みなさまは、ミュージカルはご覧になりますか?

 

拙ブログの音楽の話題はこれまでクラシックのみでしたが、実は私、ミュージカルも大好きなんです!ただ、コンサートとオペラを追うのに、既にてんてこ舞いの上、ミュージカルにまで手を出すと生活が破たんしてしまうので…、ミュージカルは海外で観ることをマイルールにしています。

 

これまで、ニューヨークとロンドンで10作品くらい観ました。一番印象に残っているのは、ブロードウェイ史上最悪のミュージカル公演を面白おかしく取り上げた「プロデューサーズ」。パペットが大活躍する「アベニューQ」も人種のるつぼニューヨークならではの味わいがありました。ウエストエンド発の「レ・ミゼラブル」をロンドンで観ることができたのは感動の極み、いい思い出です。

 

ということで、日本では観に行っていませんが、何と!尊敬するレナード・バーンスタインの生誕100周年記念ワールドツアーとして、代表作ウエスト・サイド・ストーリーの記念公演を東急シアターオーブが敢行するとのこと!

 

これは観に行くしかありません!!!

 

 

ブロードウェイ・ミュージカル

ウエスト・サイド・ストーリー

レナード・バーンスタイン生誕100周年記念ワールドツアー

(東急シアターオーブ)

 

原案:ジェローム・ロビンス

脚本:アーサー・ロレンツ

音楽:レナード・バーンスタイン

作詞:スティーブン・ソンドハイム

オリジナルプロダクション・演出・振付:ジェローム・ロビンス

音楽監督・指揮:ドナルド・ウィング・チャン

演出・振付:ジョーイ・マクニーリー

 

【主役】

トニー:ケヴィン・ハック

マリア:ジェナ・バーンズ

アニタ:キーリー・バーン

リフ:ランス・ヘイス

ベルナルド:ヴァルドマー・キニョーナース-ヴィアノエヴァ

 

【大人たち】

ドク:デニス・ホーランド

シュランク:マイケル・スコット

クラプキ:ケン・クリストファー

グラッドハンド:エリック・ローランド

 

【ジェッツ】

アクション:ジョー・ビゲロー

A-ラブ:ライアン・サイヤー

ベビー・ジョン:ダニエル・ラッセル

スノー・ボーイ:ローガン・スコット・ミッチェル

ビッグ・ディール:アンディ・フランク

ディーゼル:カイル・ワイラー

グラジェラ:ローレン・グエラ

ヴェルマ:ジル・ギトルマン

ミニー:カーリー・インゴールド

クラリス:ヴェロニカ・フィアオニ

エニィボティズ:ナタリア・サンチェス

 

【シャークス】

チノ:フリオ・カンタノ

ペペ:キャメロン・ミッチェル・ジャクソン

ルイス:ジョージオ・メタクサス

アンキシャス:ネイハム・メクリーン

ニブルス:ジョナサン・クイッグリー

ムース:A・J・ロックハート

ロザリア:ナタリー・ベレンジャー

コンスエーロ:ケルシー・E・ホリー

フランシスカ:ケイラ・モニース

テレシタ:ローレン・ソトー

マルガリータ:ニッキー・クロッカー

 

 

 

実は東急シアターオーブの2012年のこけら落しの公演もウエスト・サイド・ストーリーで、この時も真っ先に観に行きました。ずいぶんと緩いマイルールだこと(笑)。いやいや、それだけレニーとウエスト・サイド・ストーリーが大好きなんです。その時は、初演時のジェローム・ロビンスのオリジナルの演出・振付で、初めてミュージカルで観るウエスト・サイド・ストーリーの音楽と踊りの融合、スピーディーな展開の素晴らしさに非常に感銘を受けました!映画ももちろん素晴らしいですが、舞台の方がはるかに素晴らしい印象です。今回はそのジェローム・ロビンスの薫陶を受けたジョーイ・マクニーリーさんの演出・振付、とても楽しみです。

 

第1幕が始まりました。生のオケの演奏ですが、音響機器を通じてで、それがちょっときつい印象。でも、次第に慣れてきました。「ジェット・ソング」はセリフの途中から急に歌になるところが鮮やか。その後のトニーの「サムシングス・カミング」は期待感一杯の素晴らしい歌でした!この曲、レニーがホセ・カレーラスのトニー、キリ・テ・カナワのマリアでレコーディングした際にはメイキング・ビデオも作成していて、あの三大テノールであるカレーラスでさえこの歌の独特のリズム感をなかなかつかめないでいた難しい歌ですが、今回のゲヴィン・ハックさんはバッチリでした。

 

ダンス・パーティの場面では、挑発し合うジェッツとシャークスをなだめるユーモラスな司会者がおかしい。脇役まで本当に血が通っています。その後のマンボの踊りの迫力とめくるめく展開!音楽と踊りの融合の素晴らしさに早くも涙がこぼれてきました…。そして小粋な「チャチャ」。触れたいけど躊躇してしまう、トニーとマリアのこの時点での距離感を思わせぶりな踊りで表現します。情熱的なナンバーの多いウエスト・サイド・ストーリーの中で、「チャチャ」は何とも愛すべき可愛らしい音楽です。

 

そして名曲「マリア」。長調に転じる瞬間に世界が一気にパアーっと開けるような素晴らしい歌です!ケヴィン・ハックさんは完璧な高音、低音も充実でした。そして「トゥナイト」。これでもかと名曲が続いて、この辺りで既に涙でハンカチがぐしゃぐしゃに…。マリアのジェナ・バーンズさんは可愛らしい歌声、そして高音が素晴らしい。途中、急激にアッチェレランドをかけて、本当に感動的な「トゥナイト」です。人工的なマンションの鉄柵の踊り場で、トニーがマリアを抱きかかえて正面を向いたり、最後のキメでは2人が手をつないで手を大きく広げて観客の方を向いたり、これぞミュージカルを観る醍醐味です!

 

まだまだ名曲が続き、お次は「アメリカ」。プエルトリコを揶揄してアメリカを持ち上げる歌詞が何ともおかしい。シャークスの女性たちによる素晴らしい踊りが披露されました。この歌は歌だけでなく、囃し立てる掛け声がポイントなのですが、なかなかの盛況ぶりでした。これ、踊りながらなので、本当に大変なことだと思います。「クール」はリフのジェッツのヘッドとしての大きさを見せる場面。集団でジャンプする有名なシーンも本当にカッコ良く決まりました。

 

そして、最後、闘いの前の「トゥナイト」を交えた5重唱!ここはプッチーニのラ・ボエーム第3幕最後の音楽(愛を確かめ合うミミとロドルフォ、喧嘩するムゼッタとマルチェッロの2つの音楽を融合)にインスパイアされて作られた音楽ですが、もう何度観ても感動的。お互いをやっつけてやる、というジェッツとシャークスの怒りのこもった歌と、希望に満ちたトニーとマリアの「トゥナイト」が交錯し、ピタッと1つに融合して、レニーの作曲家としての凄さ・素晴らしさを体感できる瞬間です。個人的にラ・ボエームよりも音楽的なはまり具合は数段上だと思います。観客も大いに盛り上がっていました!

 

 

第1幕が終わると、周りの観客から「すげ~!」(男性)「これなのね!」(女性)など、あちこちから歓声やどよめきが上がっていました!レニーの大大大ファンとしてはとても嬉しい気持ちになり、誇らしくすら思いました。

 

 

第2幕はチャーミングな「アイ・フィール・プリティ」から入ります。恋に心躍るマリアが本当に可愛い。「チャーミング」を「チャルミング」と発音して、プエルトリカンのラテン系の英語を表現します。「きっとマリアは熱病におかされてしまったのね」と女性達が言うのに対し、マリアがゾンビのようなユーモラスな演技をするのが可愛い。本当に芸が細かいです。

 

そして、「サムウェア(Somewhere)」!名曲揃いのウエスト・サイド・ストーリーの中でも一番好きな曲です。それまではジェッツはグレー系、シャークスは赤や黄など原色系の色の服を着ていましたが、ここでは登場人物は全員ピュアな白の服で登場。様々な人種や立場の人たちが手を携え、サムウェアのシンプルな、でもとても奥深い音楽に合わせて踊ります。しかも、ここでの振付には何と純粋なクラシックバレエを持ってきました!理想郷、ユートピア感を高めます。こういうここぞという場面で使われて、バレエって本当に凄い!みなが違いを乗り越え、分かりあい、幸せに生きていけることを希求する極めて感動的な場面!こうしてブログに書いているだけで、感動が蘇り、涙が溢れてきます…。

 

でも、その「サムウェア」の理想は、リフとベルナルドという具体的な犠牲者が出てくることによって、壊されてしまいました…。理想と現実のギャップを表した印象的なシーンです。その後の「ジー、オフィサー・クラプキ」は文楽のチャリ場のように笑いで一息つける場面。ユーモラスな音楽と演出ですが、歌詞は少年たちの置かれている厳しい環境や大人の不作為を風刺していて、本当に良くできたミュージカルです。

 

マリアとアニタが火花を散らす「ア・ボーイ・ライク・ザット」「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。アニタ役のキーリー・バーンさんが全身全霊でマリアを説得する迫力のある歌・演技が印象的です。ここまでの素晴らしい名曲の数々に300%満足し切っていた私。5年ぶりに聴いたこともあり、この後、「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」という名曲があったことを失念していました。

 

マリアのジェナ・バーンズさんが切々と歌い上げるその「アイ・ハヴ・ア・ラヴ」。「うわ~、ここでまだこの曲があったのか~!」と突如現れた感動的な旋律に、震え上がるくらいの大きな感激に包まれました!盛り上がるところで大胆な転調もあり、スケールの大きな曲です。レニーが両手で指揮棒を拝んで振り下ろす魂のフォルテを感じました。マリアの確固たる愛に心を動かされて、アニタも加わり最後は2重唱に。涙なしには観ることのできない感動的な場面です…。

 

フィナーレはトニーがチノに撃たれた後、トニーの亡骸をジェッツとシャークスが協力して厳かに運ぶ感動のラスト。マリアがヴェールを被ることを拒否して、力強くトニーについていったのも印象的。きっと、トニーの意思を継いでジェッツとシャークスの和解や人種間の融和に全力を傾ける決意をしたからでしょう。

 

 

5年前の公演との大きな違いは踊りと踊りの間の劇の部分がやや多かったように思います。そういう場面では、例えば、第1幕の劇の中で、第2幕の「サムウェア」の旋律がちらっと暗示されたり、そういうのを追っているだけでもうワクワクします。踊りは直線的な動きの踊りを取り入れていて斬新でしたが、基本の踊りはオリジナル版を踏襲しているように思いました。.

 

音楽的な魅力がてんこ盛りの作品で、行く前から感動は約束されていましたが、これほどまでに凄いのか!と完全にノックアウトされた公演でした。涙が溢れて溢れてハンカチが1枚では足りませんでした…。ここまでの心の底からの感動というのはなかなかありません。ということで、躊躇せずリピート決定、即座に別の日の公演のチケットを確保しました!あれっ!?、マイルールはどうなったのでしょうか?(笑)そうそう、次回はハンカチを2枚持っていかなければなりませぬ。

 

 

最後に一言、強調したい言葉があります。それは、

 

名作は決して色褪せない。

 

しみじみ思いました。それどころか、今のいろいろと難しい世の中、ウエスト・サイド・ストーリーがあることに感謝してもし切れません。そんな名作の再登場に心強さを覚えた感動の公演でした!

 

 

(写真)公演プログラムと公演のオリジナル・カクテル “Somewhere”。「淡い思い出」をイメージしたカクテルで、「サムウェア」を連想させると共に、マリアの可愛らしさ、強さも感じられる一杯、とのことです。味わい深くいただきました!