(この夏の旅行記の続き) 午前中に鴨たちの生態観察とリスト博物館を楽しんだ後、夕方からはバイロイト音楽祭の3日目を観に行きました。演目はタンホイザー。これが個人的に大いにはまった、「バイロイト音楽祭讃歌」とも言うべき最高の公演となりました!
(以下、最高の公演にて、8,000文字超のかなり長文の感想、ご容赦を~!)
Bayreuther Festspiele
WARGNER
TANNHÄUSER
Musikalische Leitung: Axel Kober
Regie: Tobias Kratzer
Bühne und Kostüm: Rainer Sellmaier
Licht: Reinhard Traub
Video: Manuel Braun
Dramaturgie: Konrad Kuhn
Chorleitung: Eberhard Friedrich
Landgraf Hermann: Albert Dohmen
Tannhäuser: Stephen Gould
Wolfram von Eschenbach: Markus Eiche
Walther von der Vogelweide: Attilio Glaser
Biterolf: Olafur Sigurdarson
Heinrich der Schreiber: Jorge Rodríguez-Norton
Reinmar von Zweter: Jens-Erik Aasbø
Elisabeth, Nichte des Landgrafen: Lise Davidsen
Venus: Ekaterina Gubanova
Ein junger Hirt: Tuuli Takala
Le Gateau Chocolat: Le Gateau Chocolat
Oskar: Manni Laudenbach
Das Festspielorchester
Der Festspielchor
(写真)本公演のパンフレット
(写真)バイロイト祝祭劇場
まずは祝祭劇場までの行きのシャトルタクシーでのこと。祝祭劇場が近くなると、おやっ!?警察車両20台くらいの長~い列が見えました?同乗していたドイツ人の方が「今日はシュタインマイヤー大統領が来るよ」と!何と~!
すると、祝祭劇場の近くのエリアに入る時にも、昨日まではなかったチケット&身分証明書の提示を求められました。「こいつが隙を見つけてはお酒ばかり飲んでいる享楽主義者のフランツか!ぶち込んでおけ!」とか言われないかドキドキしましたが、全く問題ありませんでした、笑。
祝祭劇場に入り座席に着き、しばらくすると、シュタインマイヤー・ドイツ連邦共和国大統領が客席に登場されました。結構近い!そして、開演直前には私と同じ列の人たちに、スタッフから中央に詰めて!とジェスチャーがあり、さらに大統領の近くの席になりました。距離およそ5m!詰めた座席は、おそらくチケットをズーヘ・カルテか何かで入手して、身分証明書ではじかれた方なのではないかと。ああ無情…。
第1幕。序曲が始まりました。空から見た実物のヴァルトブルク城(タンホイザーの舞台)の映像が流され、その後の緑の森はタンホイザーの第1幕第2場の世界です。森の映像が続いて、もしかしてこの後にヴェーヌスベルクを映すのかな?と思ったら、一台の車にフォーカスしました???
見ると、ヴェーヌスと思われる女性がノリノリで運転していて、車の上には黄色のウサギの人形がびょこんと立っていて何だかとっても楽しそう!どうやら大道芸の一座のキャンピングカーのようで、タンホイザーはピエロの格好をしていました。
(写真)そのキャンピングカー。車の上の黄色のウサギが何ともユーモラス。もし、祝祭劇場の売店で模型を売っていたら、もはや購入したくなるくらいに気に入りました!
※本公演のパンフレットより
キャンピングカーがザルツブルグ音楽祭の劇場に付いたところ、道を間違えた!と、映画「ブリキの太鼓」の主人公オスカルに似た、背の小さな男性(配役表で「オスカル」という名前)が大げさに頭を抱える演技に観客が大爆笑!また、女装の黒人男性の方(配役表で「ガトー・ショコラ」という名前)が車から出て、車と並走するあり得ない映像が出てきたり、めっちゃ可笑しい!
しかし、序曲がヴェーヌスベルクの音楽に入ると、そんな微笑ましい雰囲気も一変!バーガーキングのお会計を偽のクレカで騙し取ったり、ガソリンを他の車から盗んだり、果ては悪事がバレた後、諫める警備員をヴェーヌスが車で引き殺してしまったり、犯罪し放題…。自由が暴走しまくりますが、これは言語道断ですね…。
序曲後半の巡礼の動機が帰ってくる場面では、そんな仲間たちの自由過ぎて安直に罪を犯すシーンを見て、仲間に加わった後悔の念を滲ませ、悲しい目で切なく物思うピエロ姿のタンホイザー…。ここで映像が終わり、舞台が始まります。
序曲の後、タンホイザーとヴェーヌスのやりとりは、キャンピングカーが休憩所に着いての食事の場面です。大道芸の一味から抜けたいというタンホイザーと引き留めるヴェーヌスの応酬は、お馴染みステファン・グールドさんとエカテリーナ・グバノヴァさんの迫力の歌!途中、タンホイザーは荷物袋から大切にしている本を取り出し、それを読みながら「ナハティガル」と歌います。
その応酬の最後で「マリア」と叫び、遂にはキャンピングカーから飛び降りて脱出するタンホイザー!とある道路に落ち着きます。第2場、牧童はそこに自転車で通りかかった女学生さん。見ず知らずなのに、疲れ切ったタンホイザーに自分の水筒で水を上げたり、甲斐甲斐しくてとても優しい。
そして、タンホイザーがその女学生さんに連れて行ってもらったのが、何とバイロイト祝祭劇場!観客大受け!笑 巡礼たちは正装したバイロイト音楽祭の観客たち。みんな薄緑色のタンホイザーの公演パンフ(上記)を持っていました!
ミンネゼンガーたちが登場しますが、オフィッシャルのネームプレートをしているので、バイロイト音楽祭に出演している歌手たちなのでしょう。白の服に金髪が美しいリーゼ・ダーヴィドセンさんのエリーザベトが早くも登場。第1場にも出てきたタンホイザーの本が再び出てきますが、どうやら楽譜のようです。
最後の方の祝祭的なホルンが、舞台上の祝祭劇場から聴こえるのも楽しい。まるで、バイロイト音楽祭の開演前のファンファーレのよう。タンホイザーが歌手たちと劇場に向かって去った後、ラストは何と!キャンピングカーがバリケードを破って、ヴェーヌスたち一行が侵入してきました!笑 この後、第2幕はどうなるのでしょう?めっちゃ楽しい演出!
休憩に入ると、休憩中によく行く池の方から、タンホイザー序曲のピアノ演奏が聴こえてきます?オペラ公演に合わせて、若手のピアニストの方がミニコンサートでもやっているのかな?とか思って見に行ったら、何と!先ほどの大道芸一行が池の一角でショータイム!笑
ガトー・ショコラが「ようこそヴェーヌスベルクへ!」とアナウンス。何とサマータイム(ガーシュウィン/ポーギーとベス)を歌い始めました!よく考えられた選曲!オスカルは池でボートに乗って宣伝。そして、ヴェーヌス役のエカテリーナ・グバノヴァさんご本人も登場して、観客にもっと盛り上がれ!と手を叩きます!
オペラで歌手たちが劇場のロビーで幕間に寸劇をする演出は過去にありましたが、200mも離れたオープンエアーな場所でのショーは前代未聞!芸達者なガトー・ショコラは、さらには第2幕の殿堂の歌まで披露していました!(しかも最初歌い始めて「これはちょっと無理かな?」と言って止めるフリをするギャグまで!)
(写真)幕間のパフォーマンスに大いに魅了されましたが、長丁場のオペラです。アプフェルシュトゥルーデルでしっかり栄養補給しました。
第2幕。舞台の上半分はスクリーンに映像となり、舞台に入る前のエリーザベトの緊張の表情が映し出されます。舞台の下半分はヴァルトブルク城の歌の殿堂の似た造りの舞台、とても楽しみです。
そのリーゼ・ダーヴィドセンさんのエリーザベトの冒頭の殿堂の歌が、祝祭感に溢れて素晴らしい!ヴォルフラム役はマルクス・アイヒェさん。タンホイザーを励ましたり、エリーザベトを勇気づけたり、本当にいい人。ここで、ヴォルフラムがエリーザベトの腕をさすって、袖を直す演技が付きました?(後の伏線となります。)
タンホイザーとエリーザベトの2重唱もとっても素晴らしい!その後、舞台から引っ込んだタンホイザーを合唱のみなさんたちが「帰ってきましたね!」とバックヤードで笑顔で迎える演技が温かい。というように、第2幕は、実際の舞台(舞台下半分)と舞台裏の映像(舞台上半分)で進行していきます。
殿堂の行進曲が始まりましたが、何と!先ほど幕間でパフォーマンスをしていた池から、ヴェーヌスたち3人が祝祭劇場に向け丘を登っていく映像が流されました!3人が行進曲の拍子に合わせて歩を進めて、場内大爆笑!
3人は2階のバルコニーから祝祭劇場に忍び込んで、バルコニーには「意志の自由、行動の自由、悦楽の自由 R.W.」(1849年のドレスデン革命時のワーグナーの言葉)の垂れ幕を掲げました!
(写真)ヴェーヌスたちがバイロイト祝祭劇場のバルコニーに掲げた垂れ幕
行進曲の前に4人のプレゼンターの女性の1人が、ソワソワ落ち着かない動きの上で舞台裏のトイレに駆け込みましたが、何とヴェーヌスがこの娘を見つけ、すぐさまトイレの個室で縛り上げました!プレゼンターの1人に変装して、巧みに舞台に現れるヴェーヌス!
残りのガトー・ショコラとオスカルの2人は祝祭劇場の中をウロウロ。オフィッシャルのエリアをさまよい、出演者の写真がズラッと並んだ場所にやって来ます。すると、オスカルがウクライナの女性指揮者オクサーナ・リーニフさん(さまよえるオランダ人を指揮)の写真に、ウクライナの国旗の青と黄色のハートマークのシールを付けて、ウインクをしました!
茶目っ気たっぷりにウクライナを支持する映像に、観客は拍手が起こらんばかりに、ドッと受けました!さらには、2人が誤って舞台の背景に一瞬登場して、アルベルト・ドーメンさんのヘルマン国王が自分の目をこすって疑う演技まで!笑
ヴォルフラムの歌が始まりました。マルクス・アイヒェさんの美しい歌ですが、それに退屈し切って、イライラしたりあくびをする、全く天然児のヴェーヌス…笑。タンホイザーすらもヴォルフラムの歌の途中で目をつぶり、魂が飛ぶ演技が付いていました。
一方、観衆たちはヴォルフラムの歌に合わせて、みんなで星を見上げたり画一的な動きをするのは、ここヴァルトブルクの自由のなさ、堅苦しさを表わしていると感じました。
タンホイザーの歌になると、一転してヴェーヌスはノリノリで踊り始めます。一方、エリーザベトはヴァルターやビテロルフの歌に共感して敬意を示します。
「拙者、守るでござる」のアナクロな歌が新国立劇場の公演でも馬鹿にされていたビテロルフですが、こんなにもエリーザベトから大切にされるビテロルフを見るのは初めてかも?騎士の貫禄があって立派でした。
タンホイザーが遂に舞台にヴェーヌスがいることを認めて、「ヴェーヌスベルクに行け!」と高らかに歌います!ショックを受けてエリーザベトは退場しようとしますが、その行き先にオスカルたちが入場してきて、仕方なく舞台に引き返します。
その流れで、オスカルたちがばら撒き始めたワーグナーの「意志の自由」の言葉の書かれたビラを見て、何事かもの思うエリーザベト。どうやら、ワーグナーの言葉が心に刺さり、目覚めた様子です。
エリーザベトの命乞いの歌は、またしてもリーゼ・ダーヴィドセンさんの魂の歌に感動!そして、歌の中で、先ほどヴォルフラムがさすった片腕をまくって見せました。そうか、これは自殺未遂の跡なんですね…。
ただ、それはタンホイザーがいなくなったことではなく、息の詰まる王女の生活や国王との関係が原因のように感じました。また、命乞いの歌の最中、タンホイザーはすぐに後悔や懺悔することなく、ヴェーヌスに魅了されながら心揺れる姿がリアルかつ斬新!
そして、タンホイザーとヴェーヌスたちは舞台の前方に、それ以外の人たちは舞台の後方に分かれます。その境目となる舞台上の白い枠が、自由と不自由の境目を表わすようで、エリーザベトがその境目に立っていたことも含めて非常に印象的。エリーザベトとヴェーヌスの対決は、決してぶつかることはなく、逆にお互いを認め合って、人間の二面性を表すかのよう。
混乱の中、上半分の映像では、乱入者により舞台がめちゃめちゃになったということで、舞台ディレクターが何とカタリーナ・ワーグナー芸術監督に連絡し、カタリーナが警察に通報する映像が流されました!サイレンを鳴らして祝祭劇場の丘を上がる何台ものパトカー。
そして警察官たちが車から降りて、祝祭劇場に突入しようとしますが、先ほどのワーグナーの「意志の自由」の垂れ幕を見て、警察官たちが何かもの思う様子が極めて印象的。警察官は職務を忠実に履行しなければいけないが、それぞれの個人の思いもある。ここは本当に心打たれたシーンでした…。映像がスローモーションになり、いよいよ警察官たちが突入していきます。
最後はタンホイザーがエリーザベトに許しを乞い、ヘルマン国王の「ローマに行け!」の声と共に、突入した警察官たちに連れられていくタンホイザー。途方に暮れるヴェーヌスたちで、幕となりました。
いや~!もの凄い展開となりました!最高のタンホイザー!物事には二面性のあること。そして簡単には割り切れるものではないことを、ユーモアも交えてよく伝える最高の舞台!
(写真)幕間は再びケーキで栄養補給。これ、何のケーキだっけ?笑 結局、バイロイト音楽祭3日間で5種類のケーキをいただきました。サービスの女性の方に、フフッ、また来ましたね!笑、と覚えられてしまいました。
第3幕の前、シュタインマイヤー大統領はまだいらっしゃって、最後までご観覧のようです。近くの席の人がサインをねだって、大統領が笑顔で書いてあげて、微笑ましい光景が展開されていました。
第3幕。前奏曲は荒れたキャンピングカーにオスカル1人。オスカルは鍋に火を焚べて、侘しい食事をします。その光景を見つめるエリーザベト。エリーザベトはオスカルから、オスカルの使ったスプーンでそのまま食事を分けてもらいました!
いささか驚くとともに、温かさを感じた、とても印象的なシーン。芸人たちは破天荒だけど優しい。そしてエリーザベトは、タンホイザーのことを祈って決して食事を取らないような、聖女ではないことを表します。
それを見つめるヴォルフラム。エリーザベトの歌の場面で、エリーザベトのガウンを木の枝に掛けたのは、ラストの新芽の奇跡への伏線なのかな?と、ここでは思いました。
巡礼の合唱とともに浮浪者たちが登場しますが、キャンピングカーの周りにあった中古品の類い全てを勝手に持っていきます。それらを売って、いくばくかの稼ぎを得ることを考えていただろうオスカルは、呆気に取られ、途方に暮れていました…。
この人たちは元々はバイロイト音楽祭の(ある程度恵まれた)観客だったはず。第1幕とのあざやかな対比で、何かしらの真実を示します。翻っての貧しい中でも分け与えるオスカルの優しさ。人間、決して貧富で価値が決まる訳ではない。心のあり方の問題ですね。
ピエロ姿になったヴォルフラムは夕星の歌の前に、エリーザベトにキャンピングカーの中に誘われますが、エリーザベトからピエロの格好のままで(つまりタンホイザーの姿で)とお願いされます。憧れのエリーザベトとピエロ姿で抱き合うヴォルフラムが切な過ぎる…。マルクス・アイヒェさんの素晴らしくも切ない夕星の歌でした。
そして、死を決心したエリーザベトは、辺りを見回して刃物を探します…。オスカルがエリーザベトを愛撫して、何とか思いとどまるようにと働きかけますが、踏みとどまることをしないエリーザベト…。エリーザベトと同時にオスカルも切ない…。この辺り、もう涙涙…。
切ない夕星の歌の後奏が終わり、回り舞台により舞台転換。第3幕前半は裏側だった大きな広告が現れると、広告はガトー・ショコラが成功して、「ガトー・ショコラ」という高価そうな時計の広告に出ていました!これ、つまり、ガトー・ショコラは成功を掴んだものの、昔の仲間に分け与えることはしない。つまりは分断を表しているんですね…。
刑務所から出てきたタンホイザーが貧しい格好で登場。ローマ語りはステファン・グールドさんの圧巻の歌!法王の主題を歌う場面では、ヴォルフラムがタンホイザーの大事にしている本を見ながら感動していました。
しかし、ヴェーヌスを探す場面ではその本を何度も破き、果ては火にくべるタンホイザー!ここでようやく分かりました。この本は「タンホイザー」の楽譜(スコア)そのものなんですね!
そしていよいよヴェーヌスが登場。ヴェーヌスは以前と変わらず、大道芸一座のポスターの張り紙に糊をつけ、辺りに貼って行きます。音楽が盛り上がり、タンホイザーがいよいよヴェーヌスと結ばれるところで、ヴォルフラムの「エリーザベト!」の叫び!そして合唱。キャンピングカーの中から自殺してしまったエリーザベトとそれを看取ったオスカルが出てきました!
タンホイザーは血まみれのエリーザベトを抱き抱えます。ヴォルフラムが先ほど木の枝に掛けたガウンを取ってエリーザベトに掛けますが、木の枝に新芽はなく…。あれれ?奇跡や救済は起きないのでしょうか?
そして、ガトー・ショコラの広告板の裏に映像が映し出され、タンホイザーの運転するキャンピングカーの助手席で、幸せそうにタンホイザーの腕にぶら下がるエリーザベトの映像で幕となりました!
いや~、第2幕までさんざん笑わせておいて、第3幕は一転、リアリズムと切なさの演出!全くしてやられました!第2幕までの勢いで第3幕やラストはどんな風に笑わせてくるんだろう?と思っていた観客たちは思いっきり肩透かしを喰らって、現実に引き戻されました。これは一体どういうことなんでしょうか?
私が受けた印象は、オリジナルのタンホイザーの物語のような、女性の死による救済などはない。奇跡など起こらない。ドレスデン革命の時にワーグナーが掲げた「意志の自由、行動の自由、悦楽の自由」の精神を尊重して、遂には「タンホイザー」という作品自体の結末を否定してしまった、トビアス・クラッツァーさんによる全く驚きの演出と感じました!
あるいは、この演出自体が、このような演出までも許容してしまう、自由過ぎる「バイロイト音楽祭讃歌」なのかも?ワーグナーが造り上げたバイロイト音楽祭だからこそできる、唯一無二の演出だと思いました!
それでは、この作品のキーワードである「救済」。それは全くなかったのでしょうか?いえいえ、この演出では、エリーザベトの死による救済こそありませんでしたが、救済の芽は随所に感じました。例えば、上記したような、第1幕の牧童や第3幕のオスカルの思いやりの行動に。
ヴェーヌスだって逃げ出したり、刑務所行きになったりしたタンホイザーを、その都度受け入れました。神でも聖女でもなく、どちらかと言えば貧しい市井の人々の行為にこそ魂の救済がある。リアリティやあるべき姿をバイロイト音楽祭の観客に突き付け、問いかける素晴らしいタンホイザー!最高の舞台です!
いやはや、バイロイト音楽祭のワーグナーはやっぱり最高!もちろんオーソドックスなタンホイザーを観ても大いに感動を得ますが、考えに考え抜かれた斬新なアイデアや工夫を盛り込んだ、驚きとしか言いようがない演出に心の底からの感動!
しかもドレスデン革命の時のワーグナーの言葉を引用して、今のバイロイト音楽祭の方向性を力強く支持する、全く見事と言うしかない最高の演出!終演後の観客の盛り上がりは、盛大な拍手に床を踏みならして、もの凄いものがありました!
この公演が私の今回の夏の旅行の最後の観劇です。
こんなにも素晴らしいワーグナーを観ることができて最高でした!!!
(写真)そして、終演後は3日間連続で、お約束のマイゼルスヴァイス(バイロイトの白ビール)。最高のタンホイザーの後、突き抜ける美味さを味わいました!最高の一夜!!!