先月、11月26日(土)・27日(日)と大阪に行ってきました。目的は国立文楽劇場での文楽鑑賞。文楽(人形浄瑠璃)は東京では国立劇場小劇場で何度も観ていますが、大阪の国立文楽劇場では初めて。とても楽しみです!

 

 

国立文楽劇場

令和4年11月文楽公演

 

第1部

心中宵庚申

 上田村の段 

 八百屋の段

 道行思ひの短夜

 

第2部

一谷嫰軍記

 弥陀六内の段

 脇ヶ浜宝引の段

 熊谷桜の段

 熊谷陣屋の段

 

第3部

壺坂観音霊験記

 沢市内より山の段

勧進帳

 

 

(写真)国立文楽劇場。遂に来た!ここで文楽を観るのがずっと夢だったんです!今回は名作の並ぶ充実のラインナップだったので、思い立って大阪まで観に来ました。大いなる感動!

 

(参考)上記の各作品のあらすじ。物語が少し複雑で、ブログに書くと長くなるので、こちらをご参照ください。

https://www.ntj.jac.go.jp/assets/images/02_koen/bunraku/2022/11gatsu_arasuji_ura.jpg

※国立文楽劇場の11月公演のチラシ裏面

 

 

 

 

 

国立文楽劇場の11月文楽公演は、上記の通り、3つの部に分かれています。1日で3つ全部観るのも一案ですが、ここは休憩をしっかり入れて集中して観たいところ。

 

そこで、金曜の夜に新幹線で東京から大阪に入った上で、土曜に第1部と第3部、日曜に第2部を観ることにしました。(結果、高い集中力で観ることができ、なかなか良い選択でした。)

 

 

 

まずは26日(土)11時からの第1部。演目は「心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)」です。

 

 

(写真)心中宵庚申の半兵衛とお千代。心中する二人の切ない物語です…。

 

 

上田村の段は、実家に返されてしまったと思い込む、お千代の入りの場面での思い詰めた様子。桐竹勘十郎さんのお千代の人形遣いが雰囲気たっぷりです。お千代の父親、平右衛門の人形遣い吉田玉也さんは、視線を上にしつつ、一つ一つの動作に力と表情が入って素晴らしい!

 

この時代の農家でありながら、平家物語や徒然、伊勢物語がスラスラ出てきて、この一家の教養を感じさせます。ラストの平右衛門のお千代に向けた「灰になっても、帰るな」(半兵衛に添い遂げろ)の語りが沁みます…。

 

八百屋の段は、伊右衛門女房のまあ酷い姑ぶり…。嫁入りしたお千代だけでなく、養子の半兵衛の苦労ぶりや、いかばかりか…。人として一体どうなのか?こうなってはいけない。大いに反面教師になりますね。

 

そして、道行思ひの短夜では、伊右衛門女房の横暴ぶりに行き場がなくなり、とうとう八百屋を出て行って心中する二人…。半兵衛がいよいよお千代を手にかけようとした時に、お千代がお腹の子供にも回向を、と言って留め、二人で抱き合って泣くシーンが切な過ぎる…。

 

 

非常に悲しい物語ですが…、近松門左衛門の最後の世話浄瑠璃、心中ものの醍醐味を大いに堪能できた素晴らしい舞台でした!

 

 

 

 

 

(写真)第1部の後、国立文楽劇場の近くに市場があったので寄ってみたら見覚えが!ここ、よくテレビで外国人観光客の映像が出ている市場ですよね?

 

黒門市場。さらには今年が200周年とのこと!沢山の外国人客がお店の軒先で、美味しい魚介類に舌鼓を打っていました。

 

 

(写真)ランチはなんば界隈で定評のあるラーメン屋さんにしてみました。めっちゃ美味い!

 

(写真)なんばグランド花月。20年以上前に大阪に来たときに、中に入って観ました。池乃めだかさんの必殺技「カニバサミ」を生で観ることができたり、とても楽しかったです!

 

 

 

 

 

ランチの後、ホテルで仮眠を取ってから、18時からの第3部を観に行きました。演目は「壺坂観音霊験記(つぼさかかんのんれいげんき)」と「勧進帳(かんじんちょう)」です。

 

 

(写真)勧進帳のチラシ。弁慶が扇を差し出して、延年の舞を舞うシーン。私、東京の国立劇場小劇場での文楽9月公演(奥州安達原)を観に行った時に、このチラシに魅入られて大阪行きを考えました。

 

 

前半は壺坂観音霊験記。目が見えなくなってしまった沢市が妻のお里の浮気を疑いますが、お里がいやいや違います、と伝える態度。豊松清十郎さんの人形遣いの動きがいじらしい!お里が毎晩明け方に出て行くのは、壷坂寺の観音様へ祈願を重ねていたためでした。

 

2人で壷坂寺に行くと、不自由な自分に構わず、お里には自由になってほしいと、沢市は崖から身を投げてしまいます…。半狂乱になって嘆き悲しむお里…。それを迫真の義太夫で伝える竹本三輪太夫さんの凄みのある声色!お里も後を追ってしまうのでした…。

 

しかし、最後は観世音菩薩の計らいにより2人は生き返り、沢市の目も見えるようになる展開にホッとします。第3部は勧進帳目当てで来ましたが、この壺坂観音霊験記も非常に印象に残った作品でした!

 

 

 

後半はお目当ての勧進帳。私、歌舞伎の勧進帳は先代(12代目)の市川團十郎さんで何度も観ていて、原作の能の安宅も観ています。今回文楽で観れば、3つの伝統芸能を制覇です!

 

まずは富樫と弁慶の問答の緊迫感と迫力!弁慶の義太夫が言葉の頭を伸ばしたり、強調を入れたりするのは、先代の團十郎を思い出しますね~。歌舞伎での丁々発止の問答も素晴らしいですが、竹本織太夫さんと豊竹靖太夫さんの掛け合いも凄い!お見事でした!

 

富樫がお詫びする酒盛りの場面では、弁慶は番卒からお酒の入った瓢箪を取り上げ、盃に全部注いで飲み干します。弁慶の豪快さを表す、お酒好きのフランツの大好きなシーン。その後の弁慶の延年の舞は、人形により舞われるので、大きな動きによって舞台をとことん盛り上げます。

 

文楽で普段はない「花道」が設けられるのも勧進帳ならでは。義経の引っ込みでは、花道で義経が正体を現し、富樫が分かった上で見逃すような仕草が付きました。そして、最後の弁慶の引っ込みは何と文楽人形が飛び六方を披露!歌舞伎とは異なり、片方の足ずつでダンダンダンダンダン!と花道を豪快に踏んで進みますが、大いに盛り上がりました!

 

 

 

勧進帳を文楽でも観ることができて感無量!!!

やっぱり名作は揺るぎない!!!

 

 

 

 

 

(写真)終演後、なんばにお好み焼きを食べに行きましたが、遅い時間にも関わらず、どこも入店待ちで長蛇の列…。しからば、ということで、たこ焼きにしました。

 

こういう時、たこ焼き屋さんって本当に重宝しますね~。熱々トロトロのたこ焼きと冷たいビールの組み合わせが最高!

 

 

 

(写真)翌27日(日)のランチで、やっと、お好み焼きにあり付けました!なんばでも有名なお好み焼き屋さんにて。トリプル玉焼き(豚と海老とイカ)。これ抜群に美味い!

 

 

 

 

 

2日目の27日(日)14時からの第2部。演目は「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」です。

 

 

(写真)一谷嫩軍記。「一枝を伐らば一指を剪るべし」と書かれた制札を持つ熊谷次郎直実。

 

 

弥陀六内の段は、若衆(実は平敦盛)に思いを寄せる小雪の可愛らしさに魅了されました。脇ヶ浜宝引の段は典型的なチャリ場(悲劇の前の滑稽な場)ということで、一人遣いの百姓たちのユーモラスさが際立ちました。

 

そして、熊谷陣屋の段がやはり圧倒的に素晴らしい!制札の言葉を平敦盛を救えという義経の隠れた命と見抜いた直実が、我が子を敦盛の身替わりにする、悲し過ぎる物語…。吉田玉志さんの遣う悲壮感漂う直実が本当に素晴らしかったです。吉田和生さんの相模(直実の妻)もさすがの技。

 

特に制札で相模と藤の局を相手に次々に見得を切るポーズが美しい!昨年惜しくも亡くなられた、歌舞伎の中村吉右衛門さんの熊谷直実を思い出します。

 

直実の大きさ、妻の相模の悲しさ、弥陀六の勇ましさと平家の気骨、義経の泰然自若さ。歌舞伎で観る熊谷陣屋ももちろん良いですが、文楽でも人形遣いと義太夫、三味線により、物語の素晴らしさが存分に伝わってきますね。

 

ラストで出家して去っていく直実の「十六年も一昔。夢であったなあ。」の義太夫が心に沁みますね…。世の中にこんなに悲劇的な出来事はない。この悲劇の物語のことを知っていれば、大概の辛いことは乗り切れる。改めて観て、強く思いました。

 

 

 

 

 

ということで、初めてとなる大阪の国立文楽劇場での文楽観劇。めちゃめちゃ良かったです!

 

何より文楽の本場で観る特別感が半端ない!そしてお客さんが温かい!人間国宝の人形遣いだけでなく、主要な登場人物にはすぐ拍手が出て、場内の笑いも東京より言葉への理解が深いためか、すぐに出てきて、笑いの沸点が低い印象を持ちます。

 

 

本当に素晴らしい体験となりましたが、一点だけ残念というか寂しいことが…。お客さんがあまり入っていなかったんです…。東京の国立劇場小劇場の公演はコロナの前は毎回ほぼ満席、コロナ後でも7割は入るのに、今回は一番多かった勧進帳でも5割くらい、一番少なかった一谷嫩軍記では2割くらいの入りでした…。土日の公演で、日曜は千秋楽なのに。

 

たまたまであればいいのですが、もしかして大阪の方はコロナを気にして、人の集まる場所に行くのはまだまだ控えていらっしゃるのでしょうか?地元で素晴らしい公演があるのに、何とももったいない。本場の大阪で盛り上がってこその文楽です。お節介は承知の上ですが、お頼み申しました!

 

 

 

 

 

さて、国立文楽劇場での初めての文楽を存分に楽しんできましたが、2日目は14時からの観劇だったので、午前中は思い立って、軽めで観光もしました。国立文楽劇場から近いこともあり、久しぶりに新世界のまちを歩いてきました。

 

 

(写真)ジャンジャン横丁。串焼き屋さんが並んで、将棋を指す場所があって、懐かしい。立ち飲みの居酒屋さんには午前中なのに外国人観光客がびっしりでした!

 

(写真)通天閣。野球漫画「ドカベン」で、通天閣高校の坂田三吉選手が「通天閣打法」というユニークなバッティングで、明訓高校を苦しめたことを思い出しました。

 

 

 

(写真)通天閣界隈には、ド派手な看板のお店が並んで見応えあり。外国人観光客に大いに受けていました。

 

(写真)幸運の神様ビリケンさん。通天閣にある黄金のビリケンさんは三代目ですが、御利益があるとして「足の裏」をなでる人が後を絶たず、すり減りなどが進んだため新調されたそうです。

 

(写真)通天閣の王将碑。戯曲や映画「王将」のモデルは将棋指しの坂田三吉です。今の将棋界は天才藤井聡太さんが5冠と席巻していますが、坂田三吉の破天荒な将棋も凄かったんですね。

 

ちなみにフランツ、小学生の時は放課後に全然勉強せず(笑)、おじいちゃんとよく将棋を指していたので、将棋は得意分野です。いつかジャンジャン横丁の将棋くらぶで指してみたいものです。

 

(写真)残念石。大阪城の石垣になれなかった石だそうです。巨大が故に石垣にはまらなかった石なのかな?と想像していたら、割合小ぶりでした。このような石にも光を当てて、大阪の方は本当に温かいですね。

 

 

 

新世界、20年以上前に来た時よりも綺麗になっていて、観光客、特に海外からの観光客が増えた印象を持ちました。以前ジャンジャン横丁では串焼きを食べながら将棋を指していたイメージがあったのですが、あれは勘違いだったのでしょうか?(NHKの朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」の世界) いずれにしても本当に懐かしかったです。

 

 

 

ということで、土日の2日間でしたが、とても楽しかった大阪旅行でした!国立文楽劇場、またぜひ観に行こうと思います!