。

 

(本当は上の3演目全部観たいところですが、2月はオペラ6本を始め予定がもうパンパンで…泣。さらに、昨日に地下鉄で「あっ!これも観に行かないと!」という、とある公演を見つけてしまって、もっとパンパンに…泣。)

 

 

 

心中天網島のあらすじをごく簡単に。江戸時代に実際に起きた、治兵衛と小春が大阪・網島の大長寺で心中した事件をもとに書かれた作品です。紙屋を営む治兵衛は、妻子がありながら遊女の小春と深い仲に。そこに、治兵衛の女房おさん、兄の侍の孫右衛門、小春を身請けしようとする太兵衛などが絡み、行き場のなくなった二人が最後心中してしまう、とても切ない物語です。

 

 

 

【北新地河庄の段】

 

始めは茶屋の河庄が舞台。まず印象に残ったのが、弟の治兵衛を立ち直らせようと、小春に会いに来た孫右衛門。吉田玉也さんが見事に遣っていましたが、とても思慮深い立ち振る舞い。小春の悩みを聞きつつ、小春の懐中から、おさんが書いた手紙を見つけた時に、小春の本心を一瞬で悟ったところなど、さすがは武士だな、と感心しました。

 

そして、治兵衛のライバル太兵衛の対象的なガサツさ!さすが「毛虫客」とまで呼ばれて、嫌がられているだけのことありますね。身請けを願う小春に向かって、治兵衛の悪口をわあわあしゃべる全く小さい男…。それを豊竹睦太夫さん(中)と竹本千歳太夫さん(切)の義太夫が見事に表していました。

 

本段の最後の方では、狼藉を働く太兵衛たちを孫右衛門があっという間に懲らしめる場面が痛快!私、太兵衛のような口先だけで実力の伴わない男って苦手、というか嫌いですが、孫右衛門がこっぴどくやっつけてくれてスカッとしました!笑

 

孫右衛門の差配で、治兵衛は小春と別れることとなります。その別れ際では、小春は治兵衛のことを思ってこその、見せかけの態度を取っているのにも関わらず、それが分らない治兵衛…。恋の逆恨みで、何と小春を足蹴にしてしまいます…。ああ、男って、何でこんなに駄目な生き物なのか?

 

 

 

【天満紙屋内の段】

 

場面は治兵衛のお店の天満紙屋に移ります。まず、治兵衛の女房おさんがテキパキとして素晴らしい!吉田和生さんが凛として見事に遣っていましたが、お店を切り盛りして、2人の子供の面倒も見て、本当によく出来た女房です。このシーンで感じたのが、逆にそれが故に冴えない治兵衛の行き場がないのかも知れません…。う~ん、夫婦って本当に難しい…。

 

治兵衛から、小春とは縁を切ったという話を聞いて、おさんは小春が太兵衛に身請けされた上で、死ぬつもりだと真意を悟ります。何とか小春を救おうと動き出すおさん!夫の治兵衛が入れ込んだ小春を恨んでも仕方ないところ、女同士の義理立てには不思議な感動を覚えます。

 

小春を身請けするために、お店のお金だけでは足りないので、自分や子供たちの着物まで質に出そうとする健気なおさん…。しかし、いざ小春を助けに!というところで、おさんの父親の五左衛門が登場して、企てが露見してしまいます。哀れ、おさんは五左衛門に無理矢理、実家に連れ戻されてしまうのでした…。

 

 

 

【大和屋の段】

 

いよいよ行き場がなくなって、小春と心中するために、小春のいる茶屋・大和屋に来た治兵衛。小春と示し合わせて夜更けに出立することにしますが、そこに孫右衛門と、治兵衛の息子の勘太郎を背中にしょった丁稚の三五郎が治兵衛を探しに来ます。

 

治兵衛は物陰に隠れてやり過ごし、また複雑な心境となりますが、心中の前にこのシーンがあると、残されたお子さんたちはどうなってしまうのか?少しだけ救われる気がします。おさんの元に戻るのが叶わなかった場合、しっかりとした武士の孫右衛門が立派に育ててくれるだろう安心感が頼りです。歌舞伎の「荒川の佐吉」を思い浮かべました。

 

そして、夜更けに大和屋をこっそり抜け出そうとする小春。大和屋の表戸がなかなか開かなくて、二人で胸が高鳴るシーンは本当にリアル。外に出て、行き先が分らなくなり、「北か南か西か東か」の義太夫が聞かれますが、そのくらいに気が動転している心情がよく伝わってきました。

 

 

 

【道行名残の橋づくし】

 

心中の道行を経て、網島の大長寺に辿り着く治兵衛と小春。死を前に小春は、治兵衛を死なせないでほしいという、おさんとの約束を反故にしてしまうことを大いに悔やみます…。女同士の義理の堅さ、その心意気に感動。最後はおさんへの配慮を込めて、二人は少し離れた場所で死にゆくのでした…。

 

 

 

 

 

近松門左衛門の代表作とも言われる心中天網島、さすがは名作、素晴らしい舞台でした!特に小春とおさん、2人の女性の生き様が本当に見事!そして武士の懐の深さを示した孫右衛門もいい味出していました。

 

 

 

前回、ワーグナー/タンホイザーの記事を書いたばかりで、オペラの舞台も本当に良かったですが、文楽もめちゃめちゃ素晴らしい!3人によって遣われる人形のきめ細やかな表情やしぐさ、多くの登場人物を声色を変えて見事に語り分ける義太夫、そして物語の雰囲気を高める三味線。オペラとはまた違った魅力や醍醐味を感じます。

 

何より、本心を隠してぐっと堪えて立ち振る舞う登場人物が出てきたり、あるいは、それを見事に察して、助けたり尊重したりする登場人物がいたり。日本のきめ細やかな人情の物語が大いに心を打ちますね。東京で生まれ育った私がこれだけ心動かされているので、大阪の方なら、義太夫の語る言葉がすっと入って、より一層感動されることでしょう。

 

 

 

結論としては、西洋のオペラも日本の伝統芸能も、両方楽しむのがいいですね!(なので、予定がパンパンになりますが、笑) 国立劇場小劇場での文楽は、建て替えがあるので、当面は今年9月の公演が最後となるそうです。しっかと見届けたいと思います!