バイロイトからザルツブルクに到着したてホヤホヤですが、すぐにこの公演を観に行きました。ザルツブルク音楽祭ならではのモーツァルトのオペラ、皇帝ティートの慈悲です。

 

 

(写真)フェルゼンライトシューレに掛けられていた、今年のザルツブルク音楽祭の垂れ幕。赤のリングは運命を表している?

 

(写真)フェルゼンライトシューレの入り口

 
 
SALZBURGER FESTSPIELE 2017

MOZART

LA CLEMENZA DI TITO

 

(FELSENREITSCHULE)

 

Teodor Currentzis, Musikalische Leitung

Peter Sellars, Regie

 

Russell Thomas, Tito Vespasiano

Golda Schultz, Vitellia

Christina Gansch, Servilia

Marianne Crebassa, Sesto

Jeanine De Bique, Annio

Willard White, Publio

 

musicAeterna Choir of Perm Opera

musicAeterna of Perm Opera

 

 

皇帝ティートの慈悲と言えば、2006年のモーツァルト・イヤーの国内のオペラ公演の白眉、ユベール・スダーン指揮/東京交響楽団、ペーター・コンヴィチュニー演出の二期会の公演をご覧になった方もいらっしゃるかも知れません。スダーンさんと東響の極上のモーツァルトに、ペーター・コンヴィチュニーさんの寸劇も取り入れた、ユニークで面白すぎる演出が見事にはまり、望月哲也さんのティート、林正子さんのヴィッテリア、幸田浩子さんのセルヴィーリア、林美智子さんのセストなど、みな適役ハマリ役で、最高の公演でした!

 

第1幕ラストで大火災が起こり、第2幕冒頭、焼け焦げた燕尾服、顔を煤(すす)だらけにして舞台に登場した時の、スダーンさんのはにかんだ笑顔が忘れられません(笑)。私、スダーン/東響のモーツァルトはほぼ全部聴いていますが、活き活きとしつつ造形美も感じさせる極上のモーツァルトは、世界レベルで見ても傑出していると思います。

 

東響の定期やモーツァルト・マチネでまたぜひ聴きたいし(最近、スダーンさんのモーツァルト・プロがなく寂しさを感じ…)、さらに、新国立劇場のモーツァルトの公演にスダーン/東響が入ったら最高なのにとず~っと思っています。ダ・ポンテ3部作を含む7大オペラでももちろんいいですが、できれば、ポントの王ミトリダーテ、ルチオ・シッラ、牧人の王など、若いモーツァルトの傑作オペラをやってほしいと願っています。

 

おっと、前置きが長くなりました。

 

 

第1幕。フェルゼンライトシューレの舞台背景の、幻想的な元馬術学校の観客席を背景として活かした、大変雰囲気のある舞台です。オケは、テオドール・クルレンツィス指揮/ムジカエテルナ。正に才気煥発という言葉が相応しい、非常にメリハリとエグリの効いたスリリングな演奏。舞台は黒人(ティート)の支配する国の想定で、最初、白人のセストとセルヴィーリアは群衆の中から任意に選ばれてそれぞれの役に収まります。民衆の誰もがそういう立場になり得ることを示し、後の暗殺が民衆の手によるものということを想起させます。

 

最初のヴィッテリアのアリア「私を喜ばせたいとお望みなら」が大変な聴き応え。ゴルダ・シュルツさん、初めて聴きますが、とてもいいですね。ホザンナの合唱の場面では、群衆が客席まで広がって大変効果的、演出のピーター・セラーズさん、とにかく群衆の扱いが抜群に上手いです。ティートのアリア「比類この上ない玉座の」もいい感じ。ラッセル・トーマスさん、黒人の統治者を威厳を持って演じていました。マリアンヌ・クレバッサさんのセストの聴かせどころのアリア「私は行く、でも、いとしいあなたよ」も非常に充実、相の手を打つクラリネットも本当に見事。ティート暗殺のために爆弾をみんなで体につけ、悲壮感のある場面。オケがそれを克明に伝える深刻な音楽がとても印象的です。爆弾を見つけられてしまい、最後セストはティートを鉄砲で撃って悲しみの音楽に…。

 

 

第2幕。始まる前に、舞台左で民衆が撃たれて重傷を負ったティートの回復を祈って、ろうそくを灯したり、花束を捧げたりしています。ここで始まったのは、第2幕の音楽ではなく、何と!モーツァルト/ミサ曲ハ短調のキリエ!オペラの間に大胆にミサ曲を挟んできましたが、これが素晴らしい効果!

 

以前、ザルツブルク音楽祭の人形劇のプログラム(マリオネット劇場)で、オペラ「劇場支配人」の間に劇中劇として、オペラ「バスティアンとバスティエンヌ」を挟み込むという離れ技の公演を観たことがありますが、これがものの見事にピタリとはまって非常に感動的!今回のミサ曲の挿入もそれと同様にとても唸らされました。やはり、ザルツブルク音楽祭のモーツァルトは一味違います。

 

 

第2幕、民衆がティートの病室の前で歌う合唱、心揺さぶられる音楽です。その後にミゼレーレの音楽、ティートとセストの周りを2つの輪ができ、歌い踊る感動的なシーン。そしてセストの独白する歌「ああ、この時間だけでも」。再びセストが感情を爆発させる素晴らしい歌!そして、個人的にこのオペラで一番好きなティートのアリア「皇帝の主権にとって、親しい神々よ」!アジリタのところでは傷の痛みに身悶えながら歌う、ティート渾身のアリアです。ヴィッテリアの逡巡のアリア「涙以外のことを」は、ろうそくや花束を蹴散らしながら。ゴルダ・シュルツさん、低音はややキツそうでしたが、振り絞るようにして歌って逆に感動的。

 

そして最後はティートの感動的な赦しの場面。ここは本当に泣けますね…。モーツァルトがプラハでボヘミア王、レオポルトⅡ世の戴冠式のために書いたオペラ、ということを思い出します。最後はティートの気力がみなぎり、点滴を外しますが、その後にバタッと倒れてしまいます。ラ・トラヴィアータのラストを彷彿とさせるシーン…。レクイエムが流れて終わりました。

 

 

まずは素晴らしい演出!フェルゼンライトシューレの印象的な背景をそのまま利用しつつ、舞台の中央で建物が上下に出たり入ったりして変化をつけていました。それに加え、横に長~い舞台を活かして、広い両脇のスペースで群衆が効果的に演技を展開したり、出入りを工夫したり、群衆の動きを上手く魅せた演出でした!そこに、テオドール・クレンツィスさんとムジカエテルナの刺激的な演奏が入り、歌手もみな素晴らしい歌で、大変観応え、聴き応えのあるモーツァルトでした!

 

いやはや、ザルツブルクで観るモーツァルトはどれも刺激的、初めて観るオペラにも思えるほど、斬新です。ザルツブルク音楽祭、やはりモーツァルトとR.シュトラウスのオペラには特に力を入れてきますね。素晴らしいモーツァルトの公演でした!

 
 

(写真)フェルゼンライトシューレ前からの、ザンクト・ペーター教会(手前の緑の塔)とホーエンザルツブルク城塞(奥の山の上)の眺め