フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァールさんによるオルガン・リサイタルがあったので聴きに行きました。お目当ては、フランスのオルガン音楽の頂点、オルガン交響曲です!

 

 

ミシェル・ブヴァール オルガン・リサイタル

(横浜みなとみらいホール大ホール)

 

E.D.コーロワ/A.イゾワール:「若い娘」にもとづく5つのファンタジー

N.de.グリニー:「ミサ曲」より

  ”ティエルス・アン・タイユのレシ”

  ”5声のフーガ”

F.クープラン:「教区のためのミサ曲」より”グラン・ジュによる奉献唱”

J.S.バッハ/A.イゾワール:4台のチェンバロのための協奏曲イ短調

J.ブヴァール:バスク地方のノエルによる変奏曲

 

L.ヴィエルヌ:オルガン交響曲第2番ホ短調

 

(アンコール)

J.ブヴァール:ボージュ地方のノエル

J.ブヴァール:フランスのノエル

 

 

実はこの日はもう1つ、以下の魅力的なコンサートがありました。

 

新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会

(すみだトリフォニーホール)

 

指揮:マルクス・シュテンツ

 

ハイドン/交響曲第22番変ホ長調 「哲学者」

ハイドン/交響曲第94番ト長調 「驚愕」

ヘンツェ/交響曲第7番

 

 

ハイドンの交響曲2連発!しかもレアな哲学者も!めっちゃ惹かれましたが、ヴィエルヌのオルガン交響曲の方がより希少価値が高く、このリサイタルを聴き逃すと、一生ライヴで聴けないかも知れません。ハイドンに後髪を引かれつつも、期待感いっぱいで、みなとみらいに行きました。

 

 

前半1曲目はコーロワの「若い娘」にもとづく5つのファンタジー。1600年頃に書かれた曲です。「若い娘」は当時から大変有名だった歌曲だそうです。例えばニュルンベルクのマイスタージンガーのエーファを思わせるような快活な曲なのかな?と思ったら、意外にもほのぼのしていて、どこか寂しげな曲でした。

 

2・3曲目はグリニー/「ミサ曲」より”ティエルス・アン・タイユのレシ”と”5声のフーガ”。ミサにおける典礼文に、様々な技法を用いて作曲したものだそうです。”ティエルス・アン・タイユのレシ”は寂しげな響きの曲、”5声のフーガ”はどこかしら威厳のある響きの曲でした。

 

4曲目はクープラン/「教区のためのミサ曲」より”グラン・ジュによる奉献唱”。「グラン・ジュ」とは音色の組み合わせを指していて、基音、倍音、リード管などを組み合わせた華やかな響きになるそうです。その通りで、大変壮麗な響きの、聴き応えのする音楽でした。

 

ここで解説に「横浜みなとみらいホールのオルガン『ルーシー』は、ロマン派の作品を得意とするが、実はフランスバロックのための音色も兼ね備えている」とありました。ここのオルガンは「ルーシー」という名前なんだ!(笑) 名前が付いていると、より愛着が湧きますね。

 

ちなみに、プログラムの解説は、現在トゥールーズでミシェル・ブヴァールさんに師事されている石川優歌さんによるもの。実際にオルガンを演奏されている方の解説は非常に分かりやすく、また、フランスのオルガン音楽に対する愛情に溢れていて、体系立ててかつ実感を持って理解することができました。こういう解説は本当にいいなと思います。

 

5曲目はバッハ/4台のチェンバロのための協奏曲イ短調。イゾワールによる編曲です。4台のチェンバロと小オーケストラによる音楽をカバーしてしまうのがオルガンの凄さです。神々しく、構築感のある響きを堪能しました。

 

6曲目はJ.ブヴァール/バスク地方のノエルによる変奏曲。ミシェル・ブヴァールさんの祖父、ジャン・ブヴァール作曲の曲です。ブヴァールさん、冒頭に旋律を提示して、それを変奏曲の形で展開します。シミファソミ~レミ~の悲しげな旋律が印象的。ノエルを変奏曲にするなんて、何だか楽しいですね。

 

 
 

後半はお目当てのヴィエルヌ/オルガン交響曲第2番。

 

私がオルガン交響曲というジャンルに興味を持ったのは、ヨーロッパでの旅行がきっかけです。教会に行くと、お昼や午後に1時間くらいの小さなオルガン・リサイタルに出逢うことがあり、たまにオルガン交響曲の楽章の1つが演目に挙がるのです。特に印象的だったのがヴィドール/オルガン交響曲第5番ヘ短調の第5楽章「トッカータ」。オルガンのきらびやかさや祝祭感に溢れる、聴き応え十分の曲です。欧米では結婚式でも弾かれるそうです。

 

(参考)ヴィドール/オルガン交響曲第5番ヘ短調 第5楽章「トッカータ」

https://www.youtube.com/watch?v=iZDp8hw7xUE (6分)

※オルガニストのKalevi Kiviniemiさんの公式動画より。ルーアンのサン・トゥアン教会。

 

ヴィエルヌはヴィドールの弟子に当たる存在です。そのオルガン交響曲第2番。第1楽章、冒頭は重厚な入り、途中、勝利を思わせる旋律に感動します。旋律の中の1音ずつを上げながら高めていく音楽はブルックナーの初期の交響曲を連想します。ラストも重厚な音楽。第2楽章、冒頭は高低の旋律を別々のストップでやりとりさせます。音の響きの違いだけでなく、鳴っている場所が違うように聴こえるので、広がりを感じます。最後の神々しい響きに涙。オルガンって凄い!

 

第3楽章、イタズラ小僧のキューピッドが戯れているような(笑)、可愛いらしい音楽です。第4楽章、諧謔から安息の音楽へ、最後のストップの神々しい音色!ストップ1つの選択で曲の印象が変わるのもオルガンの醍醐味です。第5楽章、この楽章も途中の葛藤を経て、感動のラストへ。圧倒的な盛り上がり、というよりはしみじみ長調で終わるラストが美しい。

 

ヴェルサイユ宮殿内礼拝堂の首席オルガニストを務められるミシェル・ブヴァールさんによる、真摯で含蓄のある素晴らしいオルガン!オルガン交響曲の醍醐味を十分に堪能しました!

 

 

アンコール1曲目は、ボージュ地方のノエル。ボージュ地方とはフランスの北東、アルザスに近い地域です。ノエルらしく、しっとりとして、楽しげな響きでした。

 

アンコール2曲目はフランスのノエル。こちらは意外に重厚で厳粛な響きでした。ノエルの音楽にもいろいろあって楽しいですね。

 

 

オルガン交響曲を始め、オルガンの様々な曲の響きを堪能して、心がほっこり、ホクホクになった、素晴らしいリサイタルでした!オルガン交響曲はヴィエルヌで6曲、ヴィドールで10曲もあります。みなとみらいホールには、今回のような素敵な企画を、今後も大いに期待します!(再度ブヴァールさん、または愛弟子の石川優歌さんによる、ヴィドールのオルガン交響曲のリサイタルでどうでしょう?)

 


(写真)会場で購入したミシェル・ブヴァールさんのCD。ヴィドール、フランク、バッハ、リスト、ヴィエルヌが入っています。ゆっくり聴くのがとても楽しみです。