ソーニャ・ヨンチェヴァさんのトスカ(ベルリン)、ジョン・ノイマイヤーさん振付のバレエ(ハンブルク)など、並みいる強力なライバルには目もくれず、私がこの日の夜の観劇で、長距離の移動も厭わず、猫真っしぐらでツヴィッカウまで観に来たのは、ホイベルガーのオペレッタ、オペラ舞踏会でした!

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会より“Im chambre separée

https://www.youtube.com/watch?v=I36JTKTyMK4(3分)

ソプラノAnnie Shermanさんの公式動画より。このオペレッタの一番の聴きどころの歌です。拙ブログでご紹介する、おそらく今年一押しの音楽です!ぜひこれを聴きながら、ブログの記事をご覧ください。

 

 

Theater Plauen Zwickau

Richard Heuberger

Der Opernball

 

Musikalische Leitung: Martin Eckenweber 
Regie: Volker Wahl / Michaela Ronzoni 
Bühne/Kostüme: Stefanie Stuhldreier 
Dramaturgie: Ulrike Cordula Berger 

Theophil Schönbusch, Privatier: Karsten Schröter 
Palmyra Schönbusch, seine Frau: Judith Schubert
Henri, Theophils Neffe, Marinekadett: Johanna Brault
Paul Aumann: Marcus Sandmann 
Luise, seine Frau, Nichte von Palmyra: Christina Maria Heuel
Georg Dommayer: John Pumphrey
Margret, seine Frau: Christina Maria Fercher
Hortense, Kammermädchen bei Dommayer: Nataliia Ulasevych
Dodo, Chansonette: Manja Ilgen 
Cisnik, Obernkellner: Jens Herrmann   
Hermann, Diener bei Dommayer / Felsenberg / Ministerialrat: Tilmann Rau  /  Michael Simmen 
Eugen, Kellner in der Oper: Daniel Schuldt

Amor: Immanuel Engel

Mitglieder des Philharmonischen Orchesters Plauen-Zwickau

 

 

リヒャルト・ホイベルガー(1850-1914)。クラシック好きのみなさまにも、もしかするとあまり馴染みのない名前かも知れません?オーストリアの作曲家。ウィーンで合唱指揮者をしたり、ウィーン音楽院で教えたりしています。オペラやオペレッタ、バレエ音楽、歌曲などを作曲していますが、今日、公演にかかるのは、ほぼこのオペラ舞踏会、ただ1作品です。

 

 

オペラ舞踏会のストーリーは単純です。ドムマイヤー夫妻(ゲオルグとマルガレーテ)のところに、親友のアウマン夫妻(パウルとルイーゼ)がやってきます。ゲオルグの叔父の老シェーンブッシュ夫妻とその甥の若き海軍士官候補生のアンリも加わります。

 

マルガレーテとルイーゼは、自分たちの夫を試すために、「ドミノ」という謎の女性からオペラ舞踏会に逢引に誘う手紙を出すこととし、その手紙をお手伝いのオルテンスに書かせます。オルテンスは恋人のアンリにも同じ手紙を出します。簡単に引っかかって、いそいそとオペラ舞踏会に出掛ける男3人(笑)。

 

オペラ舞踏会では女性陣はみなドミノに扮して仮面を付けているので、男性陣は相手が誰だか分かりません。ゲオルグがルイーゼと、パウルがマルガレーテと(つまりカップル入れ替わり)、オルテンスがアンリと(ここは恋人同士)、さらに老シェーンブッシュも踊り子を連れてきて、4組のカップルが入り乱れてドタバタを繰り広げます(笑)。

 

翌日に浮気がバレていさかいになりますが、最後はなぜか丸く収まる、というウィンナ・オペレッタのよくあるパターンの物語です。ストーリーは本当にバカバカしいものですが、これにトロトロの極上のワルツが付いて、素晴らしい舞台となります。

 

 

 

プラウエン・ツヴィッカウ劇場。座席数150の本当に小さな劇場です。新国立劇場の小劇場がだいたい400席なので、その3分の1くらい。そしてオケは10人(笑)。開演前に、座席からオケに手を振る人がいて、オケの演奏者も手を振り返したりして、とてもアットホームな雰囲気です。

 

 

(写真)プラウエン・ツヴィッカウ劇場

 

 

(写真)プラウエン・ツヴィッカウ劇場では3月10日に舞踏会があるようです。めっちゃ楽しそう!

 

 

(写真)何とスッペのオペレッタ/美しきガラテアの公演もやるようです!これ観てみたい!こういう珍しいオペレッタを、新国立劇場の小劇場で、ごくごく簡素な舞台、若手の歌手中心、室内オケで十分なので(できれば演出は楽しく!)、年4本くらいやってほしい!次に芸術監督になる大野さん、どうかよろしくお願いします!

 

 

 

第1幕。舞台はウィーンの瀟洒なお屋敷。大理石の彫刻などが置かれています。背景にカールス教会。最初に彫刻のキューピッドが動き出して、若いお手伝いさんのオルテンスと海軍士官候補生のアンリをくっつけます。それが終わったら、彫刻に戻るキューピッド。小粋な演出です。

 

序曲はもうウキウキ、ワルツで早くも涙。10人のオケですが雰囲気たっぷりの演奏。歌はよく聴こえとても迫力があります。老シェーンブッシュが彫刻に呟いたり、掃除するオルテンスの後に付いていったり、ギャグを連発、いい味を出します(笑)。

 

手紙のシーン、女性陣が男性陣を試そうと手紙を書き進める歌の旋律がとてもいい!オルテンスはひらめいて、自分の恋人のアンリに3通目の手紙。手紙をもらってパウルはもうウキウキ。男って、本当にバカ(笑)。最後にみんなでそれぞれ心情を歌うのもいい。男性陣は4人で肩を組んで舞踏会に行く期待感を歌います。本当にアホ(笑)。最高の第1幕でした!

 

 
 

第2幕。舞台はウィーン国立歌劇場。壁にボックス席の扉が4つ、金の装飾までそっくり、ウィーン国立歌劇場を忠実に再現していました。オケもみなパーティ用の三角の帽子を被ってノリノリ、楽しいなこういうの。

 

この幕は給仕長のシスニックが大活躍。シスニックは役者が演じるので、ウィーン・フォルクスオーパーのロベルト・マイヤー総裁が演じるような立ち位置です。シスニックが若手の給仕に、ボックス席の扉を開けても、直接中を見てはいけない。お盆を鏡にして見るんだ、と指導しますが(理由はご想像にお任せします)、若手の給仕は上手くできずに、扉に激突したりして可笑しい(笑)。

 

そしてここだけ本当のカップルの、若いオルテンスとアンリの2人の歌“Im chambre separée”(別室へ行こう)。素晴らしい歌にもう涙涙涙。こんなにも恋人に対する初々しい期待感、憧れを表す歌がこの世にあるのでしょうか?このオペレッタの白眉、ウィンナ・ワルツの真骨頂です。ホイベルガーが主人公の2組のカップルではなく、真の愛を伝える3番手のカップルに一番素晴らしい歌をつけているのが、またいいのです。

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会より“Im chambre separée

https://www.youtube.com/watch?v=I36JTKTyMK4(3分)

※改めてソプラノAnnie Shermanさんの公式動画。私のイメージでは、このShermanさんの微笑みつつ、はにかみながら歌う初々しい歌が役柄的に一番ピッタリきます。もうドンピシャの動画を見つけました!ブラーヴァ!

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会より“Im chambre separée

https://www.youtube.com/watch?v=_hRQ107JoI8(5分)

ソプラノ歌手Natalia Prysichさんの公式動画より。この歌は若いカップルの歌なので、もっと初々しい方がいいのかも知れませんが、たっぷり色っぽく歌う、めっちゃ雰囲気のある素晴らしい歌!男性歌手との2重唱がとてもいい感じ。ブラーヴィ!

 

 

続いて、シェーンブッシュが連れてきた踊り子ドドに翻弄される愉快なシーン。ドドは、キャビアはできるだけ大きなクルーガー産で、ワインは高級なシャブリで、と勝手に給仕に頼み、年甲斐もなくよこしまなことを考えているシェーンブッシュを大いに慌てさせます(笑)。そして、ドドのオン・ステージ。”Babay Face”を歌って踊って大盛り上がりでした!そもそも、ドドという名前がふるっている。メリーウィドウでダニロが歌う「マキシムの歌」の「ロロ、ドド、ジュジュ~、クロクロ、マルゴ、フルフル~」を連想させます。

 

その後は4つのボックスに4組のカップルが出たり入ったり、可笑しいドタバタのシーンが続きます。若い2人は幸せの時間、ドドはシェーンブッシュから時計など金品をどんどん巻き上げ、ルイーズは最初逡巡するも強いお酒を飲んだらだんだん乗ってきて、マルガレーテは最初からパウルを翻弄して、手紙はクールに受け取ったゲオルグはオペラ舞踏会では豹変して、情熱的になります。

 

途中でオルテンスがゲオルグとパウルからドミノと間違われたりして大混乱。最後は全員が舞台に揃い、男性陣、女性陣が交互に舞台前面に出て、それぞれの思いを歌います。シスニックが「時間だからもう帰って」と言い渡してドタバタが終了。銘々帰っていきます。最後シスニックが「観客のみなさんはまだ帰らなくていいからね~!」と言って、観客もドッと受けて第2幕が終わりました(笑)。もう超楽しい!

 

 
 

第3幕は翌朝のお手伝いさんたちの仕事部屋。オルテンスはまだお酒が残っていて、酔っ払いながらも“Im chambre separée”を歌って、恋人との幸せの時を思い出しますが、最後寝てしまいます。まるで、「こうもり」第3幕のフランクのよう(笑)。その後は、部屋に10くらいある、ご主人さまからの連絡用の鐘がリンリン鳴りまくり、お手伝いさんたちが対応に追われる賑やかなシーン。

 

その後はひとしきり修羅場のシーン(笑)。女性陣が男性陣をとっちめますが、男性陣も手紙は女性陣たちが出したことを突き止め、わざと騙されたフリをしたんだ、と無理筋の反撃。そこにシスニックとドドが乱入して、素知らぬフリして見ていたシェーンブッシュが一転、窮地に追い込まれたりして、もうテンヤワンヤ(笑)。

 

ひとしきり混乱した後、パウルが“Schwamm drüber !”と高らかに言いました。これ、ミレッカー/乞食学生のオレンドルフ総督の歌の名前だ!「水に流す」という意味のドイツ語です。すると、第1幕冒頭に出てきた彫刻のキューピッドがまた動き出して、それぞれのカップルをもとさやに収めてメデタシメデタシ。いや~、もうめちゃめちゃ楽しい舞台!観客も涌きまくっていましたね!

 

 

一番の聴きどころの歌“Im chambre separée”だけご紹介しましたが、オペレッタ全体の雰囲気は以下の2つのダイジェストの動画をご覧いただければ幸いです。全般的に明るくて楽しい舞台ということが、きっと伝わると思います。


(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会のライプツィヒ歌劇場の公演ダイジェスト

https://www.youtube.com/watch?v=kqiMVz4Sk38(5分)

ライプツィヒ歌劇場の公式動画より。

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会の映画版のダイジェスト

https://www.youtube.com/watch?v=7DU9QSsma6s (3分)

※Naxosの公式動画より。

 


ホイベルガー/オペラ舞踏会、はるばるツヴィッカウまで観に来て、最高に楽しかったです!もう理屈なしに楽しめるオペレッタ。オペレッタって、何でこんなに楽しいんだろう?終演後のロビーもみんなニコニコの観客で溢れていたのがとても印象的でした。

 

そして何と言っても素晴らしいのは“Im chambre separée”を始めとしたウィンナ・ワルツ!この冬の旅では、前半にウィーン・フィル、ウィーン・リング・アンサンブルの素晴らしいウィンナ・ワルツを堪能してきましたが、自分でも心底好きなことを改めて実感しました。

 

先日のハンブルク・バレエ団のショスタコーヴィチ/交響曲第11番の音楽を使ったバレエ(ニジンスキー)や、昨年夏にザルツブルク音楽祭で観たベルク/ヴォツェクなど、比較的難しめの音楽ももちろん大好きで最高の芸術だと思いますが、万人に微笑みかけるウィンナ・ワルツって、本当に素晴らしい音楽だと思います!!!

 
 

 

 

(写真)終演後のハウプトマルクト広場。まだクリスマス・ツリーのライトアップが残っていました。

 

 

(写真)夜のロベルト・シューマンハウス。日中にシューマンとクララとピアノを堪能できた3時間。素晴らしい時間をありがとう!

 

 

(写真)夜の夢見るシューマン像。夜はライトアップされていて、また雰囲気が出ます。昼も夜も素晴らしかったツヴィッカウ滞在。いつの日か、また来たいと思います。

 

 

(追伸)“Im chambre separée”、あまりにも好き過ぎて、いろいろ探したら、以下のような演奏もありました!この音楽だけでホイベルガーの名前は永遠に語り継がれることでしょう。

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会より“Im chambre separée (ヴァイオリン版)

https://www.youtube.com/watch?v=Z8mwoajW7Js(4分)

ヴァイオリニストSophie Rosaさんの公式動画より。何と、ヴァイオリン版がありました!クライスラーが編曲して”Midnight Bells”「真夜中の鐘」という名前の曲になったようです。ピアノの伴奏が、また伴奏の音の付け方といい、タッチといい、雰囲気があっていい!

 

(参考)ホイベルガー/オペラ舞踏会より“Im chambre separée (ピアノ版)

https://www.youtube.com/watch?v=maGC7sKHkdU(2分)

植村美有さんの公式動画。さらにピアノ独奏版までありました!ピアノも雰囲気あっていいですね~!とても素敵な演奏。というか、この動画を見たら、いても立ってもいられなくなって、私もこれ弾くことを即決しました!(笑)さっそく楽譜を買いに行こ。超楽しみです!