困っても仕方ないので、「行っちゃえ!」ということで歩いて行くことにしました。ただ、本当はレ・ロンコーレとサンターガタの両方を訪ねたかったのですが時間的に無理。レ・ロンコーレのヴェルディの生家は改修中で閉まっているとのことなので、生誕の記念年ですが泣く泣く諦め、開いているサンターガタのヴェルディの家を目指します。

 歩き始めてしばらくすると、”S.AGATA 5”の標識。「えっ、3kmじゃなかったの?」………めげずに歩みを進めます。


(写真)標識。ブッセートとはしばしの別れ。

 歩道が整備されている訳ではないので、車に注意しながらでしたが、車通りはそんなになく、歩きにくい感じではありません。のどかな畑の風景が広がります。


(写真)のどかな風景が続く。

 そのうち、黄色の目立った看板を発見。「ブッセートへようこそ」そしてヴェルディの肖像があるのは分かるのですが、なぜか“BUSSETO-SALISBURGO”、そしてモーツァルトの肖像が?「ブッセートはモーツァルトで言えば生地ザルツブルクに相当する」というメッセージでしょうか?晩年のヴェルディはモーツァルトのドン・ジョヴァンニのスコアを研究していたということを何かで読んだことがありますが、興味深い看板でした。


(写真)興味深い看板。ナブッコのヴァ・ペンシエーロの楽譜も。

 「自転車だったら看板を見逃したかもしれないので、歩くのも悪くないな。」と思い始めた頃、1台の車が私の横で停まりました。

  おじさん 「ヴェルディの家に行くのか?」
  私 「そ、そうです。」
  おじさん 「遠い、遠い。車に乗れ!」

 もう半分くらいは歩いたので、そのまま歩いても良かったのですが、せっかくのご厚意なので、乗せていただくことに。すると、道路を左折して、サンターガタとはややあさっての方向に進み始めました。「あれっ?どこに行くんだろう?」と不安な気持ちに…。でも、この辺で他の目的地があるとは思えず、そのままお任せすることにしました。

 すると、その先を右折して、何度か角を曲がり、10分くらいで無事にヴェルディの家に到着。帰り道はすべて歩いたので分かったのですが、最初に歩いていた道をまっすぐ行っても、途中からヴェルディの家とは水路1本隔てる形となるので、辿り着けなかったようなのです(その手前に水路を渡る小さな橋はあるのですが、ちょっと分かりにくい)。

 おじさん、本当にありがとう!ここで少ないイタリア語のボキャブラリーから一言。

  私 “Grazie mille, molto gentile !”

 おじさんも笑顔で嬉しそう。求められてハイタッチをしてお別れしました。


(写真)ヴェルディの家の見学の入口

 ヴェルディの家は午後は2時からのオープン。ただ、ガイドの方の案内で周る形となり、この日は2時半から他のイタリア人見学者3人と一緒に周りました。

 家の中はヴェルディの部屋、ジュゼッピーナの部屋、居間、グランド・ホテル・エ・デ・ミランのヴェルディの最後の部屋の復元などでした(私は海外旅行では室内で写真を撮らないようにしているので写真はありません)。ヴェルディの部屋には、作曲机があり、ここで「イル・トロヴァトーレ」以降のヴェルディのオペラが書かれたことを思うと、胸が熱くなります!(もちろん、作品によっては全てここで書かれた訳ではないようですが。)ピアノも置いてありましたが、ヴェルディは音楽が頭の中にあったので、ピアノはそんなに使わなかった、とガイドの方が言っていました。

 資料室のような部屋もあり、そこで興味深かったのは、ヴェルディの感想が書かれているワーグナー/ローエングリンの楽譜。ヴェルディは1871年にボローニャでローエングリンを観ていますが(おそらく生涯で一度だけ)、この楽譜を持って観たとのこと。その感想とは?「音楽は美しいが物語がゆっくり進むので退屈」というようなことが書いてあるそうです(笑)。

 庭にでると、家につながって小さな礼拝堂がありました。ブッセートのまちの人々はヴェルディが他の女性と再婚して戻ってきたことが面白くなく、ジュゼッピーナが教会に行くとミサが中断されたこともあるそうなので、ここでお祈りをしたものと思われます。日常的には人との交流が限られる、まちから離れたこのサンターガタの地で、血の通った熱い人間ドラマの繰り広げられるヴェルディのオペラが書かれたのは大変興味深いことです。


 念願のサンターガタのヴェルディの家を訪問でき、大変感慨深かったです!歩いて行ったので、図らずもブッセートとの距離感も体感できました。なお、帰り道は全て歩きで1時間以上かかりました。途中、犬に吠えられたり…(野犬こそいなかったものの、いたらピンチだったかもしれません)、早く日が暮れて心細かったり、そもそも人影の見当たらないところなので、行かれる場合は、気候の良い季節に自転車を借りて行く方が無難だと思います。



(写真)奥の黄色の家がヴェルディの家


(写真)サンターガタの風景