前回の記事で予告した和の文化との素晴らしい再会。それは歌舞伎でした!演目は義経千本桜より渡海屋・大物浦。歌舞伎の名優、片岡仁左衛門さんが主役の渡海屋銀平 実は 新中納言知盛を一世一代で勤める、特別な舞台です!

 

 

二月大歌舞伎

(歌舞伎座)

 

春調娘七草(はるのしらべむすめななくさ)

 

曽我十郎:梅枝

静御前:千之助

曽我五郎:萬太郎

 

義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)

 渡海屋

 大物浦

片岡仁左衛門

 一世一代にて相勤め申し候

 

渡海屋銀平 実は 新中納言知盛:仁左衛門

源九郎判官義経:時蔵

銀平女房お柳 実は 典待の局:孝太郎

入江丹蔵:隼人

銀平娘お安 実は 安徳帝:小川大晴

相模五郎:又五郎

武蔵坊弁慶:左團次

 

 

(写真)歌舞伎座。歌舞伎座には、2000年~2004年の5年間、毎月昼の部と夜の部に通いましたが(5年×12ヶ月×2部=計120公演)、2010年~2013年の歌舞伎座建て替え後、初めて中に入ります。

 

(写真)2月の演目。義経千本桜以外にも、面白そうな演目がいろいろありますね。

 

 

 

私は片岡仁左衛門さんが大好き。端正な容姿、颯爽としていて、何とカッコいいことか!男ながらに惚れますね。気品があって柔らかくも力強い。菅原伝授手習鑑の菅丞相、伽羅先代萩の仁木弾正、荒川の佐吉など、いずれも絶品でした。

 

今回は名作、義経千本桜より、人気の渡海屋・大物浦です。平知盛役は昨年惜しくも亡くなられた中村吉右衛門さんで観たことはありますが、片岡仁左衛門さんは初めて。しかも今回が一世一代(最後の公演で、以後この役を勤めることはない)です。非常に楽しみな舞台です。

 

 

 

前半は春調娘七草(はるしらべむすめななくさ)。新年に相応しい、曽我物と七草行事の物語で、静御前が登場して一緒に踊るという、独創的な組み合わせの舞踊です。静御前、そして荒事の五郎の組み合わせは、義経千本桜の鳥居前の静御前、そして佐藤忠信を思わせて、渡海屋と大物浦の前段として、とても粋な並びに感じました。

 

 

気品のある静御前、いきり立つ五郎、たおやかな十郎、それぞれ持ち味を発揮して、とても見応えがありました!扇をまな板に見立てて、七草を刻む仕草も楽しかったです。

 

 

4日前に能の舞(神楽&中ノ舞)を観たばかりなので、それと比較しながら観ることもできました。歌舞伎の踊りは表現のバリエーションが豊か。それこそ錦絵に出てきそうな、美しいポーズが次々と決まり、大いに堪能できます。

 

一方、能の舞は、空間にしろ所作にしろ、限られた制約の中での奥ゆかしさと幽玄な雰囲気に惹かれます。

 

要はそれぞれを比べつつ、両方とも楽しむのがいいでしょう!

 

 

なお、曽我物と言えば、歌舞伎では、助六所縁江戸桜(助六)と並んで寿曽我対面という演目が有名。兄弟が親の仇の工藤祐経に立ち向かう物語です。寿曽我対面では多くの家臣を従えて悠然と構える工藤祐経ですが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、伊藤祐親から見放されて、身体にシラミがたかった何ともひもじい風情で登場。歌舞伎では敵役ですが、いろいろと紆余曲折があったんですね…。

 

 

 

後半はいよいよ義経千本桜。まずは渡海屋。冒頭、相模五郎が渡海屋の女房のお柳に、義経一行を追うため船を用意するよう命じる場面。セリフに、「主従、北条時政奉行」という言葉が!即座に、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でのひょうきんな「義時パパ」こと、板東彌十郎さん演じる北条時政の姿を思い浮かべます!出世しましたね!笑

 

お柳のピンチに主人の渡海屋銀平が登場。片岡仁左衛門さん、めちゃめちゃカッコいい!そして相変わらずのいい男!刀を抜いていきり立つ相模五郎らを、軽くあしらいます。さんざんやられた相模五郎が、「銀平!」と捨て台詞を吐こうとするのを躊躇って、「ぎん…ぽ、さんま」と軽妙な魚言葉の応酬でお茶を濁す場面が楽しいこと!笑

 

銀平とお柳の間の娘、お安に化けていた安徳帝を小川大晴くんが演じますが、見事なセリフに会場から拍手が沸きます。なお、今回の上演では、武蔵坊弁慶が昼寝をするお安をまたごうとして、足に痛みが走って(実は安徳帝のため)不思議がる場面はありませんでした。きっとコロナで制約を受ける上演時間を考えてのことなのでしょう。(第1部と第2部、第2部と第3部の間に消毒をするため)

 

一度部屋に戻った銀平が真の姿を表わし、白鎧姿の知盛で再登場しました!盛大な拍手!見事に舞を舞った後、戦地に向かう知盛は、お柳たちに「おさらば!」と声をかけて、悲壮感も秘めつつ、花道を颯爽と去っていきます。めちゃめちゃカッコいい!さすがは片岡仁左衛門さん!惚れ惚れします!というか、惚れた~!笑

 

 

(写真)白鎧姿で戦いに向かう新中納言知盛。片岡仁左衛門さん、凛とした風情が最高でした!

※歌舞伎座で購入した筋書きより

 

 

 

続いて大物浦。お柳は本来の典待の局の姿に戻り、知盛たちの戦況を案じます。典待の局は私が以前に観た2000年代前半は、先代の中村芝翫さんや中村福助さんでしたが、今回の片岡孝太郎さんもよく通る低めの声色で雰囲気出ていました。

 

そこに、敵に追われながら、(渡海屋では芝居を打っていて、実は平家方だった)相模五郎と入江丹蔵が相次いで注進に駆け付けます。相模五郎の荒事の趣きが心地よく、入江丹蔵の最後、敵とともに腹を刺して散っていくシーンも見事。

 

義経一行は銀平が知盛であることを見破り、計略を察知して迎え打ち、知盛は敗北を喫したのでした。それを聞いて、もはやこれまでと覚悟を決める典待の局たち。安徳帝の見事な辞世の句に、女房たちが一斉に泣くシーンが感動的!

 

女房たちが一人ずつ身を投げるシーンは、どこかプーランク/カルメル会修道女の対話を思わせます。最後、安徳帝を抱き抱えて典待の局が入水しようとした時、義経の家臣たちに留められました。

 

 

場面は変わって、知盛の最後の場面。戦いに敗れた知盛は血まみれの白装束にて、薙刀を振り回しながら、大立ち回りをします。しかし、多勢に無勢で力尽きようとするところ、義経が安徳帝を連れて登場し、安徳帝の守護を約束します。これを聞き入れない知盛。

 

(なお、私が歌舞伎をよく観ていた時期は、義経役と言えば中村梅玉さんと相場が決まっていましたが、中村時蔵さんの義経も柔らかく悲哀を感じさせる義経でとても良かったです。)

 

弁慶にいらたかの数珠を掛けられ、出家を促されますが、それを引きちぎり「生き返り、死に返り、恨み晴らさず、おくべきか!」のセリフ!源平の戦いの根の深さを思わせますが、片岡仁左衛門さんの静かな迫力に大いに魅せられます!

 

安徳帝から「義経が情け」の言葉を掛けられ、遂に観念する知盛。頭を下げ、敬意を持って弁慶と義経に道を通して、安徳帝を託すシーンが感動的。

 

そして、歌舞伎の中でも有数の絵になるシーンを迎えます。知盛は大錨を担いで綱を巻き、碇ごと海へ身を投げるのでした。豪快なシーンですが、片岡仁左衛門さんが演じると、とても神々しいシーンに感じました!

 

知盛の最後を見届けて、義経一行はその場を去って行きます。最後、一人残った弁慶は法螺貝を吹いて供養。そして物思う市川左團次さん(御年81歳、お元気そうで何より!)の弁慶の、余韻を残した引っ込みも素晴らしい!

 

 

 

また凄い舞台を観た!!!片岡仁左衛門さんの一世一代の最高の舞台!力で押す訳ではないのに、どうしてこうも物語や知盛の心境が心に入ってくるのか?これこそ、円熟の巧みの技ですね。素晴らしい舞台に感無量でした!!!

 

 

 

ということで、本当に久しぶりの歌舞伎の舞台を大いに堪能しました!文楽、能・狂言と久しぶりに観てきて、いよいよ歌舞伎もまた観に行きました。これからも楽しみな舞台があるようなので、本ブログでは、今後、歌舞伎の記事も展開して行ければと思います!