今年はロッシーニ没後150周年。とても楽しみにしていたロッシーニ特集の、5つの連続コンサートを聴きに行きました。
東京春祭マラソン・コンサートvol.8
ロッシーニとその時代(没後150年記念)
~混乱の世を息抜く知恵と音楽
(東京文化会館小ホール)
このコンサートは上野の東京・春・音楽祭の名物企画。一人の作曲家にフィーチャーして、1日に11:00、13:00、15:00、17:00、19:00開演の計5回のコンサートで掘り下げるものです。私は2014年のR.シュトラウス(生誕150周年)の回に全部参加したことがあり、R.シュトラウスの様々な歌曲や室内楽、珍しいメロドラマ≪イノック・アーデン≫など、オペラや交響詩だけではないR.シュトラウスの幅広い世界を体感できました。
今回はロッシーニ特集、大いなる期待を持って聴きに行きました。なお、5つのコンサートに詳細に感想を書くと、とんでもないボリュームになるので(笑)、今回は特に印象に残ったことだけ、ごくごく簡潔に書くようにします。
【第Ⅰ部】悲喜こもごものロッシーニ劇場
悲劇喜劇を問わず、傑作オペラを次々と作ったロッシーニ。時にオペラの結末を無理矢理作り変えることさえおこなった、彼ならではの処世術。
■出演
ヴァイオリン:依田真宣、平塚佳子
ヴィオラ:中村洋乃理
チェロ:湯原拓哉
コントラバス:髙橋洋太
ソプラノ:天羽明惠
メゾ・ソプラノ:富岡明子
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団(テノール:岡本泰寛、高柳 圭/バス:押見春喜、髙田智士)
ピアノ:朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ|レーマン
■曲目
ロッシーニ(シェーンベルク編)/歌劇《セビリアの理髪師》序曲
パイジエッロ/歌劇《セビリアの理髪師》より「退屈は禁物で」
ロッシーニ/歌劇《セビリアの理髪師》より「おいらは町の何でも屋」
ロッシーニ/弦楽のためのソナタ第6番ニ長調より第3楽章 嵐
ハイドン/弦楽四重奏曲第37番ロ短調Hob.III:37より第1楽章
ロッシーニ/歌劇《パルミラのアウレリアーノ》より「運命の時がやって来ました」
モーツァルト/歌劇《フィガロの結婚》より「準備はできた~男たちよ、眼を開けろ」
ロッシーニ/歌劇《タンクレディ》より「ああ、祖国よ!~胸騒ぎに満ちて」
《セビリアの理髪師》序曲は、情感溢れる高橋礼恵さん、しっかり支えるビョルン・レーマンさんのピアノのデュオが素晴らしい!今回の企画構成をされた小宮正安さんのロッシーニにまつわるお話が曲と曲との間に入りますが、非常に分かりやすく参考になりました。《セビリアの理髪師》のパイジェッロとロッシーニの聴き比べは、歌にしぐさに吉川健一さんの素晴らしいフィガロ!早口言葉が楽しいロッシーニもいいですが、パイジエッロもかなり良かったです。
《パルミラのアウレリアーノ》は天羽明惠さん、体調不良とのことでしたが、超絶技巧の歌を存分に聴かせてさすが!最後は富岡明子さんが《タンクレディ》でビシッと締めました。「ああ、祖国よ!」はヴェネツィアでの初演の翌日にはもうゴンドリエたちが口ずさんでいたという名曲。2003年にトリエステ・オペラ来日公演で観たのが懐かしいです。
【第Ⅱ部】辣腕興行師バルバイヤとの出会い
フランス革命、ナポレオンの台頭、保守反動の嵐...。乱世を逆手にとって頭角を現した稀代の興行師、バルバイヤとの交流に見る、若きロッシーニの姿。
■出演
ヴァイオリン:依田真宣、平塚佳子
ヴィオラ:中村洋乃理
チェロ:湯原拓哉
ソプラノ:天羽明惠
メゾ・ソプラノ:富岡明子
テノール:糸賀修平
合唱:二期会合唱団(ソプラノ:青木雪子、盛田麻央/アルト:喜田美紀、実川裕紀/テノール:岡本泰寛、高柳 圭/バス:押見春喜、髙田智士)
ピアノ:岡田 将、朴 令鈴
■曲目
ロッシーニ(A.ペッシンガー編)/歌劇《オテッロ》序曲
ベッリーニ/歌劇《ビアンカとフェルナンド》より「悩める父君を」
チマローザ/ソナタ ニ長調
ロッシーニ/歌劇《イングランドの女王エリザベッタ》より「心からの感謝を捧げ」
パガニーニ/モーゼ幻想曲 (ロッシーニの歌劇 《エジプトのモーゼ》より「汝の星をちりばめた玉座に」のテーマによる序奏と変奏曲)
ドニゼッティ/歌劇《ロベルト・デヴリュー》より「君に告げよう、この最後の涙の時に」
ロッシーニ/歌劇《湖上の美人》より「この瞬間にたくさんの愛が」
《オテッロ》序曲は解説の「悲劇か喜劇か分からないノリのよさが特徴です」が可笑しい(笑)。2008年のロッシーニ・オペラ・フェスティバルの来日公演の青の舞台を思い出します。ベッリーニは非常に雰囲気のある曲。あれっ!?、糸賀修平さん、さらっとハイE、ハイFを出されていたような気が?もう素晴らしい歌でした。チマローザのピアノは底抜けに明るいバッハという感じでした。
《イングランドの女王エリザベッタ》はまたしても天羽明惠さんが超絶技巧の歌!今日は体調不良で2曲で終了でしたが、それにも関わらず素晴らしいロッシーニを聴かせていただいて感謝感謝です。パガニーニはヴァイオリンがG線だけで弾く難曲中の難曲。依田真宣さん、高音もG線で弾き切って魅せました。《湖上の美人》はメゾ・ソプラノの超絶技巧の歌。富岡明子さんの豊かな声量にこちらの体がビリビリ震えるくらい。またもや素晴らしく締めました!こんなに凄いメゾ・ソプラノがいたんだ!と唸りました。
生誕の地イタリアはもとより、ウィーンやパリといったヨーロッパの大都市でも大成功を収め、話題をさらい続けたロッシーニ。彼の絶大な存在感がもたらした影響。
■出演
クラリネット:コハーン・イシュトヴァーン
メゾ・ソプラノ:富岡明子
テノール:糸賀修平、小堀勇介
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団(ソプラノ:青木雪子、盛田麻央/アルト:喜田美紀、実川裕紀/テノール:岡本泰寛、高柳 圭/バス:押見春喜、髙田智士)
ピアノ:岡田 将、朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ|レーマン
■曲目
シューベルト/イタリア風序曲第1番ニ長調D590
ロッシーニ/歌劇《ゼルミーラ》より「運命よ! お前に従うのなら」、「懐かしき地よ!」
ルドルフ大公/ロッシーニ変奏曲 (ロッシーニの 歌劇《ゼルミーラ》 より 「運命よ! お前に従うのなら」のテーマによる変奏曲)(抜粋)
ロッシーニ/歌劇《ラ・チェネレントラ》より「二人の娘のどちらかが」、「私はもう暖炉のそばで」
ディアベリ/ロッシーニ・ワルツより(1, 2, 3, 5, Coda)
ロッシーニ/歌劇《コリントの包囲》より「敬愛するあなたを~偉大なる神は」
《ゼルミーラ》は糸賀修平さんの輝かしい高音がいい感じ。ルドルフ大公はベートーベンのパトロンかつ弟子、ミサ・ソレムニスを献呈したあのルドルフ大公です。クラリネットとピアノによるロッシーニ変奏曲、初めて聴くルドルフ大公の曲はとても良く書けていて、魅了されました!
《ラ・チェネレントラ》は「二人の娘のどちらかが」は早口言葉が楽しい曲。「ウナギの漁業権」とか「チョウザメ」とか面白い単語が出てきます(笑)。最後は”via di qua”(ここから失せろ)のセリフ。このイタリア語、だいたい面白い場面に出てきます(笑)。「私はもう暖炉のそばで」はまたまた富岡明子さんの素晴らしい歌!アジリタも完璧です。《コリントの包囲》は再び糸賀修平さんの素晴らしい高音。
第Ⅲ部終演後に1つ問題が発生。ルドルフ大公の曲は当初は抜粋の予定が、全曲演奏されてしまったようで、第Ⅳ部以降の開始が25分遅くなりました(笑)。個人的には沢山聴けたので、むしろ嬉しいくらい。ルドルフ大公の破壊力たるや凄まじいものがあります(笑)。
ロッシーニにとって最後のオペラとなった《ウィリアム・テル》。革命の時代に市民階級の崇拝を集め、数多くの芸術家を魅了したスイスの英雄のイメージ。
■出演
ソプラノ:馬原裕子
テノール:糸賀修平、小堀勇介
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団(ソプラノ:青木雪子、盛田麻央/アルト:喜田美紀、実川裕紀/テノール:岡本泰寛、高柳 圭/バス:押見春喜、髙田智士)
ピアノ:岡田 将、朴 令鈴
■曲目
J.シュトラウス1世/ヴィルヘルム・テル・ギャロップ
A.グレトリー/歌劇《ウィリアム・テル》 より序曲、「けっしてならぬ」、「クレルヴォーのロンスヴォー」、フィナーレへの転換曲
B.A.ウェーバー/劇音楽《ヴィルヘルム・テル》 より「草原よ さようなら」、「天には雷鳴が轟き」、「死の近づくのは早く」、「農民の婚礼の行進」
ロッシーニ/歌劇 《ギヨーム・テル》より「ティロリエンヌ」、「我が父の庵よ~友よ、友よ」
ロッシーニ(リスト編):歌劇《ギヨーム・テル》序曲
A.グレトリーの《ウィリアム・テル》は、序曲や「けっしてならぬ」がベートーベンに似たドラマティックな音楽で大変惹かれました!まだまだ凄い作曲家がいるものです。B.A.ウェーバーの《ヴィルヘルム・テル》は自然体の曲。スイスの踊りの聴き比べということで、B.A.ウェーバーの「農民の婚礼の行進」とロッシーニの「ティロリエンヌ」が連続して演奏されましたが、「農民の婚礼の行進」はリズミカル、「ティロリエンヌ」はメロディアス、どちらも雰囲気が出てきました。
そしてリストがピアノに編曲した《ギヨーム・テル》序曲。岡田将さんの素晴らしいピアノ!これでもかと超絶技巧ですが、この歌劇の自由を求める精神に共感したリストの編曲が素晴らし過ぎる!今日はここで涙涙でした…。
(参考)ロッシーニ(リスト編):歌劇《ギヨーム・テル》序曲
https://www.youtube.com/watch?v=3L3BViVKlYM
※ピアニストFernando Cruzさんの公式動画より。岡田将さんも凄かったですが、この演奏も凄いです!
37歳で実質的にオペラの筆を折ったロッシーニ。その後、40年近くに及ぶ「隠退」生活の中で生み出された作品に浮かび上がる、彼一流の世界観。
■出演
ソプラノ:馬原裕子、熊田祥子、鵜木絵里
メゾ・ソプラノ:押見朋子
テノール:小堀勇介
合唱:二期会合唱団(ソプラノ:青木雪子、盛田麻央/アルト:喜田美紀、実川裕紀/テノール:岡本泰寛、高柳 圭/バス:押見春喜、髙田智士)
ピアノ:岡田 将、朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ|レーマン
ハルモニウム:大木麻理
■曲目
ロッシーニ(チェルニー編)/《スターバト・マーテル》より「アーメン」
タドリーニ/《3つのアリエッタ》より「旅路の再会」
マイヤベーヤ/歌劇《ユグノー教徒》より「美しき地よ」
ピアーソル/ヴァイセ/(ロッシーニ)/猫の二重唱
ロッシーニ/踊り
ロッシーニ/楽しい汽車の小旅行(滑稽描写)
ロッシーニ/《小荘厳ミサ曲》より「クム・サンクト・スピリトゥ」、「アニュス・デイ」
《スターバト・マーテル》はピアノ・デュオによる演奏の力強いアーメン・フーガ。1月にオケで聴いたことを思い出しました。《ユグノー教徒》は代役で熊田祥子さんが登場。急きょの出演にも関わらず、高音の難しい難曲を見事に歌って素晴らしい!「猫の二重唱」は代役で鵜木絵里さんが登場。歌詞が書いてないな~?と思ったら、この曲、歌詞は「ミヤウ」のみでした(笑)。馬原裕子さんと鵜木絵里さんの猫のコミカルな掛け合いが楽しい。
「踊り」は小堀勇介さんによる早口言葉の陽気な歌、ノリノリで楽しい!「楽しい汽車の小旅行」はピアノ独奏にお話の小宮正安さんのナレーションが入ります。楽しい汽車の情景の音楽ですが、途中、脱線してしまい…、天国に行った人、地獄に落ちた人のピアノ描写も。「遺産を相続しなければならなくなってしまった遺族の深い悲しみ」のナレーションの後には、何と、有頂天になった軽やかな音楽!(笑)皮肉の利いたロッシーニの面目躍如です。最後はピアノ2台とハルモニウムも加わって、《小荘厳ミサ曲》の素晴らしい歌。昨年9月のオケでの実演を思い出しました。
(参考)2018.1.26 ジェームズ・ジャッド/新日フィルのロッシーニ/スターバト・マーテル
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12348000258.html
(参考)2017.9.1 サントリーホールのReオープニング・コンサート(ロッシーニ/ミサ・ソレムニス)
https://ameblo.jp/franz2013/entry-12307043492.html
いや~、11:00開演、途中休憩を挟みつつも20:30終演の長丁場でしたが、ロッシーニ漬けの非常に楽しい時間でした!まずは、これだけの魅力的な企画をまとめられた小宮正安さん(お話)に感謝感謝です。演奏者・歌手は飛び切りの実力派が集まった印象で、素晴らしいロッシーニを存分に堪能できました!
特に、まだ観たことのない歌劇の《パルミラのアウレリアーノ》《ビアンカとフェルナンド》《湖上の美人》《ゼルミーラ》《コリントの包囲》の歌を聴けたのが嬉しかったです。今年はロッシーニ没後150周年。今回の貴重な体験を糧に、もっと探求して行ければと思います!
(写真)スイスはルツェルンを抱くフィーアヴァルトシュテッター湖。この湖の南部にウィリアム・テルゆかりの地があります。