素晴らしかったフィリップ・ジョルダンさんとウィーン交響楽団の来日公演。その余韻のもと、ワインを楽しんできました。

 

開けたのはレ・フォール・ド・ラトゥール。シャトー・ラトゥールのセカンドワインです。シャトー・ラトゥールはボルドーはメドック地区のいわゆる5大シャトー。ワイン漫画「神の雫」には、主人公の神咲雫くんが初めてシャトー・ラトゥールを飲んだ瞬間の状況が描かれています。

 

「な、何だ、これは?いきなりブラックアウト!?…どこだ、ここは?聞こえる、何かが、弦の音…?オーケストラ!?なんて華麗にして重厚な…、そしてロマンティックな旋律」

 

荘厳なラトゥールをオーケストラの音に見たてるのは、素晴らしい例えだと思います。神の雫はこのようにワインへの愛情や畏敬の念に溢れていて、大好きな漫画、フランスでも非常に高く評価されているそうです。

 

「そう、これは…、ラフマニノフの交響曲2番」

 

う~ん、ここが個人的にイメージが違います。ラフマニノフ交響曲2番の甘美な旋律をお酒に例えるなら、やはりトロ甘のウォッカが良さそうに思います。

 

(参考)2017.11.15 ラフマニノフ交響曲第2番とウォッカ(ストリチナヤ/モスコフスカヤ)

では、一体、シャトー・ラトゥールでイメージするオーケストラの曲は何が相応しいのか?勝手ながら、長年の懸案事項でした(笑)。ラトゥールと言えば、フィネス、二重・三重の要素が織りなす構築感、重厚さ、正統派、偉大な佇まい、こんな印象です。これらのことをイメージさせるのは一体どんな曲でしょう?

 

荘重な構築感から考えると、ブルックナーの5番は一案です。しかし、ラトゥールには開放的な側面や温かみも感じるので、堅固なゴシック様式の建築物とも言われる厳格なブルックナーの5番とはちょっと違う印象です。

 

いろいろ考えましたが、結論としてブラームスの1番が一番相応しいように思います。隙のない構築感、第4楽章の開放感、押しも押されもせぬ堂々たる交響曲、ドイツ・オーストリア音楽の本流中の本流。

 

果たして、本当にブラームスの1番がイメージに合うのでしょうか?ならばここは実際に合わせて、確かめてみましょう!ただ、ラトゥールはおいそれと開けることのできない特別なワインです。そこで、同じ世界観を持ったセカンドワインのレ・フォール・ド・ラトゥールで確かめてみよう、というのが今回の企画です。

 

 

色は綺麗なボルドー・ルージュ。中心はまだまだ濃いものの、縁にはオレンジ色が既に現れています。その中心の赤紫色から縁のオレンジ色までの見事なまでに美しいグラデーション!18年間の時が見事に刻まれています。ラトゥール・ファミリーのワインを飲む時の醍醐味の一つです。

 

香りはもう完璧!重厚でかつバランスが良く、カベルネ・ソーヴィニヨンが完璧に熟成した香りです。甘い果実の香りを中心に、様々な要素が複雑に絡み合い調和します。もう18年熟成しているので、若干枯れ葉の香りも確認できました。

 

味は非常にバランスが良く、旨味や甘味の成分が密度濃く凝縮されて、構築感に溢れる素晴らしい味わいです。最初はやや酸味がありましたが、置いておくとどこかに行ってしまいました。繊細なタンニンがごくごく混ざりますが、ほとんど気になりません。香りも含め、正にいま飲み頃です。あと5年置くともっと良くなるかも知れませんが、いま飲んで正解だと思いました。

 

 

それで肝心のブラームス1番のイメージとの重なりですが、これがイメージ通りでピッタリでした!隙のない構築感、様々な要素が相まったバランスの良さ、スケールの大きさ、それでいて、明るさも併せ持つところなど、非常に合うと感じました。事前の見たては正しかった、と言っていいでしょう。

 
 

それにしても、レ・フォール・ド・ラトゥールの素晴らしさと言ったら!もしその場でラトゥールと比べて飲んだら、凝縮度で若干劣るのかも知れませんが、セカンドワインとは到底思えない、類稀なる壮麗なワインです。

 

奇しくも今日のウィーン交響楽団も、ウィーンのNo.2とずっと言われてきたオーケストラです。もちろんウィーン・フィルがいるので仕方ありませんが、私は今日はウィーンのNo.2のオーケストラを聴いたということではなく、類稀なる素晴らしいオーケストラで、最高のベートーベンとブラームスを聴いた、ひたすらそう思えた幸せな時間でした。

 

何よりも音色や響きが、長い間使って馴染んだ皮製品のように、ベートーベンやブラームスの音楽に実に馴染んでしっくりくるのです。さすがはウィーンのオーケストラという印象でした。フィリップ・ジョルダンさんと長年に渡りいい関係を築いているのも、名演の大きな理由なのは言うまでもありません。

 

 

レ・フォール・ド・ラトゥール、ブラームスの1番を聴いた後に開けるに相応しい、素晴らしいワインでした!フィリップ・ジョルダンさんとウィーン交響楽団の最高のベートーベンとブラームスを讃えつつ、杯を重ねました。ラトゥールも1本だけ持っているので、いつの日かまた、ブラームスの1番を聴いた後に開けるのを大変楽しみにしています。

 
 

 

(写真)レ・フォール・ド・ラトゥール1999。ラベルの塔の数がラトゥール1つに対して、こちらは3つ。その点でもお得感のあるワインです(笑)。