ということで、先週末の土曜日は、ハイドンを聴きに静岡に行って来ましたが、コンサートの前には、静岡市美術館で開催中のグランマ・モーゼス展を観に行きました。

 

 

これが大ヒット!!!絵の素晴らしさといい、グランマ・モーゼスの生活や人生に対する考え方といい、非常に感動的な美術展となりました!!!

 

 

グランマ・モーゼスの愛称で親しまれているアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)は、アメリカ北東部の農村で生まれ育ちました。70代で本格的に絵筆を取り、80歳の時にニューヨークで初めて個展を開いて国民的画家となり、101歳で亡くなる年まで、農家としての暮らしを続けながら絵を描いた女性です。

 

今回は130点が集まる16年ぶりの回顧展です。お恥ずかしながら、これまでグランマ・モーゼスのことを知りませんでしたが、観る作品観る作品、大いに魅了されました!特に印象に残った作品を以下にご紹介します。

 

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/シュガリング・オフ

※グランマ・モーゼス展で購入した絵葉書より

 

まずは冬の農村の絵。グランマ・モーゼスの絵は農村を舞台に、沢山の人が登場するカラフルな絵が多いです。ブリューゲルの絵を連想させますね。村のみんなで力を合わせて、メープル(サトウカエデ)の木から樹液を取り、煮詰めてシロップや砂糖を作っている様子を描いています。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/アップル・バター作り

 

この絵も同様に、村のみんなでリンゴからアップル・バターを作っている風景です。リンゴを収穫し、皮をむいて刻み、大鍋に入れてひっきりなしに攪拌し、どろりとしたバター状になるまで煮詰めていくそうです。

 

グランマ・モーゼスの描く火は、あまりリアルではなく、まるで花のような、どこか可愛らしい火なのが印象的でした。なお、アップル・バターというものを食べたことがなかったので、グッズ売り場で購入しました。とても美味しかったです!

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/ハロウィーン

 

ハロウィーンが近い、ということでこの作品を。日本ではあたかも単なる「仮装パーティ」のように思われていますが、古代ケルトの収穫祭に起源をもち、豊作を祈って悪霊や魔女を追い払うために、仮装したり仮面を付ける行事です。かぼちゃのお化けの表情がみんな可愛い件!笑

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/サンタクロースを待ちながら

 

ハロウィーンの次はクリスマス。クリスマスの夜の、子供たちの表情が何とも愛らしい作品です。子供たちがサンタから沢山プレゼントをもらえるように、靴下を多く吊るしているのが可愛い!グランマ・モーゼス自身、5人の子供を育てました。

 

私はキリスト教徒ではないですが、近年、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)のコンサートを通じて、クリスマスや復活祭など、キリスト教の大切な行事を体感する機会を得ています。グランマ・モーゼスの絵では、その光景や人々の思いがあざやかに視覚化されていて、大いなる感動を覚えました。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/キルティング・ビー

 

キルティング・ビーとは、布の端切れを縫い合わせて、ともにキルト作りを行う集まりで、その際、美味しい食事が供されるそうです。テーブルクロスとお皿やナイフ・フォーク、イスの位置関係が、3次元では不思議な感じに描かれていますが、それが何とも言えない手作りの味わいを醸し出していていいんです。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/気球

 

村のみんなが気球を見上げている光景の絵です。私、この絵が本当に好き。この絵の気球の描かれ方は、筆致にしろ遠近法にしろ、お世辞にもあまり上手いとは思えませんが、「偉大なるアマチュアリズム」とも言えそうな、何とも言えない味わいがあります。

 

私はこの絵を観て、アマチュアのピアノ愛好家の演奏のことを思い浮かべました。スキルや完成度こそプロのピアニストには敵いませんが、それを超えたところに、創作活動そのものが訴えかける力や感動がある。その演奏者ならではの味わいがある。大切なことを気付かせてくれる絵です。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/雷雨

 

これは農作業の途中で雷雨に遭った光景の絵ですが、フランツ、この絵を観た瞬間に、とある曲を思い浮かべました。そうです。ベートーベン/交響曲第6番ヘ長調「田園」の第4楽章の嵐の音楽です。どことなく、みんなそんなには慌てていないような雰囲気が?笑

 

きっと、普段から自然と共生している賜物なのでしょう。雷雨が去った後の、ベートーベンの第5楽章「嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」に想いを馳せ、感動を覚えました!

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/家族のピクニック

 

農村の夏、人々が労働へのご褒美として楽しむレクリエーションはピクニックでした。一方、この絵の描かれた1950年代には、生活の進歩につれて、このような単純な楽しみに価値を見出す人は少なくなっていたそうです。

 

「人々はそれぞれのやり方で、人生をもっと楽しんでいたと思います。少なくとも、人々はもっと幸福そうに見えました。」

 

現代はさらに便利で快適なネット社会ですが、ブログやツイッターを見ていると、恵まれているにも関わらず、不満だらけの人たちがどれだけ多いことか…。(特に、ブログでオーケストラの演奏にケチつけたり、隣の観客をディスってばかりいるクラオタって、人生を楽しめない天才としか思えない) グランマ・モーゼスの言葉が刺さりますね。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/5月:せっけんを作り、羊を洗う

 

絵の右側では、溜めておいた古油を大鍋でぐつぐつ煮て、せっけんを作っています。左側では羊を洗い、刈り取った毛は様々な服に編み上げられます。何ひとつ無駄にせず、それぞれの持ち場で役割を果たし、自給自足に貢献し、日々の安寧が保たれる。そんな様子が絵から伝わってきます。

 

この絵のあったコーナーには、グランマ・モーゼスの仕事に関する言葉が紹介されていました。

 

「どんな仕事でも、幸せを増やしてくれるものです。」

「終始忙しくしていて、仕事にしっかり気持ちを入れていたら、自分の心配事について考える暇はありません。」

 

フランツ、もし仕事をしなくても良いなら、一日中ピアノを弾いて過ごして、どんなに嬉しいことか!と思う一方で、これまで仕事を通じて世界を広げ、人生を豊かにしてきた自負もあります。グランマ・モーゼスの言葉に大いに共感したしだいです。

 

 

(写真)グランマ・モーゼス/海辺のコテージ

 

グランマ・モーゼスは本格的に絵を描き始める以前は、上のような刺繍絵を数多く制作していました。そして、リウマチの悪化により刺繍を続けることが困難になり、妹の勧めで絵画へ移行していったそうです。

 

この話も、とても印象に残ります。私は人生後半戦に入っていますが、おかげさまで腰痛も肩こりもなく、毎日のように泳いだり走ったりして絶好調です。しかし、いつかは衰えや老いを感じたり、病気になったりする時が来るでしょう。その時に、このグランマ・モーゼスの、病気を受け入れるだけでなく、それをバネにまでしてしまった話を思い出すのが良いでしょう。

 

 

 

そして、絵葉書がなかったので、写真は載せませんが、本展の最後を飾る「虹」という絵がまた素晴らしかったです!グランマ・モーゼス、何と100歳の時の作品!農村に虹がかかる、とても夢のある絵。同じく農村のファンタジーを描いたシャガールを思わせる、とっても素敵な絵でした。

 

 

 

グランマ・モーゼス展、ほっこり温かい絵の数々を堪能できただけでなく、「素敵な100年人生」のサブタイトルが表わすように、人生を歩んでいくに当たり大切なことを教えてくれた、とても貴重な美術展でした!

 

 

 

 

 

(追伸)そして、購入した図録に情報があったので追伸ですが、東京近郊にお住まいのみなさまに嬉しいお知らせが!グランマ・モーゼス展、来月11月20日(土)から、東京の世田谷美術館で開催されます!

 

ご興味のある方は、ぜひ観に行かれてみてください!全力でお勧めします!私も図録をしっかり読んだ上で、また東京でも観に行こうと思います!

 

(参考)世田谷美術館のグランマ・モーゼス展の案内(2021.11.20-2022.2.27)

https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00207