昨晩の「ラインの黄金」に続き、今晩は第1夜「ワルキューレ」を観ます。指揮・演出・キャストは以下の通りです。


 Conductor: Kirill Petrenko
 Director: Frank Castorf

 Siegmund: Johan Botha
 Hunding: Kwangchul Youn
 Wotan: Wolfgang Koch
 Sieglinde: Anja Kampe
 Brünnhilde: Catherine Foster
 Fricka: Claudia Mahnke
 Gerhilde: Rebecca Teem
 Ortlinde: Dara Hobbs
 Waltraute: Claudia Mahnke
 Schwertleite: Nadine Weissmann
 Helmwige: Christiane Kohl
 Siegrune: Julia Rutigliano
 Grimgerde: Okka von der Damerau
 Rossweisse: Alexandra Petersamer


 昨晩も素晴らしい演奏だったキリル・ペトレンコ指揮/バイロイト祝祭管弦楽団でしたが、このワルキューレは最高を超えて圧巻でした!「ラインの黄金」では比較的物語を進めることの方に留意していた感のあるペトレンコさんの指揮でしたが、「ワルキューレ」では個々の部分の強弱、テンポの緩急、特定の楽器の強調など、ピタピタッと決まって本当に感動的でした。特に1幕の前奏曲や愛の二重唱、3幕のヴォータンの告別の歌など今思い返してもゾクゾクきます。

 歌手も総じて立派な歌でしたが、中でもヨハン・ボータさんのジークムントとアニア・カペさんのジークリンデが素晴らしかったです!ヨハン・ボータさんはバイエルン国立歌劇場の来日公演のローエングリンを聴いたことがありますが、今回も大変迫力のある歌唱。アニア・カンペさんは歌はもちろんのこと、魂を込めた愛情溢れる演技が素晴らしく、終演後は一番の歓声を受けていました。私もこの素晴らしいジークリンデを観てすっかり虜になりました。1幕の後のカーテンコールでは2人で出てきてお互い抱き合って健闘を称えていましたが、こういう場に立ち会うのは本当に感動的です。また、フリッカ役のクラウディア・マーンケさんが2幕で妖しい声色でヴォータンを脅し、説き伏せていたのもとても印象に残りました。

 さて、演出ですが、「ラインの黄金」のアメリカはルート66のモーテルから、「ワルキューレ」ではアゼルバイジャンのバクー油田の石油掘削所に移りました。そう言えば「ラインの黄金」ではモーテルにガソリンスタンドが併設されていたので何やら関連があるのかも?ジークフリートがノートゥングをトネリコ(の丸太)から取り出すシーンでは、レーニンかスターリンが人民を先導する場面と思しきプラウダ誌の新聞記事がスクリーンに大写しになります。

 帰りの飛行機の中でプログラムを読むと、1910年のスターリンの「バクーからの手紙」という文章が載っていて、バクーの油田の置かれている状況や従事する労働者の組合やストライキのことなどが書かれていました。スターリンは後日、「バクー油田で労働闘争を学び一人前の革命家になった」と回想しているようですが、資源を持つ資本家側(神々やワルキューレ、施設管理者?のフンディング)と労働者や奴隷?側(ジークムントとジークリンデ)との間での戦いやドラマが、このワルキューレの演出のポイントのようです。

 ジークムントによる反撃は2幕で挫折し、3幕冒頭のワルキューレの騎行では、赤い旗を持った革命家たちが石油採掘所を占拠したところ、イスラムの資本家側の婦人や娘たちとおぼしきワルキューレたちによって毒ガスで一網打尽となり(英雄の魂の収集)、革命の成功はバーナード・ショーが「天性のアナキスト、バクーニンの理想像」と呼んだジークフリートの誕生を待つことを示唆しているような舞台でした。ところどころに意味不明な部分もありましたが、音楽がとにかく充実していたこともあり、大きな枠組みではそんなに違和感はありません。ジークフリートではどんな展開になるのか、期待します。



(写真)開演15分前の合図のファンファーレ