「黒猫・白猫」(原題:Black Cat, White Cat、フランス、ユーゴ、ドイツ合作、1998)を見た。「パパは、出張中!」「アンダーグラウンド」のエミール・クストリッツァ監督作品。
ドナウ川のほとりに暮らすジプシー一族に起こる若者の恋愛や石油列車強奪計画といった奇想天外なエピソードを、陽気にストレートに描いたブラック・ジョーク満載のドタバタコメディ。
群像劇で、一族のドンを取り巻く姿は、まるで「ゴッドファーザー」であり、結婚式場から花嫁が逃走するのは「卒業」であり、おバカキャラの多い登場人物は「グレートレース」といった趣がある。気楽に見るには面白い。タイトルの黒猫と白猫をはじめ、ガチョウ、犬、豚、羊、馬など動物も数多く登場している。
楽団も登場。全体に流れる音楽も印象深い。貧しい村とは対照的に、豪華客船も登場する。
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ユーゴスラビアのドナウ川沿いのある田舎町で暮らすマトゥコは、働きもせずに毎日博打に明け暮れている。ある日、マトゥコは、水上で商売をしているロシア人に騙され、有り金すべてを失ってしまう。
起死回生を狙い、マトゥコはブルガリアからやってくる石油運搬車両の強盗を目論む。マトゥコは息子ザーレを伴って、一帯の支配者グルガのもとへ行き、計画への出資を依頼する。グルガは、マトゥコの父ザーリェとは深い縁故がある。マトゥコは、ザーリェは既に死んでいると嘘をつき、グルガから香典として大金を受け取る。
その夜、マトゥコは、マフィアのダダンに車両強盗への参加を持ちかける。
ダダンは強盗の利益を殆ど得るということで合意し、計画に参加する。
ザーレは、川辺のカフェで働くイーダに恋をしている。
ザーレはイーダの祖母スイカが経営しているレストランから楽団を借り、入院しているザーリェのもとへ連れていく。楽団の演奏を聞き、ザーリェはたちまち元気を取り戻して退院する。
先日、ダダンはザーリェが所有する工場を強引に買い取っており、ザーリェは孫のためにその金を残そうと考えている。
死期が迫っていることを自覚しているグルガは、孫のヴェリキに仕事を全て譲って入院する。グルガは、ヴェリキが早く結婚相手を見つけるよう、強く願っているのだが・・・。
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ドタバタコメディで、一攫千金を夢見る男に周りが巻き込まれて大騒動になる話だが、ハッピーエンドで終わる。
”ゴッドファーザー”と呼ばれるグルガという人物は、お金持ちでありながら、歯がガタガタ。部屋には「カサブランカ」のハンフリー・ボガートの写真が貼ってある。家でも出先でも、テレビがあると「カサブランカ」を繰り返し見ているところがおかしい。
とくにラストシーンの「ルイ、これが美しい友情の始まりだ」のシーンは、ビデオテープ(VHS)を巻き戻して何回も見るのだ。
そして、映画の最後のセリフが、そのセリフで決まる!
そして、映画の最後のセリフが、そのセリフで決まる!
映画は20年以上前の映画だが、現在のような携帯電話ではなく、大型で重い移動電話だ。結婚式に持ち寄られるお祝いの品は、ポータブルプレヤー(CDでなくレコード)、ハンドクリーナー、アイロン、量(はかり)、扇風機など時代を感じさせる。
■マトゥコ(バイラム・セヴェルジャン)
ユーゴスラビアのドナウ川沿いの田舎町で暮らす、博打好きの男。自堕落でまともに働かず賭け事にうつつをふかす。権力や金に弱く、相手によって自分の意見をころころと変える。
■ザーレ(フロリアン・アジニ)
マトゥコの息子。17歳。真面目で純朴な青年。だらしない父親に呆れており、優しく勇敢な祖父を慕っている。年上の女性イーダと恋人関係にある。
■ダダン(スルジャン・トロヴィッチ)
町で幅を利かせている新興マフィア。成金趣味の粗暴な麻薬中毒者で、自分の意見を通すために平気で暴力的な手段を使う。4人の妹がおり、末妹の結婚相手探しに頭を悩ませている。
■イーダ(ブランカ・カティク)
祖母が経営する川沿いのレストランで働く美人。ザーレの年上の恋人。明るくひょうきんな性格で、アメリカ文化に憧れている。
■ゼーリェ(ザビト・メメドッフスキ)
マトゥコの父。マトゥコに愛想を尽かしており、孫のザーレを目にかけている。元アコーディオン奏者で、何よりも音楽を愛している。
■グルガ(サブリ・スレジマニ)
ユーゴスラビアでも有数の実力派マフィア。「ゴッドファーザー」と呼ばれ、かつてイタリアのマフィア組織にいた。住民達の尊敬と畏怖の念を一身に集めている。ゼーリェとは堅い絆で結ばれた戦友同士。老衰のため、車椅子に乗って生活している。孫息子の結婚相手探しが唯一の悩み。映画「カサブランカ」の大ファン。
■ヴェリキ(ジェセール・デスタニ)
グルガの孫。祖父を心から慕っており、動けないグルガの代わりに業務全般を担っている。背が高く常に悠然と構えている。一目惚れする相手を花嫁にすると決意している。
■スイカ(リュビシャ・アジョヴィッチ)
イーダの祖母。川沿いでレストランを経営している。恰幅の良い豪胆な老女。面に出さずとも、イーダの将来を案じている。
■アフロディータ(サリア・イブライモヴァ)
ダダンの末の妹。生まれつき背が低く、周囲から「テントウムシ」と呼ばれている。夢で見た憧れの男性と結婚すると心に決めている。ザーレと政略結婚させられそうになるが結婚式場から逃げ出す。そして運命の男と巡り合う。
一面のひまわり畑が登場するが、まるで映画「ひまわり」のよう。
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蛇足:50-60年前の田舎では、(日本でもそうだったが)トイレは水洗ではなく、汲み取り式だった。この映画では、道楽な父親に仕返しをと、トイレに仕掛けをして、父親が入ったところで、綱を引くと・・・下にズドンと落ちる仕掛けだった! なんとか脱出するが、ガチョウを捕まえて、タオルがわりに体を拭くのだが、ホースの水でシュシュシュ・・・でも臭いが残りそう。
花嫁の脱走方法などが微笑ましい。