ドイツのピアノの正統派の巨匠、ゲルハルト・オピッツさんの来日リサイタルを聴きに行きました。特にベートーベンとリストのピアノ・ソナタが楽しみです!

 

 

ゲルハルト・オピッツ ピアノ・リサイタル

(フィリアホール)

 

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」

シューマン/幻想曲ハ長調

リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調

 

 

(写真)ゲルハルト・オピッツさん(リサイタルのプログラムより)。温かい笑顔が本当に素敵です。

 

 

 

今年はベートーベン生誕250周年。本ブログで沢山コンサートの記事を書いてきたように、おかげさまでベートーベンの交響曲の演奏をたっぶり楽しむことができました。このコロナ禍にも関わらず、本当にありがたい限り。演奏者の方々に改めてお礼申し上げます。

 

その一方、ピアノ曲は、自分では夏場までに様々なピアノ・ソナタをせっせと弾いたものの、リサイタルは実は全く聴きに行けていなくて、何と今回が12月にして今年初めてです!(笑) 大いに楽しみです。

 

 

 

まずはベートーベン。ワルトシュタイン・ソナタは夏場に第1楽章を練習して、何とか仕上げることができました。今でも繰り返し弾いている大好きな曲です。

 

第1楽章。冒頭からの第1主題は軽快で、まるでいたずら小僧のような雰囲気。第2主題は私はたっぷり弾きますが、オピッツさんは意外にあっさり。そして、この曲で一番難しいと思われる展開部のアルペジオの連続もそんなに盛り上げず、どこか飄々とした雰囲気です。

 

再び第1主題に戻った後の2回目の第2主題もあっさり。ええ~!?ここは途中でハ長調に転調する神聖な気分が素晴らしく、何か味を付けて弾いた方が雰囲気が出るのでは…? ということで、全般的に飄々とした第1楽章でした。

 

第2楽章はやや重々しくもったいぶった演奏。そして第3楽章は途中の短調の激しい場面など、それなりに盛り上がりますが、全般的にそんなには力こぶを作らない、軽やかで平明な演奏でした。愛聴盤のヴィルヘルム・バックハウスのドラマティックなピアノとは対極です。これはオピッツさんが辿り着いた境地なのでしょうか?

 

 

 

続いてシューマン。シューマンはピアノ協奏曲や交響曲(特に4番)は大好きですが、ピアノ曲にはあまりピンと来ません?この曲もロマン的で夢想的だけど、どこかとりとめがないような気がして、あまり良さが分かりませんでした(泣)。しかし、オピッツさんの演奏は堂に入ったもので、ベートーベンよりもたっぷりで、ロマンに溢れるピアノ。とても魅せられました。

 

 

 

後半はリスト。ロ短調ソナタはあらゆるピアノ曲の中でも特に好きな曲で、昨年はアレッサンドラ・フェリさんの感動的なバレエも観ました。リサイタルで聴くのは久しぶりです。

 

(参考)2019.7.31 バレエ/マルグリットとアルマン(フェリ、ボッレ&フレンズ)

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12501127978.html

 

 

冒頭の単音はオピッツさん、鍵盤に触れては驚くような仕草。禁断の扉を開けるかのように、恐る恐る音を出して入ります。その後のリストによる激しい短調の展開では、オピッツさんは必ずしもピアノを鳴らし切れていなくて、ミスタッチも目立って、少々ヒヤヒヤしました(注:あらゆるピアノ曲の中で難曲中の難曲です)。何か、もがき苦しむような雰囲気を強く感じます。

 

やがて訪れる、あざやかに長調に切り替わるグランディオーゾの主題。オピッツさん、ここは想いをたっぷり込めて、溜めに溜めて入ります!あっさりだったワルトシュタイン・ソナタと何と言う違い!そしてグランディオーゾの主題は超感動的な音楽!

 

それに続くスローな第2主題は、何といじらしくて、愛情を感じることか!軽やかに舞い上がる場面は、先ほどの何となくたどたどしさを感じた指遣いとは大違いで、まるで指に羽根が生えたように鍵盤を駆け巡ります。

 

途中の苦難の後に最も盛り上がる神聖な音楽の場面も、これでもか!と、たっぷり。ロ短調ソナタの醍醐味を見事に伝えます!終盤の加速する、めくるめく音楽は、正確さよりも勢いの良いピアノ。何かが大きく変わるドラマを感じます。

 

ラストの高音の長調で解決する場面は、救済を大いに印象付けられました。最後の音が終わった後の長い静寂が本当に心地良い。極めて象徴的なロ短調ソナタ!素晴らしい演奏でした!

 

 

 

いや~、オピッツさんのロ短調ソナタ、非常に感動的でした!私はこの曲はもう完全無欠と言っていい、マウリツィオ・ポリーニさんのCDで曲が入っているので、それに比べてしまうと、今日のオピッツさんのピアノは正直、指が回り切っていなかったり、ミスタッチも散見されましたが(繰り返しですが、難曲中の難曲)、それが却って曲想を高めて心を打ちました。正確無比な演奏だけが感動を呼ぶ訳ではありません。

 

 

 

そして、私が特に何にググッと来たかと言うと、今日のプログラム構成とオピッツさんの表現の妙。ベートーベンの平明さ、シューマンのロマン、そしてリストの愛情への憧れ。これは古典派→ロマン派→後期ロマン派という流れだけでなく、少年→青年→老人と、一人の男性の生き様を表しているように聞こえました。

 

2017年にバイロイト音楽祭で観たワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガーでは、①ダーフィット②ヴァルター③ザックスの3者を、①若いワーグナー②壮年のワーグナー③老ワーグナーに読み替えた傑出した演出でしたが、今日はオピッツさん一人で、少年・青年・老人の心境を弾き分けていた、描き分けていたかのような印象です。

 

ベートーベンはそのコンセプトに沿って、敢えてシンプルにした印象。そして、見事な白髪を湛えたオピッツさんが、最後のリストをたっぷりと弾く姿は真に感動的でした!

 

 

大好きなロ短調ソナタ、ということで、その他にもいろいろな感想を持ちましたが、話始めると1時間はゆうに語るので(笑)、時間も時間なので、今日はこの辺りでおしまいにします。

 

 

 

アンコールはリスト/愛の夢第3番。これが旋律線を素直に出した飾らない愛の夢!何か澄み切った境地を表わしたような、見事な愛の夢でした!

 

弾き終えた後のオピッツさんの笑顔が本当に素敵。フランツもいずれ白髪になっても、こんな素敵なリストを弾けるように頑張りまする。ゲルハルト・オピッツさんのピアノ・リサイタル、非常に印象深い一夜でした!