ゼンパーオパーでは近年、シュターツカペレ・ドレスデンが年末のジルヴェスターコンサートを演奏しています。指揮はクリスティアン・ティーレマンさん。ミュンヘンからドレスデンまでは列車で6時間くらいかかりますが…、そんな長い時間をかけてドレスデンまで来たのは、このコンサートが聴きたかったからです。指揮者・歌手は以下の通りです。


Silvesterkonzert der Staatskapelle Dresden
Emmerich Kálmán
»Die Csárdásfürstin«

DIRIGENT: Christian Thielemann
SYLVA VARESCU: Anna Netrebko
EDWIN RONALD VON UND ZU LIPPERT-WEYLERSHEIM: Juan Diego Flórez
KOMTESSE STASI: Christina Landshamer
GRAF BONI KÁNCSIÁNU: Pavol Breslik
FERI VON KEREKES: Sebastian Wartig
FÜRST LEOPOLD MARIA VON UND ZU LIPPERT-WEYLERSHEIM: Bernd Zettisch
Sächsischer Staatsopernchor Dresden


「ティーレマン指揮/シュターツカペレ・ドレスデンのジルヴェスターコンサートでチャールダーシュの女王を聴けるなら、それだけでもう大満足」と、大変失礼ながら歌手まで確認せずにチケットを取ったのですが…、劇場のプログラムを見てビックリ!何と今を時めくアンナ・ネトレプコさんとファン・ディエゴ・フローレスさんが歌うではありませんか!自分の不注意ですが、非常に嬉しいサプライズです!

そして、もう1つ嬉しいサプライズ。会場に何とカールマンの娘さんが来られていました!紹介があった際に観客が大きな拍手で迎えたのは言うまでもありません。

さっそく最初の賑やかな序曲。ティーレマンさんはもうノリノリで激しくテンポを揺さぶり楽しく盛り上げまくって指揮します。私はこの曲はルドルフ・ビーブル指揮/ウィーン・フォルクスオパーのCDを愛聴していますが、オペレッタの伝道師であり、ウィーンの粋の塊のようなビーブルさんの絶妙な指揮に慣れているので、ティーレマンさんのけれん身たっぷりの(たっぷり過ぎる)ノリははっきり言って場違いですが(笑)、面白いことこの上なしです。

オケも普段はオペレッタをやっていないと思うのですが、もう完璧の演奏。シュターツカペレ・ドレスデンと言うと、渋い音の代名詞のように言われますが、この日は非常に上手いオケ、という印象を持ちました。なにしろ、みんな楽しそうに演奏しているのがいいですね。

ティーレマンさんのノリノリの指揮に会場も温まったところにネトレプコさん登場。会場の目が一点に集中する雰囲気を感じます。「実力派のネトレプコさんだけど、オペレッタはどうなんだろう?」とやや不安もありましたが…、いやー凄いのなんの!心配は全くの杞憂に終わりました。よく響く素晴らしい歌声、そして圧倒的なオーラで会場を完全に虜にします!

少し冷ための歌声もこの悲運のヒロイン(最後はハッピーエンドですが)に合っていると思いました。圧倒されっぱなしでしたが、少し冷静になってネトレプコさんの何が凄いかを探ってみると、高音も低音もどんな音も正確に強い歌声でしっかり歌い(技術がしっかりしている様子・ドイツ語もばっちり)、さらに顔の表情だったり視線の置き方だったり、歌うしぐさが本当に絵になっていて、正に完璧です。かと言って機械的で冷たい訳ではなく、チャールダーシュの旋律の時はもうノリノリで仕舞いには踊り始めたり、サービス精神も旺盛。正にチャールダーシュの女王「シルヴァ」に成りきっていました!(聴きながらこの方がもし「サロメ姫」を歌ったら史上最高ではないかと思ったり)

それに比べるとこの日のフローレスさんはちょっと気の毒だったかも…?(笑)そもそもこの方はドイツ語の歌はほとんど歌ってきていないように思いますが、発音が不明瞭(ほとんどイタリア語のように聞こえていた)な上に、この日はネトレプコさんに完全に喰われていて(花を持たせていた?)、かなり大人しかった印象です。もちろん歌は正確ですが、「連隊の娘」のようにフローレスさんの高音の良さが出ていた、という感じではありませんでした(でも相変わらずの男前)。

一方のネトレプコさんは絶好調。1幕途中の「幸福は遠くまでは追ってはダメ」が始まった時、「もうこの1曲だけ聴ければもう十分かも!」というくらいに感動の嵐が…。大きくためるところなど、ティーレマンさんとの息もピッタリです。

ボニ、フェリ・バッチ、シュタージ役の周りの方々も充実の歌。特にボニとシュタージはカップルになるので2人での歌唱も多くとても楽しめました。ただ、楽しい「ハイマシ・ペーターとパウル」の2重唱を敢えてカットしていたのは面白い選曲だと思いました。ボニ役の方はカーテンコールの花束をオケの女性奏者に渡したり、その後のカーテンコールでは一人だけ手ぶらなのでシュタージ役の方と手をつないで出てきたり(笑)、スマートな立ち振る舞いでいい味出していました。


R.シュトラウスはどうやらウィンナ・オペレッタをよく思っていなくて、特にレハールが嫌いだったようですが、カールマンも同じだったのでしょうか?でも、ここゼンパーオパーではR.シュトラウスのオペラもカールマンのオペレッタも共に楽しむ人で溢れています。ゼンパーオパーにはR.シュトラウスの胸像がありますが、今日の演奏をどんな想いで聴いていたのでしょうか?


終演後は、“Die Mädis, die Mädis, die Mädis vom Chantant~♪”と「歌の上手な歌姫は」の鼻歌を歌いながらの帰り道。最高に楽しいジルヴェスターコンサートでした!



(写真)開演前のゼンパーオパー。このオペラハウスは本当に絵になります。


(写真)ゼンパーオパーを見守るR.シュトラウス像(終演後、他人に迷惑がかからないように撮影)。カールマンの音楽もR.シュトラウスの音楽も共に素晴らしい。


(写真)夜のカトリック旧宮廷教会とドレスデン城