今回幸運なことにチケットを入手できたので、初めてバイロイト音楽祭に参加します。午前中にバイロイト市内を観光の後、ランチを取って仮眠し、16:00からの公演の1時間前にホテルの用意したワゴンで音楽祭会場に向かいます。駅の脇を通り、丘を登り、ワゴンの中から祝祭歌劇場が見えてくると胸が高鳴ります。

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                (写真)バイロイト祝祭歌劇場

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                (写真)ワーグナーがお出迎え

 今日の演目はローエングリン。指揮・演出・主なキャストは以下の通りです。

   Conductor: Andris Nelsons
   Director: Hans Neuenfels

   Heinrich der Vogler: Wilhelm Schwinghammer
   Lohengrin: Klaus Florian Vogt
   Elsa von Brabant: Annette Dasch
   Friedrich von Telramund: Thomas J. Mayer
   Ortrud: Petra Lang

 開演15分前には劇場のバルコニーから次の幕で演奏される主題が金管楽器により演奏されます。これを聴いてから、いざ劇場の中に。

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              (写真)バルコニーからの金管の演奏

 劇場の中に入ってみると、思っていたよりも大きく、そして横に広い印象。装飾は抑えられ、明かりもやや暗く、言われているように音楽第一の造りです。また、オケピットが通常のオペラハウスよりも下の深い位置にあり、オケも指揮者も全く見えない造りになっています。そして座席。座る部分はいいのですが、背もたれにクッションがなく、背中が直接木に当たる形となります。ワーグナーは観客がウトウト眠らないようにそうした(笑)と言われていますが、慣れている観客はクッション持参で対応するとのこと。私は今回初めてなので敢えてクッションは準備せず、ワーグナーの考えに従い自然なままでの観劇を試みました。(結論としては、1幕1時間ぐらいで休憩なら何とかなりますが、それでも背中が痛くなるので、特にラインの黄金や神々の黄昏などの場合、クッション持参の方が無難です。)

 指揮者が入ってきたかどうか分からないので、観客が静まった後、おもむろに演奏が始まります。ローエングリンの有名な第1幕への前奏曲。初めて聴くバイロイト祝祭管弦楽団のとても繊細な音に冒頭から痺れっぱなしです!前奏曲が終ると歌が始まりますが、金管が強奏するような場面でも歌はかき消されることなくハッキリ聴こえ、また、オケもどの楽器の音もよく聴こえ、なるほど、これが噂に聞くバイロイトの音なんだと感心しながら聴きました。

 第1幕のエルザを巡るやりとりの後、いよいよローエングリンが登場します。現在、世界最高のローエングリンと公演毎に絶賛されているクラウス・フローリアン・フォークトさんの美しい声が響くと、感心した聴衆によるため息とも何とも言えない反応が漏れます。しばしうっとりした後、迫力の合唱、緊迫の対決の後、ローエングリンの勝利と喝采で第1幕が終わりました。

 バイロイト音楽祭は幕間が1時間ぐらいあります。食事や飲み物を楽しむ以外に、私は周辺の散歩に出ました。少し行くととても雰囲気のある池があったり。観客の中にはグラインドボーン音楽祭のようにピクニックセットを芝生に広げて楽しむ方も。タキシードでばっちり決めた中年の男性2人がシートの上でゆで卵と格闘しているのが見えて、何だか微笑ましかったです(笑)。

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              (写真)幕間の散歩も楽しみの一つ

 その後もワクワク、ドキドキしながら、第2幕、第3幕と進み、あっと言う間に終演を迎えました。丁寧に表情をつけて歌い切ったエルザ役のアンネッテ・ダッシュさん、迫力満点の歌唱のオルトルート役のペトラ・ラングさんを始め歌手はみんな素晴らしかったですが、何と言っても、フォークトさんの格調高く美しい声が素晴らしく、カーテンコールでは観客が総立ちになりました。素晴らしい演奏だった祝祭管弦楽団も最後に全員で舞台に上がり、喝采を浴びていました。服装はみなカジュアルな出で立ち、きっとノビノビ演奏できたことでしょう。

 指揮者はアンドリス・ネルソンスさん。大変手堅い指揮で安心して聴けました。ただ、一点だけ、第2幕でエルザとオルトルートの長い掛け合いが終わった後、エルザの旋律をオケだけが後奏する2幕で私の一番好きな部分があるのですが、テンポを非常に落として演奏していたのが個人的には残念。たっぷりやりたくなる気持ちは分かるのですが、ここはあっさり行った方が儚いエルザの先行きを暗示して味が出るのに~、など勝手に思いながら聴いていました。

 さて、問題は演出です。既にいろいろと言われているノイエンフェルスさんのネズミの舞台です。前奏曲の後、第1幕の幕が開いて、両側に沢山並んだネズミが登場した時、「これが噂のネズミか!」と思いました。舞台だけでなく、第1幕最後のローエングリンとテルムラントの戦いの場面では上からスクリーンが降りてきて、ネズミのアニメも映し出されます。これは舞台の被り物の違和感のあるネズミと違ってなかなか可愛いのですが、スクリーンに気を取られて、ローエングリンがテルムラントを打ち破るシーンを見逃してしまい…。このネズミの演出、旅の途中や帰りのフライトの中でもいろいろ思いを巡らせたのですが、果たしてどういう意味があるのかはよく分かりません。ただ、何となく浮かんだのは、

○「ハーメルンの笛吹き男」の物語を意識?
(大量発生したネズミを退治した男に約束を破って報酬を払わなかったところ、町の子供たちを連れ去ってしまう物語)

○画一的なネズミを通じて保守的と言われるバイロイトの聴衆を挑発?
(途中ネズミの着ぐるみをクロークに預けタキシード姿になるシーン/ローエングリンが観客の方に歩いていくラスト(次はあなた達の番?))

○パルジファルとの関連を意識?
(白鳥族(?)を想起させるエルザは矢で射られた形で登場/アニメの中で噛まれたネズミの血が下に落ちると赤い王冠に変わる)

といったところです。だからと言って、これらで何か全体の筋が通る訳でもないので、この後もいろいろ思いを巡らせてみようと思います。いずれにしても、批評やブログ等で言われているほどひどい演出とは私は思いませんでした。

 素晴らしいローエングリンを堪能した後、帰りは徒歩でホテルに帰ります。夜風がとても心地良い。途中、ビア・スタンドを発見したので、バイロイトのビール、マイゼルス・ヴァイスをいただきました。火照った体に冷たい白ビールが本当に美味しい。すると、そのビア・スタンドではお客さんが一方向を見上げていることに気付きます。その方向を見てみると…、

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               (写真)マイゼルス・ヴァイス・ビール

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            (写真)市役所の壁に映し出された光のアート

バイロイト市役所の壁を利用して、ワーグナーをテーマとした光の作品を上映していました。ワーグナーやコジマ、ルートヴィヒⅡの顔やワーグナーの作品の言葉などが幻想的で移りゆく光によって描かれていきます。映像はたえず動いているので、なかなかいいカットは撮れませんでしたが…。映像に合わせてトリスタンとイゾルデの前奏曲が流されていました。観劇の後に観るにはピッタリで、しばし楽しんでからホテルに戻りました。

 ということで、バイロイト初日は素晴らしい一日となりました。明日以降にも期待します。