キャンティ・クラシコの名門、カステッロ・ディ・アマの試飲会があったので、行ってきました。
カステッロ・ディ・アマ テイスティングイベント
(ワインショップ・エノテカ GINZA SIX店)
①シャルドネ・アル・ポッジョ2014
②キャンティ・クラシコ・アマ2014
③サン・ロレンツォ・キャンティ・クラシコ・グラン・セレツィオーネ2011
④ハイク2011
⑤ラッパリータ2011
⑥キャンティ・クラシコ・ヴィニェート・ラ・カズッチャ2006
私はイタリアワインは全く明るくなく、知っている造り手と言えば、3月に試飲会に参加したベラヴィスタやアンティノーリ、GAJA、カ・デル・ボスコ、ピエロパン、アンセルミなどの有名どころくらい。キャンティはルフィナなら知ってる、と思っていたら、ルフィナはキャンティ・ルフィナという地域の名前で、造り手の名前ではありませんでした、誠にお恥ずかしい…。今回のカステッロ・ディ・アマも初めて知った名前ですが、どうやら素晴らしい造り手のようです。
①は「イタリアのシャルドネ」という感じで、濃さとアルコールの厚みを感じます。香りは樽の香りを感じました。酸もあって長持ちしそうないい白ワインです。
②は第一印象はとてもチャーミング、親しみやすい印象です。香りは果実のようななめし皮のような不思議な香り。味わいはやや酸味も感じますが、とても穏やか。とにかく、言いようのない親しみや懐かしさを感じます。ほぼサンジョベーゼですが、メルロも若干入っているそうです。
③は②と比べると、ぐっと強い濃い印象を持ちます。ただし、味わいは非常にマイルド。サンジョベーゼ80%、メルロ20%とのことでした。
④は、③よりしっかりしたストラクチャーを感じ、より複雑な印象です。やや酸味も感じました。サンジョベーゼ50%、メルロ25%、カベルネ・フラン25%のセパージュ。香りは…、今週は(も)全速力で駆け抜けた一週間で、金曜日の今日は身も心ももうクタクタ…。いずれもサンジョベーゼが主体というのもあるかも知れませんが、②③④の香りの違いは正直よく分かりませんでした…。
「ハイク」という名前は日本の俳句から。自然の情景を季語に託し、短い言葉に想いを集約させる、日本に古くから伝わる「俳句」という表現に深く共感し、「アマのテロワールを尊重し、その個性を1本のボトルで表現する」という想いで造られたそうです。俳句が高く評価されるのは日本人として嬉しいものですね。
海外のワインでこのように日本にちなんだ名前(例えば「マネキネコ」とか「椿ラベル」とか)が付けられることがままあります。もちろん、大きな市場である日本向けのマーケティングということもあるとは思いますが、それ以上に、日本の芸術文化や食文化、モノづくりなどへの共感や敬意、バイヤーや飲み手との交流を通じた日本への愛着(クラシックの観客もそうですが、こんなにも真摯にワインと対峙する人たちはそうそういないそうです)が、そうさせているんだと思います。
⑤と⑥はお値段の桁が1つ上がってきます。ここでオーナー兼醸造家マルコ・パランティさんによる解説がありました。情熱的に話すイタリア語。イタオペとはまた違う響きが本当に心地よいです。
⑤のラッパリータは、単一畑でメルロ100%のワイン。今ではイタリアでも珍しくありませんが、最初にメルロ100%のワインを作ったのがアマだそうです。1985年に最初に造って、非常に話題になり、アマを有名にしてくれたワインとのこと。チューリッヒで世界メルロコンテストという催しがあり、そこであのシャトー・ペトリュスを抑えて、優勝したこともあるそうです!メルロ100%ですが、必ずしもメルロメルロしたワインではなく、アマの特徴が宿っており、非常にキャンティ的なワインになる、との解説でした。
⑤を試してみると…、いや~、甘い!美味しい!金曜でクタクタな身には堪りません!ただ、香りは意外と穏やかで、飲み進めるとヴィンテージが若いせいか、まだツンツンしている印象を持ちます。さらに飲み進めると、やや人工的な感じすらしてきました。カリフォルニアワインなどでも、メルロ100%はいささか苦手にしていますが、同じような印象です。最初のインパクトある印象とは裏腹に、少し身構えてしまうワインに思えます。
私はここで分かりやすい例としてマティーニを思い浮かべました。個人的に、愛してやまないカクテルです。ドライ・ジンとドライ・ベルモット(とオレンジ・ビターズとオリーブ)によるシンプルなカクテルですが、ジンだけではなく、例え数%でもベルモットが入ることによって、化学変化が起こり、劇的に味わいが深くなります。基本はジン3~5にベルモット1でステアして作りますが、傾向としてどんどんドライになってきています。例えばステアグラスをベルモットで洗って流し、そこにジンを注いでマティーニにしたり。サー・ウィンストン・チャーチルに至っては、執事にベルモットでうがいをさせ、その音を聞きながらジンを飲んでマティーニ(?)にしたそうですが(笑)。ただ、いずれにせよ、いくらドライになれど、ジンだけではダメで、ベルモットがなくてはならない存在なのです。
私はメルロ100%のスーパータスカンの草分け、ラッパリータに驚きを覚え、楽しみつつも、パランティさんには本当に申し訳ないですが(ごめんなさい!)、メルロとカベルネ・フランの混醸が織りなすポムロルやサンテミリオンのワインたちへの愛着を改めて感じました。
⑥に進みましょう。このワインは⑤と異なり、キャンティの名のついたキャンティの王様のようなワインです。大変繊細で、パランティさんがおっしゃるように正にビロードのような味わい。非常に細かいタンニンを感じます。もう10年経っていて、それなりに熟成していながら、まだまだ若さを感じます。キャンティのイメージを覆す一本。規格外のキャンティを飲んでいることを実感します。サンジョベーゼ80%、メルロ20%です。
ただ、素晴らしいワインに感動し、その繊細な味わいを堪能しつつも、私は②の人懐こさを忘れることができませんでした。サンジョベーゼの息吹をストレートに感じられる自然体のワイン。キャンティ・クラシコのテロワールを最も表していて、一番魅力を伝えているのは②ではないかと思います。ワイガヤ系の気のおけないイタリア料理のお店で、料理の最高のお供となるでしょう。
そう感じた背景として、先日タンペレ・フィルのシベリウスを聴いて感動したばかり、ということもあるかも知れません。例えばベルリン・フィルのような超スーパー・オーケストラのコンサートを聴きに行けば、それは素晴らしいもので感動すると思いますが、タンペレ・フィルのシベリウスはローカル・オケによる自国の音楽の演奏です。自国の音楽を自然な響きやリズムで演奏できること、普段から演奏機会が多いこと、同国人としての想いが込められていることで、それはそれは感動的なものとなります。残念ながら世界のオーケストラがどんどんインターナショナルになる中、私は今回、タンペレ・フィルのシベリウスを聴けたこと、それに大いに感動できたことを、今後も大切にしていきたいと思いました。
まとめると、⑥のキャンティの王様の素晴らしさを通じて、逆に、②のチャーミングなキャンティの魅力を再発見できた試飲会、キャンティの奥深さと改めての魅力を体感できた貴重な試飲会でした!コンサートやオペラのライヴもそうですが、ワインも実際にいろいろと利いてみると世界が広がりますね。
(写真)キャンティ・クラシコ・アマ2014。クラシックでシンプルでセンスの良いラベル。オーナー兼醸造家のマルコ・パランティさんのサインが入って、より美味しさが増すような気がします。ブッファなど、気のおけないイタオペの後に開けたいと思います!