ナショナル・ギャラリーのフェルメールを堪能した後に向かったのはコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラ。演目はベンジャミン・ブリテンの知られざる傑作、ビリー・バッドです!

 

 

THE ROYAL OPERA

BENJAMIN BRITTEN

BILLY BUDD

 

Music: Benjamin Britten

Libretto: E.M. Forster and Eric Crozier

 

Conductor: Ivor Bolton

Director: Deborah Warner

Set designer: Michael Levine

Costume designer: Chloé Obolensky

Lighting designer: Jean Kalman

Choreographer: Kim Brandstrup

 

Billy Budd: Jacques Imbrailo

Captain Edward Fairfax Vere: Toby Spence

John Claggart: Brindley Sherratt

Mr Flint: David Soar

Mr Redburn: Thomas Oliemans

Lieutenant Ratcliffe: Peter Kellner

Dansker: Clive Bayley

Bosun: Alan Ewing

Donald: Duncan Rock

Maintop: Konu Kim

Novice: Sam Furness

Novice's Friend: Dominic Sedgwick

Squeak: Alasdair Elliott

Red Whiskers: Christopher Gillett

First Mate: Ross Ramgobin

Second Mate: Simon Wilding

Arthur Jones: Thomas Barnard

 

Royal Opera Chorus

Orchestra of the Royal Opera House

 

 

 

(写真)コヴェント・ガーデン。冬のNY旅行で観たマイ・フェア・レディにも出てきました。

 

 

(写真)ロイヤル・オペラ。近くの建物に近接していて、正面からの写真は撮ることができません。

 

 

 

ビリー・バッドのあらすじをごく簡単に。1797年の英仏戦争中、英国の軍艦が水兵確保のため、通りかかった商船から3人を連行し、ビリー・バッドを採用します。性格の良いビリーは船員のみんなに好かれますが、「人権」を口走ったことから隊長のクラッガートに目を付けられます。

 

そして遂には船長ヴィアに告発されますが、裁判の席で過って告発したクラッガートを殴り殺してしまうビリー。船長は難しい判断を迫られますが、果たして?

 

 

開場待ちで1階のカフェでプログラムを読んでいたところ、イギリス人の品の良いマダムと同席。マダムに電話がかかってきたところ、何と驚くことに、マダムは見ず知らずの私にカバンを託して3分くらい席を離れてしまいました!(笑) 初対面なのに信じてもらえる日本人の信用力!

 

久しぶりのロイヤル・オペラ。前回は2010年にプロコフィエフ/賭博師を観に来ました。大金持ちのおばあさまがさっそうと登場したものの、カジノで負け続けて豪快にすってんてんになるのがもう可笑しいのなんの(笑)。

 

オペラハウスの中に入ると、サー・トーマス・ビーチャムの指揮棒を持つ胸像、サー・ジェラール・エヴァンスのファルスタッフ像、ローラ・ポンセルのノルマの肖像画、そして、マリア・カラスの映画にも出てきたトスカの、あの赤の衣装がありました!

 

 

第1幕。船長ヴィアの回想のシーン。黙り役の晩年の船長と思われる老人が出てきてオールを漕ぐ動き。精神的に疲弊し切っている印象です。ここのオペラハウスは字幕が読みやすく、歌も英語がハッキリ聴こえて非常に聴きやすく、分かりやすいです。

 

舞台は軍艦の甲板に移ります。船員たちはまるで囚人のような扱い。若い船員たちを子役が務めますが、その子役たちからも虐げられる船員たち…。ビリーが登場。ビリーの木管の明るい主題が希望や救済の感情を呼び起こします。

 

商船から捕らえられたビリーを含む3人が面接を受ける場面は、最初の2人は面接に大いに反抗し、面接自体が酷い仕打ちであることを強調し、逆に最後に素直に受けるビリーの従順さが浮かび上がらせます。しかし、軍艦の仲間入りをしたビリーが「人権」と叫ぶと、表情を一変させる幹部たち。

 

開演前に読んだプログラムには、昔の水兵の過酷な船での生活が詳しく書いてあり、なぜここまで神経質になるのか、理解を助けてくれます。クラッガートはビリーに注意しろと、とある水兵に命令します。その水兵とともに象徴的に血まみれのビリーが床を這っていくシーンは、まるでゴルゴタの丘を行くキリストのよう。

 

読書家の船長が幹部たちとワインを飲みつつフランスを揶揄するシーン。客席からは笑いが漏れます。ブレグジットの時節柄、ある意味かなり微妙なオペラ(笑)ですが、また飲んでいるワインがフランスのワインというのも皮肉なのかも?

 

船員たちの仕事が終わっての寝床での打ち解けた合唱が素晴らしい。クラッガートはビリーを破滅させてやる!と、ヴェルディ/オテロのイヤーゴのクレドにも匹敵する邪悪な歌。ブリンドリー・シェラットさんによる素晴らしい歌でした!その歌に寝床のハンモックの中でうなされるビリー。

 

 

いや~、大いに魅了された第1幕!実は音楽の予習をそこまではしていなくて、さらにハムステッド・ヒースにやられて(笑)時間がなく、仮眠を全く取れなかったので、途中、記憶があいまいになるかも?と危惧していましたが、演出の素晴らしさもあって惹き込まれっぱなしでした!

 

 

第2幕。フランス軍の船を見つけて、戦いに向け盛り上がる音楽。しかし砲撃は届かず霧が出て相手の船を見失い…。フニャーとフェードアウトする音楽が何ともユニークです。

 

クラッガートの告発の場面。反論を求められたビリーは尋問で吃ってしまい、思わず過ってクラッガートを殴り殺してしまいます。みなから親しまれている純粋なビリー。船長は大いなる悩みと葛藤の上、軍の規則に従って止む無くビリーの死刑を承認します。

 

船長がビリーと別れるシーンは、ビリーが死刑執行に向けて地下室に降りる途中、何と!うつむく船長の頭にビリーが手を当てて赦しを与える演出が付きました!何この感動!涙がたちまち溢れてきました

 

ビリーのもとに親友のダンスカーが別れを伝えに来るシーンも感動的。ダンスカーはムソルグスキー/ボリス・ゴドゥノフのピーメンのように風格がありました。ビリーの刑の執行は、ビリーが舞台天井に続くハシゴで、天に昇って行く形で表していました。

 

そしてビリーが死刑になってしまったことに、怒りのハミングで威嚇したり、舞台のセットを揺らしたりして不満をぶつける船員たち。業を煮やした船長は、最後は力づくで船員たちを排除し、遂には上官たちからも疎まれてしまいます!立場上仕方ないのに切な過ぎる船長…。リーダーって、本当に孤独ですね。ラストは再び年老いた船長の述懐で終わりました。

 

 

 

何このズシリと重く心に響くオペラ!!!味わい深さの半端ない傑作オペラ!!!

 

 

いや~、これまた凄い公演に当たりました!とにかくシンプルながらセンスがあって雰囲気ありまくりのデボラ・ワーナーさんの演出と舞台がめっちゃ素晴らしい!愛想の良さが光ったビリー役のジャック・インブライロさん、苦悩する船長が好演だったヴィア役のトビー・スペンサーさん始め、歌手のみなさんも素晴らしい歌と演技。ザルツブルクでモーツァルトは何度か聴いたことのあるアイヴォー・ボルトンさんの指揮とオケも見事でした。

 

休憩中に意見交換したお隣の初老のイギリス人の紳士によると、この公演は今シーズンのロイヤル・オペラのハイライトですが、4日しか公演がなかったので、チケットを取るのがとても大変だったそうです。終演後、その紳士と笑顔でガッチリ握手できたのも嬉しい。

 

正に犬も歩けば棒に当たる!同じく素晴らしい演出に感銘を受けた、あの2012年の新国立劇場のブリテン/ピーター・グライムズの感動再び!ブリテンの社会派の傑作オペラを、1951年に初演されたロイヤル・オペラで観ることができ、とっても貴重な感動的な夜でした!

 

 

(参考)ロイヤル・オペラのビリー・バッドの紹介サイト

https://www.roh.org.uk/productions/billy-budd-by-deborah-warner

※紹介動画が見当たらなかったので、こちらを。写真を横にスクロールさせていくと、どんな舞台だったか、雰囲気が分ると思います。

 

 

 

 

(写真)ここはロンドンということで、帰り道にパブで一杯。選んだのはシップヤードという銘柄のペールエール。フルーティで若干の苦味が心地良くて美味しい!

 

このビール、ロゴが帆船なんですよね。ビール・サーバーに、オペラの舞台の帆船の軍艦を思わせるロゴが見えたので迷わずこれに。アメリカのビールではありましたが、ビリー・バットの後はこれで決まりです!感動のオペラを観て、火照った体をクールダウンするのにピッタリでした!