「ニーベルングの指輪」「フィエラブラス」「ウィーン・フィル」と聴いてきた今回の旅もこの公演で終わり。最後を飾るのは、今年が生誕150周年の記念年、R.シュトラウスの「ばらの騎士」です。

 今年は記念年にも関わらず、東京の公演は知り得る限り「ナクソス島のアリアドネ」「アラベラ」のみ。どうしても代表作である「ばらの騎士」を観たかったのが今回ザルツブルク音楽祭まで足を延ばした大きな理由でした。指揮・演出・キャストは以下の通りです。


 Franz Welser-Möst, Musikalische Leitung
 Harry Kupfer, Regie

 Krassimira Stoyanova, Die Feldmarschallin Fürstin Werdenberg
 Sophie Koch, Octavian
 Mojca Erdmann, Sophie
 Silvana Dussmann, Jungfer Marianne Leitmetzerin
 Wiebke Lehmkuhl, Annina
 Günther Groissböck, Der Baron Ochs auf Lerchenau
 Adrian Eröd, Herr von Faninal
 Rudolf Schasching, Valzacchi
 Stefan Pop, Ein Sänger
 Tobias Kehrer, Ein Polizeikommissar
 Martin Piskorski*, Der Haushofmeister bei Faninal
 Franz Supper, Der Haushofmeister bei der Feldmarschallin
 Dirk Aleschus, Ein Notar
 Roman Sadnik, Ein Wirt
 Andreja Zidarič*, Phoebe Haines*, Idunnu Münch*, Drei adelige Waisen
 Alexandra Flood*, Eine Modistin
 Franz Gürtelschmied*, Ein Tierhändler
 Rupert Grössinger, Leopold
 Mitglieder der Angelika-Prokopp-Sommerakademie der Wiener Philharmoniker
 Konzertvereinigung Wiener Staatsopernchor
 Salzburger Festspiele und Theater Kinderchor
 Wiener Philharmoniker

 *Mitglied des Young Singers Project


 よくウィーン・フィルやウィーン国立歌劇場で観る「ばらの騎士」は特別だ、という意見を聞きますが、果たしてそのことを実感した公演となりました!ウィーン・フィルの輝かしくかつ懐かしい音色で音楽を聴くと、この「ばらの騎士」のストーリーがより一層華やかででも切ないものに感じられます。フランツ・ウェルザー=メストさんの指揮は流れるような自然体のもの。時おりもっとタメてほしいなど物足りなさを感じるところもありましたが、今回のシンプルで素直な演出には合っているような気がしました。1幕のテノール歌手のソロの場面の前後では、いろいろな楽器の音がみなクリアに聴こえてきて、ウィーン・フィルの上手さ、それを引き出す指揮者の上手さを実感しました。ワルツの場面のリズムが素晴らしかったのは言うまでもありません。正に夢のような一時でした!

 歌手では特に主役の4人が素晴らしかったです。クラッシミラ・ストヤノヴァさんの元帥公爵夫人は堂に入った歌いっぷり。ややほの暗い歌声はマルシャリンに合っていたと思います。ソフィー・コッホさんは昨年リエンツィのアドリアーノ役が絶賛されていましたが、今回のオクタヴィアンも凛々しくこちらも役柄にピッタリ。マリアンデルの場面や2幕でオックス男爵を刺した後のフェンシングのポーズなど、笑いを誘う部分もとても良かったです。

 最近日本でも人気の出てきたモイツァ・エルトマンさんのゾフィー。やや声が細く感じたところもありましたが、見た目といい透明な声といい、今後はエルトマンさん以外のゾフィーは考えられないのでは?と思わせるほどの可憐なでも芯の強いゾフーでした。オックス男爵を演じたのはギュンター・グロイスベックさん。この方、背が高くハンサムなので、演技のみで粗野なところを出さなければいけないので大変です…。それでも新しいオックス男爵像を示していたと思いました。この他にも歌手のみなさんはみな良かったですが、特に警部役の方が威厳のある立派な歌で光っていました。

 演出はハリー・クプファーさんでどうなるんだろう?と思っていましたが、意外に(?)オーソドックスな演出で好感が持てました。プラーターなどウィーンの風景を背景に、家具などを配し適度に移動させる比較的シンプルな舞台。歌手の動きも奇をてらったものではなく、素直に楽しめました。1幕終盤のマルシャリンのモノローグでは、マルシャリンの心境を反映して、木々の葉が落ちた冬のプラーター(?)の道が背景になっていました。何となく映画「第3の男」のラストシーンを思い出しました。

 2幕でオクタヴィアンがオックスを傷つける場面は、オックス男爵のハレンチさに怒ったオクタヴィアンがファーニナル邸にあったフェンシングの剣でオックス男爵に決闘を申し込みますが、オックス男爵は四の五の言ってなかなか剣を受け取らず…。業を煮やしたオクタヴィアンが剣を放り投げたところ、オックス男爵の腕に当たって傷ついた、という顛末でした。医者が出てきて大したことないよ、という仕草が可笑しい(笑)。その後の「羽根ぶとん」を所望する場面では紫色の大変ゴージャスな「羽根ぶとん」のベッドが出てきて笑いをそそります(笑)。お酒を所望したら、これまた非常に充実したお酒のセットが出てきて、バイエルンの民族衣装の従者も含めてケガをしているはずなのにガンガンお酒を飲みまくり、笑ってしまいました。

 3幕はプラーターの中の一軒家のレストランといった設定で、オックス男爵が驚くのはお化けの被り物です。「パパ~、パパ~」の子供たちは10人くらい出てきて賑やかに。最後の3重唱の場面はやはり感動的で涙をそそります…。必ずしも感傷的でないメストさんの棒が、逆にここではより一層涙を誘います。そしてマホメットがマルシャリンのハンカチに顔を埋める、何とも思わせぶりなラストで終わりとなります。そう言えば、1幕の朝食を持ってくるシーンでも、持って行った後にしきりに部屋の中を気にしていたのは…、そういうことなんですね!

 R.シュトラウスの記念年にウィーン・フィルによる素晴らしい「ばらの騎士」を観ることができ、本当に感無量でした!「ニーベルングの指輪」とR.シュトラウスをテーマにしたドイツとオーストリアの旅はこれにて終了です。読んでいただいて、ありがとうございました。



(写真)R.シュトラウスつながりでティル・オイレンシュピーゲル(ザルツブルクのレストラン)にも挨拶




(写真)ザルツブルク音楽祭もR.シュトラウス生誕150周年


(写真)終演後のホーエンザルツブルク城塞の夜景