今回の冬の旅行の実質的な最終日を迎えました。朝一番でライプツィヒから列車で1時間半のドレスデンに移動。さっそくゼンパー・オーパーに、シュターツカペレ・ドレスデンのマチネのコンサートを聴きに行きました。

 

 

Sächsische Staatskapelle Dresden

Semperoper

 

Dirigent: Daniel Harding

Violine: Isabelle Faust

Sopran: Regula Mühlemann

 

Alban Berg

Konzert für Violine und Orchester

»Dem Andenken eines Engels«

 

Gustav Mahler

Symphonie Nr. 4 G-Dur

Für großes Orchester und Sopransolo

 

 

 

(写真)ドレスデンの顔とも言うべきゼンパー・オーパー

 

 

ゼンパー・オーパーにオペラを観に来たことは以前にありますが、ここで純粋なコンサートを聴くのは初めてです。新国立劇場の中劇場の方により近い広さのゼンパー・オーパーのピットの位置から舞台奥にかけて、オケが縦に長く展開。装飾もロココ調で非常に豊かな空間です。

 

 

前半はベルクのヴァイオリン協奏曲。難解で厳しい音の先に濃厚なロマンティシズムを感じさせる、私の一番好きなヴァイオリン協奏曲です!第1楽章。イザベル・ファウストさんは正攻法で奇をてらわず、ヴィブラートも少なく、オケとなじむ一体感のある演奏。途中、オケと絡みながら高まり弾(はじ)けるところの凄み!最後、トランペットが夢見心地の懐かしい長調を吹く場面での絶妙の小グリッサンド!痺れました!

 

第2楽章の冒頭は弦を激しく鳴らして格闘。途中のトーンクラスターからグリッサンドの場面は、オケが弦を豊かに鳴らし、ファウストさんのヴァイオリンもエグみのある音を出すなど、表情がとても豊かです。その後の木管との優しい掛け合いは、残された時間での親との対話、あるいは神との対話のよう。最後、厳しい音楽から解き放たれ長調になって、弱音でゆっくり昇天するシーンは真に感動的でした!

 

ファウストさんは、緑字に白のレース、青のスカート、赤いスカーフを腰に巻いて、Ein Mädchenという風情。アルマの娘のマノンはもとより、ヴォツェックのマリーをも連想させます。ファウストさん、ところどころで、あたかも、あやつり人形のような動き。まるで運命に翻弄される少女を演じているかのようでした。演奏といい、視覚的なものといい、本当に素晴らしい!

 

シュターツカペレ・ドレスデンはめちゃめちゃ雰囲気のある音と演奏。昨年ザルツブルク音楽祭で観たウィーン・フィルによるヴォツェックでも同様の感想を持ちましたが、この2つのオケでベルクを聴くと、厳しい音楽に温かみが加わって、一味違う印象です。1楽章途中では、ワルツがこだまし、この曲はやはりウィーンの作曲家の曲なんだなと実感しました。

 

これまで聴いてきた中で、間違いなく最高のベルク/ヴァイオリン協奏曲の演奏!!!とにかく素晴らしかったです!

 

 

アンコールはGyörgy KurtágFür den, der heimlich lauscht。2分くらいの曲でしたが、ベルク/ヴァイオリン協奏曲と同じ世界観の曲。こういう流れは本当にいいですね。イザベル・ファウストさんのヴァイオリン、今後もいろいろ聴いてみたいです。

 


後半はマーラーの4番。冒頭から木の温もりのある音色!そして、渋い響きも感じます。サントリーホールで聴くシュターツカペレ・ドレスデンは木の温もりの音色の方を強く感じましたが、何と言ったらいいのでしょう、まるで、中世から残る歴史的な王宮、古びた光沢のある、廊下を歩くとギシギシ音を立てるような古い建物、といった感じです。これがいわゆるシュターツカペレ・ドレスデンの「いぶし銀の渋い音」なのでしょうか?非常に聴き応えがありました!

 

冒頭の鈴の音の後のクラリネットを軽やかに吹かせたり、ハーディングさん、入りはとても伸びやかで軽快な指揮。途中の水先案内人風のフルート、クラリネット、オーボエの響きが最高。レーシードシーラーソファソラソーファー♪のところをたっぷり歌って雰囲気を出します。その後の素朴な木管もいい。とにかく、ギシギシいう古い建物の中でのめくるめく展開、という印象です。

 

第2楽章。ミステリアスで、悪魔的というよりは、ここもシュターツカペレ・ドレスデンの懐かしい音色が支配的。とても魅了されました。第3楽章。ひたすら幸せの時間。この楽章はやや苦手としていましたが、いつまでも聴いていたい。そう思える音色と演奏です。最後のスペクタクルな場面の迫力、その後の広がりのある弱音、お見事でした。

 

第4楽章。ソプラノはレグラ・ミューレマンさん。曲や歌詞にとても合う、素晴らしい歌!砂川涼子さんをもう少しリリカルにした感じ、清楚な雰囲気でとてもしっくり来ます。ミューレマンさんのような、まだ日本で聴いたことのない実力派の若手歌手に遭遇できるのも、ヨーロッパ旅行の醍醐味です。ハーディングさんは最後、テンポをぐぐっと落として、名残惜しそうに曲を終えました。

 

素晴らしいマーラー4番、大いに楽しむことができました!ダニエル・ハーティングさんのメリハリを効かせた本格派の指揮。意欲的な表情付けをして、素晴らしいシュターツカペレ・ドレスデンの演奏をさらに高めていました。レグラ・ミューレマンさんの曲にぴったりな歌も非常に印象に残りました。

 

 

シュターツカペレ・ドレスデンのマチネ、素晴らしかったです!何と言ってもシュターツカペレ・ドレスデンの音色や響きが素晴らしい。サントリーホールで聴いても、もちろん素晴らしいですが、ゼンパー・オーパーでコンサートの形で聴いて、よりこのオケの本来の音色や響きを体感できたのかなと思いました。

 

私は世界中のオーケストラの音で、何より好きなのは今回の旅行の前半に聴いたウィーン・フィルの音ですが、シュターツカペレ・ドレスデンの音にも非常に惹かれるものがあります。秋にクリスティアン・ティーレマンさんと来日されてのシューマン・チクルスがますます楽しみになってきました!

 

 

(追伸)2曲聴き終わって、ファウストさんのヴァイオリン、ミューレマンさんの歌が強く印象に残ってやっと気付いたのですが、このプログラムのコンセプトは「天使」だったんですね!

 
 

 

(写真)コンサートの前に食べたドレスデン名物のチーズケーキDresdner Eierschecke。ゼンパー・オーパーの近くのカフェで食べることができ、もはやゼンパー・オーパーに行く時の楽しみの1つとなっています(笑)。