(夏の旅行記の続き) 楽しかったモーツァルト・マチネの後、食事もそこそこに、祝祭大劇場に大好きなヴェルディ/シモン・ボッカネグラを観に行きました。
Salzburger Festspiele 2019
Giuseppe Verdi
Simon Boccanegra
(Grosses Festspielhaus)
Musikalische Leitung: Valery Gergiev
Regie: Andreas Kriegenburg
Bühne: Harald B. Thor
Kostüme: Tanja Hofmann
Licht: Andreas Grüter
Video: Peter Venus
Dramaturgie: Julia Weinreich
Simon Boccanegra: Luca Salsi
Amelia Grimaldi: Marina Rebeka
Jacopo Fiesco: René Pape
Gabriele Adorno: Charles Castronovo
Paolo Albiani: André Heyboer
Pietro: Antonio Di Matteo
Hauptmann: Long Long
Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Choreinstudierung: Ernst Raffelsberger
Wiener Philharmoniker
(写真)開演前のザルツブルク祝祭大劇場
(写真)公演のポスター。シモンとアメーリア、父娘の別れを思わせるショットです。
私はヴェルディのオペラではドン・カルロとファルスタッフが最も好きですが、シモン・ボッカネグラはそれらに続くくらいに好きな作品。華々しくアリアが飛び交うイメージのオペラではありませんが、しみじみヴェルディの充実の音楽の素晴らしさを堪能できる傑作です。
日本ではなかなか上演がなく、ここ20年では確か2001年のフェニーチェ歌劇場の来日公演と、2014年のローマ歌劇場の来日公演のみ。新国立劇場での公演もまだありません。逆に海外に行った時になぜかよく当たり、シモン・ボッカネグラを観るのは、2006年のパリ・オペラ座、2009年のリセウ歌劇場(バルセロナ)に続き、これで3回目(上記来日公演含め5回目)となります。今日はどんな公演になるのか?、とても楽しみです。
プロローグ。パオロが携帯で話しながら歩き、聞かれていないかと後ろを振り向く演技。話す内容も「血」や「犯罪」という言葉が出てきて、後ろめたい内容です。その後ろに続く多くの人々にも同じ演技が付いていていました。悪役のパオロが汚い手段を使ってシモンを総督に担ぎ上げよう、というのが伝わるシーンです。
その後のパオロとピエトロのシーン、続くシモンとパオロのシーンには、背景のスクリーンに多くのスマホのショートメッセージが出てきます。総督の選挙でシモンを支持するように呼びかける内容ですが、中には「メイク・ジェノヴァ・グレート・アゲイン」というメッセージも(笑)。現代風な演出ですが、情報戦により、民意を操つろうとしていることが示されます。
その後のシモンとフィエスコは立派な歌。シモンはルカ・サルシさん、フィエスコはルネ・パーペさん。ザルツブルク音楽祭ならではの贅沢なキャスト、重低音がもうビンビン響いていました!
第1幕。冒頭のアメーリアのマリーナ・レベカさんの歌が素晴らしい!歌声といい凜として可憐な容姿といい、理想的なアメーリアです。(なお、マリーナ・レベカさんは先日のトリエステ歌劇場の来日公演のヴィオレッタも素晴らしかったそうで、さらに2020年のミラノ・スカラ座の来日公演でもヴィオレッタを歌います。絶対観に行きたい!) そしてガブリエーレのチャールズ・カストロノヴォさんがまた素晴らしい!情熱的なガブリエーレにドンピシャの配役。2人による二重唱は大いなる聴きものでした。
シモンとアメーリアのシーンは、落ち着いたやりとりから、アメーリアがシモンの娘と分かって”Figlia !””Padre !”と歌い合って高揚していく音楽が素晴らし過ぎる!シモンの温かい”Un Paradiso il tenero~♪”は思わず唱和したくなりますね。最後に美し過ぎるウィーン・フィルのハープが降臨する瞬間!ヴェルディって本当に凄い!もう涙涙…。
次の第2場、ジェノヴァの総督宮殿の場は大好きなシーン。民衆が暴動を起こしますが、やはりスマホを片手にして、ショートメッセージにより操られている存在、ということを強調していました。
暴動を治めるためにシモンが総督としての度量を見せる”Plebe ! Patrizi ! Popolo !”から始まる歌は、ルカ・サルシさんの迫力の歌!そしてラストの決めの”E vo gridando pace”のパーチェは、毅然としたパーチェというよりは、シモンの人柄の滲み出る絞り出すようなパーチェ!続くマリーナ・レベカさんの突き抜ける願いのパーチェも素晴らしい!合唱を交えてスケールの大きな盛り上がり!大いなる感動にまたもや涙涙…。
(参考)ヴェルディ/シモン・ボッカネグラから第1幕第2場のシモンの歌”Plebe Patrizi Popolo”。1:44からが私の大好きな、このオペラのハイライトとも言える”E vo gridando pace”です。
https://www.youtube.com/watch?v=KclFWk1FLqs (3分)
※リセウ歌劇場の公式動画より。レオ・ヌッチさんの威厳のあるシモンが素晴らしい!
その後の、汚い手を使ってアメーリアを誘拐したパオロに対する、シモンの呪いも迫力十分。パオロは「恐ろしい!」を連発。フェイクな情報を流しても、いずれ馬脚を現します。お天道さまは見ている、ということですね。
第2幕。ピエトロは無邪気に携帯のゲームで遊んでいますが、自分で自分を呪うことを強いられてしまったパオロは、もはや胃薬がないと持たない精神状況。
そのパオロから、アメーリアはシモンの慰みもの、と嘘を付かれて、ガブリエーレの歌う嘆きのアリアが抜群!チャールズ・カストロノヴォさん、聴衆の大喝采を浴びていました。その後のアメーリアとの葛藤の二重唱も魅せました。
パオロが毒を入れた水を飲んでしまい、気が遠くなるシモン。そこを襲いにかかったガブリエーレと止めに入ったアメーリア。アメーリアがシモンの娘であることを理解しての三重唱も素晴らしかったです!
第3幕。だんだん弱っていくシモンの海の歌に続いて、シモンとフィエスコの重低音の二重唱!ドン・カルロのフィリポ二世と宗教裁判長の二重唱と並ぶ素晴らしい聴きもの!シモン・ボッカネグラは素晴らしい低音の歌手2人がいないと成り立たないので、なかなか公演にかかりませんが、今日のルカ・サルシさんとルネ・パーペさんは抜群でした。
最後、フィエスコが「何て人生なんだ!」と歌った後、この舞台でずっと渋い表情だったルネ・パーペさんが、初めて笑顔を見せたのはとても印象的でした。
シモンはアメーリアとガブリエーレを祝福しますが、既に毒が回って目が見えず、2人の頭に手を当てられません…。そこに手を差し伸べたのは何と、その前まで敵対していたフィエスコ!
これは昨日(8月17日)に観たエネスコ/オイディプス王で、最後目が見えなくなったオイディプスをアンティゴネが助ける場面にシンクロします。昨日からの流れで非常に感動したシーンでした!
ラストのアメーリアの歌い出しからの4重唱と合唱も感動的!ラストはウィーン・フィルの低弦の厳かな響きが余韻を残して終わりました。
シモン・ボッカネグラ、感動的な公演でした!特に歌手の主役の4人が傑出!マリーナ・レベカさんは歌といい容姿といい、理想的なアメーリア!ルカ・サルシさんとルネ・パーペさんはさすがベテランの味!そして、チャールズ・カストロノヴォさんは初めて聴きましたが、甘い歌声、端正なマスク、情熱的なテノールで次世代のスター!今後、いろいろな役で聞くのが本当に楽しみです。
ウィーン・フィルの伴奏はもう万全。このオケで聴くオペラは本当に味わい深いものがあります。ワレリー・ゲルギエフさんの指揮は時々変化を付けてはいましたが、全体的にはオーソドックス。歌手を前面に出して、とても手慣れた指揮、という印象でした。
演出は「鬼才」の異名もあるアンドレアス・クリーゲンブルグさん。新国立劇場の素晴らしかったヴォツェック、そしてバイエルン国立歌劇場で観たワーグナー/ニーベルングの指環も舞台を沢山の人々で作り上げた抜群の演出でしたが、今日はやや大人しかった印象(笑)。スマホを使って現代的な演出、パオロとピエトロ、そして民衆に工夫をしていましたが、それ以外はオーソドックスだったので、そこまで無理をして変化を付けなくても良かったのかも知れません?いずれにしても、楽しめた演出でした。
それにしても、シモン・ボッカネグラという作品は圧倒的に素晴らしい!正にヴェルディ渾身の傑作!私はこの作品が大好きなので、2013年にはオペラの舞台であるジェノヴァにも行き、大いなる感動を覚えました。再び観ることができ、それもザルツブルク音楽祭で観ることができ、本当に嬉しかったです。
(参考)2013.12.27 ジェノヴァ観光
https://ameblo.jp/franz2013/entry-11748121183.html
(写真)オペラの後は次の公演までしばし休憩。ザッハートルテが食べたくて、ザッハーのカフェに行きました。やはりオーストリアに行くと、一度は食べたくなりますね(笑)。