私がこの日にベルリンに来た理由、日本でほとんど観ることのできないオペラとは、マイアベーア/預言者です。ベルリン・ドイツ・オペラの公演、大変楽しみです。

 

 

Deutsche Oper Berlin

Giacomo Meyerbeer

Le Prophète

 

Musikalische Leitung: Enrique Mazzola

Inszenierung: Olivier Py

 

Jean de Leyde: Bruce Sledge

Fidès: Ronnita Miller

Berthe: Nicole Haslett

Zacharie: Derek Welton

Jonas: Andrew Dickinson

Mathisen: Thomas Lehman

Graf Oberthal: Andrew Finden

Zwei Bäuerin: Sandra Hamaoui, Davia Bouley

Zwei Bauer/Zwei Wiedertäufer: Ya-Chung Huang, Taras Berezhansky

Ein Offizier: Jörg Schörner

 

Orchester:Orchester der Deutschen Oper Berlin

Chöre: Chor der Deutschen Oper Berlin

Kinderchor der Deutschen Oper Berlin

Ballett: Opernballett der Deutschen Oper Berlin

 

 

ジャコモ・マイアベーア。クラシックが好きな方は、きっとこの名前を聞かれたことがあると思います。特にワーグナーの関連で。ワーグナーがパリの不遇の時代に、パリ・オペラ座で一世を風靡していたのがマイアベーア。ワーグナーはマイアベーアに支援を求めますが、十分な支援は得られませんでした。そして、ミンナはワーグナーのマイアベーア風の作品(リエンツィ)を好んだ一方、コジマは対照的に、さまよえるオランダ人以降の作品を好みました。

 

これらのこともあり、ワーグナーが革新的で非常に価値のある作曲家(これは全く同意)である一方、マイアベーアは古くさくて価値のない忘れられた作曲家。なので現代では演目として取り上げられない。こんな見方が大半のように思います。果たして本当にそうなのでしょうか?それを確かめる貴重な機会がやって参りました!

 

マイアベーアの代表作は「ユグノー教徒」「悪魔のロベール」そして今回の「預言者」です。「ユグノー教徒」はマイアベーアの紹介の際によく登場する代表作。「悪魔のロベール」はコルンゴルト/死の都でマリエッタが演じるオペラとして出てくるので名前を聞かれた方もいらっしゃると思います。「預言者」は実は今回の冬の旅行のウィーンのプラシド・ドミンゴさんの特別展でも、ドミンゴさんが主人公のジャンを演じた舞台写真がありました!ウィーン国立歌劇場が公演を行ったことがある、つまりは価値を見出している作品。とても楽しみです。

 

預言者のストーリーは複雑ですが、ごく簡単にまとめると、舞台は16世紀の宗教戦争のドルドレヒトやミュンスター。主人公ジャンがオーベルタール伯の悪の権力により婚約者ベルテと別れさせられてしまいます。ジャンには神の啓示を伝える預言の能力があり、アナバプテストに誘われ、革命軍に参加し、やがては預言者になります。しかし、母親フィデルとの別れやベルテとの再会と別れを経て、最後、自ら死を選ぶ、という物語です。

 

(参考)ベルリン・ドイツ・オペラのマイアベーア/預言者の公演のサマリー動画

https://www.youtube.com/watch?v=EuXWKq3_B7o (2分)

ベルリン・ドイツ・オペラの公式動画より

 

 

第1幕。序曲で群衆が出てきますが、あえて力のない、覇気のない歌。その後のベルテの歌は婚約者ジャンとの結婚への期待感に満ちた素敵な歌です。民衆を扇動する3人のアナバプテストの”Ad nos ad salutarem”の歌から群衆が盛り上がり、クライマックスでは舞台に上下3段に群衆が展開して、国旗が旗めいて。これ、どこかで観たような?そうそう、ミュージカル、レ・ミゼラブルの舞台です!盛り上がるも、ベルテがオーベルタール伯に連れられて行ってしまって幕になりました…。

 

 

第2幕。ジャンの美しい歌。ミーラシラシミー、ファーシドシドファー♪のせり上がりの旋律が響きます。ジャンは3人のアナバプテストから革命のリーダーに、とそそのかされますが、ベルテからもらう野生の花束の方がいいと拒否します。何ていいセリフ!ベルテが帰ってくるも、オーベルタール伯に母親のフィデスを人質に取られて、最後はフィデスを守るために、ベルテを諦めてしまうジャン…。悲しい3重唱。その後のフィデスのアリアも心を打ちます。不条理にジャンはいよいよ覚悟を決めて、革命に参じる意思を示して幕。

 

 

第3幕。場面はアナバプテストたちのキャンプのシーン。建物の壁に「エルサレム」そしてモスクの絵があるので、控えめに革命軍はイスラムを示しているのかも知れません?「名誉でお腹(おなか)は満たされない」のセリフ。あれ!?これファルスタッフと同じセリフだ(笑)。その後のジャガイモの配給のシーンは人間の欲の醜さを示したもの。

 

そして、その後のバレエのシーン!軍隊の暴力的な面、虐待、女性を襲う男性、むごたらしい人間の欲や暴力性をすさまじいバレエで見せました!バレエって、本当に凄い!これ、日本では公演不可能な振付では?後半にはイコンが掲げられ、暴力に参加していたメンバーも改心して祈りますが、最後は結局、そのイコンの奪い合いのシーンとなってしまいました…。3人のアナバプテストたちも理想を忘れ、宝飾品や女性に目がくらみます。理想と現実のギャップ。もうやれやれ…、という感じです。

 

 

(写真)印象的だった第3幕のバレエの場面。イコンの奪い合いのシーン。

プログラムより

 

マイアベーアのオペラで第3幕の長いバレエを観ると、どうしてもワーグナーに触れざるを得ません。タンホイザーのパリ上演の際、パリ・オペラ座の慣習に従い第2幕にバレエを入れることを拒否して(結果、パリ版では序曲に続いてバッカナールができた)、ジョッキークラブから妨害され、たった3日間で公演を取り止めた事件。もともとグランド・オペラのスタイルで書かれているマイアベーアで観る分には、第3幕でバレエが出てきても、全く違和感なく観れました。

 

預言者を非難する群衆。「嘘つき」と叫ぶ合唱の迫力!その後のジョンのアリア”Roi du ciel et des anges”がもう素晴らしいのなんの!うっとりします。最後は大星雲を背景に、勇気づける神の恵みを歌って、非常に感動的なラストでした!

 

 

第4幕。占領されたミュンスターの人々は、とりあえずその方が得だから、という感じで革命軍に従います。ここでジャンと別れ、一人身寄りのないフィデルの渾身のアリア!低音の迫力がもの凄いです。その後のベルテとフィデルの2重唱も聴き応え十分。ジャンはイコンに似せた化粧をしてもらって、王冠を頭に乗せて、心変わりしてしまい、すっかり預言者気取りです。ジャンの登場の場面はバンダのファンファーレがド迫力!

 

そして3人の女性のバレリーナのイコンを交えた踊りとなります。最初はうやうやしくイコンを掲げて踊りますが、だんだんイコンにのめり込んでいって、性的な興奮を覚え、痙攣すらして、最後はまたもやイコンの奪い合いに…。宗教がもたらす別の側面をあざやかに描きます。何度も言いますが、バレエって本当に凄い!

 

その後の合唱は子供の純真な合唱に涙…。フィデルとジャンのやりとり、そんなみすぼらしい女が母親だなんて、ジャンは本当に預言者なのか?と、合唱が問う場面がスペクタクル。母フィデルと子ジャンの感動のやりとり。母は子が窮地に陥らないように、お前のことは知らない、とシラを切り通します。最後はオルガンまで入って、感動の場面をどんだけ盛り上げるんでしょうこのオペラ!素晴らし過ぎます!

 

 

第5幕。この幕はジャンが母フィデルと婚約者ベルテとの縁を取り戻す室内楽的な場面。ここにきて、フィデルのアリア2連発!フィデルはこのオペラで実はジャンよりもベルテよりも、一番歌が難しい役で、体感でドン・カルロのエボリ公女の1.5倍くらい難しい印象です。それを、低音の凄みといい、高音のコロラトゥーラ!といい、フィデル役のロニータ・ミラーさん、抜群の歌でした!海外にはまだまだ凄い歌手がいます。

 

フィデルとジャンの掛け合いも見事。ジャンに温かい言葉をかけるフィデルがもう神々しすぎる!あなたこそ、預言者では?もとい、ほとんどマリア様のようです。ジャンとフィデルとベルテによる「遠く離れてつましく幸せに暮らそう」のセリフの泣ける3重唱が感動的。幸せは近くにある、実感しました。

 

ジャンは最後ベルテと別れた後、自分の生き様にけじめを付けるため、自ら死を選びます。何と、そのピストルは革命が起きても生きながらえたオーベンタール伯から渡され、そして、そのオーベンタール伯がジャンに代わり預言者に成り代わって幕となりました!革命にも関わらず、権力者がまた権力の座に着く何ともやるせないラスト!歴史は繰り返す、という教訓のようです。

 

 

いや~、再びもの凄いものを観た公演!意欲的な演出、印象的なバレエ、卓越した歌手。特にフィデルを歌ったロニータ・ミラーさんには脱帽しました!マイアベーアの預言者、素晴らしい公演でした!何より音楽が本当に素晴らしい!感じとしては、ヴェルディやドニゼッティの音楽を思わせますが、さらに迫力のある音楽です!これの一体どこが価値のない音楽なんでしょうか?マイアベーア、これからも探求していきたいと思います!

 

 

(写真)ベルリン・ドイツ・オペラ。中は上野の東京文化会館よりもっと昭和の香りがする(笑)いい感じのレトロな内装でした。

 

 

(写真)最寄り駅にあったマイアベーアの壁画

 

 

(写真)終演後のカリーブルスト(再掲)。めちゃ美味でした!

 

 

(写真)ホテルに戻りベルリンのビールでリラックス。左は公演のプログラム。