シプリアン・カツァリスさんと広瀬悦子さんのピアノデュオリサイタルを聴きに行きました。ベートーベンの合唱幻想曲、そして何と!第九のピアノデュオです!

 

 

シプリアン・カツァリス&広瀬悦子 ピアノデュオリサイタル

(浜離宮朝日ホール)

 

ベートーベン/合唱幻想曲ハ短調(ハンス・フォン・ビューロー編曲)

ベートーベン/交響曲第9番ニ短調(フランツ・リスト編曲)

 

 

 

シプリアン・カツァリスさんと言えば、ご自身のソロのピアノでベートーベンの交響曲全集のCDを出されていることでも知られています。今日は広瀬悦子さんとのデュオピアノで第九が聴ける!非常に楽しみなリサイタルです。

 

 

 

前半は合唱幻想曲。ハンス・フォン・ビューローによる2台ピアノ編曲版です。私がこの曲を聴くのは、2008年にポルトガルのリスボンで聴いて以来(あの運命と田園の初演、ピアノ協奏曲第4番も詰め込んだ長いプログラムで大失敗に終わった1808年のコンサートを、200周年で再現した貴重なコンサート)。本当に久しぶりですが、ピアノ版は果たしてどうでしょうか?

 

冒頭の劇的なピアノからベートーベンの音楽に惹き込まれます!旋律が正にベートーベン、まるでピアノ・ソナタを聴いているように響きますが、たまにリストっぽいところも。激情を見せる場面、軽やかに展開する場面など、ベートーベンの魅力を大いに感じます。後半は圧倒的な正義を思わせる音楽。素晴らしい演奏でした!

 

 

 

後半はいよいよ交響曲第9番。フランツ・リストによる2台ピアノ版です。私は第九を年末に聴きに行く習慣はなく、ここぞという時しか聴きませんが、今日がそのここぞ!というリサイタルです。

 

 

第1楽章。冒頭の切れ切れの旋律から、劇的な主題が登場するシーンをピアノが見事に伝えます。大オーケストラの表現を2台でしっかり伝えていて、ピアノって本当に凄い!

 

第1楽章の短調の曲想は、ピアノの音色によく合っていて馴染みます。そして、時おり垣間見える長調が、何と温かく感じることか!この辺りのメリハリはオケよりももっとハッキリ体感できます。

 

途中、冒頭の主題が回帰して、深淵を見せる場面。ここぞとばかりに盛り上がるピアノ!オクターブのフォルテのトレモロを、音程を上下にバンバン変えて盛り上がるリストの編曲にも痺れます!

 

ラストの盛り上がりの前に、弦楽がだんだんクレシェンドしていく場面は、ペダルを踏みっぱなしにしてのトレモロ!音が重なって切迫感や不気味さがよく伝わってきます。雰囲気満点のピアノに痺れました!

 

 

第2楽章。ここはリズミカルなオケの演奏に比べると、2台のピアノを合わせて、やや慎重な演奏。私は第2楽章には星たちの運行を感じますが、何となく木星のような巨大な、あるいは太っちょ(笑)な星が悠々と宇宙空間を進んでいくよう。

 

途中のティンパニがタンタタン!と叩く印象的な場面もピアノはしっかり表現していて、さらにはフォルテのタンタタン!の後の弱音のタンタタン…もちゃんと入っていました。楽しい!(笑)

 

そして賑やかな中間部。ピアノで聴くとハッとしましたが、これ、ベートーベンのとあるピアノ・ソナタの長調の主題によく似ていますね?実はベートーベン生誕250周年の来年に弾こうと思っているピアノ・ソナタの候補の最右翼の曲です。オケで聴いても全く気付きませんでしたが、これも何かの偶然の出逢いですね。

 

 

第3楽章。聴く前に、この第3楽章のゆっくりな弦楽による音楽は、ピアノだと一体どうなるんだろう?と思っていました。というのも、ピアノは音が減衰するので、弦楽のようにずっと一定の音を出すことができないからです。(ペダルを踏んでも減衰するし、最初のアタックのインパクトが強いため)

 

ところがいざピアノで聴くと、オケとはやはり雰囲気が違いますが、これが、つましさや諦念を感じさせる素晴らしい曲想!ピアノ版の第3楽章って凄い!冒頭の一音目からもう涙涙…。また、曲の展開ではベートーベンの変奏の妙をたっぷり感じますが、ピアノで聴くとバッハをも思わせます。

 

途中の装飾音が沢山付く変奏は自由なニュアンスのピアノ。まるで、かつて幸せだった頃、恋人とじゃれ合っているシーンを懐かしく回想しているかのよう。ピアノで弾かれると、ほとんどジャズの音楽にすら感じます。

 

後半の決然とした盛り上がりはオクターブのユニゾンでハッキリしたピアノ!曲想を高めるリストの素晴らしい編曲に唸りっぱなしでした!

 

 

第4楽章。劇的な冒頭はやや抑えめ。チェロの独白は広瀬悦子さんのピアノ、第1楽章から第3楽章の回顧はカツァリスさんのピアノと、ハッキリ弾き分けていたのが印象的。

 

そしてチェロによる歓喜の歌の旋律は、引き続き広瀬悦子さんによるオクターブのユニゾン。シンプルなユニゾンなのに、どうしてこんなに心に迫ってくるのか?湧き上がる感動!もうこの辺りから涙でボロボロ…。

 

バリトンが“O Freunde, nicht diese Töne ~♪”と歌う旋律はやや高めの音程。まるでテノールの歌のように感じましたが、ここはその前のチェロとの対比なのでしょう。

 

続く合唱は、果たしてどんな風にピアノで表現するんだろう?と思っていましたが、高音で弾き急ぐようなピアノ!何か頼もしい友人たちが勢いよく駆け付けたかのようなニュアンス。合唱をものの見事にピアノで描写していました!

 

そしてソロの歌手の四重唱の部分は、原曲にはないトリルが旋律の上下でこだまします。これが四重唱の雰囲気を抜群に伝えていて(まるで歌手のヴィブラートでもあるよう!)、素晴らしい効果!リストって天才すぎる!

 

この辺り、あまりにも感動しすぎて、涙ボロボロでよく覚えていませんが、もうこれでもか!とオケによる第九の曲想や雰囲気を伝えるカツァリスさんと広瀬悦子さんの見事なピアノ、リストの素晴らし過ぎる編曲の妙、めくるめく展開に圧倒された時間でした!

 

最後はリスト編曲らしく豪快に盛り上がり、絢爛豪華なピアノ!素晴らしい2台のピアノ版の第九でした!

 

 

 

またもの凄い演奏を聴いた!!!ベートーベンもリストも凄すぎる!!!それを抜群に伝えるカツァリスさんと広瀬悦子さんのピアノも凄すぎる!!!

 

 

いや~、もうめちゃめちゃ凄いリサイタルでした!!!ベートーベンの第九の素晴らしさに改めて大いなる感動!リストの類い稀なる編曲に大いなる感動!沢山の楽器で構成されるオケの曲の魅力を存分に伝えるピアノという楽器に大いなる感動!圧倒的な感銘を受けたリサイタルでした!!!音楽って、本当に素晴らしい!!!

 

 

 

 

(写真)以前にも出しましたが、ウィーンのコンツェルトハウスの近くにあるベートーベン像。改めてベートーベンの音楽の素晴らしさに感動。来年ピアノでいろいろな曲を弾くのが、今から楽しみで楽しみでなりません!