《目次》
一 はじめに
二 独占禁止法
 (一) 不公正な取引方法
 (二) 独占禁止法違反と私法上の法律関係
(三) 独占禁止法違反に基づく損害賠償請求
三 中小小売商業振興法
四 信義則に基づく情報開示義務
 (一) 情報開示義務の根拠
 (二) 情報開示義務の範囲
 (三) 情報開示義務違反の効力
五 損害担保・保証
六 おわりに



  一  はじめに

 フランチャイズ契約の定義としては、「フランチャイズとは、事業者(『フランチャイザー』と呼ぶ)が他の事業者(『フランチャイジー』と呼ぶ)との間に契約を結び、自己の商標、サービス・マーク、トレード・ネーム、その他の営業の象徴となる標識、および経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導および援助のもとに事業を行う両者の継続的関係をいう」とされている(1) 。このようなフランチャイズにおいて、一定のフランチャイズシステムを展開しているフランチャイザー(本部)と新たにフランチャイズに加盟しようとするフランチャイジー(加盟店)との間に締結される契約がフランチャイズ契約である。

 フランチャイズ契約は、通常、フランチャイザーがあらかじめ作成した契約書をこれからフランチャイズを受け入れようとする者に対して提示して署名させる、という方法で締結される。これらのフランチャイジーにはいわゆる脱サラ組型、中小企業の経営多角型、事業転換型、主婦等の一般人副業型などの様々なタイプのものがあるが、通常は法律知識のない者が多い。よって、フランチャイズ契約は、対等な事業者間の合意であるとはいえ、フランチャイザーがフランチャイジーに対して交渉力において優位に立つことになり、フランチャイザーにとって一方的に有利な契約となったり、フランチャイジーの営業活動に不当な制限をくわえる契約となりやすい。このことがフランチャイザーとフランチャイジー間の法的紛争原因となり、ひいてはフランチャイザーの事業展開に支障を来すことにもなる。
フランチャイズ契約の特質として、付合契約に属する、継続性がある、契約当事者間の情報格差が激しい、という点が挙げられる。
 フランチャイズ契約は、フランチャイザーがあらかじめ準備したフランチャイズ契約書に基づき締結している。また、フランチャイズ・システムは、同一のパッケージを多数のフランチャイジーに提供するシステムであるから、多くのフランチャイジーとフランチャイザーの間で多数のフランチャイズ契約が締結され、これらは同一の内容であることが要請される。他方、フランチャイジーは、当該フランチャイズ契約の大幅な修正を要求することができない。そして、フランチャイザーは、フランチャイズ・システム統一性維持のため、それらの要求に応じることは事実上不可能である。その結果、フランチャイジーにとっては単に当該契約を締結するか否かの選択肢が残るのみである。以上のことから、フランチャイズ契約は一種の付合契約に位置付けられる。また、契約書の内容は相当期間にわたって変更する必要のないものに作成されており、適時変更することが予想される経営内容などに関する具体的な内容は、別にマニュアルを定めるのが一般的である。
 契約締結に至る過程において、現代の取引社会では各種の情報が非常に重要な役割を果たしている。しかし、フランチャイズ契約では契約当事者間の知識や情報量の格差が激しい場合が多い。このようなフランチャイズ契約の特質から契約締結にあたって、フランチャイザーからの口頭の説明、説明書、広告といった情報がフランチャイジーにとって決定的な役割を果たしている。そこで弱者保護の観点からも、フランチャイジーを保護するための特別な配慮が必要である。その手段のひとつとしてフランチャイザーは、フランチャイズを受けようとする者に対してフランチャイズを受けるかどうかを判断するのに必要かつ適正な情報を開示することが要求される。
 以上のような観点から、フランチャイズ契約締結に際しフランチャイザーが虚偽ないし不適切、不十分な情報を相手方に提供した場合に生じる問題を検討する。具体的には、フランチャイザーの調査・解明・告知・説明義務(いわゆる情報開示義務)が存在するのか。そして、これらの義務違反があった場合に、どのような法的問題が生じるのかを検討することが本稿の目的である。
 このような観点から、問題を検討すると、まず、通常、契約締結過程に問題がある場合、民法上の詐欺や錯誤の問題となり、契約の無効主張または取消権行使が可能である。また、これらとあわせて(あるいは別個に)不法行為に基づく損害賠償請求をおこなうのが一般的である。しかし、わが国では詐欺・錯誤ともに成立要件が厳しく、フランチャイズ契約の場合、契約を適正化する法的手段として機能していない。なぜなら、詐欺では欺罔行為および故意の立証がきわめて困難であるし、判例でこれらが認定されたものはまれである(2)。他方、錯誤については、動機の錯誤が民法95条に適用されるのかに争いがあるのみならず、錯誤が当該契約の要素に該当しなければならないため、その認定は大変難しい。これらのことから、民法上の一般的な法的手段である詐欺・錯誤を成立させることは難しく、フランチャイズ契約の適正化については有効ではない。

 詐欺・錯誤の適用が難しいことから、本論ではフランチャイズ契約に関連する取締法規(経済法規)である独占禁止法、および中小小売商業振興法を検討する。次いで、この2つの法令では実効力に疑問があるため、民法上の信義則からフランチャイザーの情報開示義務を導き出し、フランチャイズ契約適正化の法的手段としての可能性をみていく。最後に、「消費者契約法」に簡単ではあるがみていく。この法令は、現在(1999年1月末)ではまだ試案の段階であるが、将来的にはフランチャイズ契約の適正化に大きく影響するはずである。以下、順に具体的に事例なども挙げながら検討していく。



二 独占禁止法

フランチャイズ契約の特殊性から、加盟希望者をだまして保証金をまきあげたり、予想収益を誇大に表示したり、取引条件(フランチャイジーの投資額、フランチャイジーが受ける取引上の制約、フランチャイザーの供給するサービスの内容等)を有利であるかのように不当に表示する事例が数多く存在する。フランチャイジーになった者は、一定の投資をおこない、事業者として営業活動に従事する。そのため、フランチャイズ契約を解約することは金銭的・時間的な損失をもたらし、場合によっては事業者としての名誉を傷つけることにもなりかねない。それゆえに、フランチャイジーは解約を恐れ、フランチャイザーの不当な要求を受け入れざるを得ないことが多い。このようなことから、フランチャイジー募集時に不当な表示がおこなわれないように規制する必要がある。


(一) 不公正な取引方法
 フランチャイズ契約締結に関連している法令として「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)」がある。 独占禁止法第19条は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と規定している(3)。これを受けて不公正な取引方法の一般指定第8項は「自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係わるものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること」と定め、ぎまん的な顧客誘引行為を禁止している(4)。そして、この独占禁止法違反行為がある場合、公正取引委員会は当該行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命じることができる(同法第20条)。これによって、フランチャイザーのフランチャイジーに対する虚偽または誇大な情報に基づく勧誘行為は規制される。
また、公正取引委員会は「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(5)を公表し、フランチャイズ契約が独占禁止法にふれることがないよう、一定の留意点を示している。それには「本部が、加盟者の募集に当たり、その誘引手段として、重要な事項について、十分な開示を行わず、又は虚偽若しくは誇大な開示を行ったときは、不公正な取引方法の一般指定の第8項(ぎまん的顧客誘引)に該当するおそれがあろう」とされている。また、誤認を与えないよう注意すべき点として、6項目をあげるとともに、フランチャイジーにも事業者として、これらの項目は相当程度考慮されるべきであるとして、留意する必要があると述べている。
 6項目の要旨は、①商品等の供給条件、予想収益等、②事業活動上の指導の内容・方法、費用負担等、③加盟にさいして徴収する金銭の性質、金額、その返還の有無・条件、④加盟者が定期的に払うべき金銭の額等、⑤損失補償等、⑥契約期間、更新・解除等である。なお予想収益などを示す場合には、加盟後の実績と完全に一致する必要はないが、類似した環境にある既存店舗の実績など根拠のある事実に基づくべきとしている(6)
 しかし、この「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」は情報開示についての望ましい姿を提示しているに過ぎず、6項目を開示しないと即座に独占禁止法違反になるわけではない。また、フランチャイズ契約締結時において積極的に虚偽または誇大な情報を開示するのではなく、消極的に開示すべきものを表示または提示しなかった場合に第8項の適用はあるのかという問題がある。これについては「十分な開示をおこなわなかった場合には第8項に該当する恐れがあろう」と述べているので、適用はあり得るという立場を取っていると考えられる。そこで、フランチャイザーはどのような場合に積極的に情報を開示する義務を負うのだろうか。
 一般的には、それらの情報に関して開示がなければ、フランチャイジーが誤解することが明白であったり、当然予想すべきであったのに、それを怠った場合であろう。ただ、個別的・具体的にどのような場合にそのような積極的な開示義務が負わされるのかの判断を確定するのは困難である。よって、一般指定第8項というおおまかなものではなく、独占禁止法第2条第9項第3項に基づく特殊指定を設け、違法とされる不当表示をより明確にするべきである。なお、現在までに一般指定第8項の適用による排除措置が命じられた事例はないようである。


(二) 独占禁止法違反と私法上の法律関係
 独占禁止法による排除措置が命じられない場合であっても、フランチャイズ契約が独占禁止法に違反していることを理由として、フランチャイジーがその効力を争うことは許容されている。よって、一般化すれば経済法規(取締法規)に違反した私法契約の効力の問題といえる。
 前述したように、独占禁止法では不公正な取引方法が禁止され、不公正な取引方法によって、ぎまん的な顧客誘引行為が禁止されている。しかし、独占禁止法に違反する法律行為の私法上の効力については明文の規定はなく、この点は解釈にゆだねられている。そこで解釈論上の問題が生じる。
 この問題に関する学説には、無効説、原則有効説、相対的無効説(制限的無効説)、個別的解決説の対立がある。考慮すべき点は、①独占禁止法の趣旨、②行為の禁止、制限に対する社会的要請の強さ、③取引の安全への考慮、④当事者間の信義・公平の4つである。これらの点を重視し諸説をみていく。
 無効説は、違反状態を作る原因となった私法上の法律行為の効力は、独占禁止法による
禁止の趣旨を達成するために、当然否定されるべきであるとしている(7)。原則有効説は、法改正により、排除措置のおよぶ範囲が拡大されたのを契機とし、独占禁止法の目的は十分に実現可能であるということから生まれたものである。違反行為を無効とすることは、独占禁止法の目的達成に不必要であるだけでなく、権利関係や取引の安全に混乱をまねくものであるとしている。なお、この見解でも、取引の安全に直接関係なく、しかも効果意思の内容も明らかである場合(カルテル協定など)には、公序良俗上無効となることがあることを認めている。相対的無効説とは、独占禁止法違反の契約は無効であって、当該契約に基づく権利行使に法的保護は与えられないが、任意に当該契約が履行された結果として生じた状態については、法は効力を否定しない。独占禁止法の目的は公正取引委員会の排除措置によって達成される、というもの。つまり、独占禁止法と私法の制度理念の調和をはかるべきであり、効力の存否は一律ではないとしている。個別的解決説は、独占禁止法による禁止の趣旨を考慮して無効とされるべき行為の類型化をおこない、かつ、具体的事案に即して、取引の安全をはかるのに必要な限度で、多面的な観点から判断基準をたてるべきであるとしている(8)

 最高裁の判例(9)では、公序良俗に反するような場合は別として「独禁法第19条が強行法規であるからとの理由でただちに無効であると解すべきではない」と判示し、原則有効説の立場を採っている。法令違反行為の効力判断における考慮要因として、当該規定の趣旨、倫理的批判の程度、取引の安全、当事者の信義・公平を取り上げる以上、法令違反を公序良俗違反から切断することはできない。近時の判例においても、独占禁止法に違反するのみではなく、公序良俗違反を論じた後に結論を導くものが多い。すなわち、判例は、法令違反行為を無効とするに際して、ただ法令違反というだけで無効とすることは少なく、当該違反行為に公序良俗違反といえる事情があるかどうかを検討する傾向にある。結局、法令違反行為の効力否定の根拠は民法90条の公序良俗違反に求めているわけである(10)。実際、大部分の裁判例はそのようにしている(11)

 以上から、どのような場合に公序良俗に反するのかという問題が提起され、民法90条の問題へと移行する。しかし、フランチャイズ契約において、公序良俗違反を理由に契約無効を成立させるのは難しいと思われる。なぜなら、明らかに強引・詐欺的な勧誘方法を用いている場合には、公序良俗に反すると判断できる。しかし、それらの場合を除くと、フランチャイジー募集の勧誘は通常口頭でおこなわれることもあり、立証は難しい。また、それらのセールス・トークは、現代の取引社会において、わが国の商慣習から考えても十分許容される範囲であると判示される裁判例も多い。よって、フランチャイズ契約締結段階において、独占禁止法を介してフランチャイジーを保護することは期待できない。


(三) 独占禁止法違反に基づく損害賠償請求
 独占禁止法違反行為がなされた場合、違反行為によって損害を受けた者が、違反行為者に対して損害賠償請求をすることは、当然に予定されている。独占禁止法は3条および19条の違反について、特別な損害賠償責任を定めている。独占禁止法の定める損害賠償責任は、行為者が故意・過失がなかったことを立証しても責任を免れることができない無過失損害賠償責任である(独禁法25条)。一般に、独占禁止法違反行為を含む違法行為によって損害を受けた者は、行為者に対して不法行為責任を追及し、不法行為を根拠に損害賠償請求をすることが可能である(民法709条)。しかしながら、この場合には、行為者に対して、故意または過失の不法行為および行為者の違法行為と損害との因果関係を明らかにしなければならない。
この無過失賠償責任の請求権は、公正取引委員会による審決が確定した後でなければ、裁判上主張できないとされている(独禁法26条)。これは審決を確定することが、当該違反行為の存在が認定されたことになり、裁判所の判断を拘束し、被害者の損害賠償請求を容易にするためである。これは、独占禁止法違反行為の存在は、強制調査権のある公正取引委員会によっても立証することが困難な場合が多く、それを被害者が改めて立証することはきわめて困難で、不可能と考えられていることに基づいている。このような点から独占禁止法25条および26条の重点は、審決で認定された排除措置命令の対象となった違反事実については、それを被害者が立証する負担を免除したということである(12)
 しかし、現在までのところ、フランチャイズ契約締結に関連して公正取引委員会による不公正な取引方法の一般指定第8項の適用による排除措置が命じられた例はない。すなわち、被害者は損害賠償請求をおこなうことが出来ないことになり、この請求権はフランチャイジーの契約締結段階における法的保護手段としては機能していない。
 では、民法上の損害賠償請求はどうなのだろうか。これについては、独占禁止法違反行為に対して、それが違法行為であることを根拠として、民法709条により不法行為として損害賠償請求ができる。よって、フランチャイザーが積極的に虚偽または誇大な情報を提示した場合には、独占禁止法19条に違反しているものとして、フランチャイジーが不法行為に基づく損害賠償請求をできるということに問題はない。しかし、表示すべきものを表示または提供しなかった場合には問題があり、情報を開示しないという不作為が問題となる。不法行為の成立要件として、故意または過失の行為があることが必要とされ、単なる不作為だけでは、その主体の作為の内容を特定することが出来ないし、他人の権利侵害の危険性を考えることも出来ない。不作為による不法行為は一般に作為義務を負っていなければならない。作為義務の根拠として法令、契約、慣習ないし条理があげられている(13)。ここでは、法令として独占禁止法が根拠となるかが問題となる。しかしながら、第一節で述べたように、一定事項を表示しないと即座に独占禁止法違反になるというわけではない。したがって、独占禁止法第19条違反を根拠として不作為の不法行為に基づくフランチャイジーによる損害賠償請求は困難であるといわざるを得ない。

  三 中小小売商業振興法

 前章でみたように、フランチャイザーの詐欺的行為や情報開示義務を独占禁止法で完全に解決するのは困難であり、公正取引委員会もフランチャイズ契約に対する規制を独占禁止法でおこなうという明確な意思はなかったようである。そこで、昭和48年に中小小売商業振興法が施行され、フランチャイズ運営の適正化がはかられている (14)。その中で第11条は、特定連鎖化事業(15)をおこなう者に対して、一定の事項の開示義務を課し、その記載事項について説明しなければならないと規定している。これによって、フランチャイジーがフランチャイザーから重要な内容に関し正確で十分な情報を得て、それを十分理解、吟味したうえで、契約を締結することができるようになったのである。開示しなければならない内容は、次のとおりである。
①加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項
②加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
③経営の指導に関する事項
④使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
⑤契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
⑥前各号に掲げるもののほか、通商産業省令で定める事項
 第6号に基づく、中小小売商業振興法施行規則(通商産業省令)第10条の指定は、次のとおりである。
①当該連鎖化事業を行う者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
②当該連鎖化事業を行う者の資本の額又は出資の総額及び主要株主(発行済株式の総数又は出資の総額の百分の十以上の株式又は出資を自己又は他人の名義をもって所有している者をいう。)の氏名又は名称並びに他に事業を行っているときは、その種類
③当該特定連鎖化事業を行う者の当該事業の開始時期
④加盟者から定期的に金銭を徴収するときは、当該金銭に関する事項
⑤加盟者の店舗の構造又は内外装について加盟者に特別の義務を課すときは、その内容
⑥加盟者に対して交付する書面に少なくとも記載しなければならない事項および内容は、次のとおりである(中小小売商業振興法施行規則第11条)。
①加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項
イ、徴収する金銭の額又は算定方法
 ロ、加盟金、保証金、備品代その他の徴収する金銭の性質
 ハ、徴収の時期
 ニ、徴収の方法
 ホ、当該金銭が返還されるものであるときは、その条件
②加盟者に対する商品の販売条件に関する事項
 イ、加盟者に販売し、又は販売をあっせんする商品の種類
 ロ、当該商品の代金の決済方法
③経営の指導に関する事項
 イ、加盟に際しての研修又は講習会の開催の有無
 ロ、加盟に際して研修又は講習会が行われるときは、その内容
 ハ、加盟者に対する継続的な経営指導の方法及びその実施回数
④使用させる商標、商号その他の表示に関する事項
 イ、当該使用させる商標、商号その他の表示
 ロ、当該表示の使用について条件があるときは、その内容
⑤契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
 イ、契約の期間
ロ、契約更新の条件及び手続き
 ハ、契約解除の要件及び手続き
 ニ、契約解除によって生じる損害賠償の支払いその他の義務の内容
⑥加盟者から定期的に徴収する金銭に関する事項
 イ、徴収する金銭の額又は算定方法
 ロ、商号使用料、経営指導料その他の徴収する金銭の性質
 ハ、徴収の時期
 ニ、徴収の方法
以上のような事項の開示を、開示の義務を負う者がおこなわない場合、主務大臣は、これに従うように勧告することができる(中小小売商業振興法第12条1項)。それでもなお従わない場合は、その旨を公表することができるとされている(同第12条2項)。そして、主務大臣は、以上の規定の施行に必要な限度においてその業務について報告を求めることができ(同第13条2項)、その報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、10万円以下の罰金に処せられる(同第16条1項)。
 このように、同法の開示義務は広範囲にわたっており、詐欺的なフランチャイザーの排除に大きく貢献するだろうし、フランチャイズ契約に関する紛争の減少につながることが予想される(16)。しかし、中小小売商業振興法は、最近、フランチャイズ契約において問題とされている売上予想についての情報の開示を定めていないため、この点に関してまだ問題が残っている。さらに、同法の開示義務違反について、前記の勧告、公表以外に規制の強制力を保つ罰則規定はなく、法規制としては弱いといえる。
 同法の開示義務に違反して締結された契約の私法上の効力、および開示義務違反によって損害を被った場合などについて、同法には何ら規定されていない。よって、同法に違反して締結されたフランチャイズ契約の効果については、取締法規に違反した一般的な私法契約の効力の問題に還元され、独占禁止法に違反して締結された契約の場合と同じことになる。
 なお、中小小売商業振興法違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は、もちろん可能であるが、同法は売上予想の開示が要求されていないため、実際にはさほど問題にはならないであろう。なぜなら、情報開示に関する最近の紛争事例をみると、売上予想、収益予想に関するものが大部分を占めるからである(17)。
 以上の事情から、中小小売商業振興法は、同法の成立過程を考えても(18)、悪質なフランチャイザーの排除には有効であろうが、近時のフランチャイズ契約の全問題に効果をおよぼすわけではない。よって、同法のみでは、フランチャイズ契約を適正化することは不可能である。

  四 信義則に基づく情報開示義務


(一) 情報開示義務の根拠
 法律上情報開示義務が課されているのは、独占禁止法と中小小売商業振興法の2つであるが、既述したように、この2つの法令ではフランチャイジー保護の実効性が乏しい。そのため、これらの取締法規以外にフランチャイジー保護の可能性を考える。そこで、一般私法上の問題として、信義則に基づき、契約締結にあたって必要な情報を開示する義務がフランチャイズ契約締結段階でフランチャイザーに認められないかが次の検討課題である。
 フランチャイズ契約は双務契約であるから、契約当事者間には互いに債権・債務関係が発生する(19)。一般的に、債権とは債務者に対して一定の行為(給付)をさせる権利であるが、その反面として、債務者は債権者に対して一定の行為(給付)をするべき義務を負っている。これらは給付義務といわれるものであるが、契約の当事者は1個の契約から数種の義務を負うのが常である(20)。その中には、契約の要素をなすもの-契約をなした目的を達成するために必要不可欠な債務-もあれば、たんなる派生的もしくは付随的義務にすぎないものもある(21)。これらの義務は、様々な視点から区別されているが、本論では、本来の給付義務を単に給付義務といい、付随的に派生した義務を付随義務ということにする。前者は契約類型の決定する機能をもつものであり、それが欠落すると契約が成立しないものをいう。後者は契約類型の決め手にはならないが、給付結果の実現を補完するものであり、それが欠けても(多少不都合は生じるだろうが)契約の成立を妨げないものをいうこととする(22)。付随義務には様々な性質のものがあるが、契約成立から終了までに生じる当事者の契約利益の衝突・対立を調整するもの(通知・告知義務、準備義務、調査・説明義務など)と契約相手方の生命・身体および財産を保護保持すべき注意義務が主なものである。そして、一般的には給付義務違反があれば、当該契約は解除の対象となる(また、損害賠償請求権も生じる)が、付随義務違反があっても原則的には解除の対象とはならないとされている(23)。それは、付随義務違反にあたる行為がおこなわれたとき、違反行為によって、契約目的の達成自体が阻害されるならば、契約全体に解除権が発生するが、契約目的の達成自体が阻害されなければ、解除権は発生しないと解されるからである(判例)。では、情報開示義務はどのように位置付ければよいのか。
 フランチャイズ契約の給付義務とは、フランチャイザーについては、自己の商標などの営業の象徴となる標識をフランチャイジーに提供し、経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与えることである。フランチャイザーは、契約の指導員の派遣などフランチャイジーの支援をおこなうのが一般的である。フランチャイジーについては、これらの見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下して、フランチャイザーの指導および支援のもとに事業をおこなうことである。なお、これらは契約があるかぎり継続的に行われなければならない。
 これらの点から考えると、本論文で主題となっている情報開示義務については、少なくとも付随義務の中に位置付けることができるだろう。なぜなら、情報開示がなされなくともフランチャイズ契約の成立は妨げられないからである。仮に、フランチャイザーが正確な情報を開示していなくとも、フランチャイジーが、フランチャイズ・システムに加入し、店舗経営をおこなうということは、今までにも実際におこなわれてきたことである。よって、情報開示が欠けていたとしても、フランチャイズ契約が、即座に不成立になることはありえない(24)。ということは、情報開示義務は付随義務にあたるため、それらの義務違反があったとしても契約の解除はできないということになるのだろうか。
 契約の履行準備義務(25)に違反することは、給付義務の不履行問題に還元されるため、それが独自に契約解除原因となるわけではない。むしろ、このような履行義務違反は具体的作為義務違反として債務者の有責性を判断する1つの要素であるにすぎない。しかし、付随義務違反でも情報開示義務違反の場合、同列に論じることはできない。これは、契約締結上の過失を理由に有効に成立した契約を解除できるかの問題である。これについては後述しているが、情報開示義務違反が、成立した契約目的実現の障害事由となるような場合には、契約の解除権が発生すると解すべきであろう。
他面から考えると、情報開示義務とは契約締結段階において、相手方の意思決定に重要な事実を開示する義務であるといえる。しかし、一般的にこのような積極的な開示義務が常に契約締結段階に生じるかについては疑問がある。付随義務の内容の1つとして、虚偽の情報を開示しないという消極的な義務は、常に存在するのは間違いないが、さらに積極的に情報を開示するという義務まで常に認められるのだろうか。契約締結段階に付随義務が認められ、情報開示義務があるとしても、商取引上の問題として開示できない情報は確実に存在するのである。したがって、どのような場合に積極的な情報開示義務が認められるのかを検討しなければならない。
 まず、契約当事者が、対等な立場にあるような場合には、積極的な情報開示義務は認められないと考える。そもそも、契約は当事者相互の信頼を基礎として成り立っている。契約当事者は相互に信頼しあい、その信頼にこたえるような行動を基礎としなければならない。これを内心的規範として法的に強制し義務づけたものが、いわゆる信義誠実の原則である(民法1条2項)(26)。これは私法全般にわたる大原則であるが、契約当事者が対等な立場にある場合には、自己が不利になるような情報を開示しないという行為は、現代の商慣習から考えても、信義則に反するとまではいえないだろう。これに対して、専門家対未経験者間の取引のように、当事者間に知識の差が著しい場合には、専門家が取引の重要な情報を独占し、情報操作する恐れがあるため積極的な情報開示が望まれる。なぜなら、当該契約についての知識が著しく異なっている場合には、専門家が相手方の知識不足に乗じて不当な取引をする可能性があるからである。この格差を是正し、対等の立場に置くことが当該関係を規律する契約または法律の目的を達成し、専門化の不正を防止し、相手方に法律上の保護を与えることが信義則上、取引の公平を図ることになるのである。
フランチャイズ契約の場合には、既述したように、一般的にフランチャイザーとフランチャイジーとの間に法律知識の差が著しい場合が多い。したがって、フランチャイザーはフランチャイズ契約締結段階において、フランチャイジーに対して必要な情報を積極的に提供する義務を信義則上負うと解すべきである。


(二) 情報開示義務の範囲
 前記のように、フランチャイザーがフランチャイジーに対して、フランチャイズ契約締結段階において積極的な情報開示義務を負う場合があるとして、その具体的な内容の範囲を確定しなければならない。
 まず、中小小売商業振興法第11条は、一定事項の開示義務が定められているが、同法は必要最小限の情報の開示義務を定めたものであると解されるから、同法所定の書面を開示しさえすれば、信義則上の保護義務違反の問題は生じないと解することは相当ではない(27)。つぎに、信義則に基づく開示義務の範囲については、公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」とフランチャイズチェーン協会の倫理綱領およびガイドラインを参考にする。この「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」は、第二章で述べたように、望ましい姿を示しているに過ぎず、法適用の限界を示したものではない。
 フランチャイズチェーン協会は倫理綱領で、フランチャイザーはフランチャイジーを募集する際、正確な情報の提供をおこなうものとし、誇大な広告および不当な表示をしない旨を定めている。そして、「フランチャイズ契約の締結にあたってフランチャイザーがフランチャイジーとなる者に開示すべき事項」というガイドラインを発行している(28)。この倫理綱領およびガイドラインの性質は、フランチャイズチェーン協会の自主規制であり、一般的な法律上の開示義務を課すものではないが、フランチャイズシステムの適正で健全な発展のために作成されたものである。近年のフランチャイズ業界をみると、健全なフランチャイザーは、フランチャイズチェーン協会に加盟している。悪質なフランチャイザーは、同協会の倫理綱領に添えないため、加盟していないと判断しても差し支え無いと思う。そして、同協会に加盟していないということは、フランチャイジー募集の際の支障となることは間違いない。よって、この倫理綱領およびガイドラインは、法律ほどの強制力は期待できないが、ある程度の抑制力が期待できる。
 これらの倫理綱領およびガイドラインで要請されている部分は、フランチャイズ契約締結段階において、信義則上要請される義務の範囲を示していると考えられる。また、フランチャイザーに対して、信義則上の開示義務を課すにあたって考慮される重要な要素を構成していると考えられる。以上の点から、これらの開示事項をフランチャイジー希望者に提供していれば、通常は信義則上の開示義務をも果たしたと考えられる。ただし、信義則という一般条項により要請される開示義務は個別具体性を有するので、独占禁止法ならびにフランチャイズチェーン協会倫理綱領およびガイドラインにおいて要請されている事項を開示しても信義則上の開示義務を果たしたと認められないことも理論上あり得る。
 信義則上の情報開示義務の範囲を画するにあたって注意しなければならない点は、売上予想および収益予想についての開示義務である。売上予想および収益予想の開示・説明は、ほかの開示事項とは異なり、単にそのときにある事実を開示すればよいというのではなく、将来の不確定な事実に関するものであるからである。このため、売上予想および収益予想は、フランチャイジーとフランチャイザーとの間において紛争の対象となりやすい。「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」では、加盟後の実績と完全に一致する必要はないが、類似していた環境にある既存店舗の実績など根拠のある事実に基づくべきとしている。しかし、指摘のされたとおり完全に一致する必要はないとしても、どの程度予想からの逸脱が許されるのか、類似した環境にある既存店舗の確定が難しい場合はどうするのか、そのような店舗がない新規のフランチャイザーはどうすればよいのか(厳密に既存店舗の存在を要求すれば、新たなフランチャイザーの参入を阻害することになる)、という問題がある。また、店舗環境が類似するといっても、売上および収益まで類似するわけでない。したがって、売上予想および収益予想の開示・説明を独占禁止法における法的義務に高めて規制するためには、厳密な検討が必要である。このような事情に鑑みれば、信義側上も売上予想および収益予想についての開示・説明という情報開示義務が要求されるとしても、その義務の具体的内容の確定およびその義務を履行したかどうかの事実問題については、画一的な基準を定めることは非常に困難であり、事案に応じた個別具体的な判断が要求される。


(三)情報開示義務違反の効力
 情報開示義務違反の効力として、損害賠償請求権と契約解除権の発生が考えられる。以下、順にみていく。
 契約締結段階において情報開示が十分になされていないということは、契約の準備段階に過失があって、相手方の信頼が害され、それによって損害を与えたということになる。すなわち、契約が成立するまでの過程において、当事者の一方に過失があり、これによって相手方に損害を与えた場合、その賠償責任を負わなければならない、といういわゆる「契約締結上の過失」といわれる法的理論が適用される。契約締結上の過失の法理は、わが国では、判例がほとんど存在しなかったために、机上の空論と評されることもあった。ところが、最近これを論じる判例がいつくか現れてきている。
 契約締結上の過失の類型は、①契約締結上の過失があり、契約が無効となった場合、② 契約の準備段階に過失があり、不利な内容の契約を締結させられた場合、③ 契約締結の準備段階において過失があったが、契約締結には至らなかった場合がある (29)。本論で問題とするのは、この中の②にあたる、フランチャイズ契約が締結されたが、不利な内容の契約を締結させられた場合である。
契約の準備段階において過失があったときには、契約における信義則を理由として、賠償責任を認めるべきであるとされる。情報開示義務のように本来の給付内容とならないために債務不履行責任を課し得ない場合にも、それを動機として契約関係に入った以上、契約上の信義則は、その時期までさかのぼって支配すると考えられるからである。契約締結の準備段階における一方の過失により生じた損害については、不法行為責任として認め、契約責任を認めないものが多かったが、近時はむしろ契約責任を肯定する見解のほうが有力である(30)。
 契約締結上の過失による責任を肯定するとして、それはいかに法的構成されているのか。過失に基づく民事責任は2つに大別されている。1つは不法行為責任である。これは、あらかじめ何らかの債権関係もない者の間で発生した損害の賠償を問題とするのを典型とする。もう1つは債務不履行責任であり、すでに何らかの債権関係にある者の間で、当該債権関係上の義務に反して相手方に損害を与えた責任を問題とする。しかし、不法行為責任は、すでに何らかの債権関係がある当事者間においても問題となり得る。それはまず、当該債権関係がカバーしていない生活部分においてである。すなわち、特定人の間に何らかの特殊結合関係があり、それが債権関係として評価構成されたとしても、そのことにより当事者間の全生活領域が特殊性あるものとされ、当該債権関係によって規律されるものではないからである(31)。このことにより、いわゆる請求権競合の問題が生じる。問題となるのは、当該債権関係が規律する領域がいずれの範囲にまで及ぶかの確定である。そして、当該規律対象領域外でなされた侵害については、当然、不法行為責任のみが問われることになる。この範囲の確定は、非常に困難な作業であり、いまだ確たる論は出ていないが、私見としては、侵害行為もしくはその着手が、債権関係上の当事者としての立場においてなされることを要するとでもいうべきか。すなわち、侵害を生じる行為態度が、当該債権関係の当事者であるゆえんであることが必要とされるということである。
 両責任の相違点は、①債務不履行では債務者が事故の帰責事由の不存在を(民法415条)、不法行為では原則として被害者が加害者の故意・過失を立証する責任がある(民法724条)。②損害賠償請求権の消滅時効期間は、債務不履行は10年(民法167条1項)、不法行為は3年(民法724条)である。③不法行為による損害賠償請求権を受動債権とする相殺は原則として認められない(民法509条)。④軽過失の免責を規定した「失火の責任に関する法律」は債務不履行には適用がない(判例)。⑤過失相殺が必要的(民法418条)か任意的(民法722条2項)か、「過失」に被害者の過失も含むか、損害賠償の範囲の決定基準として不法行為にも民法416条を準用するのか等の5点である(32)。
 以上の相違点を踏まえたうえで、判例と支配的学説は債務不履行による損害賠償請求権と不法行為によるそれとは併存的に発生するとしている。しかし、有力な反対説は、契約責任は債権債務関係という特殊な関係に基づいており、一般的関係である不法行為とは異なるので契約責任が優先するとする。他にもいくつかの重要な学説があるが、論旨と離れるためここでは割愛する(33)。
 一般には契約交渉によって特殊な信頼関係(特殊結合関係)が発生し、この当事者間の結合関係を不法行為の認められる一般生活信頼関係よりも高度な信頼関係にあると解される。そして、これを契約締結上の過失責任の根拠とし、契約締結の準備段階において信義則に基づき一定の義務が発生するとし、その義務違反については不法行為責任以上の保護が与えられ、一種の契約法的責任が発生する。これは民法415条の債務不履行責任に契約前の注意義務違反を含める趣旨である。ここでは、契約締結上の過失の理論は、契約締結前への時的拡張として位置付けられる。
 このように、フランチャイズ契約締結段階にある契約当事者間は特殊結合関係にあり、ここでの契約締結上の過失があるときは債務不履行責任が生じることになる。そして、フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務は、前にみてきたように、付随義務にあたり、それを怠ることは債務不履行であると解され、フランチャイジーには損害賠償請求権があることになる。しかしながら、フランチャイズ契約についての判例をみると、契約の有効な成立が認められたうえで、契約締結上の過失が問題となり、その法的構成を明確にしたものはない。現在のところ、フランチャイザーの契約締結上の過失が認められ、フランチャイジーの損害賠償請求を認めた事例は1つだけのようである(34)。
 契約締結上の過失の理論は、近時、その適用の範囲が契約の原始的不能の場合を超えて契約が有効に成立したような場合にも適用範囲を拡大している。そのため、意義や要件・根拠・効果についても変容している。このような状況を踏まえたうえで契約締結上の過失の成立要件についてみてみると、第1に、交渉過程という法的債権関係にあり、信義則上の義務が存在すること(35)、第2に、その義務違反があること、第3に賠償義務者の責めに帰すべき事由のあること、第4に、損害の発生があること、と解される。なお、学説の一部に争いがある、相手方の善意・無過失を要すること、という要件は否定されるべきである。これは過失相殺の問題として処理し、賠償を認めるか否かという利益調整は、必ずしも二者択一的な結果を要しないであろう。
 効果の点では、契約締結上の過失の理論が、当初議論されてきた無効型から、他の類型も含めるように拡張されてきたことにより、従来の損害賠償の範囲も信頼利益の賠償が原則であり、例外として履行利益の賠償を含む、という効果論が適用できなくなってきている。なぜなら、信頼利益の賠償という概念は契約の不成立・無効の際の損害賠償であり、これは契約が有効であると信じたことによる損害、すなわち、契約が無効であると知っていたならばなくてすんだ損害を賠償させるものであるからである。もはや、信頼利益の賠償の原則を維持することは困難であり、近時は損害賠償の範囲を信頼利益の賠償に限定すべきでないとする説が一般的である。よって、効果論としては、契約締結上の過失の各類型ごとに適切な賠償範囲も変わってくるとして、各類型ごとに責任範囲を確定すべきであるというもの(36)と、不完全履行とは別物として扱い、民法415条の債務不履行の中で処理し、その損害賠償の範囲としては信頼利益、履行利益で責任範囲を限定しないというもの(37)がある。
 私見としては、給付義務・付随義務について、一種の契約法的責任が発生すると考え、契約責任の時的拡張として位置付け、その際の損害賠償の根拠としては債務不履行規定によるべきと考える。すなわち、民法415条に依拠した損害賠償責任が認められるべきである。したがって、その損害賠償の範囲は民法416条によって定められることになる。
 また、契約の性質によっては、契約前の義務でも当該契約の債務内容になり、契約締結上の過失の理論を介さなくても通常の債務不履行責任として処理すれば足りるとする説もある。そのような契約があるとすれば、とくにフランチャイズ契約についての契約締結前の適切な情報開示義務については、契約が有効に成立した場合には、フランチャイズ契約締結に際してフランチャイザーがフランチャイジーに対しておこなう情報開示をフランチャイズ契約の債務内容そのものであると考え、その不履行については通常の債務不履行責任により処理すれば足りることになる。しかし、現在の法整備上では、フランチャイズ契約締結段階の情報開示義務は給付義務とすることに無理があり、付随義務と解するほかなく、契約締結上の過失の理論を持ち出さず、フランチャイズ契約の債務内容として債務不履行責任を問うことには疑問がある。
 つぎに情報開示義務違反の効果として契約の解除権が発生するか否かについて検討する。
 債務不履行に対する債権者の救済としては、強制履行・損害賠償のほかに、双務契約に基づく債権関係においては契約の解除がある(38)。契約の解除とは、契約本来の拘束力から当事者を解放することを直接の法的目的とする。一方の当事者が債務不履行ないし瑕疵担保責任を負うべき場合には、他方の当事者が一定の手順により契約を解除できる。これらの解除があると、契約ははじめからなかったことになる。しかし、継続的契約の場合、途中で解除されたからといって、はじめにさかのぼって契約がなかったことにすることは、必要でないし、また、法律関係を複雑にするだけである(39)。
 付随義務違反に基づく解除権について明確に言及している学説は少ないが、一般論の解除権に関する主張から考えると、解除権は契約上の給付義務に関するものであり、給付利益の侵害がない場合には、付随義務違反によって直接的に解除権は発生しない。情報開示義務などの付随義務に含まれる義務の違反が給付義務に影響を与えるものとして評価されてはじめて解除権が発生するのである。すなわち、その債務は付随的ではなく要素的なものとみられたことにより、解除権の発生が認められたことになる。そこで、契約締結段階での付随義務違反によって、継続的契約関係であろうと一回的契約関係であろうと、当事者の信頼関係が破壊され、契約関係の継続をもはや当事者に期待し得ないと判断された場合には契約を解除することができると解すべきである。これに対して、付随義務が履行されなかったとしても契約関係の継続を当事者に期待することが出来る場合には、契約の解除権は認められず、損害賠償請求権が発生するのみである。契約が有効に存在する場合には、契約責任の時的拡張として、情報開示義務違反を理由とする解除権を肯定するべきであろう。
 しかし、判例上、契約が有効に成立した場合について、契約締結上の過失責任として契約締結前の信義則上の情報開示義務違反で解除権が正面から問題とされた事例はないようである。ただし、宅地建物取引業法は契約締結前の情報開示義務が法定されており、その義務違反による解除権が問題とされたものがある(40)。この判例は、宅地建物取引業法35条は重要事項の説明義務を怠ることは、宅地建物取引業法に違反することになる。しかし、取締規定に違反するからといって、ただちに私法上の契約効力に影響することはないとしながらも、同法の趣旨に鑑みて、取引の安全を法政策上とくに配慮したものであるとしている。そして、重要事項の説明義務は、土地売買に付随する売主としての当然の義務であり、その義務を尽くすべき時期は本来契約成立前でなければならないと判示し、売主のこの付随義務違反の不履行を理由とする買主の土地売買契約の解除を認めている。説明義務が同法35条により実定法化されているとはいえ、この判例は実定法化された付随義務の違反から解除権が発生することを認めたものであると理解できる。これは契約締結上の過失の理論における付随義務違反による契約の解除を認める説と親近性をもっているといえるだろう。
 もちろん、土地売買契約は一回的契約であり、継続的契約であるフランチャイズ契約における情報開示義務とは異なることは当然であるが、フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務違反によって、解除権が発生する可能性があることを示している。フランチャイズ契約の場合、中小小売商業振興法による解除権の発生が考えられる。第三章でみたように、中小小売商業振興法の目的および同法11条の趣旨を鑑みると、宅地建物取引業法と同じように、中小小売商業振興法は付随義務の情報開示義務を実定法化したものであると解することができ、情報開示義務はフランチャイザーの義務であるといえる。したがって、この実定法化された付随義務が契約締結上の過失の理論を通じてフランチャイズ契約におけるフランチャイジーの解除権を発生させるものと考えられる。ただし、開示義務違反があったとしても、当該開示事項がフランチャイズ契約の成否にかかわる重要事項でないと判断された場合、給付利益の侵害にあたらず、契約解除権は発生しないことになる。
 ここで問題となるのは、中小小売商業振興法は将来の売上予想・収益予想を提供開示することについては規定されていないことである。したがって、売上予想についての情報開示義務違反による解除権については、法定された付随義務としての開示義務に違反した場合の効力としての問題ではなく、一般的な契約締結上の過失の理論の問題として検討しなければならない。しかし、そのような問題だとしても、通常、付随義務に含まれる情報開示義務の義務違反が給付義務に影響を及ぼす場合、解除権が発生すると解することができる。フランチャイズ契約の締結に際して、信義則上要求される売上予想の情報開示義務が果たされず、フランチャイズ契約の契約内容としてフランチャイジーが期待している給付利益に影響が及ぼされる場合、フランチャイジーはフランチャイズ契約の解除権を有することになる。フランチャイズ契約の内容を考えて、売上予想が契約締結に際して、多大な影響を及ぼしていることに疑いはなく、情報開示義務違反が給付義務に重大な影響を与えることは当然であるため、フランチャイジーは解除権を有することになると解すべきである。

  五 損害担保・保証

 フランチャイズ契約において近時重要視されている問題は、フランチャイザーからの情報に基づいてフランチャイジーが店舗を開始したが、実際にはフランチャイザーの予定していた売上がなかったような場合、責任をどう解すべきかという点である。 まず、不法行為責任か債務不履行責任かということがある。これについては、前章で詳しく述べている。ここで問題とするのは、どちらの責任も問えない場合である。虚偽情報が提示されたわけではなく、また、必要な情報も開示されたが実際の売上と売上予想に差異が生じてしまった場合、契約責任と不法行為責任の両方においてもフランチャイジーはフランチャイザーに対して責任を追及することができない。フランチャイジーの営業の不振につきフランチャイザーが責任を負わなければならないのは、フランチャイザーがフランチャイジーに損害担保・保証の約束をした場合である。フランチャイザーが示した売上予想を一種の損害担保契約または保証契約と解し得ることもできるが、企業というものは経営者の勤勉努力、創意工夫などあらゆる要素によって盛衰の結果が現れるものであるから、予測の外れた原因がすべてフランチャイザーに帰すとはいえない。
 一般的な見解としては、フランチャイジーの営業不振の責任をフランチャイザーに追及できるのは、フランチャイズ契約の内容に損害担保・保証が入っているときである。このときは、その内容がフランチャイズ契約の内容になっているのだから、フランチャイザーは責任を負うことになる。そのためか、通常のフランチャイズ契約では損害担保・保証は締結しない(41)。しかし、勧誘員が口頭で約束してしまう場合がある。このような場合、フランチャイザーは表権代理の法理などにより勧誘員の言動による損害担保・保証契約につき責任を負わなければならないときがある。このような状況を避けるために英米法では完全合意条項(42)をフランチャイズ契約に入れておくことが見受けられる。しかし、この完全合意条項は一種の免責条項であるので、フランチャイズ契約においては、フランチャイザーとフランチャイジーの間に交渉力の差異があり、優越する力を背景にして責任をあらかじめ制限しようとすることは、これに合理的理由がない限り、公序良俗違反として無効となり得る。
 このような見解があるが、すべてに賛成の意を唱えることはできない。損害担保・保証が認められるのが、契約内容にある場合のみというのは、情報を重視し、情報が契約締結に多大な影響を及ぼす現代の取引社会において合致しない。まして、フランチャイズ契約においては、フランチャイザーからの情報を中心として契約締結に至る場合が多く、売上予想が契約締結に大きく作用するのは間違いない。その情報が適正ではないということに対する責任が、完全な予想は不可能であるということのみで否定されるわけにはいくまい。むろん、フランチャイジーの営業努力の欠如があったなど、個々の事例に様々な事情があるので、一概に断定できる問題ではない。
 思うに、勧誘員が、ただ勧誘の手段として、確たるデータに基づかない希望的、楽観的な売上予想を述べているだけの場合は、損害担保・保証にはなり得ないであろう。損害担保・保証となり得るのは、フランチャイザーがおこなった市場調査などに基づいた信用に足る情報を提供され、それによって、フランチャイズ契約が締結された場合であると考える。また、この売上予想がフランチャイズ契約書に明示されることはないので(フランチャイズ契約が付合契約であるため)、フランチャイジーは、この売上予想が書かれた書面などを所持しておく必要があろう。売上予想の情報公開は、実定法化されているわけではないが、付随義務に含まれる情報開示義務にあたるので、信義則上要求されると解するのが妥当であることは既述したとおりである。



  六 おわりに

 以上、フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務に関する問題について検討してきた。フランチャイズ契約における情報開示義務の問題については実定法上の義務として、独占禁止法および中小小売商業振興法を検討し、一般私法上の問題として、契約締結上の過失の理論を検討した。独占禁止法上の開示義務はフランチャイジーをきわめて悪質なフランチャイザーから保護する場合においては実効性のあるものであろうが、一般には、実効性のないものである。これに対して、中小小売商業振興法上の開示義務は、かなり広範囲にわたって規定されており、フランチャイズ契約適正化に貢献すると考えるが、その規制に対して法的強制力が乏しく、法規制としては弱い。しかし、私法に対する影響として、それ自身としては、私法上の権利関係については何も規定していないが、契約締結上の過失の理論を通じて解除権の発生の重要な根拠になり得ると思われる。ただし、近時、フランチャイズ契約に関する紛争原因となっている売上予想・収益予想については、中小小売商業振興法においては規定されていないので、別個の考慮が必要であろう。そして、契約締結上の過失の理論については、その根拠として付随義務が考えられ、契約上の義務または契約責任の時的拡張の問題として、それらの違反については債務不履行規定により損害賠償請求が認められ、付随義務違反により給付利益が害されるような事態に陥った場合には、契約の解除権が認められると解すべきであることを論じた。
 これまで見てきたように、フランチャイズ契約に関する規制において明確に規定している法律は現在のところ制定されていない。ところで、最近、近畿弁護士会で「消費者契約法」の制定が検討されている(43)。消費者契約法とは、消費者契約の契約締結過程および契約内容について、その適正化を図り、契約当事者を実質的に対等な立場におくことにより、消費者の利益を保護することを目的としている(44)。適用範囲はすべての消費者に適用されるとしている(45)。言うまでもなく、フランチャイズ契約は事業者間契約であるので、本法がそのまま適用されることはないと考える。しかし、フランチャイズ契約またはリース契約の場合、一方が契約相手方に対し取引経験も知識も交渉力も劣位であり、実質的に見て消費者と異ならない事業者も存在する。
これらの者については、実質は規制の対象とすべきであるから、本法を類推適用できる可能性もあると考えられるだろう(46)。このような点から消費者契約法を検討することはフランチャイズ契約の適正化に貢献すると思われるので、以下、簡単ではあるが本法を見ていく。
 消費者契約法第2条1項には、事業者が、消費者に対し、契約締結に至る過程において、不当な勧誘行為を行った場合には、消費者は当該契約を取り消すことができるとし、5つ不当行為にあたる行為類型が挙げられている(47)。これらは、事業者と消費者との間の情報・交渉力の格差に鑑み、事業者に重要事項について不告知(情報提供義務違反)ないし不実告知があった場合に、消費者に契約取消権を与え、民法の詐欺、錯誤に該当しないようなレベルの契約締結過程の問題もカバーしようとしている。このことは、不当な勧誘が行われても、クーリングオフ期間を経過しているために契約からの離脱が認められなかった局面を打開するもので、画期的であり、評価できる。また、ここで挙げられている重要事項とは、消費者が契約を締結するか否かを判断するにあたり、当該事項に対する正確な認識・理解が必要不可欠なものを指す。また、消費者に対する威迫・困惑行為についても契約取消権を認めている点は、民法の強迫にまで至らなくても、これに準ずる不当な勧誘がおこなわれている局面を救済するものであり、評価されるべきであろう。ただし、威迫、困惑行為があった場合以外にも、社会相当性を逸脱し、消費者の判断能力につけこむ不当勧誘が存在する。そのような場合も含め、威迫、困惑行為に準ずる不当な勧誘行為が行われた場合全般について、消費者に契約から離脱する権利を与えるべきである。2項には、契約内容の開示・説明について書かれており、説明義務と契約書面の交付・開示義務が定められている(48)。3項には、事業者が以上に限定した各義務の一に違反した場合には、消費者に不利益な条項は契約の内容とはならない、とある。ここで目に付くのは、単なる情報提供ではなく、契約の基本事項については、消費者に説明しなければならない、と明示していることである。そして、重要なのは、「消費者に理解させる方法をもって」とされていることである。つまり、単に情報を提供するだけでは足りず、消費者に対して説明し、納得を得なければ当該契約は無効となるとしているのである。
 第3条1項には、事業者は、基本条項について、常に平易かつ理解しやすい言葉で表現しなければならないとある。消費者契約においては、消費者が容易に理解できるように、平易かつ理解しやすい表現がなされていることが必要である。契約条項が一般の消費者にとって、理解困難な用語で記載されていること自体が、消費者トラブルの原因となりかねないからである。また、同2項には、疑義がある契約条項については、消費者に最も有利に解釈するとあり、3項には消費者にとっても予測することができない契約条項は無効とするとあり、消費者に不測の損害が生じることを防いでいる。このほかにも、消費者保護について有効な条文が定められているが、本文とは離れるため割愛する。
 このように、消費者契約法は、いままで既存の法律では解決することが難しかった消費者契約の問題を念頭において制定されており、成立すれば消費者契約について、有効で実行力のある法律が誕生することになる。しかし、本論文で主題としているフランチャイズ契約については、前述したように類推適用の可能性はあるものの、直接的に適用されることはない。これは、事業者間契約においては、契約自由の原則が最大限尊重されるべきであるという考えに基づいていると思われる。しかし、契約自由の原則は、法的にも経済的にも平等の力をもった2人の人間が、自由な討議を経て合意に至る、という契約像を念頭においている。これについて、近時、消費者契約については、契約自由の原則を制限するべきであるという見解が出てきていることは言うまでもない。それは上記の消費者契約法第2試案を見ても明らかである。では、事業者間契約においては、商取引において、契約自由の原則が最大限尊重されるべきなのであろうか。そうではあるまい。事業者間契約についても、経済的な格差または交渉力の格差が、著しく一方が他方に勝っている場合、たとえ事業者間契約であっても、契約の自由は一定限度制限せざるを得ないであろう。合意があったとしても、当事者間に大きな格差がある場合には、交渉力の弱い当事者にとっては、「自由な意思」決定の結果なされたものではない可能性が高い。たとえ、伝統的な詐欺・強迫の要件を満たすものでなくとも、合意の効力をそのまま認めることは妥当ではない。事業者間契約において契約自由の原則は制限されるべきではないとの見解もある。この見解は、次のような前提のもとに主張されている。①事業者は、当然、約款を読んでいるはずであるし、また、読むべきである。②事業者間契約にあっては、契約当事者は、ほぼ同等の交渉力を有している。③交渉力が同じであれば、たとえ約款に不当な条項が入っていても交渉によりそれを変更することが可能である。しかし、これらの前提自体にも議論はある。フランチャイズ契約においては、これまで何度も述べてきたように、事業者間契約であるが、交渉力・経済力に格差がある場合が多く、消費者契約と似ている点も多い。しかし、あくまでフランチャイジーは事業者であって、消費者ではない。そこには、事業者として一定の意識が必要であろう(49)。ゆえに、消費者と同等に扱い、保護を与えることは妥当ではない。とはいえ、これまで見てきたように、保護する必要性は多分にあるので、消費者保護の点からではなく、弱者保護の点から保護すべきであり、そのための法的根拠が必要になる。
 フランチャイズについての紛争が増加している現状をみると、フランチャイズ契約についても、現在検討されている消費者契約法のような民法上の特別法が必要なのではないだろうか。フランチャイズ先進国と言われる米国には、Federal Trade Commission(連邦取引委員会)の取引規制規則PART436に「DISCLOSURE REQUIREMENTS AND PROHIBITIONS CONCERNING FRANCHISING AND BUSINESS OPPORTUNITY VENTURES(フランチャイズにおける要開示事項及び禁止事項)」とタ イトルされるフランチャイズの開示に関する規定がある(50)。この規定は米国らしく、事細かに定められており、フランチャイザーが開示しなければならない事項を1つ1つ挙げている。その中には、文字の大きさまで決めた連邦取引委員会が定めた文章を挿入しなければならない旨の規定まである。ここに定められている規定は参考にはなるだろうが、そのまま日本に輸入するには問題があろう。日本の商習慣および風土にあっていないからである。
 特別法の内容としては、中小小売商業振興法を基本としつつ、フランチャイズ協会の倫理綱領および米国の例などを参考に制定すべきであろう。また、その際には司法関係者以外にも、フランチャイズ・チェーン協会および数多くのフランチャイザーの意見、フランチャイジーが集まって作っている私的団体の意見を求める必要があるだろう。そして、その内容は、具体的な開示事項を挙げ、その開示事項に違反するフランチャイザーには、行政処分もしくは罰金などを課す罰則規定を定める必要があるだろう。それにくわえて、違法行為に基づく契約の解除および損害賠償請求権の発生などを確実にするために、私法上に関する規定も必要である。ここで問題となるのは、売上・収益予想に関する事項の開示についてである。これについては、開示事項に加えることに問題はないと考える。しかし、売上・収益の正確な予想は大変難しく、この予想がはずれたからといって、ただちに契約違反とするわけにもいかない。思うに、売上・収益予想に関しては、フランチャイザーに最低値を挙げさせ、最低値を下回る場合には、契約違反として扱ってもかまわない旨を契約内容に盛り込ませる。もしくは、最低値を下回った場合には、何らかの保証をフランチャイザーが必ずおこなう旨を定めさせる。そして、売上予想または保証の内容が社会通念に照らして認められない場合(その値では通常生活できない場合)には、当該契約の解除権を認め、かつ、当該契約によって生じた損害についての損害賠償請求権を与える。この際の損害の認定については、経営を維持していくためにフランチャイジーが投資した資金および精神的な損害も含めるなど、幅広く認定する必要があるだろう。予想の値について契約書の内容に書くわけにはいかないので、別途に売上・収益予想を書いた書面をフランチャイジーに交付する。売上予想にあたって、最高値または標準値も最低値と同様に提示すれば、勧誘行為も明確になり、紛争も生じにくい。また、紛争を恐れるあまり、最低値を低く提示するようなフランチャイザーにはフランチャイジーは契約を締結しないであろうし、妥当な売上予想をおこなえないフランチャイザーは、この規定により駆逐されることになるだろう。今、現在もこのような制度もある。それは、売上最低保証というものである。フランチャイズ・システムの代表的なものに、コンビニエンス・ストアがあるが、コンビニエンス契約において損害担保・保証にあたると解されるものがそれである。呼び方は企業によって様々であるが、フランチャイジーの店舗売上が、フランチャイザーが示した最低売上高に達しなかった場合、フランチャイザーが何らかの保証もしくは援助などの救済をおこなうというものである。
しかし、これは立地状況などに基づいて算定されるものではなく、画一的にすべての店舗に適用される制度である。よって、十分な利益を保証しているものではない場合がほとんどである。とはいえ、コンビニエンス・チェーン以外にこのような保証をしているフランチャイズ・チェーンはなく、フランチャイズ・システムの適正化に指針を示しているといえるであろう。
 また、法律に明文化するわけにはいかないが、フランチャイズ・システムを用いて経営をおこなう事業者はフランチャイズ・チェーン協会に登録しなければならず、加盟していない事業者は悪質なフランチャイザーであるという考えが一般的に通用するような社会的認識が成立すれば、紛争が起こったとき、裁判所の認定事由にも加えることができるであろう。もちろん、これに関しては様々な問題もあり、新規のフランチャイザーの参入を阻むことにもなりかねないので、簡単なことではない。しかし、既存のフランチャイザーの意識向上とフランチャイズ・チェーン協会の一層の努力があれば不可能ではなく、実現が望まれる。
 以上、これまでみてきたように、フランチャイズ契約についてはまだまだ問題も多く、紛争が絶えない現状にある。本論文で主題とした契約締結段階における情報開示義務のほかにも問題は累積している(51)。しかし、特別法が制定されれば、悪質なフランチャイザーは駆逐され、優良なフランチャイザーにも契約するフランチャイジーにも有益な結果をもたらすはずである。フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務に関して、フランチャイザーに対する規制は、フランチャイズ契約の適正化をもたらすことになり、フランチャイズ・システムの更なる発展が期待できる。特別法の制定の実現、そしてこれからのフランチャイズ契約について更なる議論の発展が望まれる。

〈注〉
(1)  社団法人日本フランチャイズチェーン協会編『フランチャイズ・ハンドブック〔第4版〕』(1996年)74頁。
(2) 詐欺を理由に訴えられたフランチャイズ関係の事件はいくつか存在するが、ピロビタン事件に関する判例が、詐欺を認定した唯一の例のようである。しかしながら、ピロビタンの営業方法が、フランチャイズ・システムであったかどうかは疑問である。
 それは、次のような理由による。
 第一に、詐欺事件を引き起こすシステムは公序良俗に反するもので、合法的な営業形態とは認められないという一般論が存在する。第二に、本件のフランチャイズ・システムが社団法人日本フランチャイズ・チェーン協会の定義に当たらないからである。ビジネス・フォーマット型のフランチャイズ・システムの要素の一つに、経営ノウハウの付与という要件があるが、これは「過去の経験および実績によってうらづけられたもの」でなければならない(同協会倫理綱領1条)。また、フランチャイジーに付与されるにあたっては「その効果を現に挙証しうる事例を有する」(同協会規約1条1項(2)二)ことが必要である。
 ピロビタンの場合は、ほとんどの加盟店が赤字経営であり、また、開店に至らない例もあるという経営実績をみても、ピロビタン本社などには過去の経験も実績もなく、経営ノウハウの効果を挙証することもできなかったはずである。それにもかかわらず、本件の関係者は、この営業方法をフランチャイズ・システムと呼び、裁判所の判決もそのように表現しているので、ここに取り上げた。
 詐欺を理由に訴えられたフランチャイズ関係の事件のほとんどが、判決で詐欺の成立を否認されたにもかかわらず、本件では成立しているのは、次のような特質が認められたからである。
 第一に、虚偽性が明らかであった。通常、この種の欺罔行為を立証するのは困難なのであるが、ピロビタン本社側の言明や行為のなかには、客観的な事実と明らかに異なっている点があり、弁明を許さない違法性があった。第二に、フランチャイズ・パッケージが、通常の加盟店にとっては実現が不可能であった点である。本件の場合、システム全体に虚偽性が存在していたので、偶発的に個別的な取引に問題が生じたのではなく、必然的に事件が起こったのである。第三に、被害者をだます詐欺的な手法の巧妙性と作為性である。ホテルなどにおける華やかな説明会や物的設備におけるトリック、次々に逃げられないようにわなにはめる手法、事実が隠匿され、口頭の言明と異なる文章で書かれた契約書の作成など、悪質な手法が使われていた。
 一次判決、大阪地裁昭和53年2月23日判、判例タイムズ363号248頁。
 二次判決、大阪地裁昭和53年5月29日判、判例時報920号178頁。
 解説は、川越憲治「フランチャイズ・システムの判例分析」別冊NBL29号104頁~112頁参照。
(3) 不公正な取引方法に該当する行為の1つとして、定義規定(第2条9項3号)に「不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、または取引すること」と定められている。このように公正競争阻害性のある行為は、独占禁止法によって大枠は定められている。しかし、経済社会の実態に合わせて不公正な取引方法の具体的な行為類型を定めるため、公正取引委員会に立法的権限が与えられている。公正取引委員会による不公正な取引方法には、業種に関係なく適用される「一般指定」と、特定の業種に適用される「特殊指定」とがある。正田彬=実方謙二『独占禁止法を学ぶ〔第3版〕』(1995年)〈有斐閣選書〉12~13頁。
(4) ここでいう「顧客」は消費者であろうと事業者であろうと問わない。しかし、実際 の一般消費者に対する不当な勧誘行為は懸賞・景品付販売(徐々に規制緩和の方向に進んでいるが)が主なもので、これは一般指定第9項の「不当な顧客誘引行為」に定められており、独占禁止法の特例法である「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」で規制されることになる。よって、実務上の取り扱いとしては事業者募集時における不当表示などが対象となる。事業者または事業者になろうとする者に誤認させる表示が第8項で規制される。
(5) 「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(昭和58年9月20日公正取引委員会事務局)。
(6) 和泉沢衛「フランチャイズ・システムと独占禁止法」NBL292号11頁以下。
(7) 各禁止規定に違反する既存契約は、施行日から執行する旨を定めた独占禁止法102条も有力な論拠とされた。
(8) 諸説の詳しい説明については、正田=実方・前掲注(3)381頁~383頁、取締
法違反と私法上の関係については、大村敦司「取引と公序-法令違反行為効力論の再検討㊤㊦」ジュリスト1023号82頁以下、1025号66頁以下、服部育生「独占禁止法違反と私法上の法律関係」自由と正義45巻4号58頁以下、山口康夫「取締規定に違反する契約の効力-消費者取引との関連を中心として-」札幌法学1巻1号56頁以下を参照。
(9) 最高裁昭和52年6月20日判、民事判例集31巻4号449頁。
(10) 違反行為の効力判断の根拠として民法90条一元論または民法90条・91条二元
論のいずれによるべきかについては、ここでは論じないこととする。
(11) 法令違反だけを理由に違反行為の効力が否定される場合がまったくないわけではな
い。これについては強行法規違反=無効という法命題が根拠されている。この法命題
は民法91条の反対解釈として導かれるものである。しかし、この点については検討の必要がある。詳しくは森田寛二「反対解釈の力学」自治研究61巻8号、同「通説的民法91条論のなかの判例」広中還暦・法と法過程を参照。
(12) 正田=実方・前掲注(3)388頁~394頁。
(13) 遠藤浩=川井健=原島重義=広中俊雄=水本浩=山本進一編『民法(7)事務管理・不当利得・不法行為〔第4版〕』(1997年)〈有斐閣双書〉。
(14) もちろん、中小小売商業振興法の目的は、フランチャイズ運営の適正化のみではない。同法の趣旨は、「商店街の整備、店舗の集団化、共同店舗等の整備等の事業の実施を円滑にし、中小小売商業者の経営の近代化を促進すること等により、中小小売商業の振興を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と第1条で述べられている。内容的には助成行政的なものが多いが、規則行政的な規定も含まれている。
(15) ここでいう特定連鎖化事業とは、「連鎖化事業であって、当該連鎖化事業に係る約款に、加盟者に特定の商標、商号その他の表示を使用させる旨及び加盟者から加盟に際し加盟金、保証金その他の金銭を徴収する旨の定めがあるもの(以下「特定連鎖化事業」という。)を行う者は、当該特定連鎖化事業に加盟しようとする者と契約を締結しようとするときは、通商産業省令で定めるところにより、あらかじめ、その者に対し、次の事項を記載した書面を交付し、その記載事項について説明しなければならない。」(第11条)のことであり、フランチャイズ事業を念頭においたものである。
また、連鎖化事業とは、「主として中小小売商業者に対し、定型的な約款による契約に基づき継続的に、商品を販売し、又は販売をあっせんし、かつ、経営に関する指導を行う事業をいう。」(第4条5項)とされている。
(16) ちなみに、フランチャイズ契約(特定連鎖化事業)に関する条項は、中小小売商業振興法は平成3年に、施行規則は平成3年・平成9年にそれぞれ改正されている。
(17) もちろん、売上・収益予想以外にも紛争事例はある。
 最近の事例では、定期的金銭(ロイヤリティ)の支払いなどが問題となった教導塾事件(京都地裁平成5年3月30日判(判例時報1484号82頁))、契約の終了などについて争われた本家かまどや事件(神戸地裁平成4年7月20日判(判例タイムズ805号124頁))などがある。他にも、商標に関する事例は昔から数多くあるし、競業問題や販売商品、秘密保持義務に関する事例も多数存在する。
また、中小小売商業振興法の開示義務は、必要最低限の情報開示義務を定めたものと解されるから、同法所定の書面を開示しさえすればよいわけではない。京都地裁平成3年10月1日判、判例時報1413号102頁以下、とくに「契約締結上の過失」に関する部分を参照。
(18) 昭和48年当時、フランチャイズ・システムは、マルチ販売やネズミ講、悪質な訪問販売などと同様に、悪徳商法のイメージがあったようである。中小企業庁は、フランチャイズ・システムをそのようなイメージから救い出そうとし、中小小売商業振興法を制定したようである。詳しくは小塚壮一郎「フランチャイズ契約論(四)」法学協会雑誌14巻9号1頁~3頁を参照。

(19) 契約には、広い意味で債権・債務関係を発生させない合意もある。たとえば、夫婦関係の発生を目的とする婚姻のような家族法上の合意、所有権の移転や抵当権の設定を目的とする物権的な合意(物権契約)も含まれる。しかし、ここでは、債権の発生を目的とする契約(債権契約)のことのみを対象としている。契約以外に債権・債務を発生させる原因としては、法律行為(ここに契約は含まれる)、事務管理、不当利得、不法行為など、数多く挙げられる。
(20) 売買契約を例に取ると、売主は、ある商品を買主に提供するという義務(債務)を負っている。その反面、その商品を提供する代価として、金銭等を請求する権利(債権)をもっている。買主側から考えると、買主は商品の引渡を請求する権利(債権)をもっているが、その代価を支払う義務(債務)を負っている。これらの債権・債務は、当該法律行為の重要な部分であり、これらの債権・債務がなされなければ、契約は成立しないこととなるため、契約を成立させるための要素といわれる。
 また、契約には、要素になる権利・義務のほかにも数種の債務が存在する。例の場合には、商品の説明義務などが挙げられよう。このように、一個の契約にも、数種の義務が発生することになる。
(21) 遠藤浩=川井健=原島重義=広中俊雄=水本浩=山本進一編『民法(5)契約総論〔第4版〕』(1996年)〈有斐閣双書〉156頁。
(22) 給付義務の区別は、本来このように簡単に区別できるものではない。従来の学説でも、様々な観点から区別が試みられている。私見としては、給付義務は、主たる給付義務、従たる給付義務、付随義務の3つに分けられると考えている。主たる給付義務とは、契約の要素となる義務のことである(たとえば、品物を完全な形で提供する義務)。従たる給付義務とは、主たる給付義務をなすために必要な行為のことで、たとえそれを怠っても主たる給付義務がなされれば、問題にならないものをいう(たとえば、品物を作るための材料を用意することなど)。付随義務とは、主たる給付義務ほど重要ではないが、主たる給付義務と並立し、債務関係の内容を決定しているものをいう。つまり、契約履行のおのおのの場面であらわれる義務のことで、それが主たる給付義務に結び付くものである(たとえば、複雑な商品の取り扱いの説明義務や故障時の修理義務など)。
 ここでは、給付義務の区別について簡単な説明をしたが、この問題は本論の本旨ではないため、詳細は述べない。元来、この問題は、このように軽々に論じるものではなく、理論的に根拠を求めなければならず、論及しようとすれば、まさに本1冊にもなるものである。詳しくは、潮見佳男「債務履行構造に関する一考察(一)(二)-給付結果・履行過
程に対する債務者義務履行(積極的債権侵害)をめぐる契約義務論の展開」法学政治
学論究13号1頁以下を参照。
(23) 遠藤ほか編・前掲注(21)156頁。
(24) しかし、フランチャイズ契約は継続的契約であるので、情報開示義務違反があった場合、信頼関係の破壊・背信性という点から、契約の全解除が認められる可能性も考えられる。しかしながら、現状をみるに、このような点から契約の解除が認められた事例はない。
(25)  契約債務には、履行義務の周辺にあって、契約でその取得が期待できる給付利益の維持・実現のために奉仕すべき一群の付随義務がある。たとえば、契約の履行を準備する義務や、契約締結時に相手方にその意思形成にとり重要な一定の情報を開示する義務である。北川善太郎『債権総論』(1993年)〈有斐閣〉171頁。
 すなわち、前掲注(22)でいう、従たる給付義務にあたる義務違反の場合、その義務違反は主たる給付義務に還元されるので、単独では契約解除権の発生原因とはならないということであろう。しかし、私は、情報開示義務は従たる給付義務ではないと考えているので、単独で契約解除権発生原因となり得ると思う。
(26)  前掲注(21)22頁。
(27) 京都地裁平成3年10月1日判・前掲注(17)。
(28) フランチャイズ・ハンドバック・前掲注(1)10頁以下。
(29) 遠藤ほか編・前掲注(21)25頁以下。
(30) 同・27頁。
(31) 田沼柾「契約締結上の過失責任と法的性質と付随義務について-最近のわが国の判例の紹介と検討を中心として-」法学新報87巻12号187頁以下、とくに191頁を参照。
(32) 山口純夫編『債権各論』(1992年)〈青林書院〉194~195頁。
(33) 田沼・前掲注(31)、とくに203頁以下を参照。
(34) 京都地裁平成3年10月1日判・前掲注(17)。
この判例では、損害賠償請求が認められたとはいえ、その損害額は過失相殺され、3割と算定されている。
(35) これは告知・解明・調査・説明などの情報開示義務や相手方の身体・財産などの保護義務のことである。
(36) 森泉章「『契約締結上の過失』に関する一考察(三)」民事研究290号5頁
(37) 奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(1992年)〈悠々社〉158頁。
(38) なおフランチャイズ契約締結段階における情報開示義務の場合、強制履行は問題とならない。なぜなら、契約が有効に成立した後で、情報を公開されたとしても、それは後の祭で、フランチャイジーはどうしようもないからである。
(39) 山口純夫編・前掲注(32)52頁。
(40) 東京高裁昭和52年3月31日判、判例時報858号69頁。
大阪高裁昭和58年7月19日判、判例時報1099号59頁。
(41) コンビニエンス・ストアでは導入している例がいくつかみられる。その内容は様々であるが、「一定の金額に至らない場合はフランチャイザーが保証する、もしくはロイヤリティを下げる」といった内容がみられる。
(42) フランチャイズ契約に書いてある条項以外については、当事者間においていかなる書面または口頭での合意がなされていたとしても契約上の効果を生じない、というもの。
(43) 「消費者契約法(仮)」は経済企画庁の国民生活審議会消費者政策部会によって検討されているものであり、本来それを提示すべきであるが、私はその試案を入手できなかったので、ここには国民政策審議会が発表した「消費者契約法(仮)」に対する意見として近畿弁護士会が発表した消費者契約法第2試案を挙げている。
(44) 消費者契約法第2試案、第1条1項。
(45) 同、第1条3項。
(46) 厳密に言えば、「消費者契約法」の対象はあくまでも消費者契約なので、対象の違うものまで類推適用することは難しいかもしれない。しかし、実質的に消費者と解することができる事業者も保護の対象となる可能性も否定できない。これは、本法の制定意図が明確になるか、制定後に裁判所の見解が確定するまで待つことになると思う。
 近畿弁護士会の認識としては、「実質的に消費者と判断できる事業者に対しては適用される」としている。
(47) 不当行為の禁止
事業者が、消費者に対し、契約締結に至る過程において、次の各号の一に該当する行為を行った場合には、消費者は当該契約を取り消すことができる。
①重要事項について告知しないこと
②重要事項について不実の告知をすること
③威迫または困惑させること
④判断能力不足に乗じる行為
⑤その他前各号の行為に準ずる不当勧誘行為
(48)  ①説明義務
事業者は、消費者に対し、契約締結前に、契約の基本事項について、消費者に理解させる方法をもって、口頭もしくは書面ないしこれに準じる方法で説明しなければならない。
②契約書面の交付・開示義務
ア、事業者は、契約締結前に契約書または書面化された約款を作成している場合には、契約又は約款内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。但し、契約の性質上、約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合は、この限りではない。
イ、事業者は契約の性質上、約款の内容を記載した書面を交付することが不要と認められる場合であっても、その各営業所において、消費者が認識しうるような形で約款の内容を掲示又は備え置きしなければならない。
ウ、前項の場合であっても、消費者の要求がある場合は、事業者は、約款の内容を記載した書面を消費者に交付しなければならない。
(49)  このためには、フランチャイザー側からのフォローも必要であろう。事業者として、自立できない人とは契約しないということも必要である。
(50) フランチャイズハンドブック・前掲注(1)271頁以下参照。
(51) 主なものとして、商標、競業避止義務、加盟金・ロイヤリティ、立地・テリトリー、取引数量条項、賠償額予定条項、中途解約金、契約の期間・更新および解除、営業権の譲渡などに関する諸問題が挙げられる。


 逐一、注には挙げなかったが、本論文を作成するにあたり、金井高志「フランチャイズ契約締結段階における情報開示義務-独占禁止法、中小小売商業振興法および、「契約締結上の過失」を中心として」(判例タイムズ851号40頁以下)を大変参考にさせて頂いた。


《参考判例》
・大阪地裁昭和48年1月31日判、判例タイムズ302号307頁(ピロビタン事件)
・大阪地裁昭和53年2月23日判、判例タイムズ363号248頁(   〃   )
・大阪地裁昭和53年5月29日判、判例時報920号178頁(   〃   )
・大阪地裁昭和61年9月29日判、判例タイムズ622号116頁(ドクターリフォー ムチェーン事件)
・東京地裁平成元年11月6日判、判例時報1363号92頁(イタリアン・トマト事件)
・大阪地裁平成2年11月28日判、判例時報1389号105頁(大蔵フーズ事件)
・東京地裁平成3年4月23日判、判例タイムズ769号195頁(デイリー・クイーン
 事件)
・京都地裁平成3年10月1日判、判例時報1413号102頁(進々堂事件)
・神戸地裁平成4年7月20日判、判例タイムズ805号124頁(本家かまどや事件)
・京都地裁平成5年5月30日判、判例時報1484号82頁(教導塾事件)
・東京地裁平成5年5月31日判、判例時報1484号82頁(サンクス事件)
・東京地裁平成5年11月29日判、判例時報1516号29頁(事件名不明)
・福岡地裁平成6年2月18日判、判例タイムズ877号250頁(  〃  )
・千葉地裁平成6年12月12日判、判例タイムズ877号229頁(  〃  )
・大阪地裁平成8年2月19日判、判例タイムズ915号131頁(  〃  )