ドイツを、もとい世界を代表する美声のテノール、クラウス・フロリアン・フォークトさんのドイツ・オーストリア系の作曲家の歌のリサイタル(東京・春・音楽祭)を聴きに行きました。
東京春祭 歌曲シリーズvol.23
クラウス・フロリアン・フォークト(テノール)Ⅰ
テノール:クラウス・フロリアン・フォークト
ピアノ・ルパート・バーレイ
ハイドン/
すこぶる平凡な話
満足
どんな冷たい美人でも
人生は夢
乙女の問いへの答え
小さな家
ブラームス/
目覚めよ、美しい恋人
昔の恋 op.72-1
谷の底では
月が明るく輝こうとしないなら
甲斐なきセレナーデ op.84-4
マーラー/《さすらう若人の歌》
第1曲 彼女の婚礼の日は
第2曲 朝の野辺を歩けば
第3曲 私は燃えるような短剣をもって
第4曲 二つの青い目が
R.シュトラウス/
ひそかな誘い op.27-3
憩え、わが心 op.27-1
献呈 op.10-1
明日には! op.27-4
ツェチーリエ op.27-2
(アンコール)
R.シュトラウス/セレナーデ
ブラームス/日曜の朝
クラウス・フロリアン・フォークトさんは、オペラではこれまで何度も観る機会に恵まれました。最初は2003年の新国立劇場のオッフェンバック/ホフマン物語のホフマン、次に2008年のウィーン国立歌劇場のコルンゴルト/死の都のパウル、記憶に新しいところでは、2013年と2017年のバイロイト音楽祭でのローエングリンとヴァルター(ニュルンベルクのマイスタージンガー)、2017年のバイエルン国立歌劇場来日公演のタンホイザーです。
(参考)2013.8.11 ワーグナー/ローエングリン(バイロイト音楽祭)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-11599439855.html
(参考)2017.8.15 ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー(バイロイト音楽祭)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12311108974.html
(参考)2017.9.21 ワーグナー/タンホイザー(バイエルン国立歌劇場)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12312854130.html
類い稀なる美声で、いずれの役も超素晴らしかったですが、リサイタルを聴くのは初めてです。ドイツ・オーストリア系の作曲家で統一された素敵なプログラム、どの歌もとても良さそう、大いなる期待を持って行きました。
フォークトさんが登場。惚れ惚れするようないい男!相変わらず、めっちゃカッコイイ!ピアノ伴奏はルパート・バーレイさん。当初は他のピアニストの方の予定でしたが、ケガをされ、急きょバーレイさんがハンブルクから来日され、公演中止になるところを救ったそうです。本当にありがたい限りです。
まずはハイドン。軽快でコミカルな「すこぶる平凡な話」、ダーフィットのザックスを讃える歌に似た旋律が出てくる「満足」、諦めの音楽が聴かれる「どんな冷たい美人でも」、達観の境地の「人生は夢」、諦念の境地の「乙女の問いへの答え」、身近な幸せを真摯に歌う「小さな家」、いずれもフォークトさんの素晴らしい歌でした!
興味深かったのはハイドンによる歌曲、ということ。ハイドンがピアノ伴奏つき歌曲のジャンルを手がけ始めたのは、50歳近く、交響曲だと70番代を作曲していた頃です。ハイドンの交響曲は1曲1曲非常に良く書かれている知的な遊戯、という印象を持っていますが、そのハイドンが恋を扱った詩に曲を付けているのを聴くと、何だかハイドンの新しい面を見た気がします。
次はブラームス。鳥が出てくる歌で、フォーゲルヴァイデに歌を習ったヴァルターを彷彿とさせる「目覚めよ、美しい恋人」、短調で妖しい和声も聴かれる「昔の恋」、諦念を強く感じる「谷の底では」、歌詞の内容に反して悲しげな音楽の「月が明るく輝こうとしないなら」、女性を演じるフォークトさんも楽しいコミカルな「甲斐なきセレナーデ」、ブラームスも素晴らしい!
後半はまずはマーラー/さすらう若人の歌。第1曲「彼女の婚礼の日は」。美しく儚く、この曲が一番フォークトさんの歌に合っているように思いました。第2曲「朝の野辺を歩けば」。ご存じ、マーラー/交響曲第1番第1楽章の音楽です。何と美しく、清々しい歌!“Schöne Welt”(美しい世)の歌詞と美しい歌声にうっとりします。しかし最後は悲しい歌詞に…。
第3曲「私は燃えるような短剣をもって」は自らを傷つける激しい曲。第4曲「二つの青い目が」。交響曲第1番第3楽章の音楽。雰囲気たっぷりの歌!“さようなら!ぼくの道連れは愛と悲しみだけ!”の後のピアノ独奏、遠くを見つめるようなフォークトさんの何とも言えない表情!そして妖しくも美しい最後のパラグラフの、この世に別れを告げる歌!感動の「さすらう若人の歌」でした!
最後はR.シュトラウス。勢いのある曲で、R.シュトラウスの和声にぐぐっとくる「ひそかな誘い」、緊張感が堪らなく、最後のピアノによる長調に魂の救済を感じる「憩え、わが心」、10代後半にこんなに素晴らしい曲を書いてR.シュトラウスの天才ぶりに改めて驚く「献呈」、導入のピアノの美しさに惹かれ、後奏の同じ旋律のゆっくりのピアノに痺れまくった「明日には!」、短調と長調が交錯する「ツェチーリエ」、フォークトさんの美し過ぎるR.シュトラウスでした!
ハイドン、ブラームス、マーラーと聴いてきましたが、やはりR.シュトラウスの魅惑の和声とフォークトさんのひたすら美しい歌の融合には、完全に昇天してしまいました!特に「明日には!」にはもう感動の嵐で涙涙です…。この曲、以前にオケ版を聴いたことがあって、素敵な曲だな、とは思っていましたが、ピアノ伴奏が凄すぎて、ほとんど一瞬で恋に落ちました(笑)。
(参考)R.シュトラウス/明日には!
https://www.youtube.com/watch?v=lPE__0CHi5A (3分)
※メゾ・ソプラノのMette Østergaardさんの公式動画より。序奏と後奏のピアノがやばすぎます。ここぞ!というタイミングで入る歌も本当に素晴らしい。
(参考)R.シュトラウス/明日には!(ピアノ独奏版)
https://www.youtube.com/watch?v=sm1kx79t94M (4分)
※Colleen Kobussenさんの公式動画より。ピアノ独奏版見つけました!ピアノ独奏版もめっちゃいい!最後の方には、R.シュトラウス「4つの最後の歌」の和声が聴かれます。これ、楽譜見つけて、弾いてみたいと思います。
アンコールはセレナーデと日曜の朝。フォークトさんの美しい歌はいつまでも聴いていたくなります。本当に素晴らしい歌でした!
改めてフォークトさんをオペラでなく、歌曲のリサイタルで聴いてみると、美しい歌声はもちろんですが、同時に美しさに伴う儚さ(はかなさ)も感じます。美しいものは壊れやすい、あるいは、必ず滅びの時がくる。フォークトさんのオペラはどの役も素晴らしいですが、特にローエングリンとパウル(死の都)が最高と言われている理由を、実感できたような気がしました。
クラウス・フロリアン・フォークトさんのリサイタル、素晴らし過ぎました!柔らかく伸びやかで美しい歌声、ルパート・バーレイさんの雰囲気のあるピアノ、よく組み立てられたプログラム、これ以上のテノール・リサイタルはもはや考えられないのではないか?と思わせるくらいに魅了されまくった、最高のリサイタルでした!
(写真)恋の歌が多く、その高貴な佇まい、昨年タンホイザーを演じられていたこともあり、今日のフォークトさんは、ミンネゼンガーを思わせました。写真は中世にミンネゼンガーたちが歌合戦を繰り広げたドイツのヴァルトブルク城、タンホイザーの舞台です。