数時間後・・・・・
僕は電車に揺られていた。
心地よい揺れは眠気を誘った。
それを振り払う為に
外の景色を見ようとした。
だけど、車窓の外は黒く見えた。
その代わり、窓ガラスに映る
眠そうな自分の顔が見えた。
やはり酒を飲んでから
乗り物に乗ってはいけない。
僕は周りに人がいない事を確認すると
軽く伸びをした。
そして、
おもむろに立ち上がり
ドア前の手すりに掴まった。
今は立っている方が
何かと安全な気がした。
降車駅が近づくと
電車は徐々に減速を始めた。
その減速で
体が少々あらぬ方向へ
持っていかれそうになった。
手すりに掴まり
踏ん張って立った。
駅の近くでは
様々な明かりが灯り
一部だけまるで昼間のような
明るさだった。
ドア越しに夜空を見上げると、
月の前に大きな雲が陣取っていた。
そのせいで、
直ぐにお月様の丸いお顔を
拝見することはできそうにない。
雲間に滲み出した月光を
ぼんやりと眺めていたら
到着のアナウンスが流れた。
寝過ごすことなく、
無事に駅に降り立った。
少し冷たい風が頬を撫でて行き
気持ちが良かった。
駅の構外に出ると
ピ~ン ポ~ン という
一定間隔で鳴る改札の
少々間の抜けた音だけが響いていた。
駅前の人はまばらで
行き交う人はみんな早足だった。
僕は少しばかり酔いが回り
気だるかった。
早足で歩きたかったけど
体は正直だった。
通常の歩行速度を
0、9倍速にしたくらいでしか
歩けなかった。
つくづく自分が情けなかった。
静まり返った道を
とぼとぼ歩くと
ようやくマンションに辿り着いた。
そっと玄関を開けた。
部屋の明かりは付いていた。
でも、
リビングに彼女の姿はなかった。
手荒いうがいを済ませると、
水を一杯飲んだ。
半開きになった
寝室のドアから部屋の中を覗いた。
すると、彼女が
キュッ と小さくなって
ベッドに寝ていた。
僕は彼女に触れたい衝動を
押さえ込んだ。
先に歯を磨き、シャワーを浴びた。
自分に染み着いた
臭気を少しでも落としてから
彼女に触れたかった。
僕は寝る準備を整えると
ベッドにそろりと腰を下ろした。
彼女の頭に触れると
彼女は コロン と寝返りを打った。
ぐっすり眠っているように見える
その顔には、
薄らと一筋の涙の跡があった。
胸がギュッと締め付けられた。
優しく彼女を撫でると、
悲しげな表情が
少しだけ和らいだ様に見えた。
でも、それはたぶん
自分を正当化させたい僕の脳が
そう見せているだけなのかもしれない。
自分に腹が立ち
彼女に申し訳ない気持ちになった。
今日は満月。
僕らにとって
今日は、大切な日だった。
その大切な日に
彼女と一緒に過ごす事ができなかった。
仕事だったとはいえ
少なからず罪悪感を持っていた。
カーテンの隙間からは、
柔らかい光が射し込んでいた。
静かにカーテンを開けると、
煌々と銀色に光る満月が
顔を出していた。
曇りなく、
研ぎ澄まされた光だった。
彼女と見たかったな・・・・・
僕はベッドに入ると
彼女の頭に鼻先をくっつけた。
そして、心の中で
「ごめん」と彼女に謝った。
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次回作、
「本日、満月休暇中」へとつづく
※今作は、次回作の一部分を
クローズアップした話になって
います。
次回作は、満月に因んだお話です。
本日は十五夜なので予告も兼ねて
投稿しました。
・僕=てち 彼女=ゆいぽん
次回作は、
"てちぽん"のお話になります。
・次回作を書き始めた9月上旬、
小林由依さんが
休養を発表されました。
"後ろ向きではない休養"
ということなので、
ゆっくり休んで、
鋭気を養って戻ってきてくれる事を
願っています。
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