今回、急ぎ足でシエナまで来たのは、シエナのドゥオーモにワーグナーが感動して、パルジファルの聖杯城のモデルとしたからです。ワーグナーは同行した画家のジュコーフスキーにドゥオーモの内部空間をスケッチさせ、それをもとにバイロイト音楽祭のパルジファルの初演の舞台をデザインしています。


(写真)シエナのドゥオーモ。見れば見るほど立派で調和の取れたファサード。大きなバラ窓が印象的。


 ドゥオーモの内部は白黒の柱が目につく重厚な空間。美しい床面装飾、ピッコローミニ家の豪華な祭壇、上品な金と緑のクーポラ、凝った装飾の説教壇、ブロンズの祭壇、ステンドグラスなどなど、各々のパーツはそれぞれに主張があって素晴らしく、でも全体として調和を感じます。本当にいつまでもいたくなる素敵な空間でした。

 中でも最も印象に残ったのが、ピッコローミニ家の図書室です。「ピリス2世の生涯」という連作の美しいフレスコ画が並び、その下にこれまた美しい彩の聖歌の楽譜がずらりと並んでいました。少年の聖歌隊の素朴な合唱の響きは、パルジファルの透明感のある響きを連想させます。


(写真)たっぷり1時間ぐらい見て外に出ると青い空が。さながらパルジファル第3幕のフィナーレのような、すがすがしい気分に。


 さて、パルジファルつながりでどうしてもこの日の内に観たい絵があり、夕方にフィレンツェに戻りました。フィレンツェ・サンタ・マリア・ノヴェッラ駅からまっすぐ向かったのはウッフィツィ美術館です。


(写真)ウッフィツィ美術館。ルンッサンス絵画の宝庫。奥に長~い列が…。


 ウッフィツィ美術館は企画展として、Il Gran Principe展をやっていて長蛇の列、中に入るまで1時間近くかかりました…。企画展をやっていたのは、どうやら常設展示の部屋を改修していたこととも関係があるようで、一部の常設展示が見当たりません!ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」や「春/プリマヴェーラ」、レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」などの絵はありましたが、目的の絵が見つからず…。

 ところが、常設展示の3Fから企画展示の2Fに行くと、どうやら普段は常設展示されている絵が企画展示として出されているようです。ベッリーニの「宗教的寓話」、パルミジャニーノの「長い首の聖母」など常設展示になかった絵も出てきました。期待が持てます!

 そして、遂に企画展の一番最後の方で目的の絵に辿り着きました。その絵とは…


(写真)ティツィアーノ「ウルビーノのヴィーナス」
※購入した絵葉書より


 ティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」です。ワーグナーはパルジファル第2幕のクンドリがパルジファルを誘惑する場面で、身を横たえた姿勢で誘惑するようにト書きで指示をしているそうですが、それはワーグナーの頭の中にこの絵があったから、とのこと。確かに実際に間近で観てみて、大変不思議な魅力を持った絵に思いました。クンドリはタンホイザーのヴェーヌスとエリーザベトを合わせた存在という説もあるそうですが、この絵にはヴェーヌスとエリーザベト両方の要素が同居しているような気もします。本当に不思議な、そして魅力的な絵でした。



 ヴェネツィアのこともブログに書きましたが、ワーグナーはイタリア旅行で触れた絵画や教会などからいろいろとインスピレーションを得て、それを自身の芸術に活かしていることが体感できました。イタリアって、やっぱり凄いですね!


(ヴェネツィアのワーグナーはこちらで)
http://ameblo.jp/franz2013/entry-11753000246.html



(写真)ウッフィツィ美術館そばのヴェッキオ橋(おまけ)。ジャンニ・スキッキのラウレッタのアリアに登場。橋の真ん中にはベルリオーズのオペラにもなった金銀細工士ベンヴェヌート・チェッリーニの像があります。