ザルツブルク音楽祭のオペラ公演はどれも非常にレベルが高く、特に一昨日のベルク/ヴォツェックは個人的に完璧だと思いましたが、キャストの豪華さという点で2017年の音楽祭で一番注目された公演を観に行きました。

 

リッカルド・ムーティ指揮/シリン・ネシャット演出/アンナ・ネトレプコ/フランチェスコ・メーリ/エカテリーナ・セメンチュク/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ほかによる、ヴェルディ/アイーダです!

 

 

(写真)開演前のザルツブルク祝祭大劇場

 
 

SALZBURGER FESTSPIELE 2017

GIUSEPPE VERDI

AIDA

 

(GROSSES FESTSPIELHAUS)

 

Riccardo Muti, Musikalische Leitung

Shirin Neshat, Regie

 

Roberto Tagliavini, Der König

Ekaterina Semenchuk, Amneris

Anna Netrebko, Aida

Francesco Meli, Radamès

Dmitry Belosselskiy, Ramfis

Luca Salsi, Amonasro

Bror Magnus Tødenes, Ein Bote

Benedetta Torre, Oberpriesterin

 

Wiener Philharmoniker

Angelika-Prokopp-Sommerakademie der Wiener Philharmoniker, Bühnenmusik

Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor

 

 

この公演、チケットを申し込んだ時点では、一発で取れない上での長期戦を覚悟していました。同様に豪華だった2013年のヴェルディ/ドン・カルロはチケットが事前に全く取れず、当日に何とかギリギリで確保しましたが、その時よりもチケット争奪戦が激しそう…。ところが、音楽祭からのリプライで、意外にも一発で取れました。超ラッキー!

 

そうなると次に心配になるのがムーティさんとネトレプコさん。ご存知の通り、ムーティさんは正しいヴェルディ演奏の伝道師。最高の公演に向けて、イタリア語の発声、抑揚、伴奏との調和など、歌手に正しくも厳しい指導をすると漏れ聞くので、どちらかと言うと、これから出てくる若手で実力派の歌手との公演が多かったように思います。今や当代随一のプリマドンナとなったネトレプコさんとぶつかって、ネトレプコさんがキャンセルしてしまわないかと内心ずっと心配していました。当日の配役表を見て、ホッと安心したところです(笑)。

 

 

第1幕。ムーティさんが出てきただけで、まだ振っていないのにブラヴォーが飛び、さすがザルツブルクで愛されていることを実感します。序曲の繊細で調和の取れた弦!ウィーン・フィルが世界最高の室内楽団と言われる意味が良く分かる瞬間です。2013年のドン・カルロではウィーン・フィルの音色とヴェルディの音楽にやや違和感を持ちましたが、アイーダにはとても合っていて、ピタッとはまって心に沁みてきます。ラダメスの最初の聴かせどころ「清きアイーダ」。フランチェスコ・メーリさん、素晴らしい声のツヤとメリハリ。ウィーン・フィルのヴァイオリンの合いの手、最後のフルートの無限。ああ無上の素晴らしさ!

 

その後のアイーダ・ラダメス・アムネリスの3重唱。1人が突出せず、しっくりと調和します。合唱「聖なるナイルの岸に急げ」は比較的慎重なしっかりとした入り、とにかく弦のニュアンスが凄い!最後はちゃんとストレッタを入れて迫力の演奏です。アイーダの1幕最後のアリア「勝ちて帰れ」。これまで調和の歌に徹していたアンナ・ネトレプコさんが心情を爆発させる素晴らしい歌!「神よ!」のところでゆっくり上がっていく弦の響き!ここでもう感涙、もうとにかくもの凄いもの聴きました!故郷の人々を映像で映す演出も良かったです。

 

 

第2幕第1場。アムネリスは赤のあざやかな服、他のグレーの女性たちとの美しい対比。全体的に、群衆もエジプトは原色、エチオピアは寒色系と別けて印象的な舞台。演出はイラン出身の女性の映像作家シリン・ネシャットさん。新国立劇場のアイーダの演出のフランコ・ゼフェレッリさんのような豪華な舞台ではありませんが、洗練されていて工夫が随所にあり、一言で言うと、とてもセンスの良い充実の舞台でした。ネシャットさん、タイミング良く、今年の高松宮殿下記念世界文化賞を受賞され、先日、来日されました。アムネリスの映える歌、エカテリーナ・セメンチュクさんのアムネリスはよく通る声で素晴らしい。踊りのシーンは水牛の頭の骨を被った男性7人が出てきて、とてもいい味の踊りを展開します。

 

アムネリスとアイーダのやりとりでは、最初王女のプライドを見せるアイーダ。ただひれ伏すだけのアイーダではなく、ネトレプコさんによく合っていると思いました。アムネリスが「ラダメスは生きている!」というところでティンパニが凄い強調。そしてアムネリスが「私にはさからえないのよ!」と啖呵を切るところでは弦の強調。ムーティさんの指揮が冴え渡ります。第1場最後はネトレプコさんのヴィブラートと弦のヴィブラートの美しい調和!

 

第2幕第2場は凱旋の場。豪華な舞台装飾でこそありませんが、人数を配して迫力を出します。洗練されていて非常に美しいシーン。回転する舞台の裏側でエチオピアの捕虜を見せて、勝者と敗者の対比を描きます。ムーティさん、ここは速めの進行でした。途中の踊りでさきほどの水牛の頭の7人が「ドッドッドレドシラシラソファソラファソッミッファ~♪」のところで音楽に合わせて7人が順番に立ち上がっていい感じ。ピッコロのトリルの音がたまらなくいい!エチオピアの捕虜の命乞いをする前のオケが急ぎダンダンダン!と駆け込むところの凄み、最後の7重唱の前の大きな溜め、など、ムーティさん最高の指揮!何という興奮!!壮大な音楽なのに、完璧に調和が取れている!!言葉に言い表せないくらいに素晴らしかったです!!

 

 

第3幕。スクリーンに水の映像。ヴァイオリンのオクターヴの分散和音とフルートにとても合います。アムネリスは今度は青の衣装で登場。アイーダのアリア「おお私の故郷よ」。ネトレプコさんの印象的な歌、オーボエの哀愁極まりない音色、弦の盛り上がるところの迫力、チェロの合いの手、何もかも素晴らしい。アモナスロとアイーダの充実のやりとり、ここも弦がいい。タタータ、タタータの短調からだんだん長調の兆しが出て、アモナスロが長調を高らかに歌い上げ、アイーダで短調になって消えていく音楽。ここ本当に好きだなあ。ルカ・サルシさんのアモナスロ、温かみのある素敵な歌でした。アイーダとラダメスの充実のやりとり。英雄のラダメスが逃亡を決意するメーリさんの演技が見事。最後はラダメスが高らかに決意を示して幕。メーリさん、素晴らし過ぎるラダメスです!

 

 

第4幕第1場。アムネリスは今度は白の衣装。エカテリーナ・セメンチュクさんのアムネリス、とても共感できる歌と演技。アイーダは何度も観ていますが、ここまでアムネリスに共感できたのは初めてかも知れません(ちなみに来年春の新国立劇場のアイーダ公演のアムネリスです)。ランフィス以下、聖職者は赤の法衣で登場。支配する側がアムネリスと交代したかのよう。壁に聖職者が映されますが、だんだん顔が大写しになり力の大きさを示します。ディミートリ・ベロセルスキーさんのランフィス、威厳のある声で権威をよく表していました。ラダメス、ラダメス、ラ~ダ~メ~ス!の場面はチェロが強奏。このオペラ、チェロがポイントと気付かされたムーティさんの指揮でした。

 

第4幕第2場。アイーダとラダメスの感動のやりとり。ウィーン・フィルのヴァイオリンとハープがどれだけ繊細に寄り添うことか!天国的な響き、この世で一番美しいヴァイオリンの音色です。アムネリスは黒の衣装、第1幕から、黄→赤→青→白→黒と心情の変化を衣装の色で見事に表していました。その黒の衣装のアムネリスが祈るようにpaceを唱える中、アイーダとラダメスが一緒になって天国へと旅立ち、幕となりました。

 

 

 

またしても感動的かつ完璧な公演!もの凄い拍手の嵐となりました!舞台ではライバルだったネトレプコさんとセメンチュクさんがお互いの健闘を讃え合って腰を抱きながら下がるシーンは本当に嬉しくなります。メーリさんのラダメス、この豪華なキャストの中でも、歌的に一つ抜け出ていたように思います。そして、ムーティさんには地鳴りのような大喝采!そして、このオペラ公演、一番の大きな喝采はウィーン・フィルに捧げられていました!このオケはオペラも本当に凄い!!!

 

 

さて、この日の日中に、レジデンツ・ギャラリーのアレゴリー(寓意)展で、レンブラントの「キューピッドとしゃぼん玉」を観ました。観た時は愛の儚さなど、他の感想を持ちましたが、この素晴らしいアイーダを観て、印象がガラリと変わりました。

 

(写真)レンブラント/キューピッドとしゃぼん玉

※購入した絵葉書より

 

つまりこの絵、アイーダの後で観ると、愛があまりにも強くて揺るぎなく、出番がなくて仕方なくしゃぼん玉で遊んでいるキューピッド、なんですね(笑)。展示の冒頭に印象的な黒人の女性の絵もあったので、アレゴリー展は明らかに、このアイーダの公演とリンクしていたものと思われます。そう思わずにはいられない、素晴らしいアイーダとラダメスの第4幕でした!

 

 

 

(写真)終演時間は23:00でしたが、あまりにも素晴らしい公演、感極まり、そのノリでお酒を飲みに行きました(笑)。たまたま入ったレストラン、何と食事もOKで嬉しい限り。この旅行の最後の晩餐にあり付けました。

 

ウィーン・フィルに敬意を表して、ヴィーナーシュニッツェルとグリューナーフェルトリナー、そしてマエストロ・ムーティに敬意を表してイタリアの赤ワインも頼みました。ルチアーノ・サンドローネのドルチェット・ダルバ2014は本当に素晴らしく、ほとんどバローロのようでした。

 
 

 

(写真)ザルツブルク旧市街の夜景を見るのもこの日が最後。また逢える日まで!