いよいよ年末ですが、みなさま、今年2021年はロシアの文豪フョードル・ドストエフスキーの生誕200周年であること、ご存知でしょうか?

 

実は私も先月、日経新聞を読んだ時に初めて知りました、笑。1821年生まれ。11月11日が誕生日だったので、世界各地で記念行事も開催されたようですね。ドストエフスキーは若い頃に時間をかけて読んだ思い出の作家。生誕200周年ということで、少々記事に残そうと思います。

 

 

 

とか言っておきながら、実は学生時代、文学や国語はからきし駄目でした…。理系なので、大学時代は授業に加えて実験や演習、輪講に明け暮れたのと、高校時代に国語が致命的にできなかったこともあり(テストで偏差値30代とか…泣)、文学は自分には縁のない、遠い世界のように思っていました。

 

 

 

そんな私が文学作品を読み始めたのは社会人になってからです。そのきっかけはオペラ。新国立劇場の「ばらの騎士」と「ファルスタッフ」の名演出でもお馴染みの演出家ジョナサン・ミラーさんが、オペラに向き不向きの文学作品について語る中で、「例えばトルストイのアンナ・カレーニナのような完璧な小説は、オペラの題材には向かない」、そんな話をされていたのが目に止まりました。

 

 

完璧な小説!?

いったいどんなものなんだろう?

 

 

とても好奇心を引かれて、さっそく「アンナ・カレーニナ」を読んでみました。上・中・下巻からなる長い小説ですが、物語にしろ、状況や心境の描写にしろ、ぐんぐん心に入ってきて素晴らしい!そして、そのままトルストイにはまって、「戦争と平和」「復活」「光あるうち光の中を歩め」「クロイツェル・ソナタ」など、新潮文庫に出ている7作品12冊全て読みました。

 

 

 

トルストイを読破して、次に興味を引かれたのが、本屋さんの新潮文庫のコーナーで、トルストイ同様にずらっと並んでいたドストエフスキーだったんです!同じロシアの作家であり、著名人が自分の好きな本として、よく挙げられていたことにも興味を持ちました。特に「カラマーゾフの兄弟」を挙げる方が多いですね。よし!次はドストエフスキーを読んでみよう!

 

トルストイに比べると、ドストエフスキーはいささか読みにくかったですが、何とか食らい付いて1つ1つの作品を読み進めました。仕事も忙しかった20代後半から30代前半にかけて、仕事終わりに地元のスタバに立ち寄って、ゆっくりドストエフスキーを読む時間。あるいは、夜眠る前に、枕元で1時間くらいドストエフスキーを読む時間は、とても心落ち着ける、ホッとできる時間。大好きでした。

 

 

(写真)私の部屋の本棚を占めるドストエフスキーの小説。当時手に入れることのできた、新潮文庫の11作品17冊です。

 

 

 

作品では、特に「白痴」に惹かれました。心の清らかなムイシュキン公爵に共感し、奔放な美貌の女性ナスターシャとの恋にはドキドキして(夜会の場面!)、可哀想なマリーの物語に涙しました…。「白痴」では、ハンス・ホルバインの「墓の中の死せるキリスト」という象徴的な絵のことが出てきます。スイスのバーゼル市立美術館で実際にこの絵を観た時は、とても感慨深いものがありました。

 

(バーゼル、奇しくも、前回記事の通り最高のピアノを聴いた、クリスチャン・ツィメルマンさんがお住まいのまちですね。)

 

 

有名な「カラマーゾフの兄弟」も、とても読み応えがありました。父親と性格の異なる3兄弟の織りなす長大なドラマ。三男のピュアな心のアリョーシャに惹かれましたが、前半で描かれる修道院のゾシマ長老の話、後半の長男ドミートリイと恋人グルーシェニカのいきさつ、雪の中をトロイカで疾走して、破滅的なパーティを開くシーンなど、多くのシーンに魅了されました。

 

 

逆に「罪と罰」は一度読むのを挫折しました。主人公のラスコリーニコフが、理念だけで人を殺してしまう冒頭に衝撃を受け、読み進めるのが厳しくなったからです…。しかし、再度トライして、娼婦ソーニャとの交流でラスコリーニコフが人間性を取り戻していく展開には、救いを感じました。

 

 

「悪霊」はとても難解な作品で、さらに前半にステパン氏が、ことあるごとにフランス語で会話し、それが長~いカタカナで記されていてとても読みにくく、かなり難儀しました…。スタヴローギンやキリーロフの人格描写も十分把握できているとは言いがたい。もう一度、しっかり読み返したい作品の筆頭です。

 

 

「賭博者」と「死の家の記録」はオペラの原作でもあり、初めから親しんで読めました。その上で、2003年に東響がヤナーチェク/死者の家から、をサントリーホールで上演した時は、舞台中央に天使役を象徴的に配した演出がとても印象に残りました。

 

2010年にロンドンのロイヤル・オペラでプロコフィエフ/賭博師を観た時は、遺産を当てにされていた病気のはずのおばあさまが、カジノに悠然と現れて、豪快に負けてスッテンテンになるシーンに大いに魅了されました、笑。

 

 

(写真)ドストエフスキーが実際に行ったドイツの温泉保養地バーデン・バーデンのカジノ。美しいクーアハウスの中にあります。

 

 

 

その他、「貧しき人々」「虐げられた人々」「永遠の夫」などにも惹かれました。どの作品も本当に味わい深いものがあり、ドストエフスキーがどうして世界中で読まれるのか?よく分かるような気がします。

 

 

 

苦労しながらドストエフスキーを読んで良かったこと。それはロシアへの理解が進んだことです。特にロシアの庶民や生活、ロシア人気質の描写がこれでもかと出てくるので、ムソルグスキー/ボリス・ゴドゥノフを始め、ロシアのオペラの理解の助けになりました。

 

ロシア料理やウォッカも沢山出てきます。私は友人や後輩たちとの食事会をロシア料理のレストランで行う機会も多いですが、ドストエフスキーやトルストイから得たものは大きいです。その場での話題にも事欠きません。

 

 

ただ、それぞれの作品をまだ一度しか読んでいないので、必ずしもよく理解できている訳ではありません。いつか仕事を卒業して、ゆっくりできる時が来たら(まだまだ沢山働かないとですが…)、ぜひ読み返したいと思っています。

 

 

 

ということで、今回は20代後半から30代前半にかけて、よく読んで思い出に残っているドストエフスキーの話でした。理系の私が畑違いのドフトエフスキーの世界を垣間見ることができたのは、文学の世界へとつないでくれたオペラ、そしてお酒を飲みに行くたびにドストエフスキーの話で盛り上がった、文学に明るい大親友によるところが大きいです。改めて感謝感謝です。

 

 

 

最後に、特に仕事を頑張る20代や30代の若い後輩たちへ伝えたいことがあります。ロシアに限らず、海外の文学を読むと世界がとても広がります。ぜひ読んでみることをお勧めします。

 

きっかけは何でもいいんです。ブラームスの音楽が好きだったら、フランソワーズ・サガン「ブラームスはお好き」を読むも良し。スペインの闘牛の熱狂を体感したかったら、アーネスト・ヘミングウェイ「日はまた昇る」を読むも良し。カクテルのギムレットが好きだったら、レイモンド・チャンドラー「長いお別れ」を読むも良し。

 

仕事は忙しいと思いますが、少しずつでもぜひ読んでみてください。仕事もプライベートも頑張りましょう!そして、より充実した人生を送られることを祈っています!

 

 

 

 

 

(12/20追伸)今晩はサントリーホールで、大野和士/都響のコンサートを聴いてきました。力強くニュアンスたっぷりの阪田和樹さんのピアノによる素晴らしいラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番!そして、大野和士さんのテンポと強弱のメリハリの聴いた指揮、痺れるほど上手い都響のショスタコーヴィチ/交響曲第5番を堪能しました!芳醇な都響サウンドをサントリーホールで味わう至福!

 

まだいくつか楽しみな公演もありますが、かなり良い一年の締めとなりました。素晴らしかったので、終演後は月曜にも関わらず、ついついバーに寄ってウォッカベースのバラライカを、笑。ロシアの作曲家のコンサート→ロシアのカクテルと、本記事ドストエフスキーからの流れも、とてもいい感じでした。