東京都美術館で開催されているゴッホ展を観に行きました。日時指定予約制でしたが、なかなかタイミングが合わず…、東京開催の最終日12月12日(日)の少し前に、何とかギリギリ滑り込んで観ることができました。

 

 

 

本ゴッホ展はオランダのクレラー=ミュラー美術館のコレクションが基本の展示となります。鉄鋼業と海運業で財をなした商人の妻ヘレーネ・クレラー=ミュラー(1869-1939)が、まだゴッホの評価が途上であった20世紀初頭に、精力的に収集したゴッホの作品が中心です。

 

ゴッホの初期の作品から、後期の作品まで充実の展示、非常に見応えがありました!以下、特に印象に残った作品をご紹介します。

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/麦わら帽子のある静物

※ゴッホ展で購入した絵葉書より

 

ゴッホの初期の静物を描いた作品です。ゴッホと言えば、明るい色彩の大胆な筆致の絵が有名ですが、これは落ち着いた色で静物を正確に描いています。この絵の他に、デッサンの作品も多数展示されていましたが、ゴッホが絵画の基礎となる技術をいかにしっかり磨いていたのか、よく分りました。

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/レモンの籠と瓶

 

ゴッホらしい黄色で描かれたレモンの静物画です。解説には、天国を思わせる、とありましたが、調和と温かさを感じる、本当に素敵な絵です。図録には比較として、白、青、黄色、オレンジの大胆な色の組み合わせからなる「コーヒーポットのある静物」という絵が載っていましたが、こちらのレモンの絵は黄色のテーブルに黄色と茶のレモン、オレンジと緑の瓶を控えめに配して、落ち着いた居心地さを醸しだしているように思いました。

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/種まく人

 

ミレーなどバルビゾン派の画家たちを尊敬していたゴッホの描いた、ミレーへのオマージュと言える作品です。ゴッホは「無限の象徴としての種まく人や麦束は憧れの対象なのだ」と知人への手紙に残しています。プロヴァンス地方の燦々と輝く大きな太陽、その太陽の黄色と、土の青や紫色の対比がとても印象的です。

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/緑のブドウ園

 

ぶどう園でのぶどうの収穫のシーンを描いた絵です。手前にはみ出さんばかりに活き活きとしたぶどうの樹と白地の砂。平坦な地平と見事な青空のコントラスト。収穫にいそしむ人々と、それを眺める日傘のご婦人たち。フランスの大地の恵みを大いに感じる作品です。なお、ゴッホはこの絵を、何とほぼ1日で描き上げたそう!驚きですね!

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/サント=マリー=ド=ラ=メールの海景

 

この絵は観た瞬間に、印象的な海の色彩が目に強く飛び込んできてハッとしました!地中海のそばのまち、サント=マリー=ド=ラ=メールでの海の風景の絵です。私も以前、ニースやカンヌ、モナコを旅した時に、きらめく地中海の美しさに驚きましたが、この絵によく表われていると思いました。

 

左下に赤でゴッホのサインが入っていますが、海の緑色との対比をなします。ドラクロワから学んだ色彩理論の中で、ゴッホが特に好んだものだったそうです。この絵を観ると、ドビュッシー/交響詩「海」の第2楽章「波の戯れ」を連想しますね。

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/悲しむ老人「永遠の門にて」

 

若い頃にゴッホの好んだ主題、悲しみに暮れる人々。その主題を後年に描き直した絵です。本展では似たようなデッサンの作品もあり、経緯がよく分りました。ヘレーネ・クレラー=ミュラーはこの作品を、悲しみから慰めに昇華している、と高く評価したそうですが、何と、夫アントンは結婚25周年の記念に、妻ヘレーネにこの絵をプレゼントしたそうです!めっちゃ素敵な話!ブラヴォー、アントン!

 

 

 

(写真)フィンセント・ファン・ゴッホ/夜のプロヴァンスの田舎道

 

ゴッホがプロヴァンスで最後に描いた有名な糸杉の作品です。私は以前にMoMA(ニューヨーク近代美術館)で観た、ゴッホ/星月夜という作品が大好きですが、その絵にもプロヴァンスの糸杉が描かれており、とても親近感が湧きます。

 

図録には大橋菜都子さんによる「ファン・ゴッホの糸杉と星空-《夜のプロヴァンスの田舎道》をめぐって」という素晴らしい解説がありました。ゴッホは糸杉を「プロヴァンスの風景にとても特徴的なもの」と考えるとともに、糸杉をエジプトのオベリスクに喩え、その線と比例の美を称賛したそうです。ゴッホの描く糸杉は、樹木を超越した存在、という印象を持ちますが、解説を読んでとても納得でした。

 

 

 

ゴッホ展、ゴッホの初期の作品や、生い立ちに沿って多くの作品を俯瞰して観ることのできる、素晴らしい美術展でした!今後、12月23日~翌2月13日は福岡市美術館で、来年2月23日~4月10日は名古屋市美術館で開催されるので、お近くでご興味のある方は、ぜひご覧になられてみることをお勧めします!

 

 

 

 

 

(追伸)そして、ゴッホ展を観に行く1週間前のことですが、シャトー・デュクリュ・ボーカイユ2001を楽しんで来ました。ボルドーはサン・ジュリアンの美しいシャトー。杉の香り(正確にはヒマラヤスギなので、ゴッホの糸杉とは異なるもよう)がするワインで、ラベルがゴッホの愛した、そしてオランダのオレンジなので、このタイミングで開けるのも一興かな?と思って。

 

柔らかくエレガントな香り、バランスが良く構築感も感じる味わい。20年目の今飲んでちょうど良い、とても素晴らしいワインでした。