ウィーンの名ピアニスト、シュテファン・ヴラダーさんがベートーベンの4大ソナタを弾くリサイタルを聴きに行きました。

 

 

シュテファン・ヴラダー ピアノ・リサイタル

~ ベートーベン4大ピアノ・ソナタ ~

(浜離宮朝日ホール)

 

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調「悲愴」

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調「月光」

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第21番ハ長調「ワルトシュタイン」

ベートーベン/ピアノ・ソナタ第23番ヘ短調「熱情」

 

 

私はピアノは今年こそドビュッシーに集中していますが、ベートーベンは基本となる作曲家です。4大ソナタも悲愴の第1・2楽章、月光の全曲、ワルトシュタインの第3楽章、熱情の第1・3楽章を弾いたことがあり、楽譜によく親しんできた曲たちです。今回リサイタルを聴くに当たり、改めて楽譜を読み返した上で臨みましたが、ベートーベンの楽譜は本当に美しいものがあります。

 

シュテファン・ヴラダーさんは、昨年3月に大野和士さんと都響でブラームス/ピアノ協奏曲第1番の素敵な演奏を聴いています。そして、アンコールのリスト/コンソレーション第3番!今思い出しても、感動が甦る素晴らしい演奏でした。今日のオール・ベートーベンも非常に楽しみです。

 

(参考)2017.3.21 大野和士/シュテファン・ヴラダー/都響のブラームス

https://ameblo.jp/franz2013/entry-12258788768.html

 

 

 

前半1曲目は悲愴。第1楽章。最初の序奏はかなり抑揚を付けた演奏。最後の高音の弱音は、永遠に次の音が来ないかのように余韻を持たせます。しかし、主部に入るとインテンポで突き進む演奏!右手が2音ずつ押さえて上がっていくところなんて、早まって2回目から一瞬長調が出てしまったくらいに(笑)勢いの良い演奏、とても魅了されます。

 

第2楽章は懐かしい響き。しみじみいい曲だ。第3楽章は再びインテンポ。まるで何かに追い立てられているかのよう。ウィーンのピアニストということで、ベートーベンは含蓄のある雅な演奏も想像していましたが、完全に面食らいました!

 

 

2曲目は月光。第1楽章は瞑想的、第2楽章は寂しさを内包したチャーミングさ。そして第3楽章。もう荒れ狂い、突き進む第3楽章!これ、繰り返しが通常と違っていましたね。最後のアルペジオ4連発のところなんて、通常の半分くらいの時間で指が上下!いや~、何とスリリングな演奏!大いなる興奮!

 

 

 

後半1曲目はワルトシュタイン。後期のソナタもいいですが、私は、このワルトシュタインと熱情がベートーベンのピアノ・ソナタでは最も好きな曲です。第1楽章。これまた冒頭から突き進む演奏!ハ長調の和音が本当に小気味良い。途中、アルペジオが続いて、右手と左手が収束して冒頭の主題に戻るシーン。まるで英雄交響曲のよう。本当に素晴らしい曲!

 

第2楽章はペダルの使い方が印象的。音を2段階で発散させていきます。第3楽章はほぼ弱音で全く抑揚を付けず印象的な入り。まるで美しい思い出をオルゴールのようにキラキラ思い返すかのよう。その後はめくるめく展開。本当に魅力的な曲!

 

途中ミステリアスな和声になって、冒頭の主題が帰ってくる印象的な場面がありますが、そのミステリアスな和声の旋律をごくごく弱音にして、背景で何かが進行しているかのよう。しかし、最後だけ思い切りフォルテで強調して、もう自由自在の演奏です。

 

ラストの手前のオクターブのグリッサンドは、ややたどたどしく弾いた方が味が出るような気がしますが、滑るような見事なグリッサンド!最後も走って、力強いフォルテで終わりました。ブラヴォー!!

 

 

最後は熱情。第1楽章。この曲も冒頭からあまり溜めずにドンドン進みます。一番の聴かせどころ、右手と左手が掛け合って上昇し、落ちてきて、運命の主題が印象的に出てくる場面。その強調すべきと思われる運命の主題が、ハイスピードの中にやや埋もれて、まるで運命ですらこの勢いに流されてしまったかのよう。最後、弱音で鎮まるラストでさえ、ほとんどゆっくりにならず駆け抜けました!

 

第2楽章は変奏曲。印象的だったのが、左手が32分音符を細かく刻む変奏の場面で、後段の部分に繰り返し、かなりの強調を入れていたところ。長調のこの場面でこれほどの強調を聴くと、あたかも、すれ違って最後破綻する第3楽章の影が、早くも第2楽章で差しているかのように思いました。

 

この楽章は思わぬところで強調を入れたり、溜めたり、フルトパウゼを入れたり、それまでの突き進む演奏とは一線を画していましたが、聴きながら、ヴラダーさんはおそらく即興で表現付けをしているのではないか?と思いました。

 

第2楽章は改めて本当に素晴らしい変奏曲。私は2020年のベートーベン生誕250周年に、また熱情を弾いてみたいと思っていますが、特にまだ弾いたことのない、この第2楽章を弾くのが本当に楽しみです。

 

第3楽章は再び突き進む演奏!冒頭の有名な右手左手2音ずつ叩いていく場面は、アタッカを強く入れて弾きたいところですが、ヴラダーさんの演奏では、あまりの速さにほとんど繋がって聴こえるかのよう(笑)。

 

私はこの第3楽章は以前にかなり弾きこんだので、自分だったら、ここは強調して弾く、ここは弱く弾く、ここはゆっくり弾く、ここにはルフトパウゼを入れるなど、明確なイメージを持っています。それとはことごとく異なる、疾風怒濤のひたすら突き進む演奏!(笑)

 

こういう場合には、「もっとこうした方が味が出るのに、感動的なのに」と思ってしまう場合もありますが、今日はその違いに最初から最後まで痺れっぱなしでした!ラストは恐ろしいことに、さらに加速してまるで嵐のように終わりました!あまりにも速くてピアノの音が出切らないくらい(笑)。なんというスリリングな演奏!かのヴィルヘルム・フルトヴェングラーのベートーベンのラストのよう!ブラヴォー!!

 

 

いやいや、もの凄いベートーベン4連発を聴いて、会場はすっかり盛り上がりましたが、アンコールはヴラダーさん、日本語で「ベートーベン以外で(笑)」と会場を湧かせてから弾き始めたのが、何と昨年も聴いた、あのリスト/コンソレーション第3番!

 

これがそれまでの4曲のベートーベンと打って変わって抑揚を大きく付けた、懐の深い演奏!あたかも、嵐のように疾風怒濤の人生だったベートーベンが、天国で女性の深い愛情に包まれているかのよう!正に慰めの音楽です!

 

 

何この、よく考えられた感動的なプログラムと表現!!!

 

 

これはひとたまりもありません!もう感涙するほかありませんでした…。会場も非常に盛り上がっていましたね!シュテファン・ヴラダーさんのベートーベンのピアノ・ソナタのリサイタル、めちゃめちゃ感動的でした!

 

 

 

 

(写真)会場で購入したシュテファン・ヴラダーさんのベートーベン/ピアノ協奏曲全曲のCD、ヴラダーさんのサイン入り。前回の記事で、GWの旅行のフライトの途中、ルドルフ・ブッフビンダー/ウィーン・フィルのベートーベン/ピアノ協奏曲第1番&第2番にどハマリしたことを書きましたが、偶然にも、それらを含むCDがありました!ゆっくり聴くのが非常に楽しみです!