この日、私がライプツィヒに来たのは、聖トーマス教会のバッハの祝祭ミサ、ライプツィヒ歌劇場のラインの黄金ももちろん楽しみでしたが、一番の目的は、コルンゴルトの幻のオペレッタ”DAS LIED DER LIEBE”(愛の歌)の公演を観ることでした。

 

 

Oper Leipzig Musikalische Komödie

Erich Wolfgang Korngold

DAS LIED DER LIEBE

Abschlusskonzert des Operettenworkshops

 

Dirigenten des Workshops:

Clemens Mohr, Alexander Sinan Binder, Valentin Egel

Künstlerische Leitung:

Stefan Klingele

 

Solisten:

Nora Lentner, Mirjam Neururer, Lilli Wünscher,

Andreas Rainer, Adam Sanchez

 

Orchester der Musikalischen Komödie

Moderation: Bettina Volksdorf

 

 

 

(写真)ライプツィヒ歌劇場の喜歌劇場

 

 

この公演はエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの幻のオペレッタ”DAS LIED DER LIEBE”を演奏会形式で上演するものです。歌手は主に歌のパートに専念し、語りの場面は主に進行役が担います。そしてワークショップとして、冒頭や途中で指揮者へのインタヴューや解説が入ります。

 

”DAS LIED DER LIEBE”については、日本語はもとより、英語やドイツ語でもほとんど情報がありません。コルンゴルトのウィキペディアのドイツ語版でも作品名すら出てきませんでした(笑)。どんだけレアなんでしょう?ほぼ白紙の状態で聴きに行きました。

(タイトルの日本語訳も「愛の歌」で正しいかどうかも分からないレベルなので、タイトルは以降もドイツ語とします。)

 

 

まず、演奏の前の指揮者へのインタヴューで、以下のお話がありました。ドイツ語なのでほとんど聞き取れませんでしたが…、大まかには以下のような感じです。

 

”DAS LIED DER LIEBE”は、J.シュトラウスの音楽を下敷きにして、コルンゴルトがオペレッタの作品にしたもの。

◯ワルツだけでなく、フォックストロットなど、いろいろな音楽が聴かれる。ウィーンの音楽とベルリンの音楽が融合されている。

◯1931年にベルリンのメトロポール劇場で初演された。

コルンゴルトは幼少の頃から天才として名高かった。特に「死の都」が有名。(とにかく、コルンゴルトと死の都を褒め称えていました)

 

つまり、J.シュトラウスⅡが自分の曲をつないでオペレッタ「ウィーン気質」を作ったように、コルンゴルトがJ.シュトラウスⅡの曲をつないで、しかもオーケストレーションはコルンゴルトのアレンジを入れて作ったのが”DAS LIED DER LIEBE”なんです。

 

 

そして、プログラムに現在、アメリカはオレゴン州ポートランドにお住まいのコルンゴルトのお孫さん、キャサリン・コルンゴルト・ハバードさんの言葉が載っていました。

 

◯今回の”DAS LIED DER LIEBE”の素敵な公演に言葉を寄せることができ、大変嬉しく思います。

◯祖父の人生において、オペレッタのアレンジ作品を創るのは大変重要なことでした。

◯特に偉大なテノールRichard Tauberのために書かれた”Du bist mein Traum”と”Die eine Frau”の歌に、きっと魅了されることでしょう。

 

 

前半。第1幕の序曲はウキウキする音楽。そしてすぐにワルツになります。やっぱりワルツはいいな~と聴き入っていたら、ピアノの鍵盤をバーンと叩く音が!音楽が止まりましたが、その鍵盤を叩いた方が引き続き進行役として物語を語り、進めていきます。

 

音楽が再開され、ワルツ「ウィーンの森の物語」の旋律に歌!めちゃめちゃ感動します。その後も、勢いの良い曲、ワルツでホロリと泣かせる曲、フォックストロット風の曲(ドラムやユーフォニウムが入る)、ワルツも鉄琴が入ったり、J.シュトラウスⅡとはひと味違う音楽です。J.シュトラウスⅡを下敷きにしつつ、やはりコルンゴルトの作曲した曲、オペレッタの1歩先、映画音楽の1歩手前の音楽、という印象です。

 

そして、ワルツ「南国のばら」の旋律の歌!めちゃめちゃ感動!「ウィーンの森の物語」と言い、あたかも今年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートと連動した企画かのようです。オケも歌手もめっちゃ上手くて、指揮もノリノリで楽しい!

 

 

後半。第2幕の最初はワルツなどのメドレー。天体の音楽、加速度ワルツに続いて、何と、美しき青きドナウも!そして、その後の歌では、ワルツ「ウィーン気質」の旋律に歌!フルート、ハープ、鉄琴が加わりコルンゴルト独特のワルツです。コンミズのお姉さんがニコニコ笑顔でヴァイオリンを弾いて、ドラムのおじさん(ウィーン・フィルの往年の名コンサート・マスター、ゲアハルト・ヘッツェルさんに似ている)がシンバルを叩く前から笑顔を見せて、本当に楽しい!

 

物語はオーストリアの片田舎のまちのホテルで出逢い恋に陥った男女が、ウィーンに帰っても逢ったりすれ違ったり、という物語。詳細な内容はよく分かりませんでしたが、男女の素直な恋や愛の物語は本当にいいものだ、とつくづく感じます。曲が進むに連れて、男女の恋の喜びだけではない展開になり、切ない音楽も出てきました。第2幕最後は、哀愁の中に期待感を持たせた、レハールを思わせるような音楽で締め。いや~、素晴らしい!

 

その後は、ドイツの音楽関係の偉い方が登場してスピーチ。既にお酒が入っているようで、ちょっと怪しい(笑)。ドイツの音楽のトレーニングのシステムや多様性について力説を始めました。司会のお姉さんがやんわり諫めるも止まらず、さらに演説に力が入って、オケのみなさんもニヤニヤしながら聞いていて、もう可笑しいのなんの(笑)。

 

第3幕はやや短くて、2~3曲で終了。最後はワルツ「南国のばら」の旋律を全員で歌って終わりました。ブラヴォー!終演後、観客はみんな笑顔。本当に楽しい公演でした!

 

 

全曲を聴いてみての感想ですが、旋律はJ.シュトラウスⅡの名曲ワルツが次から次へと出てきますが、オーケストレーションの仕方とか、曲の順番とかつなぎ方とか、さすがはコルンゴルトという印象です。ストーリーがもっと分かればより楽しめると思いますが、なしでも音楽の魅力だけで十分に楽しめます。コルンゴルトのJ.シュトラウスⅡへの深い愛情を感じました。個人的にも大好きなワルツ「ウィーンの森の物語」「南国のばら」「ウィーン気質」が入ってて嬉しかったです。

 

今回の公演の指揮は、3人の20代の若手の、まだ勉強中の指揮者が務めていました。みなノリノリで雰囲気たっぷりの指揮で素晴らしかったです!こういう風に、珍しいオペレッタの作品の復活上演に、若手の勉強中の指揮者を大胆に起用して、音楽的にも興行的にも成功させてしまうのは(会場は満席)、さすがはライプツィヒ、さすがはドイツだと思いました。

 

 

この喜歌劇場は600席くらいの小ぶりな劇場ですが、非常にハイレベルで、歌心があって、チャレンジもあって、本当に凄い!東京に欲しいのはこういう企画だと改めて思いました。

 

 

(参考)コルンゴルト/DAS LIED DER LIEBE(練習風景)

https://www.youtube.com/watch?v=7Galp1aGrIY (5分)

※ライプツィヒ歌劇場の公式動画より。今回の公演の前日にアップされた練習風景のダイジェスト動画です。インタヴューの画像が多いですが、少しでも雰囲気が伝われば幸いです。

 
 

 

 

(写真)ライプツィヒ喜歌劇場の今後の上演演目。何と、アルベルト・ロルツィング/ロシア皇帝と船大工をやるようです!めっちゃ観たい!そしてドクトル・ジバゴのミュージカルも!ジバゴとラーラの切ない恋の物語、悲しいバラライカの響き。観る前から感動します。

 

 

(写真)帰り道にライプツィヒ中央駅に立ち寄ると、巨大な輝くオブジェが。宇宙戦艦ヤマトの劇場アニメ映画の第3作「ヤマトよ永遠に」に出てくるゴルバ型浮遊要塞を思い出しました(笑)。

 

 

(写真)この日は、聖トーマス教会でのバッハの祝祭ミサ、ライプツィヒ歌劇場のラインの黄金、そして、ライプツィヒ喜歌劇場のコルンゴルトとトリプル・ヘッダーでした。いずれも非常に充実、大満足の公演。ゲヴァントハウスでのライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のコンサートなしに、こんな組み合わせが実現するライプツィヒって本当に凄い!