尊敬して止まない大好きなピアニスト、クリスチャン・ツィメルマンさんのピアノ・リサイタルを聴きに行きました。

 

 

日本・ポーランド国交樹立100周年記念事業

ポーランド芸術祭2019 in Japan 参加公演

 

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル

(サントリーホール)

 

ブラームス/ピアノ・ソナタ第3番ヘ短調Op.5

 

ショパン/スケルツォ第1番ロ短調Op.20

ショパン/スケルツォ第2番変ロ短調Op.31

ショパン/スケルツォ第3番嬰ハ短調Op.39

ショパン/スケルツォ第4番ホ長調Op.54

 

 

大好きなクリスチャン・ツィメルマンさん、ということで、これまで何度もリサイタルやコンサートを聴いたことがあります。

 

特に2010年のショパン生誕200周年に聴いたピアノ・ソナタ3番とバラード4番、2012年のドビュッシー生誕150周年に聴いた前奏曲「西風の見たもの」、そして昨年2018年のバーンスタイン生誕100周年に聴いた交響曲第2番「不安の時代」などは、一生ものの思い出のピアノです。

 

知的でクリア、かつニュアンスにも溢れる格調高いピアノは、いつどんな曲を聴いても感動します。もちろん、ショパンが特別であることは言うまでもありません。いつも客席で聴いていて、身動き一つできずにピアノに引き込まれるような、そんな特別な時間。今日も大いなる期待を持って聴きに行きました。

 

 

前半はブラームスのピアノ・ソナタ3番。第1楽章。冒頭はいきなり鍵盤を弾いた後、手と足を弾み(はずみ)上げるフォルテ!まるでブラームスが降臨したかのような瞬間!その後の叙情的で繊細なピアノは、さすがはツィメルマンさん!とろけるような第2主題にも大いに魅了されます。最後のアルペジオは念押しをするかのようにたっぷりでした。

 

第2楽章。チャーミングで、非常に愛らしい旋律が繊細に優しく弾かれていきます。ツィメルマンさんは曲に合わせて歌っているような、唸っているような、そんな感情のこもった雰囲気。その後の儚く切なく美しいピアノ!この辺り、ツィメルマンさんの繰り出す妙技にメロメロでした。

 

最後は和音で激情を見せた後、格調高く、凛としたラスト!弾き終わった後、息を詰めて聴いていた客席から、素晴らしい音楽を聴いた後の、感嘆のため息が一斉に!ほとんどこの時点で帰っても満足できるレベル!

 

第3楽章は強烈なフォルテを入れたり、間をたっぷり取ったり、かなり奔放なピアノ。随所に諧謔味を見せて、これぞスケルツォ!というピアノです。第4楽章は荘重な音楽。ベートーベンの熱情ソナタにも聴かれるタタタタンという運命の主題を強調して雰囲気たっぷりに弾いていました。

 

第5楽章は舞曲風の音楽ですが、ここも自由自在。ラストはまるで20代のツィメルマンさんが弾いているかのような激情!素晴らしいブラームス!

 

 

後半はショパンのスケルツォ全曲。2010年に2番を聴きましたが、4曲全曲は初めて、非常に楽しみです。

 

最初は第1番。始めの和音の勿体ぶった入り。そして第1主題はスタッカートに切り気味で、激情というよりは無力感、不条理さ伝えるピアノ!左手を強調して旋律を作っていました。第2主題の優しい旋律は弱音やルバート、1音1音のニュアンスのうつろいが素晴らしい。慰めの音楽を感じます。ラストは激情のピアノの後、何と、敢えてそれを緩めて再び無力感を感じさせて終わりました。とても意味ありげな1番!

 

次に第2番。この曲は私もレパートリーにしていて以前よく弾いていたので、ツィメルマンさんが何をどう表現するのか、よりしっかりと聴き取れると思います。ところが、ツィメルマンさんは盛り上げようと思えばいくらでも盛り上げられるこの曲を、かなり端正に弾いていました!

 

非常に繊細なニュアンスは随所で付けますが、おっ!と思ったのは中間部の後、冒頭の回帰の場面を弱々しく引きずって弾いたところくらい。ラストは追い込んでさすが迫力でしたが、とにかく格調高く端正な2番、という印象。「この曲がメインではないんだよ」、そんな声が聞こえきそうです。

 

逆に3番は冒頭から激情のピアノ、もう推進力が半端ないです。第2主題のきらめきは、いったいどうやったらこんなに綺麗にピアノを弾けるんだろう?と思わせる見事さ。1つ1つのパーツが精巧に揃えられた最高級の万華鏡のようです。最後の追い込みはど迫力でしたが、それを一切の乱れなく完璧に弾く凄さ!

 

最後に第4番。3番までは短調ですが、この曲は長調です。以前に聴いた時にはこの曲にはあまり馴染めなかったのですが、ツィメルマンさんの今日のピアノ、今日の流れで聴くとイメージがよく膨らみます。

 

つまり、これはヴェルディが最後に喜劇のファルスタッフを書いたような境地の音楽ではないでしょうか?「世の中すべて冗談」というファルスタッフのラストのセリフと「スケルツォ」という言葉がシンクロします。軽快でリズミカルな長調の音楽を聴いていて、ふとそんな思いがよぎりました。

 

中間部のゆらめく音楽や和声には、作品番号がそう遠くない舟歌の雰囲気も感じます。人生の真理を見せそうで最後見せない、何ともにくい音楽。最後の方は、正に「世の中すべて冗談」という境地に至った上で、回顧しているように聴こえました。

 

 

端正な2番を聴いた時点でそうなのかな?と思ったのですが、今日のスケルツォ4曲は、この4曲でショパンの人生を、あたかもピアノ・ソナタの各楽章のように聴かせたのではないでしょうか?

 

困難にぶつかって打ちひしがれる1番、順調なキャリアを積むようにスイスイ進む2番、波瀾万丈の人生を思わせる激情の3番、達観の境地で人生を振り返る長調の4番。

 

前半にブラームスのピアノ・ソナタを持ってきたのも、それを意図させるための対比の選択と受け取りました。さらにブラームスは作品番号の非常に若い、20歳までに書かれた曲。そしてかなり動的な演奏。スケルツォ第1番の前の年代、ということがイメージされていたのかも知れません。

 

 

果たして、そうなのかどうかは分りませんが、ツィメルマンさんのとにかく完璧かつニュアンスに溢れるピアノを聴くと、イメージがどんどん膨らみます。本当に類い稀なるピアノ!特にスケルツォ4曲はいずれも難しい曲ですが、4曲をものの見事な精緻さで完璧に弾いて、ほとんど奇跡を目撃したかのようでした!

 

 

アンコールのブラームスのバラードとショパンのマズルカ2曲も味わい深い。マルズカの終わり方なんて、何て素敵なんでしょう!ツィメルマンさんのピアノを聴く喜び!

 

私の席の近くにお母さんと中学生くらいの娘さんで聴きに来られた方がいらっしゃいましたが、スケルツォが1曲1曲終わる度に、凄いものを聴いた!とばかりに、2人とも大いに感嘆されていたのがとても印象的でした。ツィメルマンさんのピアノ、今日も大いに魅了されました!!!

 

 

 

 

(写真)会場で購入したクリスチャン・ツィメルマンさんがピアノを弾いたバーンスタイン/交響曲第2番「不安の時代」のCD。今日のリサイタルのプログラムのツィメルマンさんのプロフィールには、以下の紹介がありました。

 

「2018年は、バーンスタイン生誕100年の年であった。バーンスタインとツィメルマンの間には15年に及ぶ長い関係があり、数々の優れたオーケストラと、ストラヴィンスキー、ベートーベン、バーンスタインなどを録音。ツィメルマンはその合間に、バーンスタインの100歳の誕生日に共演する約束をしていた。

 

そこで2018年、ツィメルマンはこの記念年を祝うため、バーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」をロンドン響、フィルハーモニア管、ベルリン・フィルほか多くの主要オーケストラと東京と大阪を含む世界の主要な公演地で共演。また、この作品をラトル指揮ベルリン・フィルと共演したCDも2018年にドイツ・グラモフォンよりリリースされた。

 

これは、作曲家にして指揮者であるこの偉大な芸術家、バーンスタインと多くの舞台を共にしたアーティストによる、最も壮大なオマージュともいえる。先達への感謝と尊敬の念を表すことは、ツィメルマンの芸術家としての重要な原動力の一つである。」

 

 

私はレニー(レナード・バーンスタイン)が好きだからツィメルマンさんを好きになったのではなく、そのピアノの演奏を実際に聴いて引き込まれ、好きになりました。レニーとツィメルマンさんが沢山共演していたのは知っていましたが、それが理由ではありません。

 

しかし、こうして死後もレニーへの尊敬の念を、具体的に形にされているツィメルマンさんのピアノを好きになり、今日もこうして素晴らしい演奏を聴いて大いに感動することができ、レニーの大ファンでもある私は心の底からの喜びを感じます。

 

 

(参考)2018.9.24 サイモン・ラトル/クリスチャン・ツィメルマン/ロンドン交響楽団のバーンスタイン/不安の時代

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12408007757.html