年末で聴きに行くコンサートが少なくなったこともあり、最近、映画づいていますが、先週観た「プラハのモーツァルト」の関連でこの映画のことを知り、世界的な映画祭で沢山の賞を取っていること、そもそも北欧やスウェーデンが好きということもあって、観に行きました。

 
 
 

サーミの血

 

監督:アマンダ・シェーネル

 

エレ・マリャ:レーネ=セシリア・スパルロク

ニェンナ:ミーア=エリーカ・スパルロク

クリスティーナ/エレ・マリャ:マイ=ドリス・リンピ

ニクラス:ユリウス・フレイシャンデル

教師:ハンナ・アルストロム

オッレ:オッレ・サッリ

 

2016 東京国際映画祭 審査員特別賞/最優秀女優賞

2016 ヴェネツィア国際映画祭 新人監督賞/ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞

2016 テッサロニキ国際映画祭 ヒューマン・バリュー賞

2017 ヨーテボリ国際映画祭 最優秀ノルディック映画賞/撮影賞

2017 タイタニック国際映画祭 最優秀作品賞

2017 リビエラ国際映画祭 監督賞/観客賞

2017 ミネアポリス・セントポール国際映画祭 観客賞/ミッドナイト・サン二位

2017 ニューポートビーチ映画祭 外国映画賞

2017 サンタバーバラ国際映画祭 最優秀ノルディック映画賞

 

(参考)映画の公式サイト

http://www.uplink.co.jp/sami/

 

 

サーミとはスウェーデンやノルウェー、フィンランドなど、北欧の国の北極圏に住んでいる少数先住民族です。今まで、地球の歩き方の北欧編などを通じて、色あざやかな服飾やトナカイを家畜とした放牧の生活など、独特の生活や文化を持っている人々ということを拝見して、大変興味を持っていました。この映画は1930年代、スウェーデンが同化政策でサーミ人を迫害する中、スウェーデン人のように生きることを選択したサーミ人の少女、エレ・マリャの物語です。

  

まず真っ先に突き刺さるのがスウェーデン人によるサーミ人への差別のシーン。うつむいて登校するサーミ人の少年少女に暴言を吐くスウェーデン人の若者たち。学校で子供たちにサーミ語でなくスウェーデン語を話しなさいと言う先生。学力の高いエレ・マリャが進学したいと先生に相談するも、サーミ人なので高校に進学出来ないと先生から告げられ…。そして標本のように頭の大きさや顔の長さを測られ、写真を取られる屈辱のシーン…。昔の写真機のフラッシュの「ボン」という大きな音が心にグサッと刺さります…。

 

そのような差別を経験して、エレ・マリャは自ら立ち上がります。サーミ人としてではなく、スウェーデン人として振舞って生きることを選択したのです!ダンスパーティに飛び入りで参加して、自分からダンスのパートナーを見つけるシーン。寄宿舎学校を抜け出し、服を燃やして過去の自分と決別するシーン。ウプサラの都会、綺麗な庭や街並みに控え目に喜んだり、図書館の本やピアノに憧れるシーン。ダンスパーティで踊った男性の家に、親しかいなかったのに無謀にも泊めてくれと飛び込むシーン。そして恋人と結ばれる、とても美しいシーン。先生の名前であるクリスティーナを名乗って、積極的に行動するエレ・マリャの、非常に心に響くシーンが続きます。

 

そして最も印象的だったのが、サーミ人の民族の歌、ヨイクを歌うシーン。妹のニェンナと2人だけで家から湖をボートで渡り寄宿舎学校に引っ越す途中、ニェンナが家を離れることに感傷的になりますが、エレ・マリャがヨイクを歌って励まします。ヨイクはサーミ人にとって魂の歌なのです。

 

ところが、映画の最後の方では、スウェーデン人の学生たちの前でヨイクを歌わされ、学生たちの視線に耐えられなくなり、歌の途中でその場から逃げ出します…。「ヨイクを歌ってみて」と勧めたスウェーデン人の学生は、単なる文化人類学的な好奇心から勧めたもので、エレ・マリャを見世物にしようという気持ちは一切ないように見えます。エレ・マリャ自身が歌っている途中にいたたまれなくなって自ら逃げ出した形。自分のルーツに自信を持つことができない、差別に怯えるエレ・マリャの揺れる気持ちを表した、大変心を打たれるシーンでした。

 

ラストはスウェーデン人の社会の中で生き抜き、学校の先生にまでなった年老いたエレ・マリャが、妹ニェンナのお葬式のために故郷を再訪して感慨に耽るシーンで終わります。自分のルーツを捨てて人生を生きたことに、最後エレ・マリャはどんな思いを抱いたのでしょう?雄大なラップランドの自然、味わい深いラストでした。

 

 

本当にいろいろなことを考えさられた映画でした。日本の場合、北海道を中心にアイヌの方々のことがあると思いますが、近年では、アイヌの独自の文化の継承が難しくなっていると聞いたことがあります。トナカイという言葉はアイヌ語の「トゥナッカイ」から来ていて、アイヌの「ユーカラ」という叙事詩は、フィンランドのあの「カレワラ」と同じ口承文学です。豊かなアイヌの文化を理解し、しっかり残していく、手伝うことは、私たち日本人ができることの1つと感じました。

 

 

サーミの血、さすが映画祭で沢山賞を取っているだけのことがあり、非常に印象深くて心に残る、そして生きることの意味をも改めて気付かせてもらえる、大変素晴らしい作品でした!音楽や美術ももちろんですが、映画の力って本当に凄い!