7月15日(土)に観に行って、大感激したミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー。すかさずチケットを取り、2回目を観に東急シアターオーブに行きました。

 

(参考)2017.7.15 ミュージカル/ウエスト・サイド・ストーリー(レナード・バーンスタイン)

http://ameblo.jp/franz2013/entry-12293132657.html

※キャスト等は前回のブログをご参照ください。

 

ただ2回目を観に行っても芸がないように思い、今回は特に好きな曲の歌詞を覚えて行きました。「マリア」「トゥナイト」「アメリカ」「サムウェア」「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」の5曲です。すると、いろいろ発見が。1つは音楽と歌詞が非常に密接に書かれていることが分かります。例えば、「マリア」の冒頭は、

 

Maria !

I’ve just met a girl named Maria,

And suddenly that name

Will never be the same to me.

 

「トゥナイト」の冒頭は、

 

Tonight, tonight,

It all began tonight,

I saw you and the world went away.

 

1回覚えると、音楽に乗って歌詞がスラスラ出てくる感じで非常に歌いやすい。歌詞に対して、これしかない、という音楽が付いているように思います。ムーティがヴェルディのオペラで、音楽とイタリア語の歌詞の一体性を非常に重視している、という話をよく聞きますが、きっと同じことがなされているんだと思います。それから、「マリア」の最後の方では、

 

Say it loud and there’s music playing,

Say it soft and it’s almost like praying.

 

という歌詞が。playing(奏でる)とpraying(祈り)をかけていて、作詞のスティーブン・ソンドハイムの卓抜なセンスが垣間見れます。楽しい「アメリカ」の冒頭なんてもうこんな感じです(笑)。

 

ROSALIA

Puerto Rico

You lovely island

Island of tropical breezes.

Always the pineapples growing,

Always the coffee blossoms blowing.

 

ANITA(からかって)

Puerto Rico

You ugly island

Island of tropic diseases.

Always the hurricanes blowing,

Always the population growing.

 

このほか、バーンスタイン盤のCDの歌詞カードに、レニーの日記や識者の解説があり、目から鱗な話がふんだんにあって非常に興味深く読みました。ウエスト・サイド・ストーリーは名作なので、何も知識がなくても十二分に楽しめますが、調べれば調べるほど、奥深い世界です。

 

 

さて観劇に参りましょう!

 

第1幕冒頭、前回に比べてリフ役のランス・ヘイスさんが好調のような気がしました。長い公演、蒸し暑い東京、シングル・キャストだと体調管理はさぞや大変だと思います。リフ「ダンスパーティーで探しものが見つかるかも!」、トニー(「サムシングス・カミング」の最後)「多分、今夜に」と期待感を高めます。ダンス・パーティでやや滑稽なフォークダンス風の音楽から、急にスピードアップしての「マンボ」の入りは音楽も踊りも痺れるほどカッコイイ!「マンボ」は凄い迫力で客席まで迫ってきます。

 

トニーとマリアは「マンボ」の終盤、ダンスの集団が舞台奥に行った時、お互いに気づきました。愛すべき「チャチャ」の後、「マリア」はいつ聴いても泣けますね…。今年はミュシャ展のスラヴ叙事詩で印象的なマリア様を観たり(「聖アトス山」)、モンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」を初めて聴いたり、何だかマリア様にご縁のある一年です。「トゥナイト」は、可愛らしい声のマリアの歌い出しにドキドキし、応じる素直な歌声のトニーにワクワクし、何度聴いても感動します。ミュージカルっていいな~、と心の底から思える瞬間です。

 

「アメリカ」は、けなされてもプエルトリコをこよなく愛するロザリアの舌足らずな歌が可愛い。「クール」は改めて観るとダンスが全体の中で一番難しそう。途中の女性陣だけのキュートな声の"Cool !"がカッコ可愛い!この「アメリカ」と「クール」、シャークスとジェッツの民族的な方向性の違いを歌や踊りでよく表していると思いました。

 

その違いを超えて、トニーとマリアがピュアな歌をしみじみ聴かせる「ワン・ハンド・ワン・ハート」。暗闇の中、抱き合う2人のスポットライトが消え、すぐにその場にジェッツが集団で登場し、トゥナイト5重唱が始まるシーンには本当に痺れます!マリア(1人)→トゥナイト(2人)→アメリカ(シャークスの女性6人)→クール(ジェッツ全員)→ワン・ハンド・ワン・ハート(2人)→トゥナイト5重唱(全員)と見どころのあるシーンをメリハリつけて展開させる最高の流れです!

 

トゥナイト5重唱はジェッツ→シャークス→アニタ→トニー→マリアと歌い出して行って、5重唱を形成しますが、全体を注意して観てみると、ジェッツの女性陣が途中からバルコニーにカッコよく出てきて、トゥナイトの旋律に呼応する副旋律を先導していたり、各々の歌が見事に絡まり合って本当に凄い音楽です!レニーも初演の練習の際に、今まで歌を歌ったこともないような40人の若者が5声の対位法を歌っていることに感動したそうです。オペラのコンチェルタートに十二分に匹敵する至福の音楽の時。

 

 

第2幕冒頭は「アイ・フィール・プリティ」。前回、マリアがゾンビのようなユーモラスな演技をしていたのは女性たちの「きっとマリアは熱病におかされてしまったのね」を受けてと書きましたが、正しくは「マリアは憑りつかれてしまったのね」でした。失礼しました…。そして、何度観ても感動的な「サムウェア」。ここは全てバレエになりますが、サビの”Somehow, Some day, Somewhere !”の歌に合わせて、3回リフトを入れる場面が何と感動的なことか!何度も言っていますが、こういうバレエの表現って、本当に凄い!

 

コミカルな「クラプキ警部」は最後音楽をためて、若者たちがゆっくりえびぞりをして警部に懇願するシーンが仰々しくて可笑しい(笑)。なかなかジェッツに仲間に入れてもらえない女の子のエニボディズ。チノがトニーに仕返しをしようとしているという情報を伝えて、リフに「よくやったな!」と声をかけられ、遂に仲間に入るシーン、大好きなシーンです。敵対するジェッツとシャークスはそれでもお互い仲間がいますが、そのどちらにも入れなかった可哀想なエニボディズ…。誰でも(anybodys)何かしら組織に属していたい、そんな人間の寂しさがよく出ています。主役だけでなく、一人一人にストーリーのある物語です。

 

そしてマリアが切々と歌う感動的な「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。今回、この部分に関する解説を読んだら、旋律は、その直前のアニタの激しい「ア・ボーイ・ライク・ザット」と同じものを使って組み立てていることが判明しました。つまり、アニタが「兄さん(ベルナルド)殺しのあんな奴やめろ」と歌う「ア・ボーイ・ライク・ザット」と、マリアが「愛する人がいる、それだけがすべてなの」と歌う「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」は何と表裏一体の歌なんです!

 

アニタの歌の歌詞はマリアを説得する内容ですが、音楽は実はうらはらに愛への共感を内包していたんですね。そして「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」の最後、アニタが加わってマリアを抱きかかえながら歌う感動の2重唱。アニタがマリアの愛に共感するとともに、亡きベルナルドへの愛を歌い上げる瞬間でもあります。このミュージカルで最もピュアで美しく感動的なシーンです。

 

最後のシーンは音楽がなく、セリフのみとなります。マリアがトニーを撃ったチノの銃を拾って「あと何発残っているの?」と言うシーン。レニーはここのシーンに音楽をつけようとしましたが、どうしても本物にならないと音楽をつけるのを止めたそうです。確かにこのシーンは音楽がなくセリフだけの方がリアリティがあるのかも。シアターオーブの客席のそこここからすすり泣きが聞こえてきました。ラストはサムウェアが解決せずに静かに終わり…、泣かせますね。

 

 

2回目なので、さすがに今日はクールに観れるかな?とも思いましたが、もう全然ダメ…。今回も「マリア」辺りから涙がとめどなく流れ始め、予定通りハンカチ2枚使い切りました(笑)。もうほとんどパブロフの犬のごとく涙腺が反応してしまいますが、それだけ音楽が踊りがセリフが、何もかも素晴らしいんだと思います。

 

最後に一言、強調したいことがあります。それは、

 

名作は何度観ても感動できる。

 

しみじみ思いました。特に、今回のプロダクションを2回観た結果、「ア・ボーイ・ライク・ザット」「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」のパートが新たに大好きになりました!観れば観るほど好きになる作品。来年はレニーの生誕100周年の本番。来年3月にはパーヴォ・ヤルヴィさんがN響とウエスト・サイド・ストーリー全曲を演奏会形式でやるそうです。そこに向けて、改めて作品を探求してみたいと思います!

 

 

(写真)ウエスト・サイド・ストーリー。愛聴盤はもちろんレニーの名盤です!