レコード屋には何度も行ったことがあった。
アニメソングや歌謡曲のレコードを買ってもらった事はあった。
レコード屋の一角に近づきずらい怖いエリアがあった。
その場所は「モノトーン」「長髪」「不良」と言う言葉が漂っている場所だった。

初めて自らの意思でレコードを買おうと思った。
深夜のラジオから流れてきた曲であった。
妙にメロディーと歌詞が印象的な曲だった。

いつものように歌謡曲の「歌手名 カ」のところを1枚1枚見て回った。
目当てのレコードは見つからなかった。
店番のおじさんに聞いてみた。
  「甲斐バンドのレコードはどこですか」
おじさんは「そこだよ」と店の一角を指差した。
そこはなるべく目を向けないようにしていた例の場所だった。

目的のレコードは例の場所を支配するかのように、もっとも目立つ場所に大量に置いてあった。
初めて見るそのジャケットは白黒で、ジーパンのポケットに手を突っ込んで不機嫌そうに立った長髪の男が4人写っていた。
今まで恐れていたものをすべて集めたようなそのレコードが初めて自分で自分の小遣いで買ったはじめてのレコードだった。

家までの1km程の距離を歩いて帰った。
その途中いろんな思いが頭の中をめぐった。
  「大事なこづかいでこれを買ってよかったのだろうか」
  「このレコードを見て親はどう思うだろうか」
こういった不安は3割だった。
残りの7割は新しい世界に踏み出したような高揚感だった。

これが私の音楽遍歴の第一歩であった。

甲斐バンドはこの曲がヒットした後しばらくヒット曲に恵まれませんでした。
しかし、数年後No1の大ヒット曲を出しビッグバンドの地位を確立しました。

この曲を聴いて頭に浮かぶのは
  雨の中を駅に向かって走る
  ビルの谷間で絶望的に雨空を見上げる
  歩いている人に何の関心も示さず走り去る車
  ホームの端で茫然とたたずみ雨に打たれる
という景色である。

田舎育ちの私にとって列車は「電車」ではなく「汽車」であり、日常の足ではなく特別なときに乗る乗り物でした。
私にとってこの曲は、電車を当たり前に使いその中で人生のドラマを作っている「都会人への憧れ」と「非日常」を感じさせてくれる曲でした。