11月になりました。11月と言えば、毎年ウィーン・フィルが来日してサントリーホールでコンサートを行う月。さらに今年2019年は日本オーストリア友好150周年なので、特別な展覧会がホテルオークラ別館で11月2日から開催されています。さっそく観に行きました。

 

 

日本のクラシック音楽の黎明期におけるウィーンからの援助、また、その時代にウィーンで活躍していた作曲家の展示が非常に充実していて、大変見応えのある展覧会でした!特に印象に残った点を以下にご案内します。(なお、美術展とは異なり図録や絵葉書はないので、1枚だけ過去の旅の写真から)

 

 

 

◯オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフⅠ世(リトグラフ)

◯オーストリア皇妃エリーザベト(リトグラフ)

◯明治天皇皇后御影(カラーリトグラフ)

 

まずは1869年にオーストリアと日本の間に国交が結ばれた時のこと。修好条約と通商条約を結ぶため、フランツ・ヨーゼフⅠ世は国使としてアントン・フォン・ベッツ男爵を開国直後の日本に送りました。1869年10月、その国使ベック男爵を日本で迎えたのは明治天皇です。

 

そしてオーストリアから皇后陛下に贈られた品のひとつがベーゼンドルファーのグランドピアノでした。天皇陛下はピアノに関心を示されて御前演奏の機会を設け、ベッツ男爵に同行した外交官の演奏で、ヨハン・シュトラウスⅡ世の『アンネン・ポルカ』等の楽曲が披露され、楽しまれた、ということでした。

 

 

私はフランツ・ヨーゼフⅠ世や明治天皇皇后両陛下の素晴らしい絵も含めた上記の解説を見て、大いなる感動を覚えました!音楽の都ウィーンを抱くオーストリアが日本にベーゼンドルファーを贈ったこと、そしてそれを明治天皇陛下が粋に感じられて聴いてみたいと思われたこと、そして、ベッツ男爵同行の外交官がピアノを弾いたこと。日本とオーストリアの友好が始まったこの1869年に、両国でこのような交流があったのは、本当に素敵なことだと思います。

 

 

 

なお、会場には世界に25台しかない、ベーゼンドルファーのクリムトモデルのピアノも展示されていました!実はこのクリムトモデルのベーゼンドルファー、以前に一度弾いたことがあります。そしてこのピアノにピッタリと合う曲も特定しています。いつかまた弾いてみたいと思っているところです。

 

 

 

◯ルドルフ・ディットリヒ/『日本楽譜 六つの日本民謡』

◯ルドルフ・ディットリヒ/『日本楽譜 第2集 十の日本民謡』

◯ルドルフ・ディットリヒ/『落梅 散りゆく梅の花 琴伴奏による日本歌曲』

 

ルドルフ・ディットリヒは、日本が西洋音楽を勉強しようとウィーンの楽友協会の音楽院の門を叩いたことがきっかけとなり、ウィーンから日本の東京音楽学校に遣わされました。「日本における西洋音楽の父」とも言われています。そのディットリヒによる日本民謡の楽譜集。表紙の色あざやかな日本の風俗の絵が素敵です。

 

 

◯幸田延/『ヴァイオリンとピアノのための二つのソナタ』

 

幸田延(幸田露伴の妹)は赴任したルドルフ・ディットリヒの勧めにより、初めて文部省の留学生として、ウィーン音楽院に留学しました。ウィーン音楽院ではあのヨーゼフ・メルメスベルガー(ウィーン・フィルのコンマス)にヴァイオリンを習って、成績も大変優秀だったそうです。その幸田延によるヴァイオリン・ソナタの楽譜。日本人における初めてのクラシック音楽の作品です!これがウィーンの楽友協会にコレクションされていることには大いなる感動を覚えます。

 

 

 

 

 

(ブラームスに関する展示)

 

 

◯1893年12月21日 ウィーンのベーゼンドルファー・ザールにおける歌曲の夕べ

 

最晩年のブラームスが愛した歌手のアリーチェ・バルビ。そのアリーチェ・バルビが結婚してウィーンを去ることになり、告別演奏会が開かれました。ピアノ伴奏者の名前が予告されていませんでしたが、登場したのはブラームス本人だった!その歌曲の夕べの絵です。

 

このほか、クラリネット五重奏曲の自筆スコアや、ブラームスが日本人の演奏する琴を聴いている絵(ハインリヒ・フォン・ボックレット編『日本の民族音楽』にブラームスの書き込みがあったことからの推測)や、そのブラームスの書き込みも展示されていました。

 

 

 

(ブルックナーに関する展示)

 

 

◯アントン・ブルックナー 交響曲第8番ハ短調(自筆スコア)

◯アントン・ブルックナー 交響曲第8番ハ短調(ブラームスの遺品に含まれていたフコア)

◯アントン・ブルックナー 交響曲第8番ハ短調(ブルックナー自身が所蔵したスコア)

 

今回の来日公演でウィーン・フィルが演奏する、ブルックナー/交響曲第8番ハ短調のスコアが3つ!自筆スコアは第3楽章で、第2稿へ改訂するための多くの修正が見られました。ブルックナーの交響曲のことを、「交響的大蛇」と評して手厳しかったブラームスが、スコアを所有しているのはとても興味深いことです。ブラームス、ツンデレ?(笑)

 

 

◯ブルックナーからミュンヘンの宮廷指揮者ヘルマン・レーヴェへの自筆書簡

 

ブルックナーがヘルマン・レーヴェに8番の指揮をしてもらいたいと願って、スコアを送った手紙です。あの、レーヴェにスコアを送ったものの、レーヴェは理解することができずに断って、ブルックナーがショックを受けて8番の改訂を始めた、その発端となった手紙です!もうクラクラしました!

 

 

◯オットー・ベーラー/音楽の天国に到着するブルックナー

◯オットー・ベーラー/オルガンを弾くブルックナー

◯オットー・ベーラー/ブルックナーに嗅ぎタバコの缶を差し出すリヒャルト・ワーグナー

 

オットー・ベーラーの影絵です。ブルックナーを題材とした影絵は、オットー・ベーラーのこの愛すべきキャラクターであるブルックナーへの愛情が感じられて、私も大好きな絵です。実物を観ることができ、本当に嬉しかったです。

 

 

 

(写真)オットー・ベーラー/音楽の天国に到着するブルックナー

※以前に旅したバイロイトのまちで展示されていたもの。左端のブルックナーを迎えるのはリストとワーグナー、オルガンはバッハです!

 

 

 

(ワーグナーに関する展示)

 

 

◯ウィーン宮廷歌劇場管弦楽団のコンサートマスター、ヨーゼフ・ヘルメスベルガー宛の自筆書簡

 

ワーグナーが前日聴いた『ローエングリン』の素晴らしい演奏を称賛する内容の手紙です。この手紙は1863年なので、ワーグナーが生涯で初めてローエングリンを聴いた1861年のウィーンの公演ではありません。(ワーグナーはドレスデン革命に荷担していたとして、ドイツを国外追放処分となっていたため、フランツ・リストによる1850年のワイマールでのローエングリン初演には立ち会えなかった。) しかし、ワーグナーにとって、ウィーンでのローエングリンはとても思い出深いもので、ウィーンもこのことを大切にしているのでしょう。

 

 

 

(マーラーに関する展示)

 

 

◯ウィーン楽友協会音楽院 グスタフ・マーラーの在籍簿

 

マーラーは1875年入学、1878年にピアノと作曲で一等賞ディプロマを取って修了しました。さすがはマーラー、極めて優秀だったんですね。なお、そばには、フーゴー・ヴォルフの在籍簿もありました。マーラーと同じ1875年入学ですが、1876年態度不良のため退学と…。しかし、ヴォルフも歌曲などで優れた作品を残しています。

 

 

◯グスタフ・マーラー 交響曲第2番ハ短調

 

第5楽章の自筆スコア、多くの修正があるのが分ります。自筆スコアを目にすると、久しぶりに聴きたくなりますね。来年1月のN響のコンサートが今からとても楽しみです。

 

 

◯グスタフ・マーラー 自筆の宮廷歌劇場専用封筒

 

何のことはない封筒ですが、これ、アンナ・フォン・ミルデンブルク宛てなんです!(笑)。マーラーと一時期恋仲にあった歌手アンナ・フォン・ミルデンブルク。しかも在バイロイト宛てとあり、消印は1900年1月21日。いろいろ謎かけのような展示に唸りました!

 

 

 

(R.シュトラウスに関する展示)

 

 

◯『ばらの騎士』作品59 リヒャルト・シュトラウス作曲 フーゴー・フォン・ホフマンスタール台本アルフレート・ロラーによる衣裳と装飾

 

代表作のオペラ『ばらの騎士』に関する作品です。第2幕の舞台のセットと、元帥夫人、オクタヴィアン、オックス男爵の3人の衣裳がありました。マーラーも信頼したアルフレート・ロラーによる極めて上品な舞台と衣裳。2021年のウィーン国立歌劇場のオットー・シェンク演出の来日公演も楽しみですね。

 

 

 

(ヨハン・シュトラウス・ファミリーに関する展示)

 

 

◯ヨーゼフ・シュトラウス ワルツ『ディナミーデン 秘めたる引力』

 

初版(ピアノ版)のスコアです。R.シュトラウス/ばらの騎士の、オックス男爵のワルツの原曲ですが、これをR.シュトラウス/ばらの騎士の展示とセットで展示するセンスが好き過ぎる!近くにはヴェルディによる自筆の書き込み、ファルスタッフの「世の中すべて冗談だ」もありました。

 

 

 

 

 

また、隣の部屋には、特別写真展「素顔のウィーン・フィル」の展示もありました。ウィーン・フィルのメンバーの楽屋でのひとコマの愛らしいショットが沢山あってホッコリしました。テューバをヴァイオリンに見立てて弾いていたり、金管のラッパの大きさ比べをしたり、大きなコントラバスに奏者2人が隠れたり、ホルンの音圧に眼鏡を飛ばしたり、ユーモアのある写真もあって、ウィーン・フィルのみなさんの明るい人柄が伺えます。

 

3人の奏者がヴァイオリンの弓を重ねるシーンもありましたが、これはワーグナー/神々の黄昏の第2幕ラストのブリュンヒルデ、ハーゲン、グンターの誓いのシーンを真似たのでは?(笑) 日系のヘーデンボルク兄弟の仲の良さそうな写真もありました。

 

 

 

いや~、音楽のある展覧会、素晴らしい内容で大いに魅了されました!ウィーン・フィルやウィーン、ウィーンで活躍した作曲家が好きな方は必見の素晴らしい展覧会です!ホテルオークラ別館で11月17日(日)まで開催。お楽しみに!