マリア・カラスの生涯を辿ったドキュメンタリー映画「私は、マリア・カラス」の公開が始まったので、さっそく観に行きました。

 

 

 

私は、マリア・カラス

 

出演:マリア・カラス

監督:トム・ヴォルフ

朗読:ファニー・アルダン

 

(参考)映画の公式サイト

https://gaga.ne.jp/maria-callas/

※冒頭に2分の予告編の映像が出てきます。

 

 

私はオペラを見始めたのは30歳くらいから。クラシック音楽のファンの中では遅い方だと思います。オペラの公演があるごとにCDを聴き込んで、1作品ずつ覚えて行きましたが、イタリア・オペラの多くはマリア・カラスが主役を務めたCDでした。

 

なので私の場合、トスカ、ヴィオレッタ、ノルマ、ルチアを始め、イタリア・オペラのソプラノの役は、ほとんどマリア・カラスの歌が基本になっています。その一番親しんできたカラスの生涯を辿る映画、非常に楽しみです。

 

 

本当は初日の21日(金)に観に行こうと思っていましたが、遅くまで仕事となってしまい断念…。ようやく今日24日(月)、観ることができました。これが感動に次ぐ感動!カラスの生涯はだいたい分ってはいましたが、実際にカラスが歌っている映像やカラスの肉声を通じて心境が語られると、非常に感慨深いものがありました。

 

 

始まったばかりなので、感想はごくごく簡単にしますが、特に以下のシーンに魅了されました。

 

 

まずは、カラスのニューヨーク公演を受けてのインタビューのシーン。何と、レナード・バーンスタインがカラスの歌について「熱狂」と語った、とナレーションが入りました!(笑)。マリア・カラスはギリシャのイメージが強いですが、実は、ニューヨーク生まれのニューヨーク育ちなんです。

 

先日のピアソラの映画でも、昔のニューヨークの映像が沢山出てきましたが、このカラスの映画でも懐かしい映像が出てきて、大いに惹き込まれました。なお、カラスとレニーはミラノ・スカラ座でケルビーニ/メディア、そしてドニゼッティ/夢遊病の女で共演しています。

 

 

次に、ローマ歌劇場での公演中止のシーン。カラスはリハーサル時の寒い部屋が原因で気管支炎を患い、イタリア大統領が臨席にも関わらず、ベッリーニ/ノルマを途中で歌えなくなってしまい、そのまま公演中止となりました。それまで絶讃されていたカラスが、マスコミに攻撃を受け始める大きな転機となった出来事です。

 

気管支炎なので仕方ないのですが、マスコミは書きたいだけ書いて中傷。「道を外れた女は元には戻れない」。カラスはヴェルディ/ラ・トラヴィアータのヴィオレッタの言葉で状況を説明し、第3幕のヴィオレッタのアリア「さようなら、過ぎ去った日々よ」が悲しく響きます…。偉大なる歌手である一方、繊細な心の持ち主でもあるカラスは神経を衰弱させていきます。

 

これを見て改めて憤りを感じたのは、マスコミにしろ、評論家にしろ、ブログやツイッターにしろ、音楽家をおとしめることばかり書いている連中は、ろくでもないクズですね!そういう大人げない行為が、どれだけナイーヴな音楽家たちの心を傷つけることか。ただし、そういうくだらない輩どもは忘れ去られ、一方で人々の思い出に残り、また歴史に名を残すのは真摯に芸術に向き合った音楽家たち。この映画はそのことをよく伝えています。

 

 

次に、ロンドンでの復帰となるプッチーニ/トスカの公演。非常に注目された公演で、何と、エリザベス女王がフカフカのドレス姿で車から降りて劇場に入るシーンの映像まで!そしてそのトスカ。歌うは第2幕「歌に生き、恋に生き」。カラスの代名詞とも言える歌。これがものの見事な素晴らしい歌!

 

歌だけでなく歌詞が、それまでマスコミに叩かれる中、私はただ歌だけに生きてきたのに、というカラスの心情を代弁するような歌!それを切々と感情を込めて歌っていくカラス!涙なくしては観ることのできない、非常に感動的なシーンでした。もうボロ泣き…。

 

 

そして最後、カラスの恋人オナシス、そしてこの世との別れのシーンは、ジョルダーノ/アンドレア・シェニエ第3幕のマッダレーナのアリア!共演のマリオ・デル・モナコが体調不良でマンリーコ(ヴェルディ/イル・トロヴァトーレ)を歌えなくなり、ミラノ・スカラ座の演目が変更されたため、5日で楽譜を覚えたという、あの伝説の公演です。これも感動的な歌、もはや号泣するしかありません…。

 

 

 

マリア・カラスの生涯を辿った映画、素晴らしいの一言でした!そして、カラスがいかに芸術に真摯に向き合っていたか、一人の芸術家として正直に生きてきたのか、改めてよく分りました。

 

私がイタリア・オペラを覚えることができ、今ではかなり余裕を持って楽しめるようになれたのは、ひとえにマリア・カラスのおかげです。マリア・カラスの歌で沢山のイタリア・オペラを聴いてきて、本当に良かった!映画の後半、スタンディング・オベーションでカラスを称える観客が沢山出てきますが、その一人になった気分となりました。非常に感慨深くかつ感動的な映画でした!

 

 

 

(写真)何度も何度も聴き込んできたマリア・カラスのCDたち。左上から、ヴェルディ/ラ・トラヴィアータ、プッチーニ/トスカ、ベッリーニ/ノルマ、(下段左)マスカーニ/カヴァレリア・ルスティカーナ、ドニゼッティ/ランメルモールのルチア、ポンキエルリ/ラ・ジョコンダ。このほか改めて数えてみたら、CD50枚くらいありました(笑)。

 

もしマリア・カラスをまだ聴いたことのない方がいらっしゃったら、ぜひ上の真ん中のCD、プッチーニ/トスカの名盤中の名盤、マリア・カラス/ジュゼッペ・ディ・ステファノ/ティト・ゴッビ/ヴィクトール・デ・サバータ指揮/ミラノ・スカラ座のCDをぜひ聴かれてみてください!オペラの入門にも打ってつけです。