オッフェンバック/地獄のオルフェはめっちゃ楽しい公演でしたが、この日の公演はまだ終わりではありません。今年のザルツブルク音楽祭も最高の公演揃いでしたが、その中でも超目玉の公演、私自身も最も楽しみにしていたオペラを観に行きました。ジョルジュ・エネスコのオイディプス王です!
Salzburger Festspiele
George Enescu
Œdipe
(Felsenreitschule)
Musikalische Leitung: Ingo Metzmacher
Regie, Bühne, Kostüme und Lichtkonzept: Achim Freyer
Lichtgestalyung: Franz Tscheck
Video: Benjamin Jantzen
Dramaturgie: Klaus-Peter Kehr
Œdipe: Christopher Maltman
Laïos: Michael Colvin
Jocaste: Anaïk Morel
Créon: Brian Mulligan
Tirésias: John Tomlinson
Le Grand Prêtre: David Steffens
La Sphinge: Ève-Maud Hubeaux
Phorbas: Gordon Bintner
Le Berger: Vincent Ordonneau
Le Veilleur: Tilmann Rönnebeck
Thésée: Boris Pinkhasovich
Antigone: Chiara Skerath
Mérope: Anna Maria Dur
Baby Œdipe: Katha Platz
Salzburger Festspiele und Theater Kinderchor
Leitung Kinderchor: Wolfgang Götz
Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
Choreinstudierung: Huw Rhys James
Wiener Philharmoniker
(写真)開演前のフェルゼンライトシューレ
(写真)公演のポスター。オイディプスがボクサー姿で3本のロープに絡まる、第2幕のシーンです。
みなさまはルーマニアを代表する作曲家、ジョルジュ・エネスコ(1881-1955/ジョルジェ・エネスクの表記もあり)はご存じでしょうか?コンサートでは、たまに、ルーマニア狂詩曲やヴァイオリン・ソナタが演奏されることがありますが、やや珍しい作曲家です。
私は1995年にローレンス・フォスター/N響で交響曲第1番変ホ長調を聴き、素晴らしい曲&演奏だったので、もともと親しみを覚えていました。ルーマニアを旅した時には、ブカレストにあるジョルジェ・エネスク国立博物館にも行き、エネスコがルーマニアでどれだけ尊敬されているかを体感しました。
そのエネスコはオペラを1曲だけ書いていて、それがこのオイディプス王です。物語の原作は、古代ギリシャの三大悲劇詩人ソフォクレスによる有名なオイディプス王。オペラの上演があるのは非常に珍しい作品ですが、エネルコの複雑な和声の音楽が聴き応え抜群で素晴らしく、それをインゴ・メッツマッハー/ウィーン・フィルで聴けるという、極めて楽しみな公演です!
第1幕。序曲では、オイディプスの母親イオカステが木に土や水をやって、舞台中央の母親のお腹の中をイメージしたオイディプスを育てる演技が付きました。ウィーン・フィルが冒頭から抜群に雰囲気のある音色!
よく観ると、歌詞に合わせて照明を工夫したり、煙が出たり、きめ細かい演出です。まだ赤ちゃんのオイディプスですが、自分でパンツを履こうとして、自ら運命を切り拓く姿勢を示します。しかし同時にすぐに転んでしまう演技も付いて、その後の激動の人生を暗示します。
セリフなしでオイディプスが育っていくシーンの音楽がしばらく続きますが、流れるようで素晴らしい!ウィーン・フィルの音色や響きに存分に浸れる幸せな時間です。ゆっくりした演出の幻想的な舞台もとてもいい感じ。横に広いフェルゼンライトシューレの舞台を贅沢に使った、とても印象的な演出です。
しかし、預言者ティレシアスから、「ライオス王が子孫なしに世を去る、というアポロンの神託に反して産まれた息子オイディプスは、父を殺し母親と結婚することになるだろう」と言われ、両親は大いに戸惑います。それをよそに、オイディプスが自分の運命に打ち克つと宣言する場面の音楽には大いに痺れました!
第2幕。運命の三叉路のシーンは3つの紐が巻きつきます。サンドバックのようなものが上から降りてきて、それと闘うオイディプスの演技。オペラの演出で闘いのシーンをボクシングに模す演出は過去にもあり、成功しているケースはあまり多くないように思いますが、今回の演出では、最初からボクサーの姿で登場し、暗い舞台と赤のボクシング・パンツのコントラストが見事で、非常にしっくり来ました。オイディプスはこの闘いの中で、相手が父親のライオス王とは知らずに殺してしまいます。
テーベのまちに取り憑いて苦しめているスフィンクスの場面は、スフィンクスのエコーのかかった妖しい和声がとても魅力的。エネスコの音楽の妙を大いに体感します。スフィンクスの問いに、オイディプスは「運命より強いのは人間」と見事に答え、スフィンクスは死んでいきます。
スフィンクスを退治して、解放者を迎えるテーベの市民とイオカステ。このシーンはエネスコの音楽が痺れるほど素晴らしい!シマノフスキをも思わせる透明感があって幻想的な音楽。またウィーン・フィルと合唱の素晴らしいこと!このオペラの予習の段階から大いに魅了された大好きな場面でしたが、これを実演で体感できて、心の底からの感動でした!
第3幕。20年後のテーベ。オイディプス王と、ペストに苦しむテーベ市民との緊張感のあるやりとり。その後のオイディプス王とティレシアスとの迫力のやりとりにも魅了されました。
イオカステとの会話で、自分の過去にどんどん疑問が湧くオイディプス王。遂に自分の父親を殺したこと、母親であるイオカステと結婚してしまったことを知ってしまいます。この辺りの劇的なエネスコの音楽、それを100%の魅力で伝えるウィーン・フィル!
オイディプス王は罪の意識から自らの目を塞ぎ、イオカステは自死してしまいます…。テーベから追放されるオイディプス、娘のアンティゴネだけが盲目となったオイディプスを支えるべく付いていきます。
第4幕。アテネの領内に入って、春の息吹を感じるオイディプス。優しいアンティゴネが盲目のオイディプスに春の描写を伝え、音楽も優しい雰囲気。アンティゴネは既に聖女の雰囲気を帯びていました。
しかしクレオンがテーベを救ってほしいとオイディプスを連れ戻しに来ます。断るオイディプスに、クレオンはアンティゴネに手を出そうとします!優しい音楽から緊迫感のある音楽に急展開。ここでアテネを治めるテセウスがかっこよく登場!クレオンは諦めます。
ラストは遂に清らかな気持ちでこの世を去るオイディプス。音楽は大人物の臨終の大きな盛り上がりを描いた後、静かに終わりました。最後、静かに消えゆくウィーン・フィルによる音楽が本当に愛おしい。
また凄いオペラを観た!エネスコの7色に変化する音楽を完璧に描き出すウィーン・フィル!物語や音楽に合った幻想的な演出!歌手のみなさまも各人適役で、合唱も素晴らしい!観客も大いに盛り上がっていました!エネスコ唯一のオペラであるオイディプス王、観ることができて本当に良かった!心の底からの感動を覚えた、素晴らしい機会となりました!
そして、この日はトリプル・ヘッダーでしたが、ヴェルディ/レクイエム、オッフェンバック/地獄のオルフェ、エネスコ/オイディプス王と、全てウィーン・フィルだったんです!ウィーン・フィルを朝から晩まで聴く喜び!ウィーン・フィルの大大大ファンとして、あり得ないくらいに素晴らしい一日でした!(それにしても、ウィーン・フィルのみなさまは、1日中演奏していて、本当にタフですね、笑)
(写真)終演後のザルツブルクの夜景。ホーエンザルツブルク城を幻想的に照らす月が印象的。
(写真)左から、リッカルド・ムーティ/ウィーン・フィルのヴェルレクのコンサート、オッフェンバック/地獄のオルフェ、エネスコ/オイディプス王のプログラム。3つの公演、一日中ウィーン・フィルを堪能することができ、こんなに幸せなことはありません!
(写真)この日も終演時間が遅く、夕食は軽めに(と言うか、ほとんど夜食、笑)。この旅行ではサンドイッチとビールのパターンが何度あったのか、忘れてしまったくらい頻繁にお世話になりました。